『秋恋』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
少し寒くなった頃、秋(あき)は休日に好きな作家さんの新作を買いに来ていた。
(よかったー...買えた)
そのまま他の作家さんの本を見て歩いていると、ガラス越しに拓也(たくや)の歩く姿を見つけた。
(あ、拓也...)
じっと見ていると、彼と目があった。手を上げる彼に軽く手を振り返す。
拓也は駆け足で本屋へと向かって来た。
「やほ、秋」
「偶然だね」
「なんか買ったの?」
「新作だよ」
へー、とあまりピンと来ていないような顔をする。
「...俺もなんか読もうかな」
「それなら、これとかいいんじゃない?」
「お、それ面白そう」
拓也は秋に薦められた本を手に取る。
「今度読んだら感想言っていい?」
「うん。あ、でも私も読みたいから読んでからでもいいかな...?」
「全然待つ」
「良かった」
秋は拓也と会話しながら、この間の葉瀬(ようせ)との会話を思い出す。
『秋にその気が無いなら、ベタベタしてもいいよね』
(............)
秋は葉瀬の言葉を思い出して、拓也の裾を摘まんだ。
「秋?」
「......これから何か予定ある?無かったら一緒にカフェとか行かない?」
拓也は目を見開いてキラキラさせる。
「え、うん。行く」
「...じゃあ先に本買ってきていいかな?」
「俺も行く」
秋は拓也がよい返事をしてくれたことに嬉しくなって、少しだけ安心した。
お題 「秋恋」
出演 秋 拓也 葉瀬
#秋恋
秋の恋は長続きするらしい。
ならずっと秋でいい。
秋恋
少しずつ気温も下がってきて
秋の訪れを感じるようになってきた。
今年も満開に咲き誇るイチョウをみに、
昭和記念公園へ行きたい。
彼が告白をしてくれた思い出の公園だから
毎年この場所には訪れている。
秋は恋を感じる季節だ。
「ボス、最近葉っぱも散り始めて、寒くなってきましたね。だから、くっついてもいいですか?」
「おう、構わないぞ。俺もお前さんとくっつきたい」
「ボスもそう思っていたんですね。嬉しいです」
〜秋恋〜
中秋の名月を君と見た
お散歩の途中に発見して
たくさん眺めた
私には希望に感じられたな
本当はあの時すっごい感動した
どん底に落ち光さえ見たくなかった私に
希望を見せてくれた
秋だけで終わらせたくない
冬も春もまた何度でも
あなたと月を見て感動したい
あなたと光に導かれ歩いていきたい
秋という季節に、こんなにも恋焦がれてしまう日が
来るなんて想像した日があっただろうか。
紅葉が落ちて、枯葉が空をきる。
この木々の紅が無に戻る頃、
貴方は此処から旅立つのでしょう
だから、この思いまでも飲み込んでしまえと
私は秋に恋をする
2024/09/22
秋恋
「今日からハロウィンに変更よ、よろしくね」
同僚からドサッと渡されたのは、黄色とオレンジのディスプレイの山。
作業しながら自分の半袖が目に入る。
去年も、こんな季節から秋の準備をしていた。
彼の真っ黒に焼けた腕と日焼けしてない白い肩に笑っていた私は、まだ、彼を好きになるなんて思ってなかった。
残暑から秋に移り変わっていく短い間、私は彼に恋をして、秋から冬に変わる頃、失恋した。
だから、彼を思うと、彼との恋を振り返ると、黄色とオレンジが心に浮かぶ。
必死に言葉を紡ぐ彼の赤い顔を見つめていた、虫の音色が耳に蘇る。
秋の恋が、いまも私を染めていく。
#秋恋
僕は、秋空を見たいなぁって思う
それほど、秋が恋しい
秋恋
ぽっ
ぽっ
ぽっ
頬を染めて、赤
恋焦がれて、赤
紅葉が落ちて、赤
夕暮れ、赤
※長いのでのんびりお読みください。
秋恋
──赤と橙と黄が降り頻る中、あなたから目が離せなかった。
秋が似合うやつだと思う。
それはふわふわとした焦茶の髪や温かさを感じさせる橙の瞳という容姿だけではなく、内面も。
正直なところ、秋という季節は好きではない。残暑が続いたと思ったら急に朝の風が冷たくなったり、気温が下がったと思ったら翌日には真夏日になったりする。体が弱い母は、夏の疲れと落ち着かない気候で床に伏せがちになって、幼い頃は寂しさを感じてひとりで泣いた。
