『夏』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
夏は暑くてあんまり好きでは無い。
けれど、夏の夕方
海に映る綺麗な夕日がすごく好きだ。
※ホラー
出口が見つからない。
『願いを叶える双頭の神』が、廃村にいる。
昔、その神の怒りに触れて、村の人すべてが連れていかれたのだという。
神が安置されている村の奥の屋敷の門は、普段は閉じており開く事がない。しかし、ある条件下で開き神に会う事が出来る。
よくある都市伝説だと思っていた。誰も本当に信じてなどいなかった。
だから学生生活最後の夏休みの思い出作りにと、友人の兄も巻き込んでこうして肝試しに来たのに。
最初はよかった。草の生い茂る道は歩き難くはあったものの、雰囲気は最高で。お互いわざと怖がり、写真を撮っては笑い合っていた。
奥の屋敷の他と違い形を残した門扉を見た時、何処か嫌な予感がした。けれどそれよりも、非日常の高揚感が勝り。
門に、手を、伸ばし。
開かない、と思った。開くわけがない、と皆思っていた。
けれども、
扉は、開いた。
容易く。呆気なく。簡単に、開いた。開いてしまった。
どうしようか、と呟いた。
行ってみよう、と誰かが囁いた。
怖い、と皆口にしながらも笑っていた。
ただ一人を除いて。
『この先は止めておいた方がいい。帰れなくなるよ』
水を差された気分だった。
他の皆も同じようで、口々に非難を浴びせた。そのせいかそれ以上は何も言われる事なく。
一人を置いて、皆で門を、潜り抜けた。
衣擦れ。足音。
ひび割れた呻き声。誰かを呼ぶかのように。
心音。呼吸。
気づかれぬように。身を縮めて、必死で息を殺していた。
声が近づく。襖一つ隔てた向こう側を、ゆっくりと、ゆっくりと。
「…ドコ……ネエ、サマ…ネエサマ…ドコ、ニ…」
漏れ出る声を、呼吸ごと押し殺す。
気づかれてはいけない。襖を開けられてしまえば、もう逃げる事は出来ない。
衣擦れ。足音。呼び声。
遠ざかる。少しずつ、少しずつ。声が小さくなる。
聞こえなくなる。
「………っは、ぁ…」
息を吐く。出来る限り静かに。音を出さぬように。
力が抜ける。動かなければと急く気持ちとは裏腹に、今は指一本すらまともに動かない。
あの時、忠告を聞いていれば。或いはすぐに引き返していれば。
皆と逸れる事もなく、得体のしれないアレに追いかけられる事もなかったはずだった。
最初にアレと遭遇したのは門を潜り抜けた先、広大な庭を散策していた時だった。
違和感は感じていた。風化を感じさせない屋敷。綺麗に整えられた庭。
あまりにも門の外とは時の流れが違っていた。
けれどその時は、その異様な様子さえ肝試しというイベントの興奮材料にしかならなかった。
怖いと嘯きながらも無遠慮に庭へと踏み入れ、そして。
広い池の向こう。佇むように、アレはいた。
紅い振袖を着た黒髪の少女。けれどその背には、着物と同じく紅い翼が生えているように見えた。
遠目では、そう見えていた。
最初に動いたのは誰だったか。
声にならない呻きを上げて後退し、脇目も振らずに走り出した。それを合図として皆一斉に逃げ出した。
門には辿りつく事が出来たが、それは二度と開く事はなく。
背後から聞こえる声に、仕方なく屋敷の中に入り込んだ。
迷路のように入り組んだ、暗い屋敷の中。出口を求めて彷徨い。
追いかけてくるアレから身を隠す内に耐えきれず、友人達は皆おかしくなっていった。一人は泣きながら笑い続け、一人は意味の伴わない言葉の羅列を永遠と話し続け。
気づけば一人になってしまっていた。
動かなければ。
逸れてしまった他の皆と合流して、出口を探さなければ。
目を閉じ力を込めて両手を握り、開く。震える足で無理やり動かし、立ち上がる。
