『柔らかい雨』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
某日、アパートの窓辺から、外を覗く一人の男がいた。空は快晴、熱すぎず寒すぎずの心地よいお昼時、公園には子供たちが駆け回り、世間の空気などお構いなしに今を楽しんでいる。絶好のお出かけ日和である。
しかし、男は落胆していた。
晴天にため息を漏らしては、喧騒に耳を塞ぎ、頭を抱えている。
お天道様を恨めしそうに睨みつけ、もう一息漏らしては、窓を閉めた。
次の日の朝、空に雲が飛んできて、雨のカーテンが掛かっていた。暴風に打ちつける雨、どんよりとした、憂鬱な空模様。
男はすぐに飛び起き、カッパを付け、ノート片手に駆けだした。
河川敷、川沿いに高低様々な草木が茂り、風に共に揺れている。木々が転々と生え、その合間の小さなベンチには、誰一人と姿はない。
男は、忍び足で一つの高木へ向かい、その中途で腰を下ろした。
見れば、数匹の雀が集まっている。
柔らかい雨に濡れ、毛は蝋に浸したように纏まっている。互いに身を寄せ合って、一体となり、寒さに雨が過ぎるのをひたすらに待っている。
男は、ペンを取り、ノートを広げ、まじまじと人のない世界に身を置くのだった。
『柔らかい雨』
柔らかい雨と聞いてなにも思い浮かばなかったので、検索してみました。
そしたら、絵画作品のタイトルになっているのもあるし、歌のタイトルになっているのもありました。
なにも思い浮かばなかった私は頭が硬いと思う。
頭が柔らかいほうが活躍できる仕事に就いていたこともあります。工場で作った製品をトラックに積み込む仕事です。限りあるトラックの荷台のスペースに上手に積み込むにはけっこう私は頭を使いました。なぜならパズルのように製品を積んでいくのだから、製品の形状によっては「どう積んだらいいんだろう?」と頭を悩ませることもありました。そんな時私を助けてくれた社長は製品を荷台に積んでいくスピードがすごく速い。
そういえば社長は社員からも頭が柔らかいと言われていたのを思い出しました。
【 柔らかい雨 】
ただ死にゆくだけと、諦めていた。
生き長らえるために逃げた地は、乾ききっていた。
およそ、生き物の住まう環境とは思えない場所。
敵がいない代わりに、生きるのも難しい。
何のために、今、ここにいるのだろう?
何のために、生かされているのだろう?
諦めたはずの命は、己の意思を問わず、
直向きに鼓動を打ち続けている。
ふと、頭上から降り注ぐものに気づく。
恵みの雨か、いや、殺戮の雨だ。匂いで分かる。
あまりにも優しい、毒の雨。
呆気ない終わりだと思う反面、幸せな終焉を喜ぶ。
なんて、暖かい雨なんだろうな。
【柔らかい雨】
ウッドデッキに置いたロッキングチェアに腰掛けて、雨音へと耳を澄ませる。パラパラと音を立てて降る雨は、それ以外の世界の音の全てを消し去ってくれた。
この煩わしいことに溢れた世界で、それでも私がこうして息をしているのは、こうして時折降り注ぐ柔らかな雨のおかげだ。遠い昔に死んでしまったあの人が、荒れ狂う情動をもてあましていた幼い私へと微笑んで告げてくれたから。
『君が辛い思いをしている時には、僕が雨を降らせるよ。そうして君を苦しめるものは全部、まっさらに洗い流して仕舞えば良い』
水の精霊に愛された彼はその言葉通り、いつも私の周りを雨で覆ってくれた。あの人の雨に包まれるたびに、大嫌いな世界をほんの少しだけ好きになれた。
「大好きだよ、ずっと」
雨音に溶け込ませるように囁いた愛の言葉は、果たしてあの人へと届いただろうか。優しい気持ちでそっと、私は瞳を閉じた。
桜雨のこんな日は泣いたって気づかれないよ
もう考えたって分からないし生きている意味だって無い
こんな奴生きている資格だって無い