あいにく色鮮やかな紅葉を愛でるほどの感性を持っているわけでも無く、風魔法を使ってもなお掃除に苦心する使用人にこっそり菓子を分けてやることはあれど世間の言う紅葉狩りをしたことは無い。この季節に特別美しいという夕日は自分の部屋から見ることはできないし、そもそも強すぎる光は苦手だ。丁寧に整えられた庭園に庭師が認めた以外の虫が生息しているはずも無く、夜は母にその日あったことを話してからすぐ寝てしまう。だから、生まれてこの方虫の声とやらを聞いたことが無い。
そんな、無いことばかりの秋に、ようやく恋と名づけることができた感情を抱く相手と一緒にいる。
「もうすっかり秋だなあ」
ベンチに幾らか散らばっている落ち葉を一枚だけ拾い上げながら話しかけられる。不意を突かれて、返事が遅れた。
「……確かに、急に涼しくなったな」
そう返して、もう少し気の利いた返事ができないものかと俯く。紅葉が綺麗だとか一緒に出かけられて良かったとか、幾らでも返答の仕方は思いつくのに、いざ口を開くと無愛想な言葉ばかりだ。せっかく友人たちが二人で買い物にでも行ってこいと送り出してくれたというのに。
「こういう葉っぱとかどんぐりとか見ると懐かしくなんだよな」
腰掛けたまま近くの枝に手を伸ばして言う。そのまま枝をこちら側へ引っ張り始めた。鮮やかに色づいた葉が、振動でふらふら揺れる。
「国立公園の植物を故意に破損するのは犯罪だぞ」
「だいじょぶ、加減してるから」
確かに本来の力からすればずいぶん優しい触れ方だろうが。変なところで雑なやつだから、うっかり折ってしまいそうだ。魔法で直すこともできない人間が下手に植物に触るなと言うのに、こいつは。
「……懐かしい、とはなんだ。何か思い出でもあるのか」
密かに見張っておくことを決意して、気を逸らそうと話題を振る。
「え、ちっさい頃に画用紙に貼ったり穴あけたりして遊ぶだろ」
言葉の意味がわからずに眉を顰める。葉を、画用紙に貼る。何の意味があって。
「やったことねえの?」
「……無い」
小さい頃は、母と同じで体が強くなかった。気温の変化が激しいこの季節は特に体調を崩しやすく、部屋の中で読書をするか、ぼうっと窓の外を眺めるばかり。それが当然だったし、姉や使用人たちが構ってくれたから寂しさを感じたことはない。だが、こいつと思い出を共有できないのは、どこか。
秋は物寂しい季節だと、母の部屋にある小説で読んだ。きっと、柄にもなく精神が季節に左右されているのだ。
「幼少期にあまり外出した経験が無い」
「やっぱ、貴族って大変だな」
「ああ、そうかもしれない」
「……ふうん」
それきり会話が途切れる。紅葉のついた枝はまだ掴まれたままで、いい加減にしろと手をはたくと少し口を尖らせた。折れてしまわなくとも木にダメージを与えたらどうする気だ、私たちの友人が植物魔法の使い手であることを忘れたか。
広い校内にいくつもある階段の踊り場に飾られている萎れた花を見て、友人が表情を失くしていたのを思い出す。何日も水が替えられていないと言って魔法植物学の教師のところに乗り込み、熱心に語っていたことも。先ほどまでの状況を見たら、こいつは蔓で締め上げられるのではないだろうか。
「あと、秋の空は高いって言うよな」
そうやって過去に思考を飛ばしていると、拗ねた表情をしていたはずの相手が空を見上げて呟く。笑ったり怒ったり拗ねたり、忙しいやつだ。
「そうなのか」
「そ。なんだっけ……実際に雲が高い所に出るとかなんとか。それで空も高く見えるんだと」
「成程。つまりは気のせいだな」
情緒ねえなあ、と笑みを含んだ声で言われてむっとする。うるさい、お前も枝を引っ張っていたくせに。けらけら笑いながら立ち上がって、情緒がない男がもう一度空を見上げた。
「お前の眼も空色なのに」
「は」
なんの意図も潜んでいない、純粋に感想を言っただけのような言葉。思わず声の主の方を見て──その姿に目を瞬かせる。
「何をしている」
「んー?」
しゃがみ込んで落ち葉の中に手を突っ込んだままこちらを振り向いた顔には、得意げな笑みが浮かんでいた。