アレから身を隠す為に入ったいくつかの部屋で見つけた、書物の内容を思い出す。
村の事。祀られていた双頭の神の事。
落雷で焼けた御神体。流行病。
神の依代。齢七つの双子の女児。
屋敷の裏。石段を上がった先。社。儀式。
アレの背にあるのは翼などではない。背から生えるのは、天に両手を伸ばした、紅い振袖の。
目を開ける。
襖に手をかけ、音を立てぬようゆっくりと開ける。
声は聞こえない。紅く揺らめく振袖の裾は、アレの姿はない。
一歩足を踏み出す。音を立てぬよう慎重に歩き出す。
動かなければ。皆を探してここを出て。
一人待っているであろう、忠告してくれた に謝らなければ。
「……ぇ?」
ふと、気づく。
忠告してくれたのは、本当に友人だったのか。自分達は何人でここを訪れたのだったか。
彼、或いは彼女の名は。声は。姿は。
そもそもその誰かは、本当に人の姿をしていたのか。
気づいた。気づいてしまった。
記憶の中の誰かの姿が途端に色褪せ、形を失っていく。まるで土で作った人形が、ぼろぼろと崩れていくように。
耐えきれず叫声を上げる。僅かに残った精神で、声の去っていた方向とは逆の方へ走り出す。
逃げなければ。
今はただ走る。逃げ続ける。
出口はまだ見つからない。
20240629 『夏』
「ここではないどこか」「夏」(6/27、28)
そこそこ書き上げていたのに入力した内容が全て消えてしまったからまとめて投稿することにしたよ!!!
これ、何回やっているんだろうね?!!。°(っ°´o`°c)°。
あと、一昨日と昨日の分で内容に温度差がありすぎて風邪をひきそうだよ!!!でもあまり気にせず読んでもらえると嬉しいな!!!
゚*。*⌒*。*゚*⌒*゚*。*⌒*。*゚*⌒*゚*。
「ここではないどこか」
その前に!!!「前回までのあらすじ」だよ!!!
わかりにくくなってきて書いた本人も色々と忘れているからね!!!これからはちゃんと書くようにするよ!!!
「前回までのあらすじ」─────────────
ボクこと公認宇宙管理士:コードネーム「マッドサイエンティスト」はある日、自分の管轄下の宇宙が不自然に縮小している事を発見する!!!
そこで、急遽助手であるニンゲンくんの協力を得て、原因を探ることにした!!!お菓子を食べたりお花を見たりしながら、楽しく研究していたワケだ!!!
調査の結果、本来であればアーカイブとして専用の部署内に格納されているはずの旧型宇宙管理士が、その身に宇宙を吸収していることが判明した!!!
聞けば、宇宙管理に便利だと思って作った特殊空間内に何故かいた、構造色の髪を持つ少年に会いたくて宇宙ごと自分のものにしたくてそんな事をしたというじゃないか!!!
それを受けて、直感的に少年を保護・隔離した上で旧型管理士を「眠らせる」ことにした!!!悪気の有無はともかく、これ以上の被害を出さないためにもそうせざるを得なかったワケだ!!!
……と、一旦この事件が落ち着いたから、ボクはアーカイブを管理する部署に行って状況を確認することにした!!!
すると、驚くべきことに!!!ボクが旧型管理士を盗み出したことになっていることが発覚!!!さらに!!!アーカイブ化されたボクのきょうだいまでいなくなっていることがわかった!!!
ボクも色々と探しはしたものの、きょうだいはなかなか見つからない!!!そんなある日、ボクのきょうだいが発見されたと事件を捜査している部署から連絡が入った!!!
というわけで、ボクはその場所へと向かうが……。
゚*。*⌒*。*゚*⌒*゚*。*⌒*。*゚*⌒*゚*。
「ここではないどこか」
……今日はやけに騒がしい。まだ朝の4時だっていうのに。
自称マッドサイエンティストがまーた変なことをしようとしてるのか?