なんて何度も何度も、自分に言い聞かせたって止まれないんだ
こんな不愉快な痛みがずっと体の中で泳いでる
なんてね、全部『ウソ』
ただの夜咄。
雨の日はずっと泳いでる。
【柔らかい雨】#77
柔らかい雨は好きだった。
この頃は見かけなくなったが、
私が静かに流す涙を見つけては
共存してくれていた。
でも、柔らかい風を好きになった。
風は私に涙を流させないように、
止めてくれた。
無理をさせようとか、我慢させようとか
そういうような類の気を感じさせない。
そんな柔らかさがある風が今は好きだ。
だが、柔らかな雨よ。
私は雨のことが嫌いになったわけでない。
今は、風の方が気が合う。
それだけのことなんだ。
「はっ!私はなんでこんなところにいるんだ。私は死んだはずなのに」
私は朝、目を覚めたら何故か生きていた頃のベットで寝ていた。私は不思議に思いベットから起きて自分のスマホで今日の日時を確認した。私は言葉が出なかった。なぜなら10年前の中学卒業の日だったからだ。考えてみたら確かに今までよりも手や足が小さい。
柔らかい雨
雨は嫌いだ。雨が降ると道は混むし、匂いもきつい。雨の匂いが好きだという人も中にはいるけれど、どうしても僕はそれを好きになれないでいた。
そんな中、理想郷は完成した。雨が降らなくなった。否、雨は降っているのだ。必要なところだけに、局所的に管理された雨を降らせていた。
あんなに嫌っていた雨なのに、いざ無くなるとどこか物寂しい感じがした。
ポツポツと雨が降り始めた。綺麗に僕の周りにだけ降り注ぐ、柔らかくて優しい雨。望めばなんでも手に入る、そんな理想郷も案外悪くないのかもしれない。
しとしとと頬を濡らす柔らかな雨。
舐め取ってみると、それは妙にしょっぱかった。
▶柔らかい雨 #36
あのころの私は、
溢れてしまった弱い心を、打ち消してしまうほど
激しくうちつける雨がほしかった
けれど、
大切な人に降り注いで欲しいのは弱さを隠す雨じゃなくて
じんわりと浸透するように、
しおれた双葉がまた立ち上がれるように、
さんさんと、ただ
柔らかい雨を降らせたい
君を見ていたらそう思った
『柔らかい雨』
【柔らかな雨】
傘をさしてたはずなのに
霧のような雨粒が
横から、後ろから、
私の身体を包み込む
触れているのか
そこにいたのかも分からないくらい
優し過ぎる手で
そっと
トントンしてくれる
こんなか弱い力
あってもなくても何も変わらないはず
むしろ拒んできた存在
なのに何故か
ありもしない温もりを感じて
傘の下
私は顔を濡らした
柔らかい雨
1人で寂しいの。
でも、あなたがいてくれるから……
私は生きていられるの。
涙の数だけ強くなれるよ。アスファルトに咲く花のように。
なんていう歌が昔は聞こえていたけれど、今ではあまり聞かなくなったわね。
というか、アスファルトに咲く花からすれば、涙を流せば強くなる人間と私たち花では全然違うの。
花には水は必要不可欠。だけど人間は違うでしょう?涙を流さなくたって生きていられるじゃない。
……あら、泣いているの?
…ふふっ、私は見ていないわ。泣いてないのなら何で私は濡れているのでしょうね?
雨よりも柔らかい雨みたいね。だって、泣いていないんでしょう?
1人で寂しかったのよ。ありがとう、話し相手になってくれて。
「柔らかい雨」
子どもを見てると
雨の日は柔らかい
「大人になった」自分が滑稽に思える
煩わしいと何時から思うようになったんだろうか
泥だらけになって笑った。
私が辛い時
僕が限界な時
私/僕 達が泣けない時
代わりに泣いてくれた貴方は
本当は冷たいのに
どこか暖かくて
私を包み込んでくれるみたいでした。
【柔らかい雨】
#柔らかい雨
落ちた身体を
柔らかい雨が受け止める
全身ずぶ濡れだけど
なんだか暖かいなぁ...
