暖かな日差しに、少し肌寒さを感じる風。放置された民家や、何が建っていたのかすら思い出せない空き地が年々増えていく田舎町。一緒に帰る友達が、カーブミラーの角を曲がって、分かれ道の左に逸れて、横断歩道の手前で立ち止まって、次々と手を振り離れていく。いつもの帰り道。最後に残るのは、歳を重ねるたびに何処となく気まずくなった彼女と私。同じ世界に居るはずなのに、見えている景色が違う。何気ない会話すらうまく噛み合わず、愛想笑いすら間違ってしまうような間柄になってしまった幼馴染。昔はどうやって仲良くしていたのかも分からない。ただ、彼女がいつも手を引いて、私はたくさんのものに指をさして、一緒になって笑っていたのを覚えている。それだけだ。
目線を前にやったまま隣を歩く彼女と、彼女を避けるように視線を他所へと向ける私。くたびれたスニーカーのペタペタした音と、地面を叩くローファーの音。一緒に帰っているだけの状態。
ふと彼女が足を止める。視線の先には雑草まみれになった空き地がある。白い小さな花を集めた、背の高い雑草の群れ。
「あのさあ」
彼女が口を開く。独り言とも取れるような小ささで、聞き逃してくれてもいいとでもいうように。
「昔、花冠、くれたことあったよね」
ぺんぺん草の花冠。女の子たちで集まって草を手折っては編んで作って遊んでいた、遠い昔の話。彼女の頭や腕につけては、似合う似合うとはしゃいでいたあの頃。
「あったね」
私は少し微笑む。遠い記憶の彼女の姿を、その愛らしさとまばゆさを思い返している。彼女は片側の口の端を少し持ち上げただけの笑み。彼女にとってはその思い出すら、苦い記憶なのかもしれない。生ぬるい沈黙の中で、彼女は視線を落とし、泳がせ、そして私を見つめる。
「あのさ」
迷いと緊張に震えた声で、彼女は言った。
「引っ越すことになった」
知っていた。彼女のお母さんが私の家に挨拶に来たのも、友達が彼女のためにお別れ会を計画していたのも、私は見ていたのだから。直接告げられることはないと思っていたから、少しばかり驚いた。彼女がそれをどう捉えたのかは分からない。急に空き地に踏み入り、そこに生えていた花を手当たり次第に手折り、握りしめて戻って来る。いくつかのぺんぺん草を寄せ集めた花束。彼女はそれを私に押し付けた。
「持って行くから、作って、花冠」
きっと思いつきの行動だったのだと思う。幼稚な提案だということは、彼女自身が一番分かっているはずだ。恥ずかしさと困惑からか、顔が紅潮している。強引でわがままで明るい、太陽のような女の子。私のよく知る彼女の一面に触れた気がした。懐かしく愛おしく、寂しい。
私は花束を受け取り、頷いた。
2/10/2024, 5:48:08 AM