目が覚めてしまったので、自称マッドサイエンティストの元に向かうことにした。
……おい、今何時だと思ってる!
「おや、随分と早いお目覚めだね?起こしてしまったかい?」
「たった今、急用が入ってね!ちょっと出掛けることになったのだよ!というわけで、自宅警備を頼む!!」
ああ、わかった。……いや、自分も行くよ。
「おやおや、どうしてキミがご同伴するのだい??」
なんとなく、もう二度と会えないような気がして。
……ここではないどこかへ行ったまま、帰ってこないかも、なんて思ってな。
あんたのことだから、大事なことをいつも言ってくれないんだろうと踏んでいるが、おそらく「急用」っていうのは……。
あんたの片割れとやらが見つかったとか、だろう?
「……流石は我が助手!!!なんでもお見通しってワケだね!!!しょうがない!!!キミも一緒に行こうか!!!」
こうして、自分たちはこいつの片割れのいるところへと向かった。
01100101 01101110 01100011 01101111 01110101 01101110 01110100 01100101 01110010
……この空間の内部にいるのか。
現場の前だからか、捜査員らしきひとたちが多くいて物々しい。
自分たちのもとに、黒いのか赤いのかわからない、金属みたいな艶のある髪の女の子が近づいてくる。
「マッドサイエンティスト、もう来たんだ。あ……そっちがニンゲンさん?」
「ああ、その通りだ!!!人手は多い方がいいだろう?!!」
「いつもあんたは声がデカい!もし『回収対象』……いや、あんたの双子の兄?を刺激したらどうすんの?」
「まあまあ!!!ここの音は内側にゃ届かんよ!!!」
「ニンゲンさん、どうも初めまして。当事件を捜査している者です。いつもやかましいこいつの子守、お疲れ様。」
……あ、どうも。
「ここから先は、かなり危険が伴うことが予想できる。だから、こっちとしては別室で事情聴取でも受けてもらった方が安全だと思うけど、多分この奥に行くよね?」
そのつもりでここに来たんだ。
「はぁ……。本当はうちらだけでけりをつけたいけど、一応あなたも重要参考人みたいなものだから、今回は特別に内部への出入りを許可するよ。」
「但し、危険な行動は慎んでね。」
……そんなことをするつもりはないけど、一応気をつけるよ。
こちらの会話をよそに、マッドサイエンティストは空間の入口をじっと見つめている。
……どうした?何か気になるのか?
「ここ、キミも覚えているかい?」
「……この空間は、キミも会ったことのある旧型管理士の少女が作った空間だよ。」
「そしてここは、ボクがわざと作った脆弱なセキュリティポイントの前。ちょっとつつけばすぐにでも入れる。」
「ねぇ捜査員くん。本当にこの内部にボクのきょうだいがいるんだよね?」
「ああ、間違いなくいるよ。」
「ボクが気になるのは、弱いポイントがあるとはいえ、本来ならボクとニンゲンくん、あともうひとりの少年にしかこの空間のアクセス権がないから誰も見つけられないはず。」
「なのに、ボクのきょうだいがここの内側にいるというじゃないか。……どうやってこの場所を認識して侵入したのだろうか。」
「そんなのわかんないよ。ただ、アーカイブの追跡タグがここを示しているから、このセキュリティポイントから入ったんだろうってことは予想がつくってだけだ。」
「とにかく、一刻も早く回収したいからもう突入するよ。」
「ああ、ボクも準備万端だよ!!!」
「それじゃ、行くよ……3、2、1……。」
『許可されていない挙動を感知しました。コマンドを入力してください。』
「……なにこれ?」
「おや???ボクはこんなものを設定した記憶がないが???」
コマンド?なんだそれ?
「まあとにかく!!!ものは試しだ!!!仕方ないからブルートフォースでも仕掛けよう!!!」
ブルートフォース……?