#柔らかい雨
雨というものは冷たく、時に痛い。柔らかい雨など存在するだろうか。
栞は高畑に言われた言葉を思い出しながら、わずかに首を傾げた。
雨はまだ止みそうにない。傘を持ってくれば良かった。雨宿りのつもりで駆け込んだこの軒先にいつまでいようか少しの間逡巡し、携帯の時計を確認して諦めた。
「栞ちゃんは柔らかい雨のような存在なんだ」
先ほど高畑に言われた言葉。続きはなかった。ちょっと照れくさそうに笑って、「じゃあ」と3つ年上の先輩は去っていったのだ。
「雨って濡れるしあんまり好きじゃないんだよな」
つい口を尖らせてしまう。隣に同じように避難していた中年男性がチラリとこちらを見た。栞は慌てて会釈して下を向く。そして今日のことを考えた。
お姉ちゃんの友達。それが高畑を表すただ一つの表現。それ以上もそれ以下もなく、また、その他もない。
たまに家に遊びに来るから、挨拶くらいはする。
お姉ちゃんの命令でコンビニにアイスを買いに行くときに一緒に行ってくれたり、お姉ちゃんに用事があって教室の入り口でモゴモゴしていると真っ先に栞に気づいてお姉ちゃんを呼んでくれる人。
考えてみれば、高畑はいつも栞に優しい。
今日もお姉ちゃんの誕生日プレゼントを一緒に選んでくれた。
部活が忙しいはずなのに、今日なら補講で居残りのお姉ちゃんにバレないからと、駅で待ち合わせしてくれた。
そのおかげで栞は無事にお姉ちゃんのクラスで流行っているキャラクターのポーチを買うことができた。
その帰り道。栞はなんの気なしに呟いたのだ。
「なんでこんなに良くしてくれるんですか?」
高畑の答えが先ほどの言葉だった。
「栞ちゃんは柔らかい雨のような存在なんだ」
好きということなのか、嫌いということなのか。いや、嫌いというニュアンスは含まれていなかっただろう。それくらい、中学生の栞にもわかった。
どのくらい首を傾げていただろう。栞がふと気づくと、雨が止んでいた。
再び携帯の時計を確認し、走って家に向かった。走っている間は、高畑のことも雨のことも考えていなかった。
その夜、栞はお姉ちゃんに「柔らかい雨ってどういう意味かわかる?」と聞いてみた。
「霧雨のことじゃない?」
なるほど、と栞は思った。私は霧雨?
次にお母さんにも「柔らかい雨ってどういう意味かわかる?霧雨のこと?」と聞いてみた。
「国語の宿題か何か?ネットで調べてみたら?」
高畑の言葉の真意がネット上に転がっているわけなどないので、お母さんには「ありがとう」とだけ返した。
お父さんは栞が起きている間には帰って来なかった(これはいつものこと)。
寝る前も栞は高畑のことを考えた。答えが出ることもなく、意識が落ちて、そして朝になった。
中等部と高等部は同じ敷地内の隣り合わせのため、その日も栞はお姉ちゃんと一緒に登校した。
いつも通り、パン屋さんの角を曲がると高畑が待っていて、お姉ちゃんの隣に並ぶ。
高畑に変わった様子はない。昨日の朝と同じように「はよ」と短くお姉ちゃんと挨拶を交わし、栞に「おはよう」と微笑む。
お姉ちゃんと高畑は栞にはわからない話をずっとしているし、栞はわからないまま歩く。
学校に着く前に、栞は高畑に昨日のことを聞きたかった。でも、お姉ちゃんには聞かれたくない。
その日はチャンスが訪れることがないまま終わった。
わざわざ高畑を呼び出して聞くようなことではない、そう栞に決心が着くまで三日かかった。つまりはそれまで言うに言えず聞くに聞けず、栞の頭の中は高畑でいっぱいだった。
高畑に会うことはある。大体お姉ちゃんと一緒にいるし。毎朝3人で登校するのだ。それなのに2人きりで話す機会がないまま。ただ、高畑の顔、話し方、声、仕草を思い出しては懊悩し、栞の胸に高畑がどんどん濃く焼きついていった。
