『ハッピーエンド』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
『ハッピーエンド』
お姫様は大好きな王子様と結婚して幸せに暮らしました。
物語の結末はいつも決まってハッピーエンド。
だから、両親から蝶よ花よと大切に育てられた私も大好きな人と結婚して幸せに暮らせると、ずっと思っていた。
結婚して最初の一年は絵に描いたような幸せな生活だった。
ニ年目に入ってからは両家から「早く子供を作れ」と囃し立てられて、妊活を始めた。
頑張っているのに成果が出てこない四年目、気づけは友達はみんなママになっていた。久しぶりに集まってもお産はどこの病院だったとか、離乳食を食べてくれないとか、夜泣きがしんどくて眠れないとか……共感出来そうで出来ない話題ばかりで肩身が狭い思いが募った。
結婚して五年目、旦那は結婚記念日を忘れて飲み会に参加した。義実家に帰省すれば、子供も産めない出来損ないと陰口を言われたり、面と向かって嫌味を言われることが増えた。
そのことを旦那に相談しても「早く孫の顔がみたくて、思わず口に出しただけだろう」と適当なことを言い、じゃあ妊活にもっと協力してよと提案すれば「仕事で疲れているから」と先に寝てしまう。
夫婦で共働きして家事をしているんだから、私だって疲れているんだよ? ねぇ……フルタイムで働いて、買い物袋を携えて満員電車に揺られて、帰宅後に家事を全部やってそれでもなおセックス出来るくらい女は体力が有り余っているとでも思っているの?
高い不妊治療費を払って運良く子宝に恵まれた八年目、可愛い女の子を産んだ。義母が喜んでくれたのは一瞬で、すぐに「跡継ぎの男児を産めない役立たず」と文句を言われる。三代前からサラリーマンの家系のはずなのに、跡継ぎとかって時代遅れも甚だしいと思った。
娘が三歳になった頃、旦那の浮気が発覚した。相手は私の親友だった。
本当は離婚したかったけど、義両親に泣き付かれて渋々許すことにした。あまりにも悔しかったからキッパリと二人目を作る気は無いと宣言した。
以来、義母は掌を返したように娘を可愛がるようになった。旦那も本気で反省したのか以前より家事育児に協力してくれるようになった。
だけど何年経っても忘れられない。
義母からネチネチと悪口を言われたこと、親友と旦那が獣みたいなセックスをしてたのを見てしまったこと。
祖母と父親の役割が無ければ今すぐにでも殺してやりたい恨みつらみを奥底に隠して、娘の成長だけを楽しみにして生きている……。
――なんてことを幼い頃から母は壊れたレコードのように繰り返し私に話す。
彼氏が結婚の挨拶に来てからは、母は酷く不安に感じているようだ。自分の二の舞いにならないかを。
父方の祖母に結婚することを伝えると涙を流して喜んでくれ、私の花嫁姿を見たら死んでも悔いはないとまで言ってくれた。
大丈夫だよ。お母さん、おばあちゃん。
私だって幸せになれることをずっと考えているんだから。
結婚式当日の朝、しっかり朝食を食べて薬を飲む。
お互いのスケジュール的に前撮り撮影する余裕が無く、朝から式の準備と撮影に追われていた。
あっという間にチャペルへの入場。
父の手を取って、真っ白で素敵なタキシードに身を包んだ彼のもとへ一歩一歩噛み締めて向かう。
神様の前で永遠の愛を誓い合ってキスをし親戚や友人達からのフラワーシャワーを浴びる。
なんて幸せな光景……。両親との思い出や友達と笑いあった思い出、彼と過ごした日々が走馬灯のように脳内をよぎった。
退場前に振り返って一礼した後、私はキスをせがんだ。
彼は驚いて少し照れながらもう一度キスをしてくれた。
その直後、私はゴフッと血を吐いた。彼の真っ白な胸元が真っ赤に染まる。
なんていいタイミング。朝飲んだ毒がようやく効いたんだわ。
ねぇ、彼くん。私知ってるのよ、貴方が私の親友と浮気してること。
浮気の証拠写真と遺書を、私と貴方と親友の実家と職場に明日着くように発送しておいたからね? この後の修羅場展開が見れなくて残念だけど、お母さんから恨みつらみはきっちり晴らしなさいって反面教師的に教わったの。
ああ……おばあちゃん、お母さん、そんな青ざめた表情しないで。
みんなから祝福されて幸せ絶頂のなかで死ねるのよ。
とっても素敵なハッピーエンドでしょ?