「よし!!!『コマンド』といったらまずはこれだよね!!!」
『↑↑↓↓←→←→BA』
『コマンドの入力を確認しました。空間内へのアクセスを許可します。』
「入れたんだが?!!」
「ウッソだろう?!!セキュリティの意味がまるでないじゃないか!!!」
「……それ、なんのコマンドなの?」
「詳しくは上のコマンドを検索してくれたまえ!!!」
「みんな、心の準備は出来てるよね。十分注意を払って行動するように。」
「イエッサー!!!」
……本当に大丈夫なんだろうか。
とにかく、自分たちは空間内部へと入ることとなった……。
To be continued…
゚o。o゚o。o゚o。o゚o。o゚o。o゚o。o゚o。o゚o。o゚
「夏」
夏が来るとふと思い出すことがある。
高校の頃、月に何回か土曜授業があった。
いつも通り、夏の暑いなか学校へと向かっていく。
あともうちょっとで学校に着く。
そう思ったとき、右の方から観光バスが来るのが見えた。
あー、もしかして修学旅行とかかな?なんて思って見ていると、車内の知らない制服を着た女の子と目が合った。
あ、どうも……なんて思っていると、その子が手を振っている。
周囲を見渡しても私以外誰もいない。
「もしかして私?」とジェスチャーを送るとその子は嬉しそうに頷いた。
私に向かって手を振ってくれたとわかったので、私もできるだけ大きく手を振り返した。
そうしたら、その子だけでなく、こっちを見ていた別の子達も手を笑顔で振ってくれた。
バスはあっという間に行ってしまったので、手を振れた時間は多分10秒もない。でも、知らない子たちと言葉も交わさず楽しくなれて、とても嬉しかった。
彼女達が地元での修学旅行を楽しんでくれていたら嬉しいなぁ、なんて思いながら、私は学校へと歩いた。
夏が来ればこの短い時間を思い出して、今でも嬉しくなる。
あの子たち、今元気にしてるかな?
゚o。o゚o。o゚o。o゚o。o゚o。o゚o。o゚o。o゚o。o゚
お題「夏」
真っ青な空。空と地平の間に、もったりと重そうな白い雲がある。
空気がどろりと揺れて見える程に暑い外からは、割れんばかりの蝉の声の大合唱が聞こえてくる。割れんばかり、とは何を割るのだろう。私の鼓膜か。
何もかもが億劫で、床に寝転がる。フローリングに汗ばんだ肌が張り付く感触が気持ち悪いが、同時に少しだけひんやりとしているのはちょっと気持ちいい。
扇風機から送られてくる風は温かった。どれだけ風を強くしようと温いものは温い。ここまで来ればクーラーを入れるべきだとは思うが、あの人工的すぎる冷気は身体に障る。それで体調を崩す度に「君は夏風邪しか引かないね」と、彼が些か感心したように言うのがちょっと癇に触るのだ。誰が馬鹿だ。私は難しいことは考えられないのではなく、考えないのだ。あえてだ。
「ここではないどこかにいきたい」
ぽつりと呟いた言葉は、蝉の声やら何やらに掻き消された。
悔しかったので、今度はちょっと大きめな声ではきはきと言う。
私の叫びに、部屋の奥の方でアイスキャンディーを齧っている彼がちらりと視線をくれた。アイスずるい、私も食べたい。いや、自分の分はさっき食べ終わったのだった。
ごろりと寝返りを打つ。移動すると再びフローリングがひやりとした。気持ちがいいなとその冷たさに浸っていたけど、すぐに体温で温もる。新天地を目指し、再びごろりと寝返りを打つと、カチッと言う軽い音の後に、扇風機の風が追従してくる。何だろうと顔をあげると、彼が扇風機の首を、私の動きに合わせて動かしてくれていた。
ありがたいけども、君はそれで良いんだろうか。
「ここではないどこかって」
「なに」
