『無色の世界』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
全てが汚い
全てが黒い
色を感じないのは
しんだのと同じだな
お題
無色の世界
無色の世界。
「自身のプレイスタイルを決めるのは諸刃の剣。
君は現にもう2回もその手で勝っている」
そう兄さまが彼に言ったことを、昨日のように思い出せる。
そういう兄さまも、自身の『白』に誇りを持って使っている。
似たもの同士、内に秘めた熱さも同じ、決めたことは譲らない。そんなところも良く似ていた、と思う。だからこそ、彼に近づいた。戯れに近づいた。「私は赤の輝きに魅入られただけに過ぎません」…それは本当。ちょっとしたお節介、そして彼にこの世界を知って欲しかった、そんな意図もあった。
「彼には無事に渡せたかい?」
部屋に帰ったら、珍しく兄は部屋に居た。
こちらのお節介も全て見透かされていたようだったけれど。
「…はい、渡せました」
あっさり降参して白状すると、兄は小さく笑ったようだった。
━━白。何者にも染まらぬ純白の騎士。私だけの騎士。
自身の信念をその鋭い棘で守るからこそ、薔薇は美しい。
私のためにだけ咲く、たったひとつの白い薔薇。
白皙の美貌。感情の少ない冷めた瞳。
どんな時でも冷静さを失わない。そんな瞳が、私を映す時だけ柔らかく細められることを良く知っている。特別、とくべつ。私だけが、兄の特別。色々な人達から特別扱いはされて来た、現に今だってされている。広い部屋、2人だけしか入れない部屋。兄がこの部屋に誰も入れたがらないことは良く知っている。きっと部屋の外では、部下が進捗の報告に今か今かと兄を待っている筈だ。
「…出かけてくるよ」
部下に対するのとは大きく違う声。温かい声。
「はい、いってらっしゃいませ」
柔らかく頭を撫でられて、その手が不自然に止まる。目線の先には私の胸元で浮かび上がる赤いルビー、赤のコア。
「…先ほどまで赤の世界に居ましたので」
少し言い訳がましくなるのは何故なのか。他人ではあり得ない魂の発現、その頻度。私の能力は全ての世界の影響を、受ける。赤の世界なら赤色に。青の世界なら青色に。それぞれの象徴を変幻自在に身に宿すこの能力。…染まりやすい、だが決して何者にも染まらない不安定な輝きの色。周囲が特別扱いする全ての元凶。全ての者が夢見る『可能性』、そんなものよりたったひとつの色に染まれたらどれだけ良いか。
「どうせなら白が良いのに」
「…それは、こまったね」
今居るのは白の世界。ならばここは白だろうと愚痴れば、小さく兄に笑われた。まるで私は幼い子どものよう。甘えから少し頬をふくらまして見せれば、目の前の彼は蕩けるように微笑んだ。途端に氷の彫像が人間になる。愛しげに蜂蜜色の瞳が細められて、何も言わないけれどその態度は何よりも雄弁だった。
この力は世界の根幹と繋がっている。世界から最も祝福された象徴、そして凶事の源でもある。何かと便利な能力でもあるが、こうして私の在り方は他者にも把握されやすい。
「なら、これで」
そっと恭しく手をかざされて、優しくコアが輝いた。赤のコアが霧散し、代わりに白い輝きが姿を現す。兄と揃いの、白い、ダイヤモンド。私の大好きな色。
「…んっ」
一拍遅れて押し出される赤い力の残滓に、思わず目を細めた。
━━染め替えられた、と気付いた瞬間、自身を襲った気恥ずかしさ。それでも嬉しいのだから自分でも救いようがない。
「…ご機嫌いかがかな、姫」
「…悪くありませんわ、王」
