『向かい合わせ』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
空調の効いたホテルラウンジの片隅。目の前の大きな窓ガラスからは、和洋折衷に整った花壇が一面に広がっている。一歩外に出れば灼熱の太陽がギラギラ輝き、前代未聞の最高気温を叩き出しているはず。
暑くて疲労の抜けない体に鞭を打って、私は淡くくすみがかったミントグリーンのワンピースに身を包み、ラウンジのソファに腰掛けていた。それなりに上品に見えるバッグとパンプス、パールが光るアクセサリーも身につけて。
「にしても最近は暑くて仕方ないので、もっぱらダイビングへ出掛けています」
「へぇ、そうなんですか」
「学生の頃、夏はダイビング、冬はスノーボードをやる大人数のサークルに入ってまして。活動のついでにダイビングの資格を取っていたんですけど。こうして社会人になってから休日の趣味になるなんて思いもしませんでした」
「すごい、素敵です」
「ドライブも好きなんですよ。夏はあえて窓を開けて風を感じながら海沿いを走るのがいいんですよ」
暑いしベタベタになるから絶対嫌。
心の悪態がバレないように、ニッコリと効果音が聞こえてきそうなくらいに口角を上げる。弧を描くように意識して目尻を垂れさせて、いかにも癒し系な女性を演じた。
目の前に座る男は、婚活パーティーで知り合った男性に紹介された人だ。
「アクティブそうに見える君にはきっとお似合いだよ」
なんて臭いセリフを吐き捨てた彼が物凄く憎い。話が合わないってだけで嫌味ったらしく声を掛けてきたのだ。のらりくらりと躱そうとして挑発に乗ってしまい、結局目の前の男と会う羽目になったのだ。
私はカップを持ってため息と一緒にコーヒーを飲み込んだ。ホットにしてよかった。私の座る席は空調の風向きに少し当たっていて、思ったよりも肌寒い。何か上に羽織るものを持ってくればよかった。
「ドライブ、ダイビング、スノーボード。あとは何かな。ああ、ソロキャンプも初めてみたんだ。動画サイトを見て楽しそうだと思ってね。これがまた最高なんだ。やはり日頃ブルーライトを浴びっぱなしだろ? だから自然を感じる時間って大事なんだ」
「そうなんですか」
「キャンプはいいよ。今や女性も一人でキャンプする時代だから、挑戦しやすいと思うよ」
生きた祖母の遺言。
【山で怖いのは熊より人間】
いい加減口角が限界に達してきた。顔がピクピクするが何とか堪える。
正直に言うと、このお見合いみたいな今の時間が無駄すぎて飽きてきた。この男、自分の話ばかりで私に話すら振らない。ちょうど会話が途切れたタイミングで話し始めようとしたら、話の導入部分で主導権を握られてしまった。
挙句、人の話は聞かないのに自分の話は聞いていないと不機嫌になるのだ。まだ小学生の甥っ子の方が聞き分けいいんだけど。私もしかして幼児の保育任されましたか。給料もらってないんですけど。
きっと紹介してきたアイツも、この男を熟知しているから私に与えたのだ。挑発に乗ってしまった過去の自分を恨むしかない。
「お話し中失礼致します」
この男の口がなかなか止まらないところで、ラウンジのスタッフから声が掛かった。うやうやしくお辞儀をした彼女は、メニュー表を広げてこちらに見せてきた。もうラストオーダーの時間らしい。
私はカバンからスマホを取り出して、時刻を表示させる。
「もうそんな時間なんですね。あっという間でした」
「いやー、話し足りないね。延長とかって出来ないのかな?」
やめてくれ。ここはそういう店じゃない。
男に突然話を振られたスタッフは、困ったように微笑んだ。見るからにまだ二十代の若い女の子だ。彼女から見れば明らかに年上のオジサンに絡まれて、どう躱せば失礼に当たらないか、まだ線引きが難しいに違いない。