日曜日。高畑が遊びに来た。私服の高畑は慣れない。学校帰りに来る高畑と違う人のように感じる。栞は自分の部屋に閉じこもって、高畑が帰るのを待った。
しかし、お姉ちゃんの気まぐれはそれを許さなかった。
「栞!ちょっとコーラ買ってきて」
ドアが勢いよく開き、仁王立ちのお姉ちゃんが栞に命令した。この絶対服従の命令を聞かないと、後で酷い目に遭う。栞は「ええ……」と口の中で不満を殺すと「はあい」と立ち上がった。
「栞ちゃん、それじゃ一緒に行こう」
お姉ちゃんの後ろから高畑が笑顔で手招きをする。
「えー、高畑も行っちゃうの?自販機すぐじゃん」
「かわいそうでしょ」
「じゃあスマブラの続きしてっわ」
お姉ちゃんは手をヒラヒラさせながら戻っていった。栞は高畑に軽く頭を下げて一緒に玄関を出た。
コーラが売っている自動販売機までは数百メートル。
その間に栞は決意を持って、高畑に尋ねた。
「あの、この間言ってた……」
「ん?何?」
高畑の顔が近い。揺らぐな決意、と思いながら続けた。
「私のこと、柔らかい雨って、どういう意味ですか?」
高畑は立ち止まり、「えと……」と僅かに言い淀んだあと。
「心地良いから、ずっと一緒にいたいって意味だよ」
栞も立ち止まった。立ち止まって、振り返り、優しく笑む高畑を見て、そして、しゃがみ込んだ。
なんなのなんなのなんなのなんなのなんなのなんなのなんなのなんなの……。
なんなのかは、わかっているのに心が追いつかない。
急にしゃがみ込んだ栞に、高畑が慌てて手を差し伸べる。
「どうしたの?具合悪くなった?」
「そうじゃなくて!」
「大丈夫?」
「わ、私も!高畑さんがお姉ちゃんだったら良かったのにって、いっつも思ってました。高等部では高畑さんがキャプテンしてる女子バレー部に入るつもりだったし、私、その……」
声が徐々に小さくなり、最後は消え入りそうに「好きです」と言った。
栞は顔を伏せていたため、その時の高畑の様子は見えなかった。自分のことで精一杯だったし、いつものセーラー服姿ではないボーイッシュな格好の高畑は栞の目には眩しすぎた。
「そうかぁ」
残念そうな、嬉しそうな、そんな高畑の声を聞き、栞は面を上げた。
いつの間にか、雨が降っていた。
「ごめんね、栞ちゃん。私、実は……」
雨音が栞の耳を塞ぐ。高畑の言葉は聞こえない。
やはり雨は冷たく、痛い。どんどん、栞を濡らして体が心が頭が冷えていった。
柔らかい雨など、なかったのだ。栞は天を仰いだ。
2023・11・7 猫田こぎん
肌寒い朝 騒がしい昼
思い出した
記憶を消したらまた会えるかな
あの頃とは違うのに
あの頃となにも変わらない気がする
懐かしいと思ったけど
新鮮だとも思った
全部知っているのに
まだなにも知らないふりをした
記憶を消したら会えるかな
雨あがりの空
雪の降った朝
変わらずここにあるもの
人と会う予定があり、急ぎ目的地まで早歩き。
ポツリと脳天に何かが当たった。
以前鳩フンを被弾して以来、確認をしないと気が済まない。
おそるおそる手でさわってみる、手を見る。透明だ、ほっ。
ま、確かにもっと重たく生温かかったな。
ボタッて感じで被弾と同時に滴ってきたもんな。
こんなに柔らかく、すぐに消え入りそうな存在ではなかった。
ま、なんにせよ透明なのが有難い。
最悪予定が実行不能になるからな。
雨なら問題ない。雨でよかった、ほっ。
135 優しい融解
柔らかな雨が世界をそっと溶かしています。
お題 柔らかい雨
世界は残酷だけれども
優しさを忘れたことはないよ