『半袖』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
半袖。
白い半袖のTシャツ。
君によく似合う。
扇風機が踊る。
風鈴が歌う。
虫は…苦手。
日光がうるさくて、
とても綺麗な夏。
にしても暑過ぎにもほどがある。
「暑いねえ」
ぐでん、と寝そべった涼がシャツの裾をはためかせながら呟く。居間から廊下に向かって突き出した足も風を呼び込もうと揺らしており、万全の体制である。
じーゎ、じーっ、と蝉の合唱が空気を揺らす。
居間で宿題をしていた熱実はペンを置く。
叔父さんが置いていったオレンジジュースをズゴゴ、と吸い込み、首を傾げる。
「そんなに暑くないよ」
「えーっ。いや、それは嘘やわ。今30℃近いで」
「ほんとだよ。なんて言うのかなあ。気分が涼しいっていうか」
「気分じゃ乗り越えられない深刻さやって」
「ほら、風鈴がひっきりなしに鳴って、畳の香りも凄いじゃんか。暑いっちゃ暑いんだけどじっとりしてない」
涼は納得できない、というように真っ白な脚をばたつかせた。熱実は傾けた首を戻し、再度ストローを吸い込む。
あ。
ジュースが切れてしまった。
氷のとけた冷えた無味が喉を滑る。
沖縄の平屋は、日頃東京のマンションに住む熱実からすると異様なまでに広い。冷蔵庫に行くことすら一手間だ。
空のコップを二つ掴んで立ち上がる。
結露した水滴に掌が濡れた。
「すーちゃん、ジュースいる?」
「いるーっ。あ、待って、うちも一緒に行くわ。何があるんやっけ」
「えーとね、なんだったかなあ。オレンジと、ファンタと、牛乳かな」
「牛乳ってなんやそれ。みーちゃん、たまに天然さんでかわええわ」
涼はころころと笑った。
二人は従姉妹だった。
東京と大阪に住む二人が会うのは、沖縄の実家に帰省する夏休みと正月だけ。しかし、同い年で同性の二人は姉妹のように仲が良かった。
半袖
熱実からコップを受け取って、「おおきに」と歯を見せる涼に、内心、あんたこそかわいいよ、と言いたくなる。
シャキシャキ喋って、愛嬌たっぷり。
活動的なのに、肌は日焼けしていなくて、赤ちゃんみたいにもちもちだ。
風鈴のように軽やかな涼が羨ましかった。
「え、てか待って。みーちゃん長袖やん。ギャグ? 待って悔しい、自分のツッコミ遅かったわ」
「いや、これは別にギャグじゃ......。屋内だし、意外と涼しいんだよ」
ファンタを注いだ涼が、
手渡そうとしてギョッと目を見開いた。濃い紫色が暈をましていく様を眺めながら、どれくらいまで注ごうか少し思案する。
「嘘やろーっ。あ、でも、確かにみーちゃん汗ひとつかいとらんなあ。東京の美人は汗かけへんのかな」
「あはは。違うよ、そんな」
「うちなんか暑がりでさ、もー6月くらいからずっと半袖や」
「ふふ。いいじゃん、半袖似合うもん。私、かわいい夏服持ってなくてさ。それもあって春服でずるずるきちゃうの」
うん。
もう、限界まで入れてしまおう。
崖っぷち、表面張力一歩手前まで粘った熱実は満足して蓋を閉めた。冷蔵庫から一瞬漂った冷気にうっとりとする。
長袖で無理はしていないが、確かに少し暑い日ではある。
「あ!せや!」
「えっ?」
涼がパン!と手を叩いた。
驚いて少しジュースが零れてしまう。
やっぱり欲張りすぎたな、と思った。
涼はすぐに濡らした布巾を持ってきてくれた。
床にかがみこんで、額をつきあわせるような体勢で目を合わせる。
「ありがとう」
「ううん、うちこそ驚かせちゃってごめんな。っていうのも、ビッグな閃きがおりてきてんよ」
「閃き?」
よくある茶色の瞳を、こんな鮮やかに輝かせられるのは涼だけだろう。数秒、見蕩れる。