気恥ずかしさを誤魔化すように、戯けたようにお互い澄まして取り繕う。すぐに耐えられなくなって小さく笑った…過去を懐かしむように。私たちはたまに、こうしてふたりだけで遊ぶ事がある。10代の子供らしく。12と15の子どもらしく。そこに、そっと載せられた本心にはお互い見ないフリをして。
前世で夫婦だった私たちが、今世で兄妹とはなんの皮肉か。
「じゃあ、今度こそ行ってくるよ」
「はい。いってらっしゃいませ」
閉まるドア。ガチャンと重い音を立てて落とされる鍵の音。別に彼自身は私を閉じ込めたい訳ではないのだろう。ただ心配なだけなのだ、あの兄は。優しい声音と、冷たい鍵の音の対比がこの広い部屋に大きく響くというだけで。兄は手の届かない場で私が損なわれることを何よりも嫌う。だから手を尽くす。実直に、ひたむきに。欲望渦巻くこの世界で、兄のそばだけが唯一、安心できる。
途端に色を無くした世界に、目を閉じる。
きっとあの兄の歩みは止まらないのだろう。
かつて王で、今も騎士で、その孤高の色は無色に見えてこの世界で1番遠い色をしている。
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彼女の在り方は奇跡なのだと、決して損なわせてはならないと、ずっと言い聞かせられて来た。
そして同時に突きつけられても来た。彼女の能力は唯一無二の貴重なもの。そしてその根幹は兄であるお前への家族愛である、と。
兄というには気安さがなく、明らかな権力勾配があった。妹はこちらの言うことに必ず従うし、元々物静かであまり自分から意見を言う子では無かった。ただ常に行動は共にしている。一方的に兄が妹を連れ回しているように部下たちには見えているはずだ。現に、妹に何かをさせたいならば必ず俺を通すように、という流れを早々に作った。そこに不満はない。「全ては兄さまにお任せしていますので」彼女自身もそれに追従してくれている。本心はどうあれ、無表情、無感動、そして自分の意思を放棄する言動。そう見えるように振る舞っていることを、俺だけは知っている。誰よりも優しく動植物に心寄せるその性根に蓋をして、その美しさを隠している。人形よりも人形らしいと陰口を叩かれたことも1度や2度では無い。
意思の放棄を強制したことはない、が、それが妹の処世術なのだと俺は知っている。そうしなければ、彼女の心は耐えられなかった…。唯一の肉親、俺の手の届く範囲でのみ自由に羽ばたける、儚くも美しい絶対唯一の蝶。せめて安らげる場を、と彼女が絶えず欲望に晒され続けることに嫌気がさして、全ての者を退けて作った白銀の城。白亜の城。
ようやく安心できる場を見つけた妹は、ゆっくりと生来の可憐さを表に覗かせるようになった。蝶が羽化するように、ゆっくりと。徐々に人混みにも慣れ、ほんの少しその感情を顔に出しては無邪気にこちらに手を伸ばす。安心して身を委ねる。それがどんなにこちらの心を揺らしてくることか、彼女本人だけが知らない。ただの兄妹というには距離が近い。それは幼少期を襲った理不尽な暴力の嵐のせいだったし、彼女自身の特殊性もあったように思う。
前世で自分の花嫁だった彼女。
記憶の中の彼女は美しく笑う。
兄妹となった今と全く変わらない美しい貌で。
「彼には無事に渡せたかい?」
思索の海から無理矢理頭を上げて、部屋に帰って来た彼女に目線を向ける。少し驚いた顔をしているのは、俺が部屋に居るとは思って居なかったからだろう。他人からは睨んでるとかよく怖がられる顔も、彼女を驚かせる材料にはならない。
「はい、渡せました」