君がアイスキャンディを再び齧って、咀嚼して飲み込んだあとに、ぽそりと呟く。
「永遠に行けない場所じゃないかって思うんだ」
「どうしたの」
少しだけ、自分の声に困惑が混じってしまった。あれか。先ほど言った『ここではないどこかにいきたい』に対する返答が今なのか。
彼は最後の一口を同じように食べたあとに木の棒を少し寂しそうに眺めて、ゴミ箱に捨てた。そして本腰を入れて喋り始める。
「『ここ』の定義と『どこか』の定義次第だとは思うんだけど」
「なにがはじまるの」
こわごわと上半身を起こして、彼を見る。何が君のスイッチを入れたのだろう。
「自分がいる場所を『ここ』、自分がいない場所を『どこか』と定義するならば」
「やだなにこわい」
頬を上気させて、楽しそうに話し始めた君がちょっと怖い。
「僕が『どこか』に移動してしまえば、その『どこか』は僕が行った時点で『ここ』になってしまわないかなって」
「熱暴走してる」
口から思わず洩れた。いつもと違って血色の良い肌は、たぶん熱中症的なあれだ。
頬に赤みが差しているのは君がこういう話を好きで、話せる機会が巡って来たからなのかと思ったけど違う。逆上せている。逆上せたせいで、ちょっとテンションが上がってしまっている。
「『どこか』を追い続けて移動し続けたって、僕がいるのはずっと『ここ』で、『どこか』には永遠に辿りつけないんじゃないかって」
「私にはそんなに難しいことは考えられない!」
そう叫ぶように言って立ち上がる。彼は自分の体調に無頓着だ。おそらく熱中症と、テンションの上昇による体温の上昇との判別がついてない。
慌てて扇風機を彼に向ける。熱気を含んだ風にか、最大風量の風圧にか、両方か。ちょっと不愉快そうに眉をしかめた。
「君、良くこれで我慢出来てたね」
それでいてなお、凄いねと、君は感心したように言う。いつもなら、どうだ凄いだろうとドヤ顔でもかましてやるが、それどころではない。
机の上に置いてあったエアコンのリモコンを手に取り、電源をいれる。すぐ手にとれる場所にリモコンがあったと言うことは暑さの限界だったのだと思う。私がクーラーを嫌がるので、我慢していたんだろう。君はそういう気の使い方をする。クーラーの電源を入れたら次はと、開け放たれた窓や扉を全て閉めていく。
どたばたと動き回る私を、君は呆気に取られたようなポカンとした顔をして眺めていた。そんなにか。私が働くのはそんなに珍しいか。
一言二言文句でも言ってやろうかな、という気持ちになったけど、この現状は私の我が儘を君が聞いてくれたが故に引き起こされた惨状なのはわかっていた。なので、何とか文句を噛み殺して、言う。
「理想の『どこか』なんかを探す前に、『ここ』を理想の場所にしよう」
彼はびっくりしたように目を見開いたけど、すぐに楽しそうに笑って「そうだね」と返事をしてくれた。
クーラーの恩恵によりどんどん下がっていく室温と、それに伴って冷たくなってくる風に、彼は心地よさそうにほっと息をついていた。良かった。まだ何とかなる段階だったみたい。
かくいう私の方は汗が冷えてどんどん体が冷えていく感覚に襲われ始めたので、上着を取りに自室へ向かうことにした。
ついでに帰り道に彼に麦茶でも入れて持ってきてやろうと思う。多分またびっくりしたような顔をするだろうから、その時に改めて、その反応への文句をつけよう。
6/27お題「ここではないどこか」とネタかぶりをしたので別視点。
【夏】
夏と聞いて思い出すのは子供の頃に田舎のおばあちゃん家に行った時にやっていた神社のお祭り。
僕はそこで不思議な体験をしたんだ。
その日は一緒に行くはずだった田舎の友達が熱で寝込んでしまい、家族たちもバタバタしていてお祭りに行きたいと言い出せる雰囲気じゃなかった。
