『愛を注いで』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
並々と愛を注いだコップを飲んで飲んで飲んで、
半分残った時に愛されているとまだ思えるのか?
「愛を注いで」 白米おこめ
愛を注いで
コップいっぱいに注いだはずの水が全部外へこぼれ落ちていた。
コップの中は空っぽ。
注ぎ方を間違えたら台無し。
しっかりと器の中を満たすこと。
そんな注ぎ方が何より大切。
そんな愛し方が何より大切。
相手がしっかり全てを受け取れるように
愛を注いで、、、
愛を注いで生まれてくれた
育ってくれた娘たち
可愛い
ありがとう!
愛を注いで
きみの愛は大きい。
慈悲深く、博愛主義とでも呼べばいいのだろうか。
その中に俺は含まれているとも。
自意識過剰ではなく、それは紛れもない事実なのだから。
でもそれは俺にとっては一番残酷な愛だ。
平等とは心惹かれるもので素晴らしいことこの上ない。
だが、裏を返せば違いもなくただ一定。
そこに特別というものは発生しない。
きみに愛されて幸せだけれども、俺はそれ以上がほしい。
カップの水面張力を決して溢れない愛じゃない。
もっと溢れるほどの愛をカップに注いでほしい。
だって俺はずっと昔から、きみへの愛を注いでるから。
その愛はずっとカップから溢れっぱなしなんだよ。
愛を注いで
愛ってやりたいように注いじゃ駄目なんだよね。
サボテンを眺めながらしみじみ思う。
先週水をやったので、来月くらいまでは水はやらなくて良い。
職場でサボテンを貰ったときスマホで調べた。
サボテンは土がカラカラに乾いて
さらにそこから数日経過した後で水やるくらいが
適切なんだそうだ。
鉢植えがあるからつい水をやってしまいたくなる、はアウト。
サボテンの都合を考えてやらないと腐る。
へー、とスマホを眺めながら感心し、
頭の中の霧が晴れるような気がした。
これ、人間も同じじゃね?と。
自分の両親は無制限の愛を子に注ぐ人たちだった。
自分ではなく兄に。
兄なんでも与えられた人だ。
服も、食事も、おやつも、お小遣いも、
欲しいと言えば欲しいだけ与えられ、
親が与えたいものもどんどん与えられ、
何をしても許され、何もしなくても許され、
いつでもあなたが正しい、
そこにいるだけで価値があると褒められていた。
兄にひたすら愛を注いでいた。
その結果どうなったかというと、
食べたいものを好きなだけ食べて太り、
勉強も運動もせず当然のように落ちこぼれ、
そして自分は悪くない、周りが悪いと言うようになり、
その姿を両親は全力で肯定していた。
対して自分はどうだったかというと、
お前はスペア。
お前には価値がない。
お前は頭が悪い。
お前は不細工でみっともない。
無駄飯食い。
金がかかる。
住まわせてやるだけありがたいと思え。
そう言い続け、その通りだと信じ切っていた。
それを両親の隣で聞いていた兄もうなづいていた。
だから祖父の介護を言いつけられた時従った。
だから大学へ進学もしなかった。
祖母も寝ついてしまった。
祖母の介護もお前がやれと言われ従った。
毎日毎日祖父母の介助を行い、食事を作り、
排泄物の片付けをして、夜中でも起こされて、
気に入らなければ殴られたり、唾を吐かれたり、
怒鳴られたりしていた。
何もない時は隣の部屋で待機していた。
何かをしようと思う気持ちもなかった。
家から出ることもなく、
衣類は兄の着古したものを着ていた。
毎日毎日同じことを繰り返していた。
同じことを何回繰り返したかわからない頃、
祖父が死んだ。
祖父が死んだら祖母は施設に送ることになった。
お前用済みだよ、出てけ。
兄に言われて今のアパートに連れて行かれた。
両親は見送りにも来なかった。
呆然としてふと手元に残った携帯の日付を見た。
今まで今が何年かも気にしていなかった。
年数を数える。数がうまく数えられない。
何度も数えなおす。
何度も繰り返し、ようやく高校を卒業してから
20年経っていることを理解した。
浦島太郎ってこんな気持ちなのかなあ…ぼんやり思った。
10日くらい部屋で動かずにぼんやりしていたが、
ぼんやりしてても腹が減るし、
腹が減ったら外に出てコンビニでパンを買い食べていた。
兄から握らされた金はそんなに多くない。
金がもうないことに気がつき、
こういう時はバイトするんだっけ、と思いつき、
コンビニの張り紙を見て即聞いてみた。
聞かれたことに答えていたら、
介護してたんならあっちの方が向いてるかもねえ、と
オーナーさんに言われて介護施設を紹介された。
介護職は楽だった。
