『七夕』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「こんな紙切れ一枚で願いが叶うなんて、そんな都合の良い事がある訳無いよなあ」
薄水色の短冊を指先で摘み、ひらひらと揺らしながら隣の男は言った。彼は己の友人であるが、些か……否、かなりリアリストな所がある。歯に衣着せず夢も欠片も無い発言ばかりするので、己以外に友人と呼べる者は居ないし、勿論恋仲と云った者も居ない。何故此奴と友人などやれているのかと良く聞かれるが、己自身も他人に大して興味を持てない人間なので、と言える訳も無く。其の度にはは、と適当な笑いをもって誤魔化していた。
「まァ……短冊を書く様な人間は、其れが叶うと思って書くんじゃあ無いと思うがね」
「なら、なんだ。神様に願掛けする様なもんか?」
「と云うより、言霊が如きものかなァ」
「言霊ってえと、あれかい。口に出したもんが現実になるとか、そういう」
「そんなもんさね。唯、書いたからと云って其の儘叶う訳じゃあ無い。書く事で自分の中の願いを形にすると云うか……其れ迄漠然としていた目標への道筋をはっきりさせると云うか」
「詰まる所、此れに書いたから叶える為に頑張ろうだとか思うって事かい?」
「そうそう。流石に願いが降って湧いた様に叶うとは、誰も端から思ってはいないさ」
ふうん、と、納得したのか興味が無くなったのか、気の抜けた反応をしてから、彼は短冊を机の上に戻した。淡い黄色、桃色、若草色。様々な色の其れ等は、町の子供達が七夕祭で笹に飾る為に用意された物で。己達は祭にさしたる興味も無いが、手伝いに駆り出されていた。短冊に只管穴を開け、吊り下げる為の紐を通す、内職が如き作業を今の今迄していて、飽いた時分に始まった会話が先程のものである。
「そんなら、俺はこう書くかね。御前より早く死にませんように」
腕を組んでじいと短冊を見詰めていた彼が、徐に口を開いてそう言った。己は多分、妖怪でも見た様な顔をしただろう。此の男の口からそんな言葉が出て来るとは思わなかったから。予想より遥かに、己は此奴に好かれていたらしい。
「なに、己は弱っちいから……屹度御前の方が長生きだろうさ」
「ははは、其れもそうか! まァ精々呑み過ぎで死なん様に気を付けるとしよう」
からからと笑って、彼はまた短冊に穴を開け始める。己なら、何と書くだろうか。穴を開けて寄越された其れに紐を通しながら、ぼんやりと考えた。
「まあ、いわゆる遠距離恋愛ってやつだよね。それで、うまくやっていけるのか心配になった?」
「…ん。」
「…そっかー。…でもそれって、そう考えるくらいにおれのこと大好きってことだよね!」
「っ…!」
一年前の今日、2022年7月7日にそう会話したっきり、彼と会ったことはない。
今、彼はどうしているのかな。
もしかして私のこと忘れちゃったかな。
彼は私のことを今でも好きなのかな。
今日は7月7日、七夕の日。織姫様と彦星様が年に一度だけ会える、特別な日だ。
私は、なんとなく、なんとなく、あの日彼と最後に話した場所へと向かった。
もしかしたら、もしかしたらいるかもしれない。そんな淡い思いに期待して、走った。
「…いない」
分かり切った結果だ。いや、頭では分かっていたのに、体が勝手に動いた。
「…ばかみたいだな、わたし」
私は微かに笑った。
_2023.7.7「七夕」
#16【七夕】
いっつも天気が悪い!
全っ然、見えない!
むぅ。
空を睨んだところで
どうしようもないのだけれど
ただでさえ星の少ない場所だから
こんな日ぐらい観たいじゃないか。
最近は夜に出歩くこともなくなったから
めっきり夜空を見上げることがなくなった。
月の満ち欠けにも鈍感になって
今、どんな形をしているかもわからない。
だから、今夜くらいは
ベランダから眺めたかった。
星空、観たかったのに。
毎年のように
「今年こそ!去年のリベンジだ!」って
言っている気がする。
2023年 7月7日、雨。
「ずいぶん妙なイベントね。細い緑の木に何吊るしてるの?」
七夕イベントの手伝いに駆り出され、俗な願い事を書いた短冊を吊るし、役目を終えた自分に話しかけるものが居た。
「いや竹だし短冊――誰?」
知らない子だった。少し古風の服を着たきれいな子だった。
「あーえーと……姫とでも呼んで」
織姫かな? と馬鹿なことを考えた。
「あなた暇してるよね。遊びたいの。案内してくれない?」
ここは、田舎だし遊べる場所なんてほとんどなかったから、周辺を散策するだけだった。
けれど姫のコロコロ変わる表情を見てるだけで楽しかった。
「ねぇ、これなに?」
「ポストだよ」
「ねぇ、これは?」
「神社の鳥居」
少々常識がない気がする。外国の子なのか、想像もつかないくらいお嬢様なのか? ――惚れてしまってよいのだろうか?