私は眉毛を下げて向かい側に座る男と目を合わせた。
「すみません。実は私、門限がございまして」
「えっ、そうなの? そっかあ、女性は年齢関係なくそういうのがあるんだね」
言っとくけどお前と干支一緒だからな。ひと回り下って意味で。
先程男の話に出てきた干支を思い出しながら脳内で毒吐く。言葉の端々がことごとく癪に障る男だ。この年齢になるまで独身だったことにもはや納得してしまった。
私の一言ですぐに会計をし、ホテルを出た。西の空に茜色の太陽が辛うじて見える。ねっとりとした湿度の高い空気が、冷え切っていた体を包み込む。今は暖かく感じるけど、この心地よさが十分としてもたないことを今年の夏は学んだ。
「駅まで送ろう」
そう言って男は駅とは反対の繁華街の方向へ足を向けた。あからさますぎて逆に笑える。
私は引き攣り気味の口角に力を入れて、何も気が付かないフリをした。
「私こちらなので。本日はありがとうございました」
浅く頭を下げて、笑顔で男を見上げる。彼は拍子抜けしたような表情を浮かべた。
「あっそうだ、連絡先」
「もう電車に乗らないと間に合わないので」
スマホを取り出してラインを開きかけた男を制した。もう連絡を取るつもりはない。
「それでは失礼致します」
私は男の言葉を待たずに駅の方へ歩き出した。特別引き留められることもなく、追いかけられることもない様子に、歩きながら安堵した。安心するとお腹がくうと鳴った。何だか無性に牛丼が食べたい。
私は駅の近くにある牛丼チェーン店へ向けて足を早めた。五時過ぎているし、夕飯はここで済ませよう。一人暮らしは気ままに帰宅できるから楽だ。
着飾るよりもTシャツとジョグパンツが好き。
アウトドアレジャーよりも屋内外問わずスポーツが好ましい。
ほとんど毎日ジムに通って体を動かす方が楽しい。
ラグジュアリーな空間より大衆向けの方が落ち着く。
高級品より身の丈にあった品を食べたいし身に付けたい。
私がこう言い出したら、あの男はラストオーダーなんて待たずして帰ったんだろうな。
『向かい合わせ』
向かい合わせのふたり。
姿は全く違うけれど、心の中のキラキラしたものは一緒だね。
一緒にいると何倍にも輝いていくふたり。
かけがえのない、ってこういう事を言うんだ。
向かい合わせ
『相席』と言う言葉がある。
「相席宜しいですか?」と店員さんに言われ僕は、それを言われ緊張する質なので
内心嫌なのだが断れない性分なので
上擦った声で、「はい」と言ってしまう
そうすると僕の向かいの席に
初対面の人間が座ると僕は、どうにも
落ち着かない せっかく来た食事も
緊張のせいか味がしない....
これで相席する人に連れがいて二対一なら
僕は、何とかひたすら空気の様に徹するのだが 何の因果か一対一になってしまった
場合 僕は、何となく沈黙に耐えられない
一人で席に座っている場合は、むしろその
静寂が心地良いのだがひとたび向かいに
全く面識がない初対面の人が座ると
空気が圧迫された様に感じてしまうのだ。
これは、初対面の人だからどういう人か
分からないから信用がない=怖いと言う事なのかもしれない
世の中には、初対面の人ともすぐ仲良くなれるフレンドリーの人もいるが
僕の場合は、知らない人が向かいにいるだけでものすごく圧を感じてしまう....ので
僕は、なるべく混んでいる店には、
入らないゆったりと静かな喫茶店を選び
そして念のための予防線として一人席に
空いていたら必ず座る様にしている。
人嫌いと思われるかもしれないが....
決してそんな事は、無く
ただただ緊張しいなのだ
内弁慶なのだ
初対面の人と仲良くなるのが苦手で
なおかつ遅いだけなのだ。
決して人嫌いなのではない....