「秋の遊び、したことねえんだろ? じゃあ今日しようぜ」
「何を」
「だから、葉っぱ貼ったりどんぐり集めたり。寮に持って帰ればあいつらもやるだろうし」
あいつら、と言われて友人たちを思い浮かべた。忙しい幼少期を過ごした彼らは、秋を楽しんだ経験があるだろうか。
「どうやって遊ぶんだ」
「今言っただろ、画用紙とか木の板とかにいろいろ貼ったり、あとはどんぐりと松ぼっくりつなげてネックレスにしたり。妹たちに作ってやると喜ぶんだよ」
「楽しいのか、それは」
こいつの面倒見の良さは弟妹がいることに由来するのか、とぼんやりと思う。幼子のくだらない遊びと言ってしまえばそうなのかもしれないが、きっと心の底から楽しんできょうだいの世話をしていたんだろう。
「楽しいかそうじゃないかなんて、やってみなけりゃわかんないだろ。ほら、どんぐりそこに落ちてる」
「拾えと」
「集めるとこからが秋の遊びだっつの」
「わかった」
落ち葉が敷き詰められた地面に手をつけて、どんぐりや松ぼっくりを探す。む、葉が多すぎてなかなか見つからない。お前の手の中にある大量のそれはどうやって見つけたんだ、魔法でも使ったのか。
「あ、そこ松ぼっくり」
「ん」
指された辺りをがさがさとかき分けると、かさの開いた松ぼっくりが出てきた。ついでに、隣にはいくつかのどんぐりも落ちている。
「な、宝さがしみたいで楽しいだろ」
自分の手に置いたそれをじっと見つめていると、子供のような笑顔で笑いかけられる。
「……つまらなくはない」
「なんだそれ」
素直に楽しいというのも癪で、つっけんどんな返事になった。それでも笑い飛ばしてくれるのだから、こいつの度量の広さには敵わない。
「これは洗った方が良いのか」
「あー、まあ気になるなら魔法で洗うか? 虫とかついてるかもだし」
「虫」
「あれ、嫌いだっけか」
嫌いというか、そもそもあまり見たことが無い。どこかについていないかと松ぼっくりをひっくり返すと、図鑑で見たことのある蟻とやらが姿を現した。
「蟻がいた」
「なんで嬉しそうなんだよ」
「初めて本物を見た」
「マジか」
嬉しさはともかく寮に虫を持ち込むのもよくないだろう、と地面の近くで軽く手を振る。初対面の蟻はあっというまに落ち葉のすき間に潜り込んで姿を消した。
「落ち葉は、どんなものを集めればいいんだ」
「お前が好きだと思った奴でいんじゃね? 弟たちはおっきいやつ集めてた」
「破れていてもいいのか」
「多少貼りにくいかもしんないけど、まあ気に入ったの集めろよ」
そう言って手際よく葉を拾っていく。それを真似て目に留まった落ち葉をつまんで、ハンカチに包む。五、六枚集まったところで布地に目を落として、自分の分かりやすさに思わず手を止めた。
「……」
見事に橙色ばかりだ。誤魔化すために他の色を拾おうかと視線をさまよわせて、いっそ開き直ってやろうと七枚目だろう鮮やかな橙に手を落とす。
「集まったか?」
「ああ、まだ少ないが」
ハンカチを広げると目を丸くしてこちらを見てくる。なんだ、その顔は。
「オレンジばっかだな。他の色は?」
「お前が集めているから問題ない」
自分よりいくぶんか大きい手のひらには、色も大きさもバランスよく葉が集まっていた。慣れているのがよくわかる。
「確かにそうだけど。お前、そんなオレンジ好きだっけ?」
「いや、……」
口ごもって、先ほど言われたことを思い返す。少しくらい、意趣返しをしても許されるだろう。あの恥ずかしさを味わえばいい。
「……お前の、瞳の色だ」
「え? あ、そう、だな……?」
きょとんとした顔を見て、多少溜飲が下がる。やけに幼い表情だ。
「もう集めないのか」
「いや、まだ足りない、と思うけど」
「なら手を動かせ。言い出したのはそちらだろう」
「あ、うん」
落ち葉集めを再開すると、ふいに強めの風が吹いて、ざあっと木々が揺れる。手の中の葉が飛ばされそうになって咄嗟に体で庇った。それでも守り切れなかった一枚が、風に乗って手を飛び出してしまう。予測できない動きをする葉になす術もなく、捕まえようとしたをすり抜けて空へ飛んで行った。
思わず葉を目で追いながら見上げた青空に、橙が映える。