涼はもったいぶって溜めたあと、嬉しそうに発表した。
「ショッピングに行こう!」
「......、え!」
「そんでさあ、お互いに服を選ぶねん! なっ、いいやろ?」
「え、うん、いいね。楽しそう。だけど、どこで」
「それはだいじょーぶ。近くにイオンできとってんよ」
床を吹き終わって、立ち上がった涼が本当に嬉しそうに声を弾ませる。熱実はしゃがんだまま、涼を見つめる。
「嬉しいわあ。みーちゃん、いつものmiumiu系もかわええけど、ストリートとか、も似合いそうやなあって実は思っててんな。ふふふ、覚悟してな。今日はマネキンになってもらうで」
涼は二人分のコップを持って、くるりとターンする。
体幹が強い彼女のターンはブレがなく、驚くことにジュースの水面はほとんど揺らがなかった。
「みーちゃん?」
涼のシャツにプリントされた、「BBQ!」と叫ぶ、カートゥーンポップなダックス犬が熱実を見つめ返す。
そのまま、自分の、ブランド名だけが入ったオフショルにちらりと視線を移す。
自分があの服を着ているイメージをしてみる。
正直、あんまり似合っていない。
滑稽ですらある。
「......うん」
しかし、やはり悪くない気もした。
少し口元を緩める。
熱実は立ち上がって、コップを受け取ろうと手を伸ばす。
「すーちゃんこそ、覚悟してよね」
にやりと笑い返して挑発する。
涼は呆気にとられたままコップを奪われる。
ぱちぱちと瞬いて、少し頬を染めた。
「や、.....美人さんに口説かれてもた。白い歯が眩しいわあ」
二人の手の中で、炭酸が楽しそうに弾けていた。
半袖はあの人の白い肌が見えるから好き
普段は黒の服ばかりだけど、白い腕に血管が映える
好き
"半袖"
朝の比較的涼しい時間帯に出勤して、日が沈んでから帰宅するからなぁ。
職場は有難いことに冷房が効いているし。
まだ長袖で大丈夫。
まだ、というか、去年もそんなこんなで結局ずっと長袖だったな……。
暑いとは思うんだけど、だから半袖にしようとは思わないんだよね。
まぁ夏冬で服の素材は変えるけど。
半袖と言えば夏。
今年もまたこの季節がやってきた。子供の頃は、夏といえば楽しいものだったが、この歳になると辛い。ただ冷たいビールは最高。
話が脱線したが、半袖がなければ夏は過ごせない。
半袖
外は、呆れるほど、
明るい陽射しに照らされて。
空は何処までも蒼く、
緑は眩しい程に輝いて。
太陽の陽射しが苦手なボクは、
カーテンを閉じて、
部屋に閉じ籠もる。
だけど。
薄暗い部屋の中で、
大人しくしていても、
お腹は空く。
夏の陽射しから、
ずっと逃げていることは、
出来ないんだ。
ゆるゆると、
半袖のシャツの上から、
長袖の上着を羽織る。
容赦無く照りつける、
暴力的な夏の陽射しから、
肌を護る為に。
残酷で無遠慮な、
人の視線から、
身を護る為に。
長袖を纏い、
強い陽射しに照らされ、
明るい街を、
足早に通り抜けていく。
夏は…。
ボクを何処まで苦しめれば、
気が済むんだろう。
「半袖」
俺が見るのは性格
顔が良くても黙ってるだけのやつは好まない
顔が悪くたって太っていたって
笑顔でいるやつ大好きだ
だから勘違いしないで欲しい
お前は可愛いとは思う
でも話しかけもしないで
嫌われてるかもとか
話しかけて貰えないとか
贅沢言わないで欲しい
こっちは色んなやつに話しかけたら
女たらしって言われて
話しかけなかったら
嫌われてると言われる
自分隠してるやつより
さらけ出してるやつの方が
好かれるに決まってるよね
頑張れ
君が半袖の季節になった。
焼けた肌をさらした君は、いつの間にか髪も短く刈り上げ、どこか遠くの先を見ている。
君が見るその先に私はいるのかな?