珍しく単独行動した妹の、これまた珍しいお節介。赤の世界に来た少年の、その仲間の家族の所持品。粗末な小さな首飾り。彼らのさがす、家族の手がかり。
「家族だから」と、きっとそんな彼女の優しさに小さく笑みが漏れた。「きっと彼らは泣いて感謝するだろうね」ただ、たどり着けるかどうかは別問題。妹の優しさに好感しか無くとも、彼らの行動には興味が無かった。
「…出かけてくるよ」
「はい、いってらっしゃいませ」
その『出かける先』が、先ほどの好意を潰すためのものだと妹は気づいているのだろうか。
誤魔化すように頭を撫でて、その横を通り過ぎようとする。…が、その胸元で主張する輝きがあった。
「…先ほどまで赤の世界に居ましたので」
赤いルビー。燃え盛る情熱の色。赤の世界の象徴。
彼女に他意はない。彼女の特殊性は全ての色を持ち、全ての色に染まるその力にある。それでも、先ほどまで戦っていたあの赤い少年を思い出して、少しだけ不愉快な気分になった。
「どうせなら白が良いのに」
「…それは、こまったね」
ささくれ立った心が一瞬で凪ぐ。
彼女に他意は無いのだろう。純粋に、どうせなら同じ色が良いと強請る子どもの心で。年相応に、少し膨らませた頬が愛らしい。
それでも好きな相手から、道ならぬ想いを募らせている相手からそう言われるのは結構な好意の暴風雨だ。
頬が上がるのを止められずに、その愛おしさに目を細めた。どれだけ周囲から冷徹と恐れられても、彼女にだけは敵わない。
「なら、これで」
そっと手を翳して、自分の色を流し込む。あわよくば染まれ、できれば、ずっと永遠に。そんな独占欲を「仕方ないな」と、妹の機嫌を取る兄の顔で覆い隠しながら。
「…んっ」
追い出された力は霧散して、彼女の背後で赤い蝶になった。すぐ虚空に溶けたその姿に、内心溜飲が下がるのは我ながら現金なことだ。入れ替わるように現れた白。純白の輝き。息を詰める彼女に仄暗い喜びさえ感じてしまって、開けないはずの扉さえ容易に開いてしまいそうになる。全部捨て去って、彼女の甘美な毒に溺れられたらどれだけ幸せなことか。
「…ご機嫌いかがかな、姫」
「…悪くありませんわ、王」
兄らしく澄まして見せて、「これで」なんでとんでもない。実際、この程度で済んでホッとしている。取り繕うように戯けて見せれば、彼女は朗らかに笑った。醜い欲望も、なにも知らない年相応の子どもの顔で。
「じゃあ、今度こそ行ってくるよ」
「はい。いってらっしゃいませ」
見送る視線に手を挙げて、応える。閉まる扉。ガチャンと重たく落とした鍵を、彼女はどう思っているだろうか。
ただの過保護な兄か、それとも前世からの重すぎる執着か。どちらにせよ、自分の囲った世界以外であの蝶を飛ばす勇気は無い。━━今のところは。
ならば世界の方を広げるまで。彼女が安心して羽ばたける世界を、ここ以外にも広げる。そんな臆病な野心家を、羽化したばかりの白い蝶が見ていた。
色の無い
世界もいずれ
染め上げる
『愛と混沌』
ヒトという種
【無色の世界】
母の腕の中で産声を上げた僕は
希望と共に真っ白なキャンバスを胸に抱きながら
輝く世界を目に焼き付けた
たくさんのものを見て聞いて感じて
僕のパレットにはたくさんの色が絞り出されていく
色のない僕の世界に何色を乗せ 濃く色付けでいくか
真っ白だった僕のキャンバスは鮮やかに彩られ
僕の未来を埋めつくしていく
―無色の世界―
「無色の世界」とは、どんな世界だろうか。
孤独……?
神秘……?
恐怖……?
希望……?
わからない。
無色の世界
色という概念がない
色を使った言葉や表現もない?