それだけは分かって欲しいと僕は
切実に願うのだった....。
「あの…席、動かしてもいいですか」
新幹線の前の席から顔を覗かせた女性に、
「どうぞ」
とは言った。言ったけど。
向かい合わせにされるとは思わないじゃん。
リクライニングだと思うじゃん。
「ありがとうございます」
席を回転させ、笑顔で座る女性に今更断ることもできない。
10分後。
「えー同い年なんだ!」
「やっぱり。話合うと思ってたのよ」
「いつそんなタイミングがあったよ」
「もうなんか、後ろ振り向いた瞬間にさ。ビビッときたの」
「恋じゃん。運命じゃん」
結構、楽しかった。いや、楽しすぎた。
こういう出会いも悪くないね。
普通は引かれるから辞めましょう。
#向かい合わせ
「相席、いいですか」と尋ねながら、その男は座ってきた。私は少し目を上げて頷くと、そのまま本を読み進めた。
こうして向かい合わせになると、奇妙な緊張感が生まれる。
男は運ばれたコーヒーを啜りながら、辛うじて聞き取れる声で囁いた。
「ターゲットは情報通り、日課のランニングを始めている。コースもいつもと同じだ。その後は自宅に戻り、車で職場に向かう。チャンスは車に乗り込むまでだ。」「ガレージは」「外」「了解」
会話はそれだけ。私は本を少し読み進め、席を立った。男はゆっくりとコーヒーを啜っている。
ターゲットの自宅はカフェから5分ほどのところにある。カフェの前はランニングコースだ。
いた、あの男だ。派手なイエローのランニングウェアの男が私を追い抜いて走って行った。そっと後を追う。
家は分かっている。シャワーと着替えをする時間を見計らって家の前に着く。道路に面したガレージにライトブルーのスポーツカーが停まっていた。ちょうどその時、スーツ姿のターゲットが玄関から出てきた。運転席に近づき、乗り込もうとした男に声をかける。
「近藤尚臣さんですね。少しお話いいですか。あなた、出向先のTG社で顧客データを持ち出しましたね。」一息に畳み掛けると、男は驚愕した表情で固まった。「いえ、あなたを告発するつもりはないんですよ、そのデータを買い取らせていただこうかと。少し色をつけていただけると嬉しいんですが。」
キーを取り上げ、不安気な男を助手席に乗せ、私は車を走らせた。
「ど……どこへ……?」震えながら男が尋ねる。無理もない。
車は港へ向かい、寂れた倉庫へと向かっていった。
横になるふたり。
互いの顔は、互いで見える。
目線を上げると、唇が弧を描いていて。
思わず顔を逸らす。
くす、と微笑ましそうに笑う声が聞こえた。
じわりと耳に熱が集まる感じがする。
誤魔化すように、繋いだ手にぎゅっと力を入れる。
何年もいるのに、まだ慣れない。
自分の脈の音がうるさい。
距離が近づいたことは嬉しいけれど、
隣と、向かい合わせじゃ、
全く、違う。
──『向かい合わせ』(2040.08.25)
《向かい合わせ》
現実の私
いい子演じて
疲れ果て…
わかば(私)
━━━
《向かい合わせ》
裏のわたし
表の私には、言えません
あおば(わたし)
向かい合わせ
進撃の巨人✖️僕のヒーローアカデミア
エレンイェーガー✖️轟焦凍
コニー・スプリンガー✖️荼毘(轟燈矢)
ハンジ・ゾエ✖️スターアンドストライプ
少年ジーク✖️緑谷出久
ミケ・ザカリアス✖️オールマイト(八木俊典)
ガビ・ブラウン✖️麗日お茶子
ルー✖️飯田天や
(声優が同じ)
死柄木
『俺は、裏の主人公だぞ!』
焦凍
『エレンから招待されたから、俺が主役だ』
荼毘
『ハ?焦凍は、オレの弟。この俺は、焦凍の長男だ。
そして、コニースプリンガーから誘われた…
俺こそが主役だ!』
真夜中
たまに
目が覚めると
あなたと
向かい合わせで
寝ている時がある。
顔が
近過ぎて
ドキドキ。
そっと
あなたに
くっついて
もう1回
目を閉じる。
#向かい合わせ
向かい合わせ
病気で自分の死について説明された時
自分は今生きているのだと感じた
生と死は
表と裏なんて言われることもあるけれど
私は死と向き合うことで
自分の生に気づけたのだと思う
【向かい合わせ】
お人形とお人形を向かい合わせにしてお話をつくりましょう
