某日、アパートの窓辺から、外を覗く一人の男がいた。空は快晴、熱すぎず寒すぎずの心地よいお昼時、公園には子供たちが駆け回り、世間の空気などお構いなしに今を楽しんでいる。絶好のお出かけ日和である。
しかし、男は落胆していた。
晴天にため息を漏らしては、喧騒に耳を塞ぎ、頭を抱えている。
お天道様を恨めしそうに睨みつけ、もう一息漏らしては、窓を閉めた。
次の日の朝、空に雲が飛んできて、雨のカーテンが掛かっていた。暴風に打ちつける雨、どんよりとした、憂鬱な空模様。
男はすぐに飛び起き、カッパを付け、ノート片手に駆けだした。
河川敷、川沿いに高低様々な草木が茂り、風に共に揺れている。木々が転々と生え、その合間の小さなベンチには、誰一人と姿はない。
男は、忍び足で一つの高木へ向かい、その中途で腰を下ろした。
見れば、数匹の雀が集まっている。
柔らかい雨に濡れ、毛は蝋に浸したように纏まっている。互いに身を寄せ合って、一体となり、寒さに雨が過ぎるのをひたすらに待っている。
男は、ペンを取り、ノートを広げ、まじまじと人のない世界に身を置くのだった。
『柔らかい雨』
11/7/2023, 9:01:08 AM