それなりに楽しくて
それなりに笑ってて
それなりに眠る
平凡な毎日
何かが足りない
物足りない
あと少しの勇気と
あと少しの行動力
自分だけの色を求めて
旅に出ようか
自分の心がワクワクする方へ
#無色の世界
男の佇む周辺ばかりが全く色を失ったように思えて後藤は目を擦った。
ここは化物の棲まう紅毛の絨毯や悪趣味な舶来のけばけばしいものばかりの洋間のはずだというのに、男の周りだけは違う。まるで彼の周りにだけ凪いだ湖面が広がるようだった。
男の提げる薄氷の色をした地金の刀の鋒が届く間合い。
その間合いは深い森の奥の真名井や、神社の禁足地と同じ緊張感をはらんだ静謐に満ちていた。
男はほとんど無防備の有様で切先を下ろして、ただ佇んでいるように見える。いっそぼんやりとしてさえ見えた。
しかしそうではないことを後藤は知っている。
間合いはくっきりとした生と死の境として存在していた。無論、それは相対する相手のみであって、後藤にとってはいっそ恐ろしいほどの美しさであった。
相対する奇怪なものが男に振り下ろす巨大な腕が、重たい音を立てて地面に転がる。
男は色のない世界をひきつれて一歩、自ら間合いを詰めた。その一歩はまるでせせらぎのようにさりげなく、それでいて大きい。はっとする間もなく巨魁の懐に男は立っていた。
流れるような滑らかさで刃が返される。薄氷の色をした刀が掬い上げるように振り上げられる。瞬間、逆巻く渦潮のような水飛沫が青々と洋間に爆ぜる。
ついで巨魁の首がおもたげな音を立てて床に転がる。
おそらくは首を切られたことさえ気付かぬ間に事切れたことだろう。
鋭く、早く、そして水の流れのように自在で流麗。これほどの剣の腕を持つ人間がいることが後藤の理解を超えていく。
音もなく刀が鞘に収められて初めて、後藤の視界に色が戻った。
男は後藤を一瞥してただひとつ首肯いた。
よろしく頼む、なのか、後始末をやれ、なのかとんと判断はつかぬが命を助けられた手前後藤は赤べこのように首肯き返した。
かあ、と老鴉が男を呼ぶ。
それに男は一息つく間もなく窓を抜けて月夜に飛び出してあっという間に姿を後藤は見失う。
いなくなった方角を唖然と見送って、後藤は我に帰って室内を振り返った。
静謐さのかけらもない、けばけばしい華美なばかりの無作法な洋間が、あいも変わらず広がっていた。
『無色の世界』
伽藍堂通り一丁目一番地
角の空き地を右に曲がって
畦道を一人歩いていく
耳に届く音は何もなく
心に響くものもまた何もない
振り返るならば進めはしまい
からっぽの何処へ
行けると言うのか
目を開けるとそこには見慣れた形の街並みが広がっている。ただひとつ違うのは知っているはずの景色から色という色がごっそりとなくなってしまったということだった。
これはどういうことだろう。
僕は目を瞬かせ、夢ではないかと疑ったが、あいにく頬を思いっきり抓ってみても、目の前の様子に変化はない。
「・・・・・・あの、すみません」
僕はこの理解不能な状態に、思わず目の前を通り過ぎようとしていた道行く人を呼び止めた。
「はい?」
その人は僕のほうを振り返って足を止める。色がついていないからよくわからないが、幾分か落ち着いた低い声と高い背丈から考えて、僕より少し年上の男性ではないかと予想する。
「この世界はどうしてしまったんでしょう」
僕のその一言に相手は何かを察したらしく、「ああ、君、生まれたてか」と納得したように頷いていた。
「生まれたて?」
「この世界に生まれたばかりの人にはまだ世界の色が見えないんだ」
「・・・・・・えっ? いやいや、そんな馬鹿な。だって昨日までは普通でしたよ」
「普通って?」
「えっ?」
「君が昨日まで見ていた普通って、本当にそこにあったのかな?」
何を言ってるんだと思いつつも、僕は口を挟めなかった。