テーマ『ハッピーエンド』
続きすぎた幸せは、ただの日常になる
ずっと幸せなんて、あり得ない
幸せは、道端で小石を拾うようなもの
小石を見つけられる目を養えば、きっと
いろんな幸せを断続的に、ちょこちょこ拾えるようになる
それがきっと、『ハッピーライフ』
死ぬときにありがとうって言えれば、きっと『ハッピーエンド』
……なんじゃないかなと、今は思っている
ハッピーエンドの書き方
叩いていたキーボードに額をぶつけて目が覚めた。
前方の時計を見上げると、既に朝の4時を指していた。
パソコンの画面を睨みつけて、物語を呪う。
何度書き直しても、ハッピーエンドにならない物語。
「これじゃダメです」
記憶の中の三橋さんが言う。
三橋さんは目鼻立ちのハッキリした美形で口調も丁寧、姿勢も常にバチッと決まった敏腕編集者なのだが、締切が迫ってくると、その眼差しは冷たく尖る。
今日もメッタ刺しを食らってきたところだ。
「やる気あんのけ、ワレェ!」
記憶の中の三橋さんは両足をテーブルの上で組んで、下にズラしたサングラスの上部からこちらを睨む。
両頬に入れたドーベルマンのタトゥーもこちらを睨んでいる。
まるでケルベロスだ。
力士の腕くらいあるぶっとい葉巻を、手元のブランデーで消化しながら、三橋さんはテーブルの原稿を蹴飛ばした。
「ええかおんどれ!明日中や!明日中に原稿耳揃えて持って来い!できんようやったら、分かっとんな?おどれの親族7代前まで遡って、全ての内臓メルカリで叩き売りしたるけえの!?」
「申し訳ありません。明日には必ず、必ず完成させますので」
ファミレスの床に五体を投地し、知らない子どもが零したメロンソーダを舐めながら、僕が言う。
三橋さんは小さく鼻を鳴らし、僕の側頭部にヒールで蹴りをくれて、去っていった。
僕は間抜けに鳴り響いた入店音を聞きながら、書くしかないと決意を固めた。
それが昨日の昼過ぎの出来事。
現在は朝の4時なので、僕に残された時間は残り20時間。
くっそ、今のうたた寝で2時間ロスした。
生命を削るエナジードリンク・ドーピングと、身に纏わる枷を全て外すアンリミテッド・ネイキッドの併用で、どうにか物語は結末へ向けて爆走し、残すはラストシーンのみとなった。
だけれど、結末だけがさっきから動かない。
ハッピーエンドに向かわせようとする僕の手を払い除け、物語はバッドエンドに向かっていく。
初めて物語を紡いだのは、中二の冬。
病的な清潔さを誇る白いシーツが、暴力的に見える。
ベッドに座る妹の命を繋ぐための管に縛られた気分のまま、丸椅子のキャスターを意味もなく前後に転がす。
必死に頭を回転させるが、言葉は出てこない。
妹は本を読んでいた。
まだ小学校に通えていない彼女が退屈しないようにと、沢山親が本を買ってきた。
ほとんどは絵本や児童書。
その中の「マッチ売りの少女」を胸に抱えて、彼女は泣いていた。
そうだ現実だけには飽き足らず、童話すらハッピーエンドとは限らないのだ。
だけれど、あんまり酷ではないか。
こんなに容赦のない現実に、既に散々苦しめられている彼女にこんな結末は。
僕は口を開いたが、喉の奥からは何も出てこない。
僕は彼女に何をしてあげられる?
