『待ってて』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「待ってて」
「ちょっと待ってて」
彼はいつも忘れ物をする。
やれやれ、と腰に手を置き、私は靴を脱ぎ捨て廊下を駆けていく彼を見送る。
しばらくして、どたどた、と音がして彼が玄関まで帰ってくる。
「Suica。忘れてた」
「ちゃんと確認しなよー」
何故か子どものようなきらきらした笑顔の彼に私は呆れる。
この間は家の鍵、その前は帽子、その前は財布、その前は車の鍵-何故そんなにも忘れ物をするのか不思議でならない。用意をするときに荷物を一つ一つ確認すればいい話なのに。
ある日のことだった。
「ちょっと待ってて」
またか、と思いつつ、まあいつものことだしな、などと考えていた。
彼がポケットに手を突っ込み、家の鍵を探していると、どこかでパリンと音が聞こえた気がした。
「ねえ」
「何」
「何か割れた音しなかった?」
「んーしたかも。まあ、誰かがコップでも割ったんじゃない?」
確かに、ここはアパートだ。しかも壁が薄い。誰かが何かの拍子にコップを床に落として割った。十分にありえる。しかし、何だか嫌な予感がした。
「すぐ戻るから」
玄関の鍵を開け、また中に入る。
彼がリビングに消えていってしばらくした頃。
「誰だ!?」
彼の声だ。
そして、何やらリビングが荒らされているような音と共に、「いいから落ち着けよ」「うるせえ!」などと声が聞こえてきた。
誰かいるのか?
確かに彼の声とは違う、聞き慣れない声がした。男の声だ。
一応警察に電話しておいた方がいいか。そう思い、スマートフォンを操作し、電話をかける。
その間も、彼と知らない男が喋っている。
「俺はなあ!全部リセットするんだよ!全部リセットしてやり直すんだよ!」
「こんなところに大金なんかねえって。真面目に働けよ」
「うるせえ!どうせお前借金背負ったことないんだろ!どうせこの苦しみも分かんねえんだろ!」
「取り敢えずそれ置けって」
「不味い飯しか食えねえのはまだいい方だ!ヤクザみてえな奴らがよお!金取り立てに来るんだよ!玄関ドンドンドンって叩いてよお!怖えんだよ!おまけに毎日毎日電話もかかってくるし!もうこんな生活嫌なんだよ!」
「分かった!分かったから!」
電話を切ろうとしたそのとき、叫び声が聞こえた。しばらくして、窓が勢いよく開く音と、急いで立ち去る足音がした。
恐る恐る彼の名前を呼んだ。何も聞こえない。スマートフォンと荷物を放り出す。
家に上がると彼はリビングにいた。血溜まりに横になっている。脇には包丁が転がっていた。
ただの空き巣狙いだったが住人がいて驚き、たまたま見つけた包丁で刺してしまった、そんなところだと警察は言っていた。
何でよりによってうちに?朝にりんごなんて剥かなければ良かった。包丁をしまっておけば良かった。とっくに乾いていたのに帰ってからでいいやとそのままにしたから。警察を呼んでないで彼の元へ行けば良かった。そうすれば彼を守れたかもしれないのに。悔しくて悲しくて涙が止まらなかった。
「ちょっと待ってて」
何十回と聞いた言葉も、もう聞けないのかもしれない。そう思うと余計に胸が苦しくなるのだった。
数日後、彼の意識が戻った。
腹部を刺されていたが命に別条はないとのことだ。
「本当に良かった」
彼の手を握る。
「人間、そんな簡単に死なないから」
力なく、だが温かく笑った。
退院し、ようやく彼が出掛けられるようになったので、2人で博物館に行くことにした。
「今度こそ大丈夫ね?」
「多分」彼が自信なさげに答える。
「多分じゃ困る」
「大丈夫」
アパートの階段を降り、道に出る。
日差しが眩しい。帽子を深く被り直す。
「こんなに晴れてるのに午後から降るなんてね」
「嘘」
「言ったじゃん」
「えっと」
「何」
「その」
「もしかして」
「ちょっと待ってて」
待ってて
今は会えないけど
いつかはまた会える
今はそっちに
まだ行けないから
ゆっくりと待っててね
でも会いたいな
手を合わせながら
心の中で話しかける
待ってて
マイペースだね。
そう言って、みんなで先を行った。
振り向く気なんて無い。
待ってたら時間がもったいない。
みんな、そうして1歩。いや、何歩も先を歩く。
立ち止まってみる。
みんな、私には気づかず前に進む。
先週、あの子と歩いてる時、ふとそんな経験を思い出した。
立ち止まってみる。
どうしたの?早く行こ!