「っ……」
ああ、まったく恋とは厄介だ。知識として持っている以上に感情が揺さぶられる。
これは自分とこいつの瞳の色だ、なんてよくわからない考えが頭を支配して。空色と橙色、その二色のコントラストが、やけに美しく見えた。
──秋を好きと言えるかは、まだ分からないけれど。お前と過ごすのならば、この季節も悪くは無いかもしれない。
2024/9/29 #6
今年の夏は、
夏祭りに行った。
友達と旅行に行った。
流星群を見た。
海の風を浴びた。
花火をした。
もう十分楽しんだ。
今年の秋は何をしよう。
食欲の秋だからいっぱい食べようか。
芋、栗、カボチャ、どれも魅力的。
スポーツの秋だからなにかしようか。
散歩するだけで楽しいからいいかな。
読書の秋だから本を読もうか。
読んでいない本がまだ眠ってる。
そろそろ残暑も落ち着くかな。
あぁ、秋が待ち遠しい。
秋が恋しい。
#秋恋
秋恋
秋が恋しいなんて、今年の夏がなければ思わなかったかもしれない。雨上がりの寒くなった温度に心地よさを感じる。この秋がなくなりませんように。
痩せこけた男が公園のベンチに座っている。美しい紅葉に似合わないその男は、そうっと遠くを眺めて黄昏ていた。
ああ、
秋が来ると思い出す。あの美しい人との思い出を。
そうしてなんだか死にたくなってくる。
いや、死にたいわけではない。ただ逃げたいだけだ。あの人に告白したあの日から、一緒にデートをした公園から、大きいパフェを2人で分けて食べたあのカフェから。それに、あの人が亡くなった日の紅葉から。あの赤色がどうしても、どうしても忘れられんのだ。
「それは本当に紅葉の色なのかしら?」
気がつくと男の傍には、隣につばの長い帽子を被った、赤いワンピースの女が立っていた。
男は突然話しかけてきた女に驚きながらも反論する。
「いいや、いいやそうに決まってる。逆に紅葉じゃなかったら何だって言うんだい。」
女は呆れたように口を開いた。
「血よ。あなたが刺した女のね。」
男はその言葉に心底不思議そうに首を傾げた。
「いやいや、俺があの人を刺すわけがない。だって心の底から、愛していたんだから。」
女はその言葉を聴きながら、男の隣に座った。そうして男の首筋をなぞりながら一言呟いた。
「愛しているからって刺しちゃいけない訳じゃないでしょう。」
でも、俺はやっていない。俺にはその記憶が無い。
そう言おうとして、男は声が出ないことに気がついた。女はその後も声を出すのを辞めない。
「だって、そうでしょう。あたしがその記憶だもの。あたしが出てくるのはいつだって秋。ああ、紅葉。紅葉があたしとあなたを繋ぐ鎖であり、何にも変えられない思い出よ。ね、あたしの顔をご覧なさい。」
女がそう言ってつばの長い帽子を取る。
そこには、ああそこには、
男の愛した人が、血塗れで立っていた。
────────────────────────
「ねえ、」
『小説同好会』と記された部屋で、二人の人間が向かい合って座っている。
片方の男はスマートフォンを弄りながら、
もう片方の女は作文用紙で顔を仰ぎながら。
女は先程の声掛けに反応しない男に溜息を付きながら言った。
「やっぱりあんたの小説って後味悪くない?」
男は女の方に視線を向けて言った。
「ハピエン地雷だから。」
「秋恋」
秋は実りの秋、収穫の秋だと思うのに、恋という字がつくと急に哀愁を帯びる。
さようならの雰囲気が漂うと思うのは、私だけだろうか。
秋恋
*ブロマンスです
「位置について! よーい!」
大きなピストルの音に、心臓が早鐘を打ち始める。それどころか、アナウンスされて指定の場所に来た時点から、ずっと自分だとは思えないくらいにそわそわとして、落ち着かなくて、緊張している。
「え、ナギまさか緊張してんの?」
隣から顔を覗き込むリツ。
「ああ」
思わず素直に頷いた。緊張どころか、ビビっている。おもいっきり。
「うそ、ナギに緊張してるとか言われたら、なんか俺も緊張してきたし! どうしよっ」
そう言って胸を両手で押さえるリツ。その肩からはアンカーの印のタスキが掛かっている。