でも家で過ごすのもなぁ…と1人お祭り会場へ向かった。
少ない小遣いでラムネといちご味のかき氷を買い、屋台がズラリと並ぶ通りから少し離れた神社の境内でゆっくり花火が始まるのを待つことにした。
境内は人がいない分とても涼しく快適だった。
階段に腰掛けてかき氷を食べようとした時、「美味しそう」と後ろから声が聞こえた。
振り向くと顔の半分を黒狐の面で覆った星柄の着物姿の男の子がいた。
「だ、誰?」
「お?ボクが見えるのかい?」
「えっ、普通に見えるけど…」
「ボクは『いろは』だよ!よろしくな少年!」
「あ、あぁ…よろしく…?」
「なぁなぁ、その手に持ってる赤くてキラキラした奴は何て食い物なんだ?」
「いちご味のかき氷だけど…半分食べる?」
「えっ!いいのか?!」
目をキラキラと輝かせ、僕からかき氷を受け取ると勢いよく頬張った。
「あっま!冷たくて美味しいな!」とニコニコと喜んで食べてるいろはに僕はついラムネもあげ、いろはは「シュワシュワで美味しい!」とゴクゴク喉を鳴らして飲み干した。
「そうだ!かき氷とラムネのお礼に良いモノ見せてやるよ!」
そう言ったいろはバッと立ち上がって境内で踊り出した。
その繊細でとても美しい踊りに僕は目を離すことができない。
「周り、見てろよ〜」
いろはに促され、周りを見渡すと境内の木々がポツポツと色んな色に染まり始めた。
桜のような桃色、夏の涼し気な緑色、温かみのある黄色や橙色、降り積もった雪のような白色。
この場所だけに四季をぎゅっと集めたような、幻想的な景色。
それに便乗するように花火が始まった。
「綺麗…」
僕は幻想的な景色と花火に見惚れてしまった。
花火が終わる頃、いろはの声が聞こえた。
「今日は楽しませて貰ったよ。また何処かで会おうな、少年!」
辺りを見渡すと、いろはは居なくなっていた。
呼んでも返事をすることは無かった。
後日、僕はまた会いたくて「いろは」について色々調べた。
すると、あの神社から少し離れた社に「イロハ狐」という狐の神様が祀っていることが分かった。
『イロハ狐』は『彩葉狐』と書き、木々を色付ける役目を持った神様。
子供と楽しいことが大好きで、姿は星柄の羽織を身に着けた黒狐と言われている。
もしかして「いろは」って…。
翌日、僕は「イロハ狐」が祀られているらしい社へと足を運んだ。
長い事手入れをされていないのか、随分汚くてボロい小さな社だった。
持ってきた掃除道具で社を綺麗にし、近くに落ちていた枝や板で補強。
少し不格好だが、さっきよりはマシだろうとラムネをお供えし、手を合わせた。
「また来るね」と社に背を向けて帰ろうとした時、「ありがとう、少年」と夏の風に乗っていろはの声が僕に届いた。
大人になった僕はこの田舎に引っ越し、あの社の近くに家を建てた。
社を綺麗にし、「イロハ狐」との思い出が消えないように守り続ける。
またいつか、いろはと再会するその日まで…。
夏
夏と冬は長きにわたり、この国の支配権をかけて争っている。
春と秋はもう随分前から戦線を離脱している-少なくとも表向きは。
従ってかつて「四季がある」と称されていたこの国は、
春:五パーセント
夏:四十五パーセント
秋:五パーセント
冬:四十五パーセント
くらいの割合で支配権が分散されている。
だがここに至って、二つの新勢力が台頭してきた。
この二つは「季節」そのものではない。だが夏と冬のそれぞれに食い込み、今はともに春を取り込もうとしている。
一つは梅雨であり、もう一つは花粉症である。
梅雨は雨の頻度ではなく、振り方のムラによって勢力を拡大している。まだ春のはずの季節に大雨が降ると、人々は梅雨が始まったと錯覚する。夏が完全な支配力を振るう時まで散発的に交通機関の乱れを引き起こし、人々のQOLを下げる、極めて危険な勢力である。
