そらまめ

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「貝殻」

マコは海のある町に住む小学四年生の女の子です。マコは海が大好きで、毎日海岸を散歩しています。
ある日、いつものように散歩していると、みたことのないきれいな色をした貝殻を見つけました。マコが知っているより一回り大きなホタテの貝殻です。一見真っ白に見えますが、日にあたって虹色に輝いていました。マコは貝殻の輝きに目を奪われて、砂浜から貝殻を拾い上げました。貝殻はずっしりと重く、マコはとり落としそうになって慌てて両手で持ちました。近くで見てみるとますますきれいに見えます。少し角度を変えると色が変わるのが楽しくて、マコは貝殻をくるくる回して眺めました。しばらくそうしていると、貝殻の中から小さな声が聞こえました。

「ううう、もうまわさないでぇ……」

マコは悲鳴をあげました。貝殻がぱかりと開いて、なかから小さな小さな女の子が涙を流しながら姿を現したのです。

「あ、あなたはだあれ?どうしてそんなに小さいの?」

尋ねてみると、女の子はべそをかきながら答えました。

「私は海の国から来たの。陸に行ってみたくて泳いでいたら、迷ってしまったの。おうちに帰りたいよぅ……」

「あなたのおうちはどこにあるの?」

「海の底にあるわ」

「うーん、それだけだとわからないな。とりあえず、わたしの家に来ない?わたしのお父さんは漁師なの。何か知ってるかもしれないよ」

こうしてマコは小さな女の子を家に連れていくことにしました。
お母さんは手のひらに乗るくらい小さな女の子を見てびっくりしましたが、事情を話すと優しい手つきで女の子をなでました。

「大丈夫よ。きっと家に戻してあげるからね」

お父さんは夜にならないと帰ってこないので、それまで待たなくてはいけません。マコは女の子の不安を紛らわすために、女の子とおしゃべりすることにしました。

「おなまえはなんていうの?」

「名前はないわ。海では名前を呼ばないの」

「じゃあわたしがつけてあげる。えーっと、貝殻姫とかどうかな?」

まるでおやゆびひめみたいだと思って言うと、女の子は初めてにっこり笑いました。

「かわいい名前。私、名前って初めてよ」

それからマコと貝殻姫はいろんな話をしました。マコが陸の話をして、貝殻姫が海の話をしました。貝殻姫はマコの話を聞いて喜んでくれたし、貝殻姫の話は聞いたことないような話ばかりで楽しいものでした。おしゃべりははずみ、外はあっという間に暗くなって、お父さんが帰ってくる時間になりました。
お父さんは貝殻姫の事を聞くと冷静にうなずきました。

「なるほど、海の底から来たんだね。僕はほたてが多くいるところを知っているよ。そこでかえせばいいのかな」

貝殻姫はこくんとうなずきました。お父さんは、明日漁をするついでに貝殻姫を送ってくれるといいます。拍子抜けするほど簡単に、貝殻姫は家に帰れることになりました。すっかり友達になったマコと貝殻姫は、ハイタッチして喜びました。

「よかった、帰れるんだね」

マコが言うと、貝殻姫は嬉しそうに笑いました。その笑顔を見た時、一瞬マコの胸がずきんと痛みました。せっかく友達になれたのに、貝殻姫とお別れしないといけないのです。
時間はすぐにたち、貝殻姫が出発する時間になりました。見送りに来たマコは、貝殻姫にビーズで作ったネックレスを渡しました。

「海に行っても、私たちは友達だよ。忘れないでね」

貝殻姫はおどろいたようにネックレスを見て、そして大切に握りしめました。

「こんなのもらったの、初めて。海にはこんなにきれいなものはないわ。大切にする」

貝殻姫はマコの人差し指をそっと握りました。

「ありがとう、マコ。私の初めてのおともだち。きっとわすれないわ」

そうして貝殻姫は帰っていきました。それを見送るマコの指には、貝殻姫とおそろいのビーズの指輪がはまっていました。マコはきっと、この不思議な出会いのことを忘れることはないでしょう。

9/6/2023, 7:12:30 AM