「例えば君はどうして僕に話し掛けたんだい? こんなにも通行人がいる都心の街中で」
「それは貴方が一番近くにいて話しかけやすかったからで・・・・・・」
「・・・・・・なら、これならどうだった?」
そう彼が言った途端、真っ白だった彼の姿がみるみる色を取り戻していく。
「・・・・・・あ」
「僕に色がついていたら、君は僕には話し掛けなかったんじゃないかな?」
そうかもしれないと思った。
彼は確かに男性だったけど、肌は僕よりも白く髪はキラキラした金髪で、明らかに日本人の僕とは違う国の出身の人だと分かる。
「確かにもし色があったら、きっと僕は言葉が通じないかもしれないと一瞬でも考えてしまう貴方には話し掛けなかったかもしれません」
「そうか。ならここが、無色の世界で良かったよ」
彼はすうっと片手を僕の前に差し出した。
「危うく君と友達になり損ねるとこだった」
彼が悪戯っぽくウインクする。僕は何だかあはははと、嬉しい笑いが込み上げてきて、気付けば彼の差し出した手をしっかりと握っていた。
「あの、もっと色々僕にこの世界のことを教えて貰えませんか?」
「ああ、もちろんいいさ。喜んで」
彼は僕の肩を軽く叩いた。その瞬間、僕自身もみるみる色を取り戻していく。
どうやら僕は昨日までの僕とは違う、新しい自分に生まれ変わっていたらしい。
これまでつけていた色眼鏡を取っ払い、これから僕はこの新しい世界を、きちんと見てみようと思う。
【無色の世界】
つらさや苦しみを抱えながら立っています。
寂しさと孤独を握りしめながら歩いています。
不安と恐怖にあとをつけられています。
それでも懸命に生きています。
まだこの世に色があるから。
私の失敗は、他人に自分の世界の色塗りをさせてしまったこと。自分の筆と絵の具で塗らなければいけなかったのに、君の気まぐれにすべてを委ねてしまったこと。君が染めてくれる色が心地良くて、それに依存してしまったこと。
唐突に、君が私の前からいなくなってしまった日から、無色の世界に私は住んでいる。筆と絵の具の使い方をすっかり忘れてしまったせいで、世界に色を付けられずにいる。今までと同じ場所で生きているのに、まるで違う次元に来てしまったような、同じ景なのに、色がなくなるだけでこんなにも変わってしまうものなのかと驚いた。
しばらく経ったある日、私はモノクロの世界に桜色の君を見つけた。見つけてしまった。まったく神様というのはどうしてこうも悪戯を好むのか。住む世界が変わって、もう2度と会うことはないと思っていた君と、今の私を邂逅させるなんて。
君のグラデーションだけは覚えていた私は、君が桜色のわけをすぐに理解した。隣にいる私の知らない誰かに向けるその笑顔で、また正面から刺されたかった。でも今それは、背後からしか突き刺さらない。目には見えない筆を私は強く握りしめた。パレットを失くして久しい私に今使える色は、ただ1色。
常闇を思わせる黒。
私の世界を染めてくれた君に、今度は私の筆でお礼をしよう。絵心なんてないから、塗り潰すことしか出来ないのだけど。
なんて、我儘な恨み言のひとつも言えたら楽だったのに。私の色なんてもう覚えていない君の背中を見送る。世界が無色なのは自分のせいであると、分別ある私は知っているから。私が今すべきなのは、筆と絵の具の使い方を1から学び直すこと。それで今度こそ、自分で自分を染めること。健全に救われたいのなら、そうする他ない。
私だっていつか、君より綺麗な桜色に自分を染めて見せるのだから。
無色の世界
なんの彩りもない。
そんな世界、わたしはないと思う。
無色。何もない。
なんの色にも染まってない。
何もないのか、
それともこれから何色にでも描けるのか。
人の赤ちゃんは生まれた時から
何にも染まらず、真っ白!