「由香、聞いてよ。その話、続きがあるんだ」
思いつきにしても、バカバカしいものだった。
まさか続きを捏造して、無理やりハッピーエンドを作ろうだなんて。
だけど、由香はキョトンとした顔付きになって、落涙は落ち着いた。
すかさず、僕は話を続ける。
引きつけるように、目の前で起こったことを語るように。
まずは幸せな朝の風景。
暖かで満ち足りた家庭。
柔らかいベッドに眠る少女を優しく揺さぶる。
目を覚ましたのは、マッチ売りの少女。
由香の表情が驚きに変わる。
僕は堂々とした表情で続きを語る。
マッチ売りの少女は親切な家庭に拾われた。
ずっと娘が欲しかったのだと、優しい笑顔で夫婦は語る。
夫婦と少女のありふれた日々。
何かが起こるわけではないけど、抱きしめるような日々を描いた。
マッチ売りの少女は成長して、同じ職場の同僚と結婚する。
そうして、暖かい家庭を築き、何でもない生活を送る。
あの日マッチの力で見たほど豪華ではないけれど、それでももっと価値のある生活を。
時代は変わり、火を灯す時はライターを使うようになっていた。
マッチはなくても大丈夫。
ここは愛しいもので溢れてる。
ここまで話して、由香を見た。
涙はもうそこにはなかった。
由香は僕の方をじっと見て、言った。
「それから、それからどうなるの?」
「ここから先は……まだ知らないや」
頭をフル回転させてここまで話を紡いだけど、それ以上は何も思いつかなくなって、僕は苦笑いで誤魔化す
「えー、続き気になるのに」
膨れる妹は残念そうだった。
僕は読み終えたであろう絵本の山を指さす。
「あ、でもその本の続きなら知ってるかもな」
「え?どれ?」
「人魚姫」
「これも続きあるの?」
「そこにあるお話は全部続きがあるんだ。もちろん由香がまだ読んでいない話も」
「聞きたい!」
「もちろん、いくらでも話してあげる。ただ、今日はもう時間みたいだから、続きはまた明日」
「えー!」
不服そうな由香の頭にポンと触れる。
ゼリーを食べ追えるのを待って、僕は家に帰った。
その日から、僕はあらゆる童話の続きを書くことに夢中になった。
授業中だろうと、家だろうと構わず書いた。
バッドエンドも説教めいた話も、いらない。
全部僕がハッピーエンドにしてやるから。
そうして、僕が殴り書いたノートを病室に持っていく。
そこには父が待っていて、由香はベッドにいなかった。
バサリとノートが床に落ちた。
それから、僕は学校も休んで、由香との思い出を書いていた。
一緒に遊んだこと、誕生日のこと、初めてお兄ちゃんと呼ばれたこと。
そしていつしか、過ごせなかった未来を書くようになった。
ひたすら書いていた。
物語の中の妹はもうおばあちゃんになっていた。
変わらず幸せな様子だったけど、この先を考えて、妹の話が書けなくなった。
親にはほとんど見放されていた。
最低限の会話と食事の提供。
それだけでもありがたかった。
物語を応募したら、賞がもらえた。
編集者を名乗る美人が引っ越したアパートに来て、本を出版できることになった。
ドラゴンのいる世界を、兄妹が冒険する話だった。
世界は未知のものに溢れており、もちろん困難も沢山あるけれど、二人で乗り越えていく。
そして、とびきりのハッピーエンドを迎えて、連載は終わった。
色んな人に読んでもらえて、嬉しかった。
そうして、次の連載が始まった。
連載は5年続き、迎えるクライマックス。
僕は一向に書けなくなった。
何度も刊行を延ばして、1年が経った。
キーボードを叩く度震える手を見て、自分が物語の終了を恐れているのだと気がついた。
だけど、いつまでもこうしているわけにはいかない。
終わらせないと、いけないんだ。
バチバチとキーボードを殴る指先に熱い感触が落ちた。
嗚咽を漏らしながら、ひたすら書く。
書かないと、書かないと、書かないと、書かないと。
生活が、お金が、評価が、存在価値が。
マッチの火が消えるように、フッと。
妹がいなくなったように、フッと。
消えてしまうような気がしていた。
だけど、いくら書いても、物語はハッピーエンドにならない。
これじゃあ、ダメだ。
見放される。
見放されて、路上に捨てられて、僕は、僕は。
ブツリとテレビが消えるように、意識が消えた。
そこは昔の家だった。
誰かが名前を呼んでいる。
見れば、妹がそこにいた。
僕の中学校の制服を着ている。
しばらく僕が唖然としていると、妹は僕の頭に触れてドアを出ていった。
声をかけようとするが、言葉は出ない。
追いかけようとするが、体は動かない。
ただ掌の感触だけが残っていた。
目覚めると頬にキーボードが押し付けられていた。
時計を見ると11時になっていた。
頭を降って意識を戻す。
頭はかなりスッキリしていた。
大事なものを取り戻したような感触があった。
僕は改めてキーボードに向かう。
キーボードを殴っていた数刻前の自分を見て、思う。
ハッピーエンドの書き方は、そうじゃない。
柔らかく頭を撫でるように、優しく抱きしめるように。
願いを込めて書くんだ。
迷いながら、不器用に進んでいく物語を眺めて、僕は息を吸った。
手はもう震えていなかった。
「人生の主役はあなた」
この言葉は結構好き!
