『花束』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「では、花束のイメージを決めましょう。贈られるお相手の性別や、ご年齢を教えていただけますか?」
「あっ……」
フラワーショップのカウンターで店員さんに尋ねられて、僕は言葉に詰まった。
店員さんは鉛筆片手に、感じの良い笑顔で僕の言葉を待っている。
僕は何も知らない。
あのひとの性別も年齢も。
ーーちょうどそっちに行くからさ。よかったらお茶でもいかがですか。
SNSで知り合った人だ。
長い付き合いだけど、今日までお互い本名も聞かず、写真も求めず、通話をしようとも言い出さず。
ただ文章のやりとりだけで、つながり合えていると思っていたが。
「……よかったら、こちらのおすすめの花でお作りしましょうか?」
黙りこくる僕を見かねたのか、店員さんが助け舟を出してくれた。
「いや、すみません。おすすめも素敵ですけど、やっぱり……」
ちょっと早いけれど、花束を持って待ち合わせの場所に立つ。日曜日の昼下がりは街の人通りも多い。
作ってもらった花束は、ピンクのバラを中心に、白いダリアとかすみ草の入った上品なものになった。
「あっ……これ、第一印象『ピンクの花束を持った男』になっちゃうやつ……」
僕は今更そんなことに思い至って、ちょっとだけ後悔しながらも待ち合わせの時間を待つのだった。
『花束』
※ SNSで知り合った人と会うことにはリスクが伴います。人目の多い場所や時間を選ぶなど、くれぐれもご注意の上行動ください。
色とりどりの花々と
花の匂いに包まれて
スカートふわりと弾ませる。
そんな君に
花束を。
題名:花束
花束
お釣りとレシートを
ポケットに突っ込んで
花束
言葉も添えれずに
貴女に差し出して
花束
あの鮮やかさも
いつかは褪せて
見向きはしてくれない貴女
残ったのは
色褪せられない過去だけ
それといつかの母の日
花束
花束
昔もらった手作りの花束
きれいで豪華で、世界で一番素敵だった
今はもう、新たな花束が増えることはないけれど
花束
「いつも、支えてくれてありがとう」
そう言って、今日で結婚して三年目になる夫から渡された赤薔薇の花束。綺麗に包装紙で包まれている。結び目にピンクのリボンが施されていた。
「わぁ……とっても素敵ね」
私はそれを喜んで受け取った。真っ赤な花びらに顔を近づけると花粉の匂いと、蜜の香りが鼻に通る。ちらりと見やると、夫は緊張してるのか顔が真っ赤になっている。
赤い薔薇みたいね。私の顔もほんのり熱くなった。
「私たち、これからもずっと一緒よ」
「あぁ……。そう、だな」
夫はぎこちなさそうに歯に噛む。夫は控えめな性格でどちらかと言えば慎重的。だが、このような情熱なサプライズをされるとは思っても居なかった。
「な、なんか照れるよ。そんなに嬉しそうにされると」
「そうかしら? ふふ」
私が微笑むと、夫の唇もつられて弧を描く。
いつも働き詰めで、夜中に帰ってくる夫。家に帰ってくるととても疲れたような顔をしている。
気にしないで。と言われるも、体が火照り、額に汗もかいている。
夫の首に傷ができていた時は、流石に心配になったが夫は平気と言うばかり。
サラリーマンってとても大変なのね。私はパートだからそこまでではないけれど。家事もあるからね。
そんなこと思っていると、夫の携帯が鳴り出す。夫は電話の相手の名前を見て目を見開かせていた。
「職場の人?」
「最近入ってきた女性社員だよ。僕、その人の補佐役になったんだ。結構大変なんだよね」
「そうなのね。なら、行った方が良いんじゃないかしら? きっと助かるわよ」
「なら、行こうかな。その方が仕事もマシになるだろうし」
夫は電話を軽く済ませ再び、仕事に行く準備を始めた。時刻は夜の七時。やっぱり、サラリーマンの人って大変なのね。その女性社員の方も忙しそう。
「じゃあ、行ってくるよ。きっと深夜になるだろうから先寝てて」
「分かったわ。行ってらっしゃい」
夫が行った後、私は貰った花束を真新しい花瓶に移した。
「ふふ。素敵ね。私は幸せ者ね」
綺麗な花瓶には、夫から貰った十五本の赤薔薇が凛と差し込まれていた。
贈る側 贈られる側
どちらにも何かしらの覚悟がいると思うんだ。
ほら、花言葉ってあるじゃない?