ねえ、なぜ私は君を追うのだろう。
きっと、君が眼差しで、私を心配そうに、やさしく労わるからだね。
夏の日差しを避けた、テレビの明かりだけが光る部屋で、今日も君の帰りを待つ。
袖を切る
切り落とした腕にまとった 袖はひかりを広げて
見失ったからだを探して 黄土色の川面をわたり
とこにいけば温もりにたどり着くのか
うかぶ木の葉の赤さと しずむハンカチは微熱の夜の
あなたの胸もとに覗いた とおい日の残照
蕗の筒を覗くように
すぼまった袖さきに目をあてると
温もりのかたまりだけが 色もなく
輪郭をにじませて
あなただったころの匂いだけが 明るんで
目の前をはらはらと
今年はじめてのぼたん雪のように
片袖の ひかり千切れて
あのとおい声のように この指をすり抜けてゆく
日々が終わったことで、はじめて
その日々に意味を与えたくなった。
日記
最近入った子猫を先住猫がSECOMしててかわいい
子猫がウロチョロしてると背後からずっと先住猫が眺めてる
【半袖】
やわらかな風に
腕をさらす季節が来た
胸の奥でまだ終われない
あの日の気持ちも
そっと熱に溶けていく
笑顔の中に隠した
小さな決意は
袖の短さと同じくらい
軽やかで、確かなものだった
変われないままでも
変わってゆけることも
私はこの夏に
半袖の君
君はいつも半袖を着てる
暑い日でも寒い日でも
冬でも半袖を着る君に
「寒くないの?」
と聞いてみる
「寒いよ」
と君は言う
「でも、長袖は肌がチクチクするから嫌なんだ」
「そうなんだ」
と私は言って
「痛いのは嫌だね」
と続ける
私には心地よい布の感触を
そんな風に感じる人もいるんだ
「足は平気なの?」
履いてるスボンを見ながら聞いてみる
「うん、足は大丈夫」
場所によっても違うのか
君が感じてることをら
君の世界を
もっと知りたいな
そんなことを思った帰り道
大きな大会の決勝戦。
ウォームアップウェアのファスナーを下ろした彼女の肩のラインが確かになる。
少し短めの袖丈のユニフォームが、体育館の空気に触れた。
その瞬間、彼女の中で俺の存在はかき消される。
剥き出しの闘争心を孕んだ瑠璃色の瞳は、いつにも増して強くきらめいていた。
薄い唇が傲慢に弧を描く。
キツく結ばれた小さなポニーテールは自信に満ち満ちていた。
緊迫した空気のなか、体育館に主審の淡々としたコールが響き渡る。
シャトルの乾いた音が静かに放たれた瞬間、彼女の乱舞が始まった。
着々と進んだ決勝戦は彼女の惜敗。
落胆した空気のなか、大会の幕が下りた。
ユニフォームの短い袖口で、彼女は静かに汗を拭う。
コート半分の温度差に彼女はなにを思ったのか。
ユニフォームの上からウェアを羽織り、照明と自身の汗で照らされていた白い腕が隠される。
まだ引かない熱を瞳に宿したまま、彼女は感情を表に出さずに体育館を去った。
*
数日後。
大会やその他諸々の予定をこなし終えた彼女が帰宅した。
玄関先にカバンを置き、ウェアを脱いでいく。
中に着ていた使い古され襟ぐりがたわんだ黒い半袖シャツは、袖口もよれていた。
「……次は勝つから」
開口一番のその力強い言葉に、うなずくほかない。
「はい。期待しています」
「これ、捨てといて」
黒いシャツを恥ずかしげもなくたくし上げたあと、小さく丸めて俺に手渡す。
彼女は遠征に向かうとき、試合に負けるまで同じシャツを着続けていた。
ルーティンを明確にしない彼女の数少ないゲン担ぎのひとつである。
「わかりました」
背中側の裾も糸がほつれかかっていたため、ちょうどいい機会となりそうだ。
「捨てる前に嗅いでいいですか」
「今日は負けたからダメ」
……負けないと捨ててくれないくせに。
こんなにヨレヨレボロボロになった彼女のシャツを、なにもせずに捨てろというのか。
なんて、冗談を言う雰囲気でもないため必死に我慢した。
「お風呂してくる」
「すぐ入れます、けど。その前に言うことがあるでしょう?」
青銀の柔らかな横髪に触れると、彼女は目を見開いた。
数秒、言葉なく見つめ合ったあと、ふわっと穏やかな光を宿す。
「……ただいま……」
「おかえりなさい。お疲れさまでした」
緩く結ばれたポニーテールを、丁寧に解きながら尋ねる。
「抱きしめても?」
「負けたからヤダ」
は?
彼女のいない生活を2週間も耐えたのに?
