『待ってて』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
明るい陽射しが窓からこぼれている。
その下でブランケットにくるまって昼寝をする。
タイマーをかけて15分。
ブランケットを頭からふわりと被るとあたたかい光で視界がいっぱいになる。
一気に穏やかな時間が流れ出す。
たったの15分だけど、とっておきの記憶。
#30 『待ってて』
ここで待ってて、と言って、
マサルくんはどこかに行ってしまった。
僕は言われたとおり、いつも遊んでいる公園のブランコに揺られながら、待っていた。
オレンジ色だった空がいつの間にか深い藍色に変わっていった。
そろそろ家に帰らなきゃ。
ママが心配しちゃうな……。
でも僕が帰って、マサルくんが公園に戻ってきたらどうしよう。
約束を破ったら、マサルくん怒るかな、それとも悲しむかな。
僕は少しオレンジ色が残った空の上の三日月を眺めていた。
あの三日月がいなくなったら、帰ろう。
もしマサルくんが怒ったり、悲しんだりしたら、三日月が家に帰ったからって言い訳をしよう。
僕は三日月を眺めながら、大きくブランコを漕ぎだした。
テーマ:待ってて #93
待ってて
あなたはそう言って帰ってこなかった。
待っていたのに。
ずっと、ずっと…
『今どこにいるのですか? 元気にいますか?
会いたいです。』
そう便箋に書いては丸めた。
本当に会いたいのか、わからない。
自分のことを捨てた人に。
本当に会ったら何を話せばいいか、わからないくせに。
でも道を歩く親子を見ると、あぁ、自分は普通じゃないんだなと思う。
なんで僕が。なんでこんな目に。
中学くらいのときはそう思っていたが、気がつくと高校を卒業していた。
施設の人は僕に優しくしてくれる。
それは、僕が『可哀想』だから…?
そう言われるのが怖くて聞けない。
時々便箋に書くのだ。届かないとわかっている手紙を。
切手を貼って出さないのに。
書いてすぐ丸めてしまうのに。
こんなことをしていても僕に空いている穴は、塞がりそうにない。
明日も明後日も
来年も再来年も
未来永劫
ここに戻るつもりは
全くないんだけど
そんな素振りは
一片も見せないから
明日も明後日も
気付かないふりをして
ずっと待っててよね
『待ってて』
待ってては思わせぶりの言葉にしか
聞こえないよ
返事待っててって言って、もう、1ヶ月になるよ
「待ってて」
「ちょっと待ってて」
彼はいつも忘れ物をする。
やれやれ、と腰に手を置き、私は靴を脱ぎ捨て廊下を駆けていく彼を見送る。
しばらくして、どたどた、と音がして彼が玄関まで帰ってくる。
「Suica。忘れてた」
「ちゃんと確認しなよー」
何故か子どものようなきらきらした笑顔の彼に私は呆れる。
この間は家の鍵、その前は帽子、その前は財布、その前は車の鍵-何故そんなにも忘れ物をするのか不思議でならない。用意をするときに荷物を一つ一つ確認すればいい話なのに。
ある日のことだった。
「ちょっと待ってて」
またか、と思いつつ、まあいつものことだしな、などと考えていた。
彼がポケットに手を突っ込み、家の鍵を探していると、どこかでパリンと音が聞こえた気がした。
「ねえ」
「何」
「何か割れた音しなかった?」
「んーしたかも。まあ、誰かがコップでも割ったんじゃない?」
確かに、ここはアパートだ。しかも壁が薄い。誰かが何かの拍子にコップを床に落として割った。十分にありえる。しかし、何だか嫌な予感がした。
「すぐ戻るから」
玄関の鍵を開け、また中に入る。
彼がリビングに消えていってしばらくした頃。
「誰だ!?」
彼の声だ。
そして、何やらリビングが荒らされているような音と共に、「いいから落ち着けよ」「うるせえ!」などと声が聞こえてきた。
誰かいるのか?