確かにお花を貰えるのって嬉しいし、ロマンチックで素敵だとは思うけど……なんだろなぁ、もっと気軽に贈りあえるもののはずだったのに、いつからこうなったんだろう。そう、昔の、子供の頃に、下校途中に堤防で見つけて、可愛いから摘んで帰ったあの花みたいな。そういうのでいいんだ……そういうの……
花束じゃなくてさ
想いの束が欲しいよ
2024/02/10_花束
暖かな日差しに、少し肌寒さを感じる風。放置された民家や、何が建っていたのかすら思い出せない空き地が年々増えていく田舎町。一緒に帰る友達が、カーブミラーの角を曲がって、分かれ道の左に逸れて、横断歩道の手前で立ち止まって、次々と手を振り離れていく。いつもの帰り道。最後に残るのは、歳を重ねるたびに何処となく気まずくなった彼女と私。同じ世界に居るはずなのに、見えている景色が違う。何気ない会話すらうまく噛み合わず、愛想笑いすら間違ってしまうような間柄になってしまった幼馴染。昔はどうやって仲良くしていたのかも分からない。ただ、彼女がいつも手を引いて、私はたくさんのものに指をさして、一緒になって笑っていたのを覚えている。それだけだ。
目線を前にやったまま隣を歩く彼女と、彼女を避けるように視線を他所へと向ける私。くたびれたスニーカーのペタペタした音と、地面を叩くローファーの音。一緒に帰っているだけの状態。
ふと彼女が足を止める。視線の先には雑草まみれになった空き地がある。白い小さな花を集めた、背の高い雑草の群れ。
「あのさあ」
彼女が口を開く。独り言とも取れるような小ささで、聞き逃してくれてもいいとでもいうように。
「昔、花冠、くれたことあったよね」
ぺんぺん草の花冠。女の子たちで集まって草を手折っては編んで作って遊んでいた、遠い昔の話。彼女の頭や腕につけては、似合う似合うとはしゃいでいたあの頃。
「あったね」
私は少し微笑む。遠い記憶の彼女の姿を、その愛らしさとまばゆさを思い返している。彼女は片側の口の端を少し持ち上げただけの笑み。彼女にとってはその思い出すら、苦い記憶なのかもしれない。生ぬるい沈黙の中で、彼女は視線を落とし、泳がせ、そして私を見つめる。
「あのさ」
迷いと緊張に震えた声で、彼女は言った。
「引っ越すことになった」
知っていた。彼女のお母さんが私の家に挨拶に来たのも、友達が彼女のためにお別れ会を計画していたのも、私は見ていたのだから。直接告げられることはないと思っていたから、少しばかり驚いた。彼女がそれをどう捉えたのかは分からない。急に空き地に踏み入り、そこに生えていた花を手当たり次第に手折り、握りしめて戻って来る。いくつかのぺんぺん草を寄せ集めた花束。彼女はそれを私に押し付けた。
「持って行くから、作って、花冠」
きっと思いつきの行動だったのだと思う。幼稚な提案だということは、彼女自身が一番分かっているはずだ。恥ずかしさと困惑からか、顔が紅潮している。強引でわがままで明るい、太陽のような女の子。私のよく知る彼女の一面に触れた気がした。懐かしく愛おしく、寂しい。
私は花束を受け取り、頷いた。
花束 (2月10日)
花束とはいつ渡すものなのか
特別な日に渡すものなのだろうか
僕はそうとは限らないと思う
何気ない毎日で
お世話になっている方へ
感謝を伝えるために 渡すのもいいと思う
言葉では伝えられないことも
花束を通して 伝えられると思う
いつもありがとう
花束をあなたに贈る
もう一度言葉を交わすことの代わりに
【花束】
入院中の夫がクローバーをくれた。
「これ、どうしたの?」
「作ったんだ」
こいつで、と掲げられたのは一冊の『折り紙の本』。談話室に設置された本棚で見つけたらしい。スマホで動画を観尽くし、無料漫画も読み尽くし、SNSのチェックにも飽きたようだ。ふーん、いいんじゃない? ずっとスマホを弄るのは目に悪いからね。
「でも、なんでクローバー?」
「『数分でも見舞いに来てくれる妻に幸あれ』ってね」
その日から夫は毎回折り紙を折って、私に作品をくれる。
ハート。蓮の花。薔薇。チューリップ。紫陽花。朝顔。カラー。水仙。ひまわり。ダリア。椿。たんぽぽ。カーネーション。
私の名前に入ってる桃の花が沢山。私が好きな百合は、もっといっぱい。
花柄の箱まで用意してくれた。勿論、イラスト込みでの手作りだ。それに入れて、貰った花は大切にとっておいている。ひとつも欠かさずに。
最後の作品はポインセチア。メリークリスマスの言葉と一緒に差し出され、私は泣いた。彼の退院と同じぐらい最高のクリスマスプレゼントだった。
さあ、今度は私の番。
ひと折りひと折りに感謝の気持ちを込めて。
恐竜好きな彼のために、まずはティラノサウルスを折ってあげよう。
花束
オエーって吐きな?好きなことも嫌いなことも全て全てジブ(自分)から削除しちゃいな?