キツいらしいが、祖父母に比べると断然大人しいし、
殴ったり噛みついたりする回数も少ない。
風呂に入れるのもベッドに寝かせるのも楽だし、
何より同じことをする人が複数いて分担できる。
同じ話題で話せるのが楽だった。嬉しかった。
喋りながら、自分が話しかけて返事をしてくれる人と
顔を合わせるのはどれくらいぶりだろうと考えていた。
そして何より、働いたら金が入ってきた。
小銭以上の金を好きに使えると気がついた時
仰天した。
何に使って良いのかわからないとオロオロして、
コンビニのオーナーさんに会いに行き、
かごいっぱいに弁当やおにぎりを詰め、
初めて給料貰ったから沢山買います!と宣言をした。
オーナーは笑っていた。
一気に買うな、
毎日決めた分だけ少しずつ使いなさいと叱られた。
そして一年。
がらんとしていた部屋の中は随分変わった。
窓辺にはサボテンがあり、
安物だが新品の服が増えた。
玄関には施設のレクで作られた人形が飾ってある。
携帯はスマホに変わった。
コンビニに行くと週一でオーナーが店番をしており、
身だしなみと健康状態のチェックを受け、
うちにばかり来ないでよそのお店にもいきなさいと
近所の惣菜店や定食屋を教えてもらった。
そして、爪はOK、耳掃除も忘れずに!と
笑った顔でやはり叱られる。
叱りはするけど怒鳴りはしなかった。
頭が悪いとか価値がないとも言われなかった。
叱られるのが心地よかった。
少しずつ自分のことを話した。
馬鹿にする人や目を合わせない人もいたが、
親切な人は親切だった。
コンビニのオーナーも、職場の人も沢山のことを教えてくれた。
20年を埋めるのはなかなか難しい。
段々自分に色が付いてきた気がする。
そして過去を振り返る。
自分の家族は、今接している人達と全く違う。
何が違うのか不思議で考えてみて、よくわからなかった。
サボテンを貰い、どうすれば良いのか検索をかけてみて
唐突に気が付いた。
職場の人は入居者さんの様子を見る。
気持ちに寄り添う。
どうすれば居心地良く過ごせるかを考える。
しかし、仕事としての線引きはする。
記録をつける。
ミーティングをする。
話し合うし声を掛け合う。
この人達はサボテンに水をやりすぎることもないし、
やらなさすぎることもない。
ああ、全く違う。
両親の手元にサボテンがあったら、
自分達のやりたいように水をやり、
やりたくないなら放置するだろう。
サボテンの都合などどうでも良いからだ。
自分は乾いたサボテンだった。
ふと兄のことを思い出す。
兄は水を貰いすぎて腐りはしなかったのだろうか。
兄のことは眺めているだけで、
一緒に何かをした記憶がない。
あそこから出て行けと言われたこと。
それだけを感謝して今日も仕事に出かけよう。
愛を注いで
きみに…少しお願い事があるんだけれど…言葉にするのが、ちょっと恥ずかしくて、言いにくい…
その…なんて言うのか、ほら、よく、恋愛漫画とかで言っている…あの、口に出来るって、見ていて、こっちが恥ずかしいみたいな…あと、メイド喫茶で、お姉さんが、やってるおまじない的な…
そんな、アレを、私だけにして欲しい…んだけれど…
作品No.257【2024/12/13 テーマ:愛を注いで】
愛を注いでつくりあげた
はずの自分の愛し子達でさえ
簡単に
あっけなく
粗末に
その命を扱ってしまうのだから
自分の中の〝愛〟なんて
きっとその程度のモノだ
愛を注いで
これでもかと注がれた愛に自分はどれだけ応えられるだろうか。
無条件の愛を受けたとて返せるものなど持ち合わせていないことが、だんだんと重荷になっていく。
このいのちに嫌気が差して、投げ出したくなったとしても、差し出せるものはこれしかないのだからと引きずっても這っても生きていかなくちゃ。
「ねえ誰か助けて…」
「もうこの際誰でもいい」
「尽きる事の無い永遠の愛を頂戴」
「私の願いはたったそれだけ」
「同じ分の愛を返すから」
「貴方の為なら全部捨てれるから」
「何でもするから」
「誰か…」
「もう全部終わらせて…」
お題「愛を注いで」
愛を注いで
愛とはなだろうか、存在しているのだろうか、
存在意義はあるのだろうか。
私にはわからないが皆には分かるのか、
どうせ醜いこの世界には意味もないが、
私は一人愛を探している。
私とはなんだろうか、存在しているのだろうか、
存在意義はあるのだろうか。
愛は私を知らないが私はそれを分かるのか、
どうせ哀に溢れた世界で愛を知らない私には意味など無いが、
私は愛知ってみたかった。
どうか私に愛を注いで。
愛を注いで