確かに彼の声とは違う、聞き慣れない声がした。男の声だ。
一応警察に電話しておいた方がいいか。そう思い、スマートフォンを操作し、電話をかける。
その間も、彼と知らない男が喋っている。
「俺はなあ!全部リセットするんだよ!全部リセットしてやり直すんだよ!」
「こんなところに大金なんかねえって。真面目に働けよ」
「うるせえ!どうせお前借金背負ったことないんだろ!どうせこの苦しみも分かんねえんだろ!」
「取り敢えずそれ置けって」
「不味い飯しか食えねえのはまだいい方だ!ヤクザみてえな奴らがよお!金取り立てに来るんだよ!玄関ドンドンドンって叩いてよお!怖えんだよ!おまけに毎日毎日電話もかかってくるし!もうこんな生活嫌なんだよ!」
「分かった!分かったから!」
電話を切ろうとしたそのとき、叫び声が聞こえた。しばらくして、窓が勢いよく開く音と、急いで立ち去る足音がした。
恐る恐る彼の名前を呼んだ。何も聞こえない。スマートフォンと荷物を放り出す。
家に上がると彼はリビングにいた。血溜まりに横になっている。脇には包丁が転がっていた。
ただの空き巣狙いだったが住人がいて驚き、たまたま見つけた包丁で刺してしまった、そんなところだと警察は言っていた。
何でよりによってうちに?朝にりんごなんて剥かなければ良かった。包丁をしまっておけば良かった。とっくに乾いていたのに帰ってからでいいやとそのままにしたから。警察を呼んでないで彼の元へ行けば良かった。そうすれば彼を守れたかもしれないのに。悔しくて悲しくて涙が止まらなかった。
「ちょっと待ってて」
何十回と聞いた言葉も、もう聞けないのかもしれない。そう思うと余計に胸が苦しくなるのだった。
数日後、彼の意識が戻った。
腹部を刺されていたが命に別条はないとのことだ。
「本当に良かった」
彼の手を握る。
「人間、そんな簡単に死なないから」
力なく、だが温かく笑った。
退院し、ようやく彼が出掛けられるようになったので、2人で博物館に行くことにした。
「今度こそ大丈夫ね?」
「多分」彼が自信なさげに答える。
「多分じゃ困る」
「大丈夫」
アパートの階段を降り、道に出る。
日差しが眩しい。帽子を深く被り直す。
「こんなに晴れてるのに午後から降るなんてね」
「嘘」
「言ったじゃん」
「えっと」
「何」
「その」
「もしかして」
「ちょっと待ってて」
待ってて
今は会えないけど
いつかはまた会える
今はそっちに
まだ行けないから
ゆっくりと待っててね
でも会いたいな
手を合わせながら
心の中で話しかける
待ってて
マイペースだね。
そう言って、みんなで先を行った。
振り向く気なんて無い。
待ってたら時間がもったいない。
みんな、そうして1歩。いや、何歩も先を歩く。
立ち止まってみる。
みんな、私には気づかず前に進む。
先週、あの子と歩いてる時、ふとそんな経験を思い出した。
立ち止まってみる。
どうしたの?早く行こ!
優しい声と笑顔。
あなたの後ろを歩くのやめるね。
あなたは私を見てくれない。
だから、私が前を歩く。
そしたら、あなたの前に私がいる。
私が振り向くから。
待ってて、あなたの前に行くから__。
電話の向こう、聞こえたきみの声。
微かに滲んだその色が、オレを落ち着かなくさせた。
「大丈夫」なんて、きっと強がりだ。
今から、どれだけ時間が掛かっても。
会いに行くから。
2歳の娘を保育所に預けるときがつらかった。
娘は泣いて離れない。
私も離れたくはない。
でも、離婚して二人暮らし
私が働かないと娘も私も生きてはいけない
『お仕事終わったら急いでお迎えに来るから待っててね。』と揺らぐ気持ちを奮い立たせ
保育所を後にし仕事に向かう
そんな毎日だった。
「待ってて」
あと一歩、あと一歩と…
足を止めないで、前へと進む
待ってよ、早すぎるよ、
悲しいという感情が言わんばかりに込み上げてくる
君に一歩でも良いから近づきたくて
歩くんだ
でも君は全然止まってくれなくて、ズンズンと
進んでいくから
どうやっても、追いつけないんだ
「待ってよ、行かないでよぉ……」
なんて言っても分かるはずないのに
思わずこう言ってしまったんだ
「和菜さんに追い付くくらいに強くなって魅せます」
「…うん、何処までも着いてきて追い付くくらいに」
「それまで、『待ってて』くださいね」
「ふふっ、幾らでも待つよ」
なら、今度は歩くんじゃなく走るよ
君に、和菜さんに追い付いてやる!