なんてことはないと思う。
お父さんがいてお母さんがいて。
その血を受け継いでいく。遺伝していく。
だから何色かは少し染まってるんだろうな。
きっと生まれつき活発な子もいれば、
生まれつき静かにしている子もいる。
何か病や障害を抱えているのかもしれない。
でもそれが良いか悪いかなんて決まりもない。
嫌な色なら塗り替えればいいし、
そのままでいいならそのままの色
そのままの自分でいればいいと思う。
何色になるのかは自分の選択。
この間の冬の雪はよく積もり、白いアクリル絵の具を塗り広げたような、音も無い、無色の世界だった
ある女優の、若い頃の写真を見た。
白黒写真なのが時代を思わせる。
衝撃だった。
濡れ羽色の黒髪も、白磁のように透き通った肌も。
ゴテゴテと色を乗せなくても──あるいは乗せた色が写真に反映されていなかったのかもしれないが──、女性は華やかで鮮やかに写っていた。
その女優は現在でも活躍している。色が付いても上品さは変わらない。
私もこのように育ちたい。
無色の世界でも色彩を纏う女性に。
無色透明とか言うけれど
自分が、透明になったような
気持ちになったことはありますか?
弾む会話は、いつも同じような内容
グループの輪は明るいマーブル模様
染まりきれない息苦しさ。
別の輪では、誰かの愚痴や不満が
垂れ流されて不愉快なマーブル模様。
相槌だけで、精一杯。
そんな時、私は人の皮だけ被った
空気人形みたいになってた。
心は、出来るだけ遠くに追いやって
あれが、無色の世界だったのかな。
透明なカメレオン。
時が過ぎるのをじっと待つだけの違和感。
【お題:無色の世界】
書けない 描けない 表せない
なんと哀しいことか
私の稚拙な脳では想像も創造もできない
いろのないせかい
わからない
知らない事はわからない
教えてください
色が見えない世界はどんなものか
なんと愚かしい私か
#無色の世界
無色の世界
他人を見て羨んだり、疎ましく思ったり、妬んだり、嫉妬したり、
そんな、自分と他者を比べるときの「負」の感情こそ、私はつまり「無色」に見える。
羨むな、疎ましく思うな、妬んだりするな、嫉妬したりするな。という意味ではない。
この「負」の感情こそがあなた自身を、私自身を
「無色」にしていると私は思うのである。
人は誰しもごく簡単に、無色の世界に侵されやすい。
自分の色を作るのが幸せで、自分の色を守るのが幸せなのに。
他者と自分らを比べてしまう時にくる「負」の感情は最も「無駄」なのである。
そう考えたところで、結局意味は無く、自分の表情は蔑み、くすみ、脳みそはだんだん同じことを繰り返していく。
そのうちあなたはだんだん、よくわからない色になっていく。すなわち「無色」何者でもない。
だからあなたは、自分の色を大事にして
#無色の世界
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この体験は、聴覚障がい、妊婦体験等の体験と同列と考えていただいて構いません。期間は1週間となっております。予約フォームに必要事項をご記入後、ご自宅にキッドが届きますので説明書をよく読んで用法用量をお間違えのないようご試用ください。
再度記載いたします、クレームなどは受け付けておりませんのでご了承ください。
会社に向かう電車の中で運良く空いていた席に
座りながら、必要事項を記入していった。
三日後、自宅に届いたキッドに忘れていたドキドキを
感じていた。
説明書に目を通す。ありがちな挨拶文を飛ばし
要約すると、キッドの中には
睡眠薬とコンタクトレンズが入っている。
コンタクトは装着後一時間で溶けて細胞に
浸透するものらしい、その間に目を開けてしまうと保証ができないため睡眠薬が入っていると書いてあった。
明日はタイミング良く休みだ。
早速今夜してみようと準備を始める。
夕飯、お風呂、歯磨きなど身の回りの事を全て済ませる。サイドボートにコンタクトと睡眠薬、コップに
水を用意。準備は万全!!