あの日も寒さが厳しくて、気がつけば肩はすくみ気を抜けば「寒い」と口に出してしまう、そんな真冬の日だった。マフラーをしても手袋をしても、上質なキャメルとシルクで作られたテディベアみたいにもこもこであったかいコートを着ていても、一旦外に出てしまえば冷気に囚われ、それはじわじわと体の芯まで浸食していく、そんな日。
肩をすくめながら眉を寄せ、ただただ無言で隣を歩き続けるあたしをみかねた◾︎◾︎は、「あったかいモン食ってけよ」と当時◾︎◾︎が住んでいたアパートのキッチンで豚汁を作ってくれた。その出来事はたぶん、一生忘れないと思う。
大きめの陶器のおわんによそわれた豚汁の具材は、しゃぶしゃぶ用の薄切りにされた豚肉をはじめ、じゃがいも、にんじん、だいこん、こんにゃく、ごぼう、しいたけと定番のものだ。だけれど今まで食べたことのある豚汁と違うのは、千切りの生姜とすりおろしの生姜、そしてかくし味としてごま油がすこしだけ入れられているというところだ。生姜とごま油の香りが食欲をそそり、ひとくち汁をすすればそれらと調和した味噌のコクとうまみが口の中にしみわたる。二口、三口と食べすすめていくうちにすぐに体温が上昇して、手先やつま先までポカポカになった。◾︎◾︎は「レトルトパックの野菜使ってるから物足りねーとこあるかも」とかなんとか言っていたけれど、そんなのまったく気にならなかった。あたしはそれを機になにかと理由をつけては◾︎◾︎に手料理を作ってくれるようねだった。ありていに言えば、胃を掴まれたのだ。
「あったまるー」
今日も今日とてあたしは◾︎◾︎の手料理をありがたくいただいている。今日はロールキャベツのクリームスープだ。残業上がりのあたしにぴったりな、夜遅くでも食べやすいスープ。スープといえどもロールキャベツがメインだからそれなりに空腹もまぎれるし満足感もある。なによりとろみのあるクリームスープは芯から冷えた体をあたためてくれる優秀なスープだ。
「夜遅くまで大変だな」
「あたしは家に仕事持ち込まないタイプだから問題ない。問題はアンタ」
労ってくれるのも悪くはないけれど、ダイニングからすこし離れたところにあるソファに身を委ねている◾︎◾︎はホットコーヒーをすすっている。ということは、だ。それはまだまだこれから仕事をやっつけるためのエネルギーを補給している、ということなのである。あたしもワーカーホリックなきらいはあるけれど、こいつもこいつで同じくらい、いや、それ以上なところがある。
「まぁ、でもオレのは趣味みたいなモンだから」
ソファからこちらへ移動してきた◾︎◾︎は、あたしの対面のダイニングチェアに座った。ふたりで食事をするときは決まっておたがいこのポジションだ。
「そんな過信してたらいつか過労でぶっ倒れるよ」
「なに。心配してくれてんの」
「まあ、それなりにね」
◾︎◾︎は嬉しそうに笑ってから、少し考えて意地悪な顔を作った。
「そーだよなー。オレがぶっ倒れたら●●のメシ作るヤツいなくなるもんな」
あの胃を掴まれた日から数えると、多分、五、六年は経過していて。小さなころから面識があるせいで当時は幼馴染をこえて家族みたいな間柄だったのに、今となっては恋人として連れ添っているのは大きな変化だ。その過ぎていく日々の中で、変わったことはほかにもたくさんあったけれど。今でも変わらないのは、おいしい料理を作り続けてくれているということだ。
「まぁ、それもそーなんだけど、」
意趣返しとして、あたしも◾︎◾︎に意地悪く微笑んだ。
あたしは◾︎◾︎の料理が好きだ。けれど、◾︎◾︎が料理を作っている姿をみているのも同じくらいに好きだ。優しい手つきで器用に包丁を使って食材を扱っていく。フライパンや鍋をメインにして、たまには電子レンジやオーブンなんかを使ってその食材たちに火を通す。そして、魔法みたいに調味料を自由に操って、あたしが好きな味を完成させる。それって、愛情がないとできないことじゃない?って思うから。
「こんなに愛を注いでくれるヤツがいなくなったら、寂しくて死んじゃうかも」
普段はこんな仕草、絶対にしないけれど。今日はいい気分だからわざとしなを作って小首をかしげてみせた。そしたら◾︎◾︎は驚いたみたいで目を丸くした。なにその顔。カワイイ。
「だからほどほどにしてよね、あたしのコックさん」
私はなぜ生きてるのだろう
何のために大人に近づいて行くのだろう
分からない
感情を無にしたい、友達関係面倒臭い
ずっと1人のままでもいい
勝手に期待して裏切られた気分になるのが嫌だ
自分も面倒臭い、嫌い、大嫌い
周りも嫌い
でも家族だけは大好き
いつでも私の味方になってくれるから
創作(?)