頭で『これやって!』って言っても分からないでしょ?だから感情を言葉としてオエーって吐いてみな?それが人間社会の花束だ、
人生ではじめて花束をもらった日は人生で一、二を争うくらい体調が悪くて、これを抱えて家まで帰らなければならないのかと思うと泣きそうだった。
人生ではじめて作った花束はちいさなあの子と一緒に棺のなかで燃えて灰になった。
という具合にあまりいい思い出がないので、とくに書くことがない。
(花束)
中学の卒業式が終わった後。
通路に飾ってあった花を
一本持って帰るよう先生から最後の指示が出た。
とっとと帰ろうと待ち構えてた私は
即座に花に手を伸ばした途端
クラスの最多人数をかかえる女子グループが
「クラス全員分で花束を作って先生にあげよう!」
と急に盛り上がった。
慌てて手を引っ込め、すんでのところで白い目を回避した私は
胸を撫で下ろして、そのままドロンさせてもらった。
(花束)
A:ここにある花でゲームをしよう
B:花ってこれ……それにこんなに……
A:全部で144本あるから1回で25本まで交互に取って最後の1本を取った方が負け
B:そういうやつね。まあいいわよ、先攻は?
A:ジャンケンポン!よし!じゃあ俺からね
B:あ!いきなり!しかもグー!?
A:じゃあ最初は12本で
B:ってちょっと!あなた本気?誘ってきたのはそっちでしょ?
A:俺はいつだって本気だよ?
B:……そうね、あなたの本気に付き合ってあげるわ。私は1本
A:あ、君の花はこれに入れてってね。はい3本
B:えっと、23本。これ元々入れてたやつでしょ?
A:ああ、大きくて部屋に入れるの大変だったよ。6本
B:20本。もう、こんなにあっても枯らしちゃうわよ
A:それもそうだね。8本、後でどうするか考えよっか
B:なにそれ、もう少し後先考えてほしいわね。18本
A:うーん。5本、ドライフラワーとか?プリザーブド加工っていうのも聞いたことがあるよ
B:はいはい、考えておくわ。21本
A:1本
B:25本、はい私の勝ち。あなたの本気ってなんだったの?
A:俺が本気って言ったのは今君が持ってるバラの花束のこと
B:はあ、あなたって本当に回りくどいわね。私が気が付かないと思ったの?
A:え?もしかしてバレてた?
B:バレバレ。あなたのことだもの
A:お見通しだったかコワイコワイ
B:でもジャンケンはどうやったの?
A:君なら咄嗟の時グーは出さない。チョキを出すでしょ?
B:なんだ、お互い様じゃないの
A:あの、それで答えは……
B:あら?もうとっくに答えてるじゃない
A:え?ああそういうことか!って君も同じじゃないか!
B:ほら、全部まとめて早く行きましょう?花が萎れちゃうわ
~花束~
『花束』
あなたからもらう花束は、仏前に手向ける花束だけ。
お祝いだとか、ただ単にすてきな日だからとか、この花が似合うと思ってなんて理由でまだ一度ももらったことはない。
そんなあなたとのひと時を覚えておくために、数週間後には跡形も残らない花束がほしい。
花束
いろんな花束💐
花屋さんに並べられている。
どれを買うか迷う。
相手を思って買うのもいいけど、
自分ように買うのもいいね!
『花束』
人生で初めて花束を買った。
あの人が好きな赤い花。
喜んでくれるかな。笑ってくれるかな。
それともちょっと困らせてしまうかな。
色んな想像をしているうちに、早くあの人に会いたくなった。
______やまとゆう
TGIF!!
ルンルンご機嫌な足取りで仕事終わりに商店街を闊歩。
明日から三連休なので今夜は二人で映画鑑賞会、そのオトモに何か美味しそうな物はないかとキョロキョロ物色。
ケバブ、唐揚げ、おでん、どの店も「違うなあ」と通り過ぎて商店街を折り返す。
おでん、焼き鳥、唐揚げ、寿司、ケバブ、スーパー……。
最近またブヨブヨしてきた腹の肉をポケットに突っ込んだままの手で抓んで。
うんうん唸りながら、また折り返していたら買い物帰りの君に捕まった。
テーマ「花束」
日頃の感謝を込めて花束を渡され
花より食べ物の方が良かったのに
そう言いつつもいそいそと花瓶に生けて
家の中で1番目につく場所に飾る
ことある度に
花束を貰ったことを
愚痴っぽく話す横顔は
どこか嬉しそうであった
嬉しいと
言えない心
子は知らず
素直に言えば
いいのにねぇ
死者を想うと、天国でその人に花が降りそそぐらしい。
悲しみ、寂しさ、やるせなさ、祈り。
とめどなくあふれる心が花弁となって、その人の前に現れるのだろうか。
ああ、はらはらと舞い落ちてくる花たちを前に、あの人は今、何を思うのだろう。
どんな顔で、私のことを見下ろしているのだろう。