優しい声と笑顔。
あなたの後ろを歩くのやめるね。
あなたは私を見てくれない。
だから、私が前を歩く。
そしたら、あなたの前に私がいる。
私が振り向くから。
待ってて、あなたの前に行くから__。
電話の向こう、聞こえたきみの声。
微かに滲んだその色が、オレを落ち着かなくさせた。
「大丈夫」なんて、きっと強がりだ。
今から、どれだけ時間が掛かっても。
会いに行くから。
2歳の娘を保育所に預けるときがつらかった。
娘は泣いて離れない。
私も離れたくはない。
でも、離婚して二人暮らし
私が働かないと娘も私も生きてはいけない
『お仕事終わったら急いでお迎えに来るから待っててね。』と揺らぐ気持ちを奮い立たせ
保育所を後にし仕事に向かう
そんな毎日だった。
「待ってて」
あと一歩、あと一歩と…
足を止めないで、前へと進む
待ってよ、早すぎるよ、
悲しいという感情が言わんばかりに込み上げてくる
君に一歩でも良いから近づきたくて
歩くんだ
でも君は全然止まってくれなくて、ズンズンと
進んでいくから
どうやっても、追いつけないんだ
「待ってよ、行かないでよぉ……」
なんて言っても分かるはずないのに
思わずこう言ってしまったんだ
「和菜さんに追い付くくらいに強くなって魅せます」
「…うん、何処までも着いてきて追い付くくらいに」
「それまで、『待ってて』くださいね」
「ふふっ、幾らでも待つよ」
なら、今度は歩くんじゃなく走るよ
君に、和菜さんに追い付いてやる!
1日のうちに、待つ、待たせる、って、どの
くらいあるんだろう?
仕事の時間を待つ。診察の順番を待つ。人との
約束で、先に着いた相手を待たせる。
結構、細かいのがあるのでは、と思う。
私は、「待たせる」のは嫌なタイプだ。事情が
ある時は仕方ないのだが、そうでなければ、約束
の時間は守るし、相手の待つ時間は、極力短く
するようにしている。もしくは、遅れる時は、
必ず連絡を入れている。
なぜなら、相手に心配させたくないからだ。
私が待つ立場なら、遅れる時は、連絡が欲しい
と思っている。
ちょっと相手に強要しているっぽい?
先の寒波で大雪になった時、親戚の子どもを
学校に車で送ってほしい、と連絡があった。
「○○時出発なら、その少し前に行くから
待ってて。」
当たり前のように、時間厳守で迎えに行った。
遅刻しないように、というのももちろんだけど
滅多に無い経験だったので、新鮮に思えて、
ちょっと気合が入ってしまったのだ。
家に着いて、さほど待たず、相手が出てきた。
無事に学校に到着した。
なかなかの気持ち良い朝だった。
「待ってて」
おれはかまきり
かまきりりゅうじ
おうなつたぜ
おれはげんきだぜ
あんまりちかよるな
あんまりちかよるな
おれのこころもかまも
どきどきするほど
ひかってるぜ
おうあついぜ
おれはがんばるぜ
もえるひをあびて
もえるひをあびて
かまをふりかざすすがた
わくわくするほど
きまってるぜ
この手をずっと繋いでいられたらどんなによかったか。
弱いせいで、何も伝えられずに自ら手を離してしまった。後悔するのが遅すぎた。ほんとうは、ほんとうにしたかったのは、きみの澄んだ瞳をまっすぐ見て、言いたかったのは。
◎ 待ってて
聖地の鐘が鳴り、遠く軍歌が聞こえる
陽の光を求めて影を出る
まだ、頭の中で銃声がやまない
それでも、曇ることないあの日を覚えているよ
1日が最悪だったときも
100日それが続こうと
もしも今夜会えるのなら1000マイルだって
なあ、僕を止めないでくれ
昨日と今日とでは違うのだから
必ず朝日はのぼるのだからと
こんな馬鹿らしい世界でも
僕を信じて待っている
時間は止まってくれないのに
愛のために待っている
どうか、もう少しだけ待っていてくれ
そして、追いついたならまっすぐ受け止めてくれ
それからはもう、ここにいなくてもいいから
先に常春の国へ行った皆へ
海で拾ったガラスのカケラを繋ぎ合わせて送る
僕が成人するまで待ってて……
そしたら、結婚できるでしょ?