愛を注いで、固めて形作れば人間の出来上がり
人間は愛で出来ている
そうは思わないかい?
愛がなければ生まれない
愛がなければ生きられない
人は誰しも何かを愛して生きている
それは人でも、動物でも、物でも、概念そのものでも
神様は面白いように作ったね
お題『愛を注いで』
その瞬間はすぐそこにある。
寒い日、あの子が暖かい紅茶を淹れてくれること。
苗字と顔しか分からない誰かが、冷たい水を注いでくれること。
お家のあの人がお味噌汁をよそってくれること。
それは、きっと全部、あなたへの小さな愛。
あなたの体に入る物が、愛情の籠った素晴らしい贈り物でありますようにと願われた、ひとつの儀式だ。
あなたはその最後に、仕上げをする。
「ありがとう」と、告げるのだ。
そうすることで、その儀式は効能を増す。あなたがどう仕上げるかで、その儀式は、幾らだって愛情が含まれた素敵なものになる。
「愛を注いで」
君に愛を注ごうとしたけれど、
そもそも、愛って何だろう。
恋の言葉はいつも口にするけれど、
その意味が本当に分かるのは、
きっと君といる時だけ。
思っているだけじゃ足りないと知って、
勇気を出して言葉を伝えたけれど、
君の笑顔はそれだけで答えのように感じて、
言葉よりももっと深いところで繋がっている気がした。
でも、愛を注ぐっていうのは、
たぶん、無理に形にしなくてもいいんだろう。
君が好きだってことが、
伝わればそれでいい。
だから、次もまた、何も言わずに
ただ君のそばにいるだけで満足だよ。
愛をたくさん浴びて育ってきました。
今度は誰か1人に注いで欲しい。
私は欲張りで自分勝手だ。
ねぇ 。好き、伝わってる?
どれだけ彼のことを好きでいても変わることない関係
まず、私は彼に愛を注いではいけない
私1人の意思ではダメなのだ
社会には、教えられてないだけでたくさんの暗黙のルールがある 。
その1つに入っている…のかすら分からない当たり前なこと そんなことに私は片足を突っ込んでいるのかもしれない
私は、先生が好きだ 。
どうしようもないほど
恋、とまでいくのかはわからない
でも人間として誰よりも大好きな人
私が身勝手な行動をすることによって迷惑がかかる可能性が大いにあることを十分わかっているし、好きだからこそ先生と生徒との距離感は保って学校では常識ある行動を自分で責任を持ってしている 。
それこそが、今私ができる最小で最大の愛情表現だから
この思い、気づきませんように
でもちょっとだけ気づいて
いや、やっぱずっと気づかないでいて
そんなどっちもつかずな感情に振り回されてばかり 。
私も、わからない
誰もわからない
人の気持ちなのだから、仕方ない
それでもダメなものはダメで 。
一般的に異質なのは私の方だし、大人からに危機感を持たれるのは当たり前なこと あの人たちもこれが仕事だから 。仕方ない以外言葉が見つかならない
そして、それなら、私一人で解決しようと思った
私にしかどうしようもできないから
いつも自分の気持ち押し殺して授業を受けていた 。
気づいてないフリをした
じゃないとやっていけないから 。
でも生徒のためには一生懸命なところ
生徒と同じ目線で考えてくれるところ
生徒のためにちゃんと怒ってくれるところ
いつも沢山工夫されてる授業をするところ
私の満点のテストを嬉しそうに話すところ
小さな怪我や風邪にも心配してくれるところ
嘘が下手でわかりやすいところ
本気で私たちと向き合ってるところ
好きな物にはとことん真っ直ぐなところ
まだまだ沢山あるけど、先生の性格をちゃんと見てきて好きになったんだよ
一時の彷徨いとかじゃないよ 。
私も本気で向き合ってる 。
先生は既にたくさんの愛を注いでくれて、育ててくれてるんですよね
知ってますよ、いちばんね
私も
テストは90点台、満点を連発したり授業を頑張って成績維持したり
あえて、近づきすぎないようにしたり
自分の気持ちに歯止め効かせてたり
委員長になってみたりして
私なりの愛情注いでるの 気づいてますか?
