蒼星 創

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「ずいぶん妙なイベントね。細い緑の木に何吊るしてるの?」
 七夕イベントの手伝いに駆り出され、俗な願い事を書いた短冊を吊るし、役目を終えた自分に話しかけるものが居た。
「いや竹だし短冊――誰?」
 知らない子だった。少し古風の服を着たきれいな子だった。
「あーえーと……姫とでも呼んで」
 織姫かな? と馬鹿なことを考えた。
「あなた暇してるよね。遊びたいの。案内してくれない?」

 
 ここは、田舎だし遊べる場所なんてほとんどなかったから、周辺を散策するだけだった。
 けれど姫のコロコロ変わる表情を見てるだけで楽しかった。
「ねぇ、これなに?」
「ポストだよ」
「ねぇ、これは?」
「神社の鳥居」
 少々常識がない気がする。外国の子なのか、想像もつかないくらいお嬢様なのか? ――惚れてしまってよいのだろうか?


 辺りは暗くなってきた。姫の表情が憂いを帯びた。少し歩かない? そう言って自分を先導し始めた。
 
 だいぶ歩いた。この先は何もないはずだ。
「そっちには何も――」
 妙な物体が鎮座していた。飛行機と船と車を掛け合わせたようなフォルム。しかし先進的な乗り物であることがはっきりとわかった。
「――――ナニコレ」
「星を行き来出来る乗り物よ。今日はあなたに聞いてばかりだったけどやっと教えることが出来たわ」
 姫はきれいな顔で泣いて笑っていた。
 
「もう帰らなきゃ」
 そういって宇宙船に乗り込もうとする。声は出なかったが腕を掴むことが出来た。
 姫はこちらを振り向き、顔を近づけた。――頬にあたたかなぬくもりを感じた。思わず手を離す。
「じゃあね」
 呆然としてる間に乗り込み、船があっという間に光の粒子となって消えていった。
 辺りは真っ暗になり静寂に包まれた。白昼夢を見てた気がする。けれど頬にぬくもりが残っていた。

 短冊に書いた『素敵な出会いがありますように』という願いは叶えられた。
 ――出会いだけで終わらせたくない。
 頬を撫でながら空に輝く星々と姫に思いを馳せた。
 
 [七夕]

7/7/2023, 12:01:47 PM