真っ青に澄み渡った清々しい空の下での、体育祭。
俺は去年みたいに、適当に綱引きと玉入れなんかに出てクラスのみんなを応援して楽しく過ごす予定だった。
それがどうしたのか、突然陸上部のリツがクラス対抗リレーでどうしても陸上部のチームメイトがいる二組に勝たねばならないと、俺を無理やりリレーに選出した。
俺が陸上部だったのは中学の時で、引退してから運動は体育でしかしていない。丸一年以上走ったことがない。それがリレーで百メートルを走るなんて、もう完走できる自信すらないくらいだった。
それを、リツに言っても聞き入れなさそうだから、必死にクラスメイトの前で訴えた。だけど、元々面倒な競技に出たいものなんてほとんどいない。
「ナギは四百メートルの選手でめっちゃ速かったんだよ」
なんて言葉をまるっと鵜呑みにして、体は覚えてるよきっと、なんて適当なことをそれぞれに言って結局、俺は選手に選ばれることになってしまった。
ピストルの音も、トラックを必死で走ったのも。もうずっと前なのに。
結構本気で嫌だなと思って、ため息を吐いた時、リツに肩をグッと掴まれた。
「俺、またナギとリレーしたかったんだ。ありがと」
振り返ると、満面の笑みのリツ。
そんな風に……言われたら。
「ああ、そう?」
弾けてしまいそうなくらい膨らんだ心がバレないように、平静を装ってそう言った。
その日の夜。ずっと使っていなかったランニングシューズを引っ張り出すと、家から近所を回って駅の方までジョギングして帰って来た。あれから二週間。気が向くとジョギングをしたから、きっといきなり走って体がびっくりするようなことはないだろう。
「大丈夫! ナギなら。俺、今日めっちゃ楽しみで、楽しみ過ぎて眠れなかったんだよ」
「いや、ちゃんと寝ろよ」
「うん、でも、ナギからバトンもらうの。久しぶりだろ?」
肩をすくめて微笑む。
ああ。あの瞬間を、リツも覚えていたんだって。胸が熱くなる。
部活の中で、競技の中で、俺が一番愛していた瞬間を。
「よし! 大丈夫、なんとかなる!」
「えっ、びびった」
突然大声を出した俺に、リツが体をビクつかせて、それからケラケラと笑い出した。
バトンを受け取って、必死に走った。思っていたよりもずっと体は軽い。嘘みたいに足が動く。他のクラスの走者が何処にいるのかは気にならなかった。ただリツの元へバトンを届ける。
視界にリツが入って来る、俺の名前を呼んで、大きく手を振っている。
「いけっ」
バトンゾーンが近付いて笑顔のリツと目が合う。スピードを落とさずにリツに声を掛けた。リツがスタートを切る。スピードをキープしたまま、リツを追いかける。ゾーン終わりのラインの前に、後ろに差し出されたリツの手のひらにバトンを押し付けた。
「いけ! リツ!」
ぐいっと引っ張るように力強く受け取られるバトン。
ほっとした瞬間、足の力が抜けて俺はその場にへたへたと座り込んだ。
視線の先に、風を切って走っていくリツの姿が見える。
リツのフォームはクセがなくてお手本みたいに、綺麗だ。それだけじゃない、太陽の光を浴びて駆け抜けるリツは、眩しくてすごく綺麗だ。
クラス対抗リレーは、見事に一位だった。バスケ部やバレー部で繋いだバトンは俺が受け取った時点で二位で、律がひとり追い抜いたからだ。
「ちょっと、あれなに、反則だよ。リレー選手ふたりとか」
「だから言ったじゃん、絶対に勝つって」
「いやそうだけどさ、え、藤田君、陸上部入んない? マジで」
リツが陸上部のメンバーと話している。何をどう話していたのか知らないけれど、リツはご機嫌だ。
「いや、もう走らない。今ももう足つりそう、」
それは本当で、ガクガクと震える足を引きずってその場を離れた。絶対明日筋肉痛になるだろう。だけど、心は達成感で晴れ晴れとしている。
その後しばらく、ことあるごとに陸上部の人が勧誘に来たり、あんな熱くなるタイプだったなんて、ってクラスで言われたりして、なんだか居心地の悪い日々を過ごすことになった。
だけど、目を閉じると瞼の裏に焼きついている。バトンを待つリツの笑顔。
あの瞬間をもう一度共有できただけで、走った甲斐はあったなって、思うんだ。