向かい合わせは、対話。
向かい合わせは、対立。
向かい合わせは、対等。
だからぼくは、向かい合わせが苦手なんだな。
背中ばかり向けている。
他人と向かい合わせになるのはちょっぴり、緊張しちゃうね
でもあなたとならわたしは大丈夫
あなたと向かい合わせになってほんの少し目を閉じるわたし
滝のように流れゆく日常の中からキラキラだったり仄暗かったり、そんな無意識の感覚を掬いあげるわたし
嗚呼、とかく日々に流されがちな私たちだけど、心はちゃあんと細かく反応しているんだね
わたしはあなた あなたはわたし
自分と向かい合わせになれるのは自分だけ
彼女と僕が向かい合わせで立っていても
彼女は僕を見ない。
彼女には組みたい相手がいたから
僕でごめん
でも精一杯頑張るから
今だけは僕を見てなんて
僕はそう言う勇気もないから。
嬉しいはずなのに涙が出そうだよ
─────『向かい合わせ』
私は美容室が好き。
自分だけの時間 買うことのない女性誌を読めるし、好きな飲み物まで出してくれる。
けれど目の前にはバーンと大きくてピカピカでくもりひとつない鏡がある…
視力の悪い私でも「あ…眉毛が左右の描きかたがそろってなかった…頬紅の色
似合わなくなった… シミが…」
などなど現実を見る事ばかり。
じぶんの顔と向かい合うって残酷 🥺
向かい合わせた椅子に
たくさん人が座っているのに
その中の誰とも目が合わない
スマホを見るか目を閉じるか
向こうの景色をぼんやり見るか
たまに本を読んでいるか
こんなにたくさんの人がいるのに
誰もいないかのような
不思議な空間に今日も揺られる
君と僕は、恋人同士だ。
だから僕達はずっと向かい合わせだ
周りから見たら僕達は少し変かもしれない、だが僕達は心の底から愛してるんだ。
なぜって?そんなの決まってる、僕達は『 』なのだから。
『』の中には貴方達が好きなように入れてもらえると
グラスの氷が
溶けて消えた
仕草のひとつ
優しい嘘なら
私は要らない
隣に居たなら
知らないまま
さようならは
雨の日がいい
あのカフェで
窓際の特等席
『向かい合わせ』
向かい合わせ
向かい合わせになること。
急に目が合うと気まずい。
向かい合わせはたまに恥ずかしい。
『向かい合わせ』
いつも私と向かい合わせの職場のパソコン。
頑張って仕事をしろと私を駆り立てる。
でも、暇な時にこっそり仕事に関係ないサイトを見せてくれるのもこのパソコン。
そんな時はサボりの共犯者になってくれるんだ。
2限が終わって昼休み。
1年の時はまあ、友達と食堂で食べたりコンビニで買った昼飯を空き教室で食べてみたりしたけれど、2年になってからは案外つるんだりしないもんで。
いつも通り食堂へ向かい、財布と腹の減り具合とじっくり会議をして昼飯を買い、いつもの席に座る。
”関係者専用”と書かれたドアが近くにある奥の隅っこにある2人席。
ウォーターサーバーが近いのが利点で、ドアが割と頻繁に開くのが欠点。
人通りが多い席はみんな座りたがらないからいつでも空いている。
今日は親子丼にしてみた。
おばちゃん曰く、いつもより安いのは畜産科でニワトリが大量に卵を産んだからだそうだ。
だし巻き玉子やオムライスなどメニュー表が黄色いと思ったらそんなことになっていたとは。
ふと見ると畜産科であろう人達が何やら忙しそうにしているが、心理学科の俺には関係ないしただ有難いだけだ。
具と米が1:1になるよう調節しながら食べていると、何か見られているような気がした。
気のせいか誰か友達だと思って顔を上げると、
俺の目の前の席、越しの机のその先にその女(ひと)はいた。
一瞬こちらをチラと見た後、左手で下ろした髪を耳にかけ、ご飯を頬張った。
たった数秒の出来事がスローモーションに見えた。
顔がタイプだったとか昨日見た女優に似てるとか同じ親子丼を食べていたからだとかそういう理由じゃない。
いや、かなり多めの普通盛り食べるんだとか思ったけれど。
そういったのではなくて、なんというか、凄く綺麗だと思った。
月並みな表現しか出てこないが、少し汚れた食堂に似合わない星の瞬き(またたき)を俺は見たのだ。
『向かい合わせ』