月森

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 私の失敗は、他人に自分の世界の色塗りをさせてしまったこと。自分の筆と絵の具で塗らなければいけなかったのに、君の気まぐれにすべてを委ねてしまったこと。君が染めてくれる色が心地良くて、それに依存してしまったこと。

 唐突に、君が私の前からいなくなってしまった日から、無色の世界に私は住んでいる。筆と絵の具の使い方をすっかり忘れてしまったせいで、世界に色を付けられずにいる。今までと同じ場所で生きているのに、まるで違う次元に来てしまったような、同じ景なのに、色がなくなるだけでこんなにも変わってしまうものなのかと驚いた。

 

 しばらく経ったある日、私はモノクロの世界に桜色の君を見つけた。見つけてしまった。まったく神様というのはどうしてこうも悪戯を好むのか。住む世界が変わって、もう2度と会うことはないと思っていた君と、今の私を邂逅させるなんて。
 君のグラデーションだけは覚えていた私は、君が桜色のわけをすぐに理解した。隣にいる私の知らない誰かに向けるその笑顔で、また正面から刺されたかった。でも今それは、背後からしか突き刺さらない。目には見えない筆を私は強く握りしめた。パレットを失くして久しい私に今使える色は、ただ1色。

 常闇を思わせる黒。

 私の世界を染めてくれた君に、今度は私の筆でお礼をしよう。絵心なんてないから、塗り潰すことしか出来ないのだけど。









 なんて、我儘な恨み言のひとつも言えたら楽だったのに。私の色なんてもう覚えていない君の背中を見送る。世界が無色なのは自分のせいであると、分別ある私は知っているから。私が今すべきなのは、筆と絵の具の使い方を1から学び直すこと。それで今度こそ、自分で自分を染めること。健全に救われたいのなら、そうする他ない。

 私だっていつか、君より綺麗な桜色に自分を染めて見せるのだから。

4/19/2023, 4:22:22 AM