1日のうちに、待つ、待たせる、って、どの
くらいあるんだろう?
仕事の時間を待つ。診察の順番を待つ。人との
約束で、先に着いた相手を待たせる。
結構、細かいのがあるのでは、と思う。
私は、「待たせる」のは嫌なタイプだ。事情が
ある時は仕方ないのだが、そうでなければ、約束
の時間は守るし、相手の待つ時間は、極力短く
するようにしている。もしくは、遅れる時は、
必ず連絡を入れている。
なぜなら、相手に心配させたくないからだ。
私が待つ立場なら、遅れる時は、連絡が欲しい
と思っている。
ちょっと相手に強要しているっぽい?
先の寒波で大雪になった時、親戚の子どもを
学校に車で送ってほしい、と連絡があった。
「○○時出発なら、その少し前に行くから
待ってて。」
当たり前のように、時間厳守で迎えに行った。
遅刻しないように、というのももちろんだけど
滅多に無い経験だったので、新鮮に思えて、
ちょっと気合が入ってしまったのだ。
家に着いて、さほど待たず、相手が出てきた。
無事に学校に到着した。
なかなかの気持ち良い朝だった。
「待ってて」
おれはかまきり
かまきりりゅうじ
おうなつたぜ
おれはげんきだぜ
あんまりちかよるな
あんまりちかよるな
おれのこころもかまも
どきどきするほど
ひかってるぜ
おうあついぜ
おれはがんばるぜ
もえるひをあびて
もえるひをあびて
かまをふりかざすすがた
わくわくするほど
きまってるぜ
この手をずっと繋いでいられたらどんなによかったか。
弱いせいで、何も伝えられずに自ら手を離してしまった。後悔するのが遅すぎた。ほんとうは、ほんとうにしたかったのは、きみの澄んだ瞳をまっすぐ見て、言いたかったのは。
◎ 待ってて
聖地の鐘が鳴り、遠く軍歌が聞こえる
陽の光を求めて影を出る
まだ、頭の中で銃声がやまない
それでも、曇ることないあの日を覚えているよ
1日が最悪だったときも
100日それが続こうと
もしも今夜会えるのなら1000マイルだって
なあ、僕を止めないでくれ
昨日と今日とでは違うのだから
必ず朝日はのぼるのだからと
こんな馬鹿らしい世界でも
僕を信じて待っている
時間は止まってくれないのに
愛のために待っている
どうか、もう少しだけ待っていてくれ
そして、追いついたならまっすぐ受け止めてくれ
それからはもう、ここにいなくてもいいから
先に常春の国へ行った皆へ
海で拾ったガラスのカケラを繋ぎ合わせて送る
僕が成人するまで待ってて……
そしたら、結婚できるでしょ?
花が咲いて
風が吹いて
枯葉が散るころ
涙する私の頬に
添えてくれた
あたたかな手
忘れない
さよならは
いつかの出会い
だから
苦しみのない
世界に逝る
君にかならず
会いに逝くから
待ってて
待っててなんていえるわけない
それは希望でなくて呪いの言葉
お題:待ってて
『待ってて』
もうすぐ行くよ、待ってて。
もうこの世になんの未練もないし、
いつそっちに行ってもいいと思って、
毎日生きています。
でも気掛かりはひとつ。
こんな世の中に子どもを産んでしまったこと。