私の人生もハッピーエンドで幕を閉じたいな……なんてね
ハッピーエンド。
そんなのは人による。
自分がハッピーエンドだと思ったならそれは
ハッピーエンド。
周りになんて言われようが間違いなくそれは
ハッピーエンド。
世の中そんなものだよね。
結局は自分の信じ方なんだよ。
幸せな結末というのはそもそも、その前に不幸な状態があるわけで
そういう意味では、僕にはハッピーエンドなんてない
僕には優しくて利発な君がそばにいてくれるから
彼の部屋に置いている私ものモノは炭酸水だけだった。
お互いの関係に名前はない。
たまに仕事帰りに彼の家に来ては、歩いて8分の家に朝方帰るという日々をずるずる続けていた。
彼の事がすきだった。一緒にいたかった。
彼からの連絡が来ると世界で一番幸せなのは私だと思えた。
私物を置いて行っていいなんて、もう会えなくなりそうで聞けなかった。
温かさを求めベットに潜り込もうとした時、マクラの横に固い金属の塊を見つけた。手に取ってみると見た事のない髪留めだった。もちろん私のものではない。
手の先から冷えて行くのを感じた。
わかっていたの。なんとなく。
でも決定的なモノが無かったから。
翌朝、おはようと起きた彼に向かって笑顔で金属のモノを投げつけた。
「もう来ないよ」
そのまま玄関をでて、自分の家を目指す。
最近で一番晴れやかな気持ちだった
歩きながら彼の連絡先を消去し、賃貸情報の検索を開始した。
これは私にとってハッピーエンドだ。
@ハッピーエンド
あたしと君と
手を繋いで歩き出す。
ハッピーエンドからのハッピースタート。
もっともっと、
ずっとずっと
君と一緒にいきたい。
私とあの人と、
繋がることすら無かった手。
歩き出すことすら無かった足。
バッドエンド、ただそれきり。
もっともっと
ずっとずっと
幸せな終わりを願ってたのに。
「ハッピーエンド」
ハッピーエンド
私の周りの好きな人たちがハッピーエンドなら、私も嬉しいし幸せ
他人の事より自分の幸せ考えなさいとよく言われるけど、自分の事は本当に鈍感で1番分からない
私のハッピーエンドって何なんだろう…?