花が咲いて
風が吹いて
枯葉が散るころ
涙する私の頬に
添えてくれた
あたたかな手
忘れない
さよならは
いつかの出会い
だから
苦しみのない
世界に逝る
君にかならず
会いに逝くから
待ってて
待っててなんていえるわけない
それは希望でなくて呪いの言葉
お題:待ってて
『待ってて』
もうすぐ行くよ、待ってて。
もうこの世になんの未練もないし、
いつそっちに行ってもいいと思って、
毎日生きています。
でも気掛かりはひとつ。
こんな世の中に子どもを産んでしまったこと。
彼女が熱を出した。病院はどこも取り合ってくれず、家での療養に努めた。顔を赤らめ、無数の汗を流す様を見て、何度代われるなら、代わってやりたいと思っただろうか。
何か出来る事はないか。お粥を作ろうか、タオルを冷やしてやろうかとソワソワしていると、ふと彼女はぼくの手をギュッと握った。
「繋いでて」
それだけで良かったのだ。病気の時、無性に寂しく感じてしまうのは誰しもが一緒だ。
「眠るまで、待ってて……」
うとうとと微睡む様子を、横で優しく見守った。そういえば自分も昔、と過去を思い返す。
まだ小さい頃。病気になって眠りにつくと、母は起きるまでずっと手を握ってくれていた。あの時はとても安心出来た。見守られて生きているんだって、心が柔らかな気持ちで満たされた。
「ずっと待ってるよ。起きるまで、ずっと」
可愛らしい寝息が聞こえてくる。ぼくは、軽く微笑みながら熱に浮かされた彼女の寝顔を眺めていた。
ゆっくりおやすみ、元気になった君をまた見せてくれよ。
ぼくも瞼を閉じる。夢の中へと落ちていった。
37【待ってて】
もう少し待ってて
すぐ迎えに行くから
只 この地獄から
抜け出せないだけなんだ
抜け出せたら
すぐに君を迎えに行く
それからはずっと
一緒に居よう
もう
君と離れて暮らすのは
僕ももう限界だ
すぐに迎えに行くから
約束だよ
私は、家族のことが好きだ。
血が繋がっていない私に家族のように接してくれる。
私を殴ったり蹴ったり、私の分だけご飯を作らなかったり、私に八つ当たりなんてしない。私はこの人達のお陰でたくさんのことをしれた。
そんな家族とその日は、旅行に行く予定だった。
まさか向かうための飛行機が墜落するなんて思いもしなかった。
病院で目が覚めたとき後、私以外の家族全員が死んだと聞かされたときは絶望した。
何で私なんだって、私に生きる価値なんてないのに、
って自分を何度も何度も責めた。でもそれも今日で終わり。
今行くから待っててね。私の大切な家族。
待ってて。
大学卒業してちゃんと支えられるようになったら
必ず迎えに行くから。
なりたい職業叶えて、生活出来るようにお金貯めて、
少しでも支えられるように、少しでも楽になれるように頑張るから。
あなたの為なら何でも出来る。
だからもう少しだけ待ってて。
「ちょっと行ってくるから待ってて」
そう言い残して身内は車内を出ていった。僕もまた自販機に行く為に車を後にする。
身内の買い物は長い。
買い出し先について行くのもダルい。
500mlペットボトルのお茶を買って車に戻ってくると、おもむろにスマホを取り出した。ゲームをやろうか、Twitterをやろうか? 映画でもアニメでもいい。
思いを巡らせつつ、いい時代になったものだとしみじみ思う。
昔は読書か頭の中で棋譜並べか音楽を聞くぐらいしかなかった車内の待ち時間潰しは、今やインターネットとスマホのお陰で格段に出来ることが増えた。殆ど家にいるのと変わらない。
取り敢えず車内のシートを倒してYou Tubeに飛ぶと、めぼしい動画を漁ってゆく。