「では、花束のイメージを決めましょう。贈られるお相手の性別や、ご年齢を教えていただけますか?」
「あっ……」
フラワーショップのカウンターで店員さんに尋ねられて、僕は言葉に詰まった。
店員さんは鉛筆片手に、感じの良い笑顔で僕の言葉を待っている。
僕は何も知らない。
あのひとの性別も年齢も。
ーーちょうどそっちに行くからさ。よかったらお茶でもいかがですか。
SNSで知り合った人だ。
長い付き合いだけど、今日までお互い本名も聞かず、写真も求めず、通話をしようとも言い出さず。
ただ文章のやりとりだけで、つながり合えていると思っていたが。
「……よかったら、こちらのおすすめの花でお作りしましょうか?」
黙りこくる僕を見かねたのか、店員さんが助け舟を出してくれた。
「いや、すみません。おすすめも素敵ですけど、やっぱり……」
ちょっと早いけれど、花束を持って待ち合わせの場所に立つ。日曜日の昼下がりは街の人通りも多い。
作ってもらった花束は、ピンクのバラを中心に、白いダリアとかすみ草の入った上品なものになった。
「あっ……これ、第一印象『ピンクの花束を持った男』になっちゃうやつ……」
僕は今更そんなことに思い至って、ちょっとだけ後悔しながらも待ち合わせの時間を待つのだった。
『花束』
※ SNSで知り合った人と会うことにはリスクが伴います。人目の多い場所や時間を選ぶなど、くれぐれもご注意の上行動ください。
2/10/2024, 6:20:26 AM