お題『ハッピーエンド』
私が暮らしているのは海に浮かぶ島。
とても穏やかな海に浮かぶ島。
嫁いできて数年が経過している。
私は人がたくさん行き交う都会が苦手なため田舎に嫁いできて良かったなぁと思う。
だが、周りに知人はいない。
もちろん友人もいない。
寂しいなと感じる時もあるけれど、今一緒に暮らしている家族が心の拠り所。
実家は隣県のためすぐに行ける距離ではない。
たまにホームシックになる場合もある。
そう思うとまだまだ私は子どもだなぁと感じる。
いつになれば大人になれるのだろうか。
きっと大人にはなりきれずにこのまま生きていくのかもしれない。
そんなことをたまに想いながら過ごしている。
旦那とは「桜の咲く頃」に出会った。
そういえば昨日、近場ではあるけれどささやかなお花見に連れて行ってもらいました。
「桜が散る前」で良かった。
来年も一緒に桜が見れたらいいな。
ハッピーエンド
「焱はね。幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし、ハッピーエンド…ってのが大の苦手なの。だって、大抵のお話は一難去ったあとの幸せの絶頂で物語を締めているのだけど、どう考えたってそこで終わりなわけが無いわよね?まだまだ沢山困難苦難その他もろもろが押し寄せてくるはずよ。この世はそう優しく出来てはいないもの。困難を乗り越え続けることを人生と呼ぶのよ。だからね、すもも。お前と焱のお話だってこれで終わりってわけじゃないの。ここからが本番、むしろ本編よ。分かってる?ハッピーエンドではなくてハッピーto be continuedってわけ」
浅葱と焱の魔女へ、急に思いついて揃いの指輪を買ってきた李は、指輪を見た途端そう流れるように言う焱の魔女に目を瞬かせた。
「あー…っと?わりぃ指輪やだった?」
「嫌だなんで言ってないでしょう?!今が幸せの絶頂って話をしたのに聞いてなかったのかしらこのすももは。まあ焱に指輪を送るなんてシチュエーション、緊張しない方がおかしいわよね。仕方のないすもも」
ぷりぷりと怒った風を見せながら、李に向かって差し出した左手を早くつけろとばかりにプラプラと揺らす。
「あ、あー…そういう?あんたの言葉は一々遠回しなんだよなぁ」
「ふん。お前はそんな焱が良いんでしょ。物好きな子」
最愛の手で、迷いなく薬指へと嵌められたそれを見ながら。
焱の魔女はくふ、と堪えきれない笑みを零した。
みんなが幸せになって終わる物語はあるのだろうか。
主人公もモブも、悪役も、みんなが幸せになる物語。そんなものはないだろう。
人それぞれに理想があって、幸せの定義がみんな違う。だったら、不可能だろう。
みんな一緒の方へ向かって走って行けるのなら、
全員が幸せになるだろうがバラバラだと、必ずどこかに、不幸の落とし穴がある。
それぞれの考えがあるから、不幸なことは起こるし、不平等なことが起きる。
今もどこかで、不幸に合ってる人がいて、私みたいに変わらない日々を過ごしている人がいる。
不幸なことは、私にもあるし、死にたいと思うこともある。
でも…他の人に比べたら、対したことないのだろう。
時折寂しくなると夢を見るのだ。彼と初めて出会った時の記憶が思い起こされる、そんな夢を。
「へぇ、俺は覚えてないけどなぁ」
「お前は長生きだからそりゃね」
夢、というより出会った頃の話をすると決まって彼はそう言う。僕も毎度同じ言葉を彼に投げ掛ける。彼が寄り掛かる小窓の外はすっかり暗くなっていた。夜はあまり好きではないのだが、彼のいっそ気味の悪い程青白い肌は夜によく映える。
昔の話をする事を彼は嫌った。殆どを覚えていないからだ。人でないが故に死ねない彼は長い時を過ごしすぎて過去の思い出など闇に葬り去られてしまったらしい。だけど僕は何度も何度もその話をする。
嫌がらせのつもりではない。覚えていて欲しいだけだ。彼にとって呪いになってしまうだろう事は分かっていても。
季節が巡れば僕は死ぬが、彼は幾度季節が巡っても、季節という概念さえなくなってしまっても死なない。
彼はその間に、僕よりも大切な人を見つけるだろう。彼の事だから僕が死んで数十年は引き摺るだろうが、それも彼の人生の内では些細なものだ。それを咎める気も起きないし、咎めた所でそれは自然の摂理なのだから。
でもせめて欠片でも良いから覚えていて欲しい。記憶の片隅に僕を住まわせて欲しい。それはきっと望み過ぎなんて事はない筈だ。だって僕が彼を大切に思う以上に、彼は僕を大切に思っている。
それを彼に言ったら間違いなく嫌な顔をされた後、口を聞いてくれなくなるけど。
僕は知ってる。彼は置いていかれる事をめっぽう嫌う。
けれど僕は置いていく。記憶で彼を縛り付ける。
彼が何度泣いて叫んでもその道は変わらない。
彼にハッピーエンドを渡せるくらい力があれば良かったと何度も願ったけれど、エンディングは変わらない。僕は死んで彼