しかしわたしがより心配しているのはもう一つ、花粉症の方である。
スギとヒノキの力により、彼等はすでに春に浸透し、あたかも大昔から存在していたかのように振る舞っている。
だが私が確かな筋から得た情報によると、かの金太郎の故郷である神奈川県の足柄山あたりでは、たかだか半世紀近く前、スギ花粉症は「足柄病」と呼称されていたらしい(※アレルギーであることが分かっていなかった時代に、杉が大量に生えている彼の地へ行くと原因不明の鼻炎になる、として地元のごく一部の医師が使っていた表現。実際の病因と地名が無関係なのは言うまでもない)。
春はすでに彼奴等に乗っ取られている。唯一の救いは、私がまだこれらのアレルギーではないということだ。
私が今、一番憂慮しているのは、最近花粉症が秋にも魔手を伸ばしており、その尖兵が、私に有害なある植物なのではないかという情報である。
その恐るべき植物の名はブタクサである。
許すまじ。
夏が始まった。
僕は叫んだ。また君が来るんじゃないかと信じていたから。
「僕はここにいるよっ!ここだよ!!」
何度も吐いた言葉。そんな必死な叫びも街の話し声によってすぐにかき消された。夏になると騒がしくなる。周りも。僕も。それでも僕は何度も何度も繰り返す。
「君はどこにいるの?僕はここにいる!」
君と会った日を鮮明に思い出す。今日と同じような日差しが強い日、君が僕を見つけた。
表情を変えずに見つめていた君の姿は、とても綺麗で美しかったのをよく覚えている。
さらさらとした灰色の毛も見下すような橙色の瞳も全て僕の心をつかんだのだ。
声を交わしたのはたったの1回だった。たった一言だけでも聴けた君の声。君は僕を覚えていないかもしれないが僕は君を覚えてる。
せめて君の声だけでも聴けないかと僕は呼び続けた。
鳴き叫んで鳴きじゃくって鳴き続ける。
すると視界は傾き真っ逆さまに僕は落ちた。
「あ…」
情けない声と共に地面にぶつかる。片方の翅がちぎれる。空が見えた時、君の声が聴こえた。
「んぐる、にゃあ」
僕は嬉しくて君を目で探す。でも君はどこにもいなくて、視界を占領したのは青い瞳の猫だった。
僕は食べられてしまった。
#夏
私が生まれたこの季節は鬱陶しく
早く過ぎ去ってくれ、と願う
それでも
夏の終わりを感じさせる風が吹くと
なんともせつなく寂しい気持ちさえある
人も同じ
暑すぎたりうるさかったり
眩しすぎる人は
避けたくなる
それでも去って行くと寂しく
またどこかで会えたら、と思う
もし夏のように
また一年後会えたら
一瞬嬉しくも
すぐ避けたくなるのだろう
《夏》
夏祭り。
アイス。
風鈴。
スイカ割り。
花火。
海。
蚊取り線香。
かき氷。
暑さ。
扇風機。
その全てに、君がいた。
譬えばハンバーグの付け合せの野菜の様に。
当然にして、馴染んで、そこに君はいた。
だけど。
そこだけ。
たった100日の世界にだけだ。
毎日シャッターを切っても、100枚で尽きてしまう。
それっぽっちの時間に、景色に、君はいた。
「林檎飴って最後に買うものじゃないの、普通」
やっぱり硬いって、笑って。
「流石に直ぐ溶けちゃうね、美味しいけど」
早くないって、笑って。
「チリーンってこの音、涼やかで好きなんだよね」
わかるいいよねって、笑って。
「もうちょっと前かな、いや、後ろ……?」
下手じゃんって、笑って。
「この音って笛の音らしいよ、花火師さんの」
風情がないなあって、笑って。
「うわ、しょっぱい! 水、掛けないでよ」
仕返しだって、笑って。
「この線香の香り、なんだかんだ好きだよね」