辺りは暗くなってきた。姫の表情が憂いを帯びた。少し歩かない? そう言って自分を先導し始めた。
だいぶ歩いた。この先は何もないはずだ。
「そっちには何も――」
妙な物体が鎮座していた。飛行機と船と車を掛け合わせたようなフォルム。しかし先進的な乗り物であることがはっきりとわかった。
「――――ナニコレ」
「星を行き来出来る乗り物よ。今日はあなたに聞いてばかりだったけどやっと教えることが出来たわ」
姫はきれいな顔で泣いて笑っていた。
「もう帰らなきゃ」
そういって宇宙船に乗り込もうとする。声は出なかったが腕を掴むことが出来た。
姫はこちらを振り向き、顔を近づけた。――頬にあたたかなぬくもりを感じた。思わず手を離す。
「じゃあね」
呆然としてる間に乗り込み、船があっという間に光の粒子となって消えていった。
辺りは真っ暗になり静寂に包まれた。白昼夢を見てた気がする。けれど頬にぬくもりが残っていた。
短冊に書いた『素敵な出会いがありますように』という願いは叶えられた。
――出会いだけで終わらせたくない。
頬を撫でながら空に輝く星々と姫に思いを馳せた。
[七夕]
願い事
よくばりそうだが
平和にした
昔の願い事。母の写真見たら、スーパーのお願い事に、天才。天才になりますように、ではなく、天才。願い事叶ったみたい
今日は七夕。そして、私の大切な人の誕生日その人とは会ったこともないし話したこともない。
母のお腹から生まれてくるはずだった私のきょうだいの誕生日。
会うことはできなかったけどきっとどこかで見守ってくれているよね?
…どこかで会える日を願う。
七夕
願い事は何らかの上達を。
織姫のように
機織りうまくなりますように。
願いを聞いてくれるのは神様なのか
誰かもわからないのに。
人間は勝手だね。
それでも短冊に書かれた願い事が
少しでも叶うといいね。
心の中にある願いを
言葉にして、文字にして、書くことで
もうすでに
1歩踏み出しているのだから。
とある日の休み時間のこと。
もぐもぐとご飯を咀嚼している私の前で、友達が何やら細長い紙に文字を書いている。
「何してんの?」
「願いごと書いてんの」
あぁそういえば、今日は七夕か。と黒板の日付を見て思い出す。高校生になって縁遠いものになり、すっかり忘れていた。
……にしても書くのが早くないか?
「早くないとだめなの」
私の問いにそう答えて、友達はにっこり笑う。
「どうして?」
「願い事ね『織姫と彦星が会えますように』って書いたんだ。だってほら、一年に一回しか会えないのに、ダメだったら可哀想じゃん?」
ちらりと窓を見やると、お世辞にも晴れとは言えない微妙な天気だった。
「晴れるといいなぁ」
友達が笑うのにつられて私も笑う。
きらきらとした天の川のような、純粋な友達の瞳が、私は好きだ。
そんな友達の側に、いつまでも居たいと私は願った。
「 七夕 」No.15
『彼氏ができますように』
『〇〇くんに会えますように』
などが短冊に書かれる。七夕は、様々な人の願いがたくさん書かれるイベント。
私は、『自由になれますように』と短冊に書いた。きっと叶わないかもしれないけれど、今日だけは期待してみたい。
[七夕]
今日、校外学習で上野·浅草に行ってきました。
私はどこに行くときも事前にしっかり調べて
行かないと、心配なタイプです。
寝るのも0時すぎ、起きるのも5時。
朝、眠くて電車に乗れるか不安だったけど、無事
乗れました!
浅草寺にて、おみくじを引いたところ、まさかの
【大吉】!