とにかく美味しいもの食べて、長生きしてほしいと思う。そういえばと手に取るまで知らなかった物の使い方、注意点……これってどこまで食べられるんだ?
煮方……え、これを合わせるとだめなのか。
あんなにどうでもよかったことが気になり始めたら仕方なくて、調べ尽くしてできるだけ大丈夫なものを作りたい。あわよくば美味しいと言って欲しい。
これ、苦手って覚えてくれてたんだね。ありがとう。力を注いだところとは違ったところに、あなたは笑った。
【愛を注いで】
兵士は苦しかった。
長い長い戦争がようやく終わりを告げ、兵士の仲間は皆死んでしまった。兵士もまた大怪我を負い、飢餓と孤独に苦痛を覚えながら、どことも分からない道程をひたすら歩き続けている。
そこらじゅうに散らばっているのは、瓦礫か、人間か。確かめる気も更々起きない。それが生きているのか死んでいるのかも、正直どうでもいい。
兵士は何のために生きているのだろうと自問した。
家族も、友人も、大切な人は皆いなくなり、国は荒れ果て、助けてくれる者などいない。
こんなに苦しい思いをしてまで、命を繋いでいく意味は果たしてあるのだろうか。あったとして、それを誰かが教えてくれたとて、自分は納得できないのではないか。
ならどうして、今この道をずっと歩いているのだろう。
どこに向かっているのか。何を求めているのか。
兵士は逡巡したが、答えには辿り着けない。考える気力も体力も、もう残ってはいないからだ。
それから、どれぐらいの時間が経ったのか。
気づけば兵士は夜の森を彷徨っていた。月明かりは届かず、風と虫だけが静かに歌っている。
兵士は明かりを探して顔を上げた。
ひとつ、煌々とかがやくものがあった。家だ、可愛らしい民家が一件建っている。
兵士はその光に吸い込まれるように、足を運んだ。
しかし、途中で膝が抜けてしまった。どさりと重たい鎧が地面に崩れ落ちる音がする。
ああ、もうすぐそこだというのに。結局、自分の手はいつも欲しいものに届かない。
立ち上がれないまま、家の明かりをぼんやりと眺めていると、突然その扉が開き、誰か出てきた。
少女だ。深い湖色のローブを身につけて、ランタンを手にこちらを振り向く。
あどけない顔は驚きを浮かべて、すぐさま駆け寄ってきた。
大丈夫ですか、という問いかけに上手く答えられない。少女は返事を待たずして、兵士に肩を貸してくれた。重たい足を引きずるように、兵士は少女の家へと歩いていく。
少女は見ず知らずの兵士に、献身的に接してくれた。鎧を脱がせ、傷の手当てをし、自分のベッドを貸してくれる。嫌な顔ひとつせず、ただ優しさを兵士に与えてくれる。
兵士は泣きたくなった。涙は出なかったが、こんなに無条件に優しさを享受するのは、もういつぶりか思い出せないくらいで。ただ、嬉しかった。
数日が経ち、兵士はようやく歩けるようになった。
ふとキッチンを覗けば、少女が何かを作っている。
少女はまともに食事ができなかった兵士に、お粥など消化にいいものをいくつか作ってくれた。それはどれも彼女に似た優しい味で、とてもおいしかった。けれど、今作っているのはしっかりした料理のようだ。
「よし、あとは仕上げだけ」
ご機嫌に、少女は戸棚から何か小瓶を取り出す。
と、その様子をこっそり見ていた兵士を振り返り、にんまりと悪戯っぽく笑った。
「これを最後にいれます。さて、なんでしょう?」
「え……と、怪しい薬……?」
「失礼だなぁ、仮にも君の命を救った恩人に対して」
「す、すみません」
「ふふ、冗談、冗談。これはね、愛だよ」
ポン、と軽快な音を立てて、小瓶の蓋が開く。
中に入った透明な液体を、鍋にゆっくり注ぐ。それをかき混ぜながらひと煮立ちさせて、少女は火を止めた。
ふたりぶん、器に盛って食卓へ持っていく。
「魔女の特製ポトフ! 召し上がれ」
愛、とはどういうことなのか、聞こうとしてやめた。目の前のポトフがあんまりおいしそうで、疑問がどうでもよくなったからだ。
匙で掬って、少し冷まして。ひと口。
熱かった。舌の先をやけどして、痛くて。喉を通り過ぎた優しい味のスープが、じんわりと心を温めていく。
――どう、おいしい?