落ち着くよねって、笑って。
「冷たっ! え、こんな味だったっけ、美味っ」
もう無いじゃんって、笑って。
「いや、外歩くだけで疲れるよ。家に篭ってたい」
疲れるよねって、笑って。
「ああぁ〜……ってする人いるけど、君もかよ」
嗚呼一緒だねって、笑って。
それで良かったのに。
君のいる景色が、日々が。
その世界だけが。
夏だった。
想い出になった世界が。
夏の、全てだった。
だけど。
「いい? 夏は、楽しむ季節だからね!」
向日葵が咲いたみたいな君の表情が。
「私がいない夏だって、楽しんでよ」
淋しそうに、惜しんで見えた君の表情が。
「約束! 絶対絶対の約束!」
それでも励まそうとしてくれる君の声が。
「夏は、私だけじゃないから。みんなと楽しんで!」
君との日々を、夏の総てにした。
全てじゃなくなったことを、君は笑って。
赦してくれるだろうか。
……褒めてくれるんだろうな。
完全に君とのものだった季節。
少し他のモノとの季節になって。
それでも、存在し続ける季節が。
——夏。
太陽が本気出してきた。
熱せられたアスファルトから透明で歪んだプロミネンス。地球は青いなんて言うけど、あまりに暑いので北半球は金属のように赤く伸びて広がっている。
太陽の周囲をリード繋がれた絶賛お散歩中の犬みたいにセッセと走り回るなよ、地球。
春とか秋くらいでじっとしててくれ。海とか、行かないから。
夏といえば青という価値観が定まったのはいつだろうか。
冬よりも空の色が濃い。
花と散った彼女に向けた恋。
夏という季節で叶わなかったこの恋は何よりも青臭いものであった。
まだ未熟で青い僕達は青い季節に青い思い出を創る。
だから夏は青色なのだ。
「夏」
枝豆、すいかにとうもろこし。
桃に冷奴に、かき氷。
夏ポテトにだって会えちゃう美味しい季節。
蒸し暑さの中でも貴方と一緒なら、そこはどんな所よりも心地良い場所だったのに
■夏
生ぬるい空気がまとわりつく
冷たい空気は有償で
暗い世界にそれはなく
パンっと弾ける光
散らす気 感嘆の声
夏
金盥に氷と水を張り、両足同時に突っ込むと
熱が一気に溶けていく。
「そんなに張り切らなくてもよくなぁい?…お疲れ様~」
太陽に缶ビールを掲げて乾杯。
#夏
泣いて生まれた分
笑って終われる
ように努力しよ
自分の努力次第
音が聞こえる
セミの鳴き声
草葉のざわめき
気化する打ち水
軽やかな風鈴
喚く室外機
賑やかな歓声
滴る汗
封切られたボトル
音が聞こえる
生命賛歌の音
命限りに叫ぶ音
あるいはこの季節を
超えられぬ音がする
‹夏›
家の扉を開けたら冒険の始まりで
魔王になって倒されたかと思ったら
王城で勇者の誉れを受けた
小さな隙間には四つ足の猫になって
伝説を確かめに空駆ける龍になる
穴に落ちたら学校の帰り道
一人の筈がナニカに追われ
車の下に隠れ逃げたら
オープンカーで海風を受けた
てんでバラバラめちゃくちゃで
怖くてびっくりすることもたくさんで
目を開けたら全部砂絵のスクリーン
脳味噌は現世をなんだと思ってるんだか
‹ここではないどこか›
サッカーをして服で汗を吹くきみの仕草
そんな姿も好きだから
ぼーっとしてるふりをしてずっとみてる
きみは気づいてるのかな
何を思ってるのかわからない
そのあと話しかけに行く
近めの距離で
そしてきみの匂いがわかる
きみの匂いはだれよりも好き
夏の汗の匂いも冬の柔軟剤の匂いも
今年も夏がきたんだろうな
ニヤニヤはならはりなひやなやらならはりなひやなやり
『夏』
嫌なほど蒸し暑い日の照りが、俺を蝕んでいく。
寒い冬が。暗い夜が。俺にはお似合いだ。
永遠と光に照らされ、生きていく自信が
俺にはない。