「今、慰められると負け犬になっちゃう」
そんなおかしな理屈があってたまるか。
敗者を労うことのなにが悪い。
言い返したいが、彼女は俺の口を挟む隙間も与えずに言葉を続けた。
「負けた私をシャワーで洗い流してリセットしてくるから、ちょっと待ってて」
「待ったらいいんですか?」
改めて聞かれて急に照れくさくなったのか、彼女の頬がポポポッと赤く染まっていく。
「…………う、ん……」
少しずつスイッチが切れていく彼女を目の当たりにして、ゴキュ、と喉が鳴った。
どうしよう。
ハグとキスだけで止まれる気がしない。
「あ、あと、明日、新しいシャツ買いに行くから。そのつもりでいてくれるとうれしい」
「!」
顔にでも出ていたのか、取り繕うように彼女は会話を逸らした。
だが、今度は俺のほうが取り乱す。
「かわいいの、買いましょうね!? ショッピングモールハシゴしましょう!!」
「はあっ!?」
「いつものシックでシンプルなデザインもとてもよく似合っていますけど、たまにはピンクでヒラヒラしたヤツとかどうですか?」
「どうですか? じゃねえよ。Tシャツ買いに行くだけだってば!」
そうと決まれば、彼女には早く風呂に行ってもらわないと。
おかえりなさいのギューとチューもまだなのだ。
彼女の背後に回り込んで、細い肩をがっしりと掴む。
「ふふ。楽しみですね?」
「ちょ、ちょおっ!? 聞けって!?」
そのままぐいぐいと彼女を押して、脱衣所につめ込んだのだった。
『半袖』
苦手なのは衣替え
年々億劫になる
冬物から夏物へ
夏物から冬物へ
たったこれだけのことが
なかなか始められないし
終わらない
半袖と長袖が混在した引き出しを眺めている内
今日も一日が終わった
たぶんこのまま夏も終わる気がしてる
#半袖
『半袖』
この時期は目移り
⋯⋯正直すぎ?
でもそう思う
街を行き交う人達の夏コーデ
半袖⋯⋯そう、
男性陣の腕や血管!
そして女性陣の眼福具合!!
とにかく
―――眼福である
私自身もちょっと好き
肌を見せるのは苦手だけど
彼氏が出来てからというのも
たまにちょっと⋯頑張っちゃう
自慢じゃないけど⋯
彼いわく、
私のスタイルも好きらしい
だから喜んで欲しくで
なんかちょっと⋯頑張っちゃう
彼が喜んでくれるならと
この前のお出かけで選んだ服を着ていく
今日のコーデもいい感じ
だけど途中で彼が、
自分の持ってた上着を
私に着せてくる
? なんで?
特に寒くないけど⋯
「⋯⋯あんま周りに見せたくない」
好きな人に
嫉妬されるのが嬉しい
って、友達が言ってたけど⋯
それが初めてわかった気がする
―――私は、
半袖の彼の腕に
ぎゅっとしがみついて上げた
今年は夏より私たち
暑くなってやるから
〜シロツメ ナナシ〜
217
近年の君は長袖を着ることが多かった。
日焼けしたくない、なんてお年頃を言って。
なのに明るいレースの窓辺で
手足晒して転寝する君を
馬鹿だなあと思うけど。
その光景があんまりに、
あんまりに眩しいものだから、
未だに何も言えないでいる。
‹半袖›
もしも話は好きじゃない、と
そんな事は分かりきっていて尚
暇だから、なんて雑に投げた話題を
顔顰めながらも地味に真面目に考えて
口開く寸前にテストや賭け事は辞めてねと
言えば案の定また唇が捏ねられる
ふらつく視線が天を床を、
そうして背後に焦点が合って
ならば一つ、と取ってつけたように言う
その先に告げられる言葉を、きっと正確に知っていた
‹もしも過去へと行けるなら›
【18**〜】
月明かり藪のなか
幼く細いふたつの影
交わすゆびきりに込めた
か弱き約束
世は厳しくとも
捨てきれぬよ
非情を忘れ願うは
夜空輝く那由多の石へ
幾度も見た十番通り
お前さんを連れ
歩みよるハイカラの町
回るかざぐるまの前に座り
目を細めて笑う
暑い夏の日
初めて浮かんだ恋のうた
黎明の時を超え魂よ
叶わぬとも永遠に願うぞ
袖触れ合うも他生の縁
いくつ触れすれ違うも
幾人のなか見つけ
必ずその手をつかむ
わずかな記憶のなか
確かに残るか弱き約束
永い時が愛を募らせ
惹かれ再び繋ぐ
切れることのない
透明な糸に心を宿す
赤く温かなふたつの影
ね、知ってた?