秋恋
秋空は高く
空気は涼しく
どこかから金木犀の香りが漂よう
太陽は日毎に早く沈むようになり
夜が早く訪れる
心がどこか寂しくなる
泣きそうになる
そんな時
誰かにそばにいてほしいと感じるのは
ごく自然なことでしょう
人は皆
生まれた時から寂しがりなんだから
「いやー、流石に秋ともなると誰もいないなぁ」
こんな時期にもなると流石に夏気分も失せるのか、泳ぐ人はおろか散歩する人すらいない、がらんとした海辺。その石塀の上に立って、手を額に当てて眺めているのは、級友の優香だ。
僕はほとんど引っ張り込まれるような勢いで着いてきてしまったが、そもそもこんなところに来る理由がわからない。彼女の言う通り、こんな秋に冷たい海で泳ごう、なんてそう考えないことだ。彼女自身も泳ぐことを目的としていないのか、何も持ってきていない。
ただ、僕らは水平線を眺めていた。
「でも、逆にこういう景色を独り占めできるのは大きいねぇ」
石塀に座り直す。ゆらゆらと光が揺れながら、太陽が水平線に浸かっていく。ただ、そんな光景を見ているだけなのに、心はどこか落ち着かない。真っ直ぐと彼女を視認できない。でもその正体を何となく知りたくなくて、結局心の隅に置いた。
「ところでこんな噂、知ってる?」
急に視界にぬっと入ってきて、思わず仰け反ってしまう。恥ずかしくも、頬が熱くなるのを感じる。
彼女はそんなことに気づかなかったようで、いじることもなく続けた。
「『秋に咲く恋は実りやすい』ってやつ。ロマンチックじゃないー? ホントかどうかは分かんないけど!」
恋。その単語ひとつで、急にパッと、暗く狭い道に光がさし通したように感じた。まるで、最後の歯車をはめ込むかのように。
僕は、恋をしているのだろうか。あの感情の正体は、恋なんだろうか。
「ちょっと、聞いてる?」
ずいっと、視界の隅から優香が顔を出す。微かな吐息、赤い夕焼けに照らされて赤く染る頬。綺麗な黒い瞳。
僕は、目を逸らすことが、出来なかった。
(ギブ)
秋恋……、秋恋ってなんだ?
「そうか、今日は秋分の日だからか」
僕はなるほどと合点する。
ネットで意味を問うてみたが、いまいちな答えしかのっていなかった。造語だという意見もあり、秋の時期にスタートする恋のことを指すというのもある。
正直恋愛系は僕の筆の範疇にない。
だから現実を幻にして多角的に見つめてみることをしているのだが、秋については過ごしやすい以外に考えたことがない。
今年も秋が来るんだろうかとちょっと心配していたが、例年通り?か分からないけど、秋は来たっぽい。
まあ、残暑はまだ残っているが、秋雨前線がどうのこうの言ってるから、それを乗り越えれば来るってことでいいんだろうな。
乗り越えてばかりのこの人生。
秋分の日は秋を感じていたい、という天気であった。
良き温度。
冬になる前の秋、気温も涼しくなってきてそしてだんだんと人肌恋しくなる。
過ごしやすい気温にもなってきたがまだ暑い、、恋愛に季節や気温、時期なんて関係ない。
でもこれだけは言える、全てはタイミングなんだと。
片思いの時は付き合えるように頑張ろうと、彼氏や彼女が出来た時は長続きできるように頑張ろうと、お別れした時は相手との思い出が忘れられなくてずっと考えてしまう。一緒に行った場所や一緒に聞いた曲。話した会話や匂い。忘れられないんだよね、、
博士「助手よ! 秋の恋は長続きしやすいらしいぞ!」
助手「なんですか? 急に」
博士「だからな! 恋をしてみようと思う!」
助手「えぇっと……。恋って、長続きしやすいからする、ってもんでもないでしょう」
博士「それもそうだな」スンッ
助手「いつものことですが、急に落ち着かないでくださいよ」
助手「というか、恋について少しは分かってくれたんですね」
博士「もちろんだとも!」
助手「では博士。恋とは?」
博士「ズバリ! 恋とは……」
博士「損得勘定だ!」
助手「……聞いた私が馬鹿でした」
博士「と、言うわけで助手よ! 俺は恋のお相手を探しに行ってくる! では、さらばだ!」
助手「はぁ……(溜息)」
助手「なんで私、あんなのに恋しちゃったんでしょうね……?」