すごく思い出に残る校外学習になりました。
これも七夕のおかげかな〜
一年に一度の七夕。
今年は残念ながら見られず。
二人の密やかな逢瀬を雨空の下から祝う夜。
俺には、人には言えない特殊能力がある。他の人には見えないものが見えるのだ。
例えば、幽霊や妖怪などといったもの。
本日は七夕。雨雲があるが、今の段階ではまだ星が少し見え隠れしている。
俺は、見てしまった。
「彦星さま! 会いたかったわ!」
「織姫どの! 今宵は楽しみましょうぞ!」
「愛しています、彦星さま……!」
「私も愛しく君を思うぞ、織姫どの……!」
俺は、七夕が嫌いだ。
他の人は、彦星と織姫が会えればいいね、などと言うが、これを毎年、夜空を見上げると見せられる身にもなってくれ。
雲に隠れると、声も遠退く。雨が降れば、声もかき消される。
早く雨が降ってくれないかな。俺はそう願った。
瞬く天の川のその先で、二人の愛の劇場が始まりをむかえていた。
【七夕】
#七夕
今年も天気は曇り。
毎年毎年、七夕の日は曇ってばかり。
天の川なんてもう何年、いや何十年と見ていないかもしれない。
まあ、今日の主役2人は1年に1度しか会えないのだから、今日くらいは我慢しようか。
今日という日もあと僅か。
最後まで楽しめよ、織姫と彦星。
僕の七夕の願い事は、君と話すこと。
君とは授業以外話したことないからさ。
君は毎日忙しそうで、僕なんかが話しかけてもいいのかは分からない。
だけど、自分の子持ちに嘘はつきたくないからさ。
「あ、あのっ、!!」
「なにかしら?」
「時間がある時、図書館で勉強教えてくださいっ!」
「…いいわよ。連絡取り合いたいからスマホを貸してくださる?」
「え、あ、はい!!」
「はい、どうぞ?」
「あ、ありがとうございます!!」
君と連絡先を交換した日から、毎日連絡を取りあっているよね。
君は僕のメッセージに既読をつけるのが早くて、返信も早い。
僕の連絡を待ち遠しく待っているのかな…なんてね。
今度、二人とも休みの日があったから、図書館で勉強会をするんだ。
夏休みに入って一週間。
夏祭りが近づいてきた。
たくさん話すようになって一ヶ月しか経つ。
夏祭りの日、僕は君に告白をするんだ。
君はなんて言ってくれるかな。
82テーマ【七夕】
『七夕』 No.99
「あなたは何をお願いするの?」
それは、近所の夏祭りのことだった。
七夕にちなんで高々と掲げられた笹に、薄紅色の短冊を掛けていたら、となりの小さな女の子に聞かれたのだ。
だから、引っかけた短冊を小さな女の子のおでこまで下げて、
「志望校に受かりますように」という目標を、近くでみせてあげた。
女の子はたいそう喜んで、
「がんばってね」とだけいって、走り去った。
もう一度短冊をかけ直すと同時に気づいたが、勝手に見るのはなんだか申し訳ないから、見るのは避けた。
となりの、女の子の灰色の短冊を、みるのは。
私は笹に背を向け、友達の方に駆けていった。
下駄をカランコロンと鳴らして。
ちょうど後ろでは、女の子の短冊が爽やかに揺らいでいた。
─地球戦略が、我々の勝利にオワリマスヨウニ
七夕
今年は短冊を飾ってみた。
少しでも願いが叶いますように。との願望と、
こうなったらいいな。の願望と、
思い出を親しみながらの願望と、
色々あるけど、ふと思い浮かんだことを行動に移してみたかっただけ。
ただそれだけ。
冷たく暗い中のこの家を少しでも明るくしたいのかもしれない。
歪んだところを修正したいのかもしれない。
そう思っただけ。
思っただけの話。
「あ。 七夕だ。 だから キミに出会えたんだ」
0時を過ぎた時 あなたが言った。
お互いの連絡手段を無くしてしまった私たち。
確かに 再会は奇跡。
それを そんな風に表現してくれたのが
たまらなく嬉しくて
たまらなく愛おしい
#七夕
「__ベガと、アルタイルだよ」
「__ユナは夢がないなぁ、もう。そんな堅苦しい呼び方じゃなくて、彦星様と、織姫様だよ」
私は、事実を言っているだけなのに、いとこにそれを否定される。
夢がないのは、どっちの方だ。
「…どっからどうみても、ただの一等星なんだけどな。昔の人はどうやってその逸話を作ったんだか」
「まあまあ、そんなきつく言わないの」
私の夢の無さを肯定するいとこは私を慰める仕草をする。
「…また、会えないんでしょ」
それは、ベガとアルタイルの逸話の登場人物に言ったのではない。いとこと私に、言ったのだ。
それは毎年のことなので、語尾に疑問符がつくことはない。
「…うん。ごめん」
「……不思議。七夕しか会えないなんてさ」
「………彦星様と、織姫様みたいだね」
「…………ベガとアルタイルだってば」
沈黙が増えていく。
やがて、沈黙はその場を支配した。
それよりも、私が言った、星の呼び方を完全に無視して、逸話の呼び方をするいとこに、悔しさを覚える。
きっと、涙がでているのも、そのせいだ。
七夕
七夕の夜
祖母は
「今日は七夕だね〜 おじいちゃんに会いたいわ〜」
と死んだ祖父を想う
笹に吊るされた祖母の短冊を見ると
「健康で長生きできますように、、、」
おばあちゃん、本当はまだまだおじいちゃんに会う気ないでしょ〜
長生きしてね
七夕
小学生の妹が何やら短冊にお願い事を書くのをためらっている。
妹曰く、「1年ぶりに再会できた織姫と彦星が、私達の願い事を一つ一つ聞いていたら、二人がお話する時間が無くなっちゃう」らしい。
それを聞いた私達家族は一家全員で、短冊にこう書いた。
〚織姫と彦星が今日一日だけでも沢山お話しできますように〛