あの日、何度も何度も忘れたフリして集合場所と時間を聞いたのは、君が好きだったからだよ。
「団長っていっつもその格好だよね。」
オレは隣で歩いている白い燕尾服の男に言う。
「そうですね。これ以外に服ないんですよ。」
ニコッとこちらを見る。年齢に見合わない幼い笑顔は今日も健在だ。
「え?まじ??」
「はい。」
…これは本当なのか?それともちゃんと嘘か?この人は本気も冗談も同じ口調で言うのでわかりずらい。
「なんで?買わないの?お金ないの?俺たちの上司のくせに????」
「お金ならありますよ。ただ必要がないだけです。この服がいちばんしっくりくるんですよ。ほら、あなたも制服ばかり着ていると私服選びが億劫になるでしょ?」
「確かに…」
これはガチのやつらしい。
「団長」と呼んでいる彼はオレが所属するヒーロー事務所の「キーパー」。簡単に言うと上司だ。彼は団長という呼び名らしく、初めて会った時からサーカスの団長みたいな服を着ている。
今日は団長に誘われて買い物に付き合っている。と言ってもお店に入って見るだけで何も買いやしない。手ぶらで店を出る時の申し訳なさや怪しさ満点さを感じているのはオレだけのようだ。
「歩き続けると疲れるものですね。そうだ。いつものカフェに行きましょう。」
気分が乗ったのか軽くスキップをしてオレの前を歩く。オレに拒否権ないようだ。
「気まぐれだなーうちの団長は。結局なんも買ってないし。」
つい愚痴っぽく言ってしまう。まあ鈍感な人なので良いだろう。
なんて思っていると前の長髪男はスキップをやめて振り返る。嫌に綺麗な碧眼と目が合う。
「買い物はあなたを誘うための言い訳です。今日の本命はネタ探しですよ。おかげでまた色んなとこを知れました。ありがとうございますね。」
団長はニコニコというオノマトペが似合う顔をする。何も買っていないのにやけに満足げなのはそういうことか。ついでにオレを誘えば色々説明してくれるだろうとか思ったのだろう。
ネタ探しというのは彼の劇団の台本のとこだろう。団長は劇団の長でもあり、オレ達ヒーローのキーパーでもある。本人曰く、劇団が本業でキーパーは副業らしい。逆にする気はないようだ。
「団長って外国人だっけ?外国にも服屋とか花屋とかあるでしょ。」
「はい。ありますが、私の故郷にあった店とは全く違います。この国は本当に豊かですね。」
心からそう思っているのだろう。しみじみとした顔をしている。
「団長がこっち来たのって何年前?日本語普通にうまいよね。カタコト微塵もないし。」
「2年前の冬でした。こっちに来る前から言語だけは勉強させられていたので喋れますね。ちなみに副団長とダイスケもですよ。」
再び2人で並んで歩く。
足は無意識にカフェの方へと進んでいる。
「オレ副団長に未だにあったことないんだけど。」
「彼は多忙ですからね。台本作りに会計処理、ヒーロー事務所の運営などなど。やることがいっぱいです。彼、仕事人間なんですよ。」
呆れて苦笑しているがヒーロー事務所の運営はあなたの仕事では??と心でツッコんで言わない。
まぁ、上司がこれだ。副団長は仕事人間にならざるを得なかったのだろう。会ったことがなければ顔も知らない副団長の苦労がこちら伝わってくる。
「ダイスケさんもヒーローのくせにぶっきらぼうだよね。知ってる?事務所で最初に帰るのはダイスケさんなんだよ?」
「彼は昔からそうですから。安心してください根はちゃんとヒーローです。私が保証しましょう。」
その保証、信用できないな。昔からそうだと言われてもな。
ん?てか待てよ?
「ダイスケさん外国人??」
「はい。先ほどもそう言いましたが。」
「ダイスケって名前のくせに??」
「……」
団長の歩調が早くなる。こいつ、何か隠してる。
「そうだ!彼、こっちに来た時に名前を変えたんですよ。」
「帰化したってこと?名前変えるのめんどくさい手続きだって正華が言ってたけど。」
早歩きが駆け足に変わる。
「あー!間違えました。向こうにいた時からダイスケでしたよ。親が日本に憧れがあったとかでその名前にしたんだとか。ところでなんですか帰化って。」
こいつまじか。
「てか、団長たちの故郷ってどこの国?顔立ちからしてヨーロッパらへん?」
オレは無視をして質問を投げる。団長は秘密が多くオレたちもよく知らないことが多い。だが、そのせいで定期的にボロが出てこういうことになる。そんな時は構わず質問攻めにするのが効果的だ。
「私の質問に答えてください!帰化とはなんですか!!ちなみに私の故郷はフランスとかです!!」
質問に答えてくれるのか。律儀なところは評価しよう。というか「とかです」とか言わなければ信じたのに。
もしかしなくてもオレより馬鹿か?
駆け足はスピードを増し、追いかけっこが始まった。
現役ヒーローに勝てると思ってるのかこの男。
オレはすぐに追いついて襟を掴む。なんか高そうなのでシワがつかないように謎に気をつけた。
「はぁ、はぁ、」
「んで?本当は?ダイスケさんの名前の謎は?団長たちの故郷の国は??」
容赦なく追い詰める。日頃の恨みだ。子供と言われても構わない。オレはまだ高校生だ。
「個人情報ですよ!!ハヤト君!!」
「団長のとこは聞いたけどダイスケさんのことを言い始めたのはお前だ。オレはそれで疑問を持って聞いているだけ。」
うっ…と決まりが悪そうな顔を浮かべる。
この人余裕がないと表情管理がなってないな。
「はぁ、、出したくなかったですか背に腹はかえられません。ハヤト君!!これを見なさい!!」
団長は内ポケットから何か出したかと思うとそれをオレに見せつけてきた。
「……!!?!」
オレは驚きのあまり声を出すのを忘れた。無理もない。なぜなら団長が出してきたのが、
某有名ヒーローの招待チケットだったのだから。
オレは小さい頃からヒーローが大好きだ。大好きじゃこの熱は伝わらないかも知れない。そうだな、オレの体はヒーロー愛で出来ていると自信をもって言えるほどにはヒーローが好きだ。愛している。憧れている。熱が増しすぎてオレもそれになってしまったほどだからな。
そんなメイドインヒーローのオレが昔から好きな特撮ヒーローの周年記念イベントを知らないわけがない。応募はもちろんした。倍率が高すぎるのでお願いして親のアカウントでも応募をした。だが抽選というのは残酷だ。オレがチケットを手に取る瞬間は来なかった。
それなのに。なんで。此奴がもっている。オレより古参のファンだったのか??それはそれで腹が立つ。
「知り合いの伝手でもらったんですよ。今日のお礼にあなたに渡そうと思ってたんですが。気が変わりそうです。」
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる。
こいつ。大人気ない。大人気なさすぎる。
だか侮られては困る。オレはペーペーでも、端くれでもヒーローだ。悪手に屈することなどあってはいけない。そう。たとえ目の前にあるのがヒーローショーのチケットだとしても。
たとえ、あの全人生の運を賭けても欲しいと思ったチケットでも。
たとえ、オレの青春の集大成でも。
「………。」
「欲しいですか?ハヤト君?」
「………」
そういえば、高校生は大人になるための大事な時期だと担任が言っていた。つまりオレはまだ子供で、目の前の卑しいやつは大人気ない人間。つまり子供。ここから分かるのは、大人になった方の勝ちということだ。
まぁしょうがない。ここは大人になるのがオレの成長のためだ。
「さっきのことは無かったことにしますよ。団長。」
オレは爽やかな笑顔を見せる。大丈夫だ。団長の秘密なんてこれからいくらでも聞ける。
「流石ハヤト君。大人ですね。大人な君には今日のお礼にこれをどうぞ。」
そういうと、団長はオレの手に紙切れを乗せた。手にした瞬間、目を閉じたくなるほどの光がチケットから溢れ出した気がした。なんてことない印刷紙。だけどオレにとって紙幣よりも重く、価値のあるもの。きっと、オレのこれからの生き甲斐となる宝物。口角が上がるのをやめられない。
なるほど、悪者はこうやって増えていくのか。オレは今、違う意味で大人になってしまったのかもしれない。ごめんなさい。先生。
顔を上げると目の前の男は相変わらずニヤニヤしていた。これもこの男の計画のうちだったのだろうか。
…いや、考えるのはやめておこう。
「カフェも奢ってくださいね。」
オレはやられっぱなしで終わらない。言っただろう。ペーペーでも、端くれでもヒーローだ。
「はぁ、しょうがないですねぇ。」
なんてやりとりをして、再び歩を進めるとすぐカフェに着いた。
今日は何を頼もう。何を頼んでもきっといつもより美味しく感じるはずだ。