懐かしい声が、聞こえる。
生まれ育った家。下がり眉の、母の笑顔。おかわりをねだる下のきょうだいたち。誰よりも料理を絶賛する、おおらかな父。
忘れていた、家族との大切な思い出。
きっと、頬を生暖かいものが伝ったのは、やけどの痛みのせいだ。
もうひと口、またひと口。だんだんと、熱さは旨味に変わっていく。ぽかぽかと、身体中が温まる。
「ふふ、泣くほどおいしかった?」
「っな、泣いてない……」
「強がりさんだなぁ」
少女は楽しそうに笑って、兵士が食べる様子を見ていた。自分は食べていないのに、満足そうな顔をして。
あっという間に食べおわり、兵士はお礼に食器を洗った。ようやく動けるようになった身体だ。命を助けて、看病してくれたお礼を、きちんとすべき時だ。
兵士は考えたが、少女にとって何がいちばん嬉しいかは、本人に聞くのがいいだろうと思った。さっそく尋ねると、返ってきたのは意外な言葉。
「これを君に預かってほしいんだ」
手渡されたのは、さっきの小瓶だった。
「これ……結局、何?」
「だから、愛だってば。君もさっき感じたでしょう? 料理にこめられた愛」
愛。少女の言葉に、心の奥がじんわりと温もりを帯びる気がする。
「今度は、君の番」
少女は靴音をコツン、と鳴らして、ローブを翻す。
「私が君にしたようにさ。今度は、君が誰かにその愛を注いであげてよ。それが、私にとっていちばん嬉しいこと」
振り返った彼女は、やっぱり悪戯っぽく笑っていた。
よくわからない。兵士はそう思った。
わからないけれど、それが少女の答えなら、自分は誠実に全うするべきなのだ。
兵士は小瓶を大事にしまって、必ず恩を返すことを誓った。
それから数日後。傷の癒えた兵士は、少女に何度もお礼を伝えて、森を去っていった。
深く、深く、息を吸って、吐いて。
少女は苦しかった。
何十年にいちどの大干ばつが村を襲い、少女はひとりぼっちになった。死んでいったものたちは皆、顔も名前も好きな食べものも全部知っていた。
泣いて、泣いて、すっかり涙も枯れてしまって。少女は酷く後悔した。喉は焼けるように痛いのに、潤してくれる水はどこにもないからだ。
割れた地面に身を伏せて、少女は目を閉じる。これは全部悪い夢で、目が覚めたら昔のように、祖母がおいしいご飯を作っていてくれるのではないか。
そんな期待と、絶望を胸に、眠りに落ちて。
目が覚めた時、少女はベッドに寝ていた。けれどそれは、使い古した自分のベッドではなくて、見慣れた自分の部屋でもなかった。
そこにいたのは、祖母ではなくて。名も知らぬ青年だった。
目が覚めたね。青年は涼やかな声でそう言って、何かを持って少女のそばへとやって来る。
お腹が空いているかと問われ、少女は素直に頷く。すると膝上におぼんが乗せられ、お粥の入った器と匙を置かれた。
青年はポケットから徐に小瓶を取り出し、ポン、と軽快な音を立てて蓋を開ける。中には、怪しげな透明の液体が入っていた。
「これをお粥にいれます。さて、なんでしょう?」
青年は、どこか悪戯っぽく笑った。
愛を注いで
この時期は別れのシーズン。
部活を引退する先輩たちの姿はかっこいいし、尊敬できるけど切ない。
入部したての頃憧れてた3年生の先輩がいたけど、最近は2年生の先輩に憧れてた。
でも、引退してからは、やっぱり3年生もかっこよかったなって。
失ってから、その大切さに気がつく。失ってから、また会いたくなる。
だから、これからは目の前にあるものを失わないうちに、感謝して、尊敬して、『 愛を注いで』いきたいと思います。
今を大事に。在るから愛せる。
No.1