さぁ、一週間日常の中の非日常に出発だ。
結論から言おう。
色がうるさいなんて体験初めてした。
詳しいことは是非レポートに目を通してくれ。
(スーパーマリオのロゼッタのおはなし/※ワルロゼ匂わせあり)
穏やかな春のある日。
母の宝物を、幼い頃に見せて貰った事がある。宝石をしまうような箱から出て来たのは、つやつやと美しい光沢を放つ硝子の靴。
なんでも父からの贈り物であり、大切な行事の時には履いているのだそう。
まだ幼かったロゼッタは、憧憬に目を輝かせて母の宝物を見た。
前々からシンデレラの物語に登場する硝子の靴に憧れを持っていたし、素敵な王子様に履かせて貰う事も夢見ている。
自分も履いてみたい。母の宝物を見たロゼッタの中では、そんな思いが膨れ上がって強くなった。
◇ ◇ ◇
春の訪れを祝う舞踏会がロゼッタの住まう城で開かれる事となった。
「いや! ガラスのクツ作ってくれなきゃでない!」
城の中にロゼッタのワガママが響き渡った。
“特別な日”があれば硝子の靴を履ける、というなんとも子供らしい短絡的な目論見からだ。
現在でこそ冷静な大人な女性といった印象の彼女だが、幼い頃は年相応のおてんば姫を遺憾なく発揮していた。
「困りましたね……」
母は自身の頬に片手を置いて少し首を傾げながら悩んだ。
作ってしまうのは簡単だ。舞踏会にも間に合う。だが母の思いとしては、履き方を間違えれば怪我をしかねない代物を容易には与えられない。
「そうだわ……! これなら」
母は妙案を思い付いたようだ。
周りに諌められ、ぶー垂れた顔をするロゼッタの頭を母が撫でる。
「分かったわ。舞踏会の日に貴女へ素敵な贈り物をしてあげましょう」
「ほんと!?」
一転して飛び跳ねながら喜ぶロゼッタ。
そんな彼女を見て、母の口は綺麗な弧を描いた。
◇ ◇ ◇
舞踏会当日。
普段はのんき者であるお城のキノピオたちも朝から準備に大忙し。
ドレスの着付け前の事。母がロゼッタの部屋へとやって来た。
靴の入っていると思われる白い箱を両手で支えながら、母はロゼッタに歩み寄る。
「さあ、お母さんから素敵な贈り物ですよ」
母がロゼッタの目線までしゃがむ。
そして箱の蓋を透明感のある手でそっと開いた。
「わあ……!」
中身を目にしたロゼッタは思わず感嘆の声を彩って出した。
そこには母の硝子の靴と似た光沢を放つ、無色透明の靴が入っていた。
母の思い付いた案というのは、余所行きの靴でよく見られるビニル製の靴を職人に作って貰う事だったのだ。
「ママ! ありがとう!」
母の隣に移動し、弾ける笑顔で首に抱き付く。
「喜んで貰えてお母さんも嬉しいわ」
すると、母は顔を少し真面目に引き締め、声を凛とさせる。
「ロゼッタ。本物の硝子の靴は、貴女にとって愛する人が現れたら、その人にプレゼントして貰いましょうね?」
幼い故に“愛する人”の意味が分からず、ロゼッタはきょとんと首を傾げる。
父や弟ではないのかと尋ねると、母はおかしそうにくすりと一度肩を揺らして美しく笑った。
「貴女にもいつか分かる日が来るわ。そうそう、最後にこの靴に飾りを付けて貰えるのだけど、選んでくれるかしら? ロゼッタ」
「うん!」
母がドアに向かって呼び掛けると、靴職人のおじさんが入って来る。
金属の縁取りが特徴的な箱の中には、何種類かのリボンや花飾りが綺麗に並べられている。
「カワイイ!」
「では姫様、お気に召したものをお選びください」
「どれにしよっかなー」
一通り眺めていた時、あるものが際立って目に付く。
時が一瞬止まる。運命のような思いが胸に流れ、その対象へぼーっと見入った。
「これが、いい……」
うっとりとした夢現の中、一つへ指を指す。
「あら、素敵ね」
「ではこちらで」
取り出され、持って行かれるそれをロゼッタはずっと目で追っていた。
きっとこれは素敵な靴になる。ロゼッタの中では確信めいた思いが溢れていた。
紫薔薇のコサージュ――。
ミステリアスな印象のその色に、ロゼッタの中では異様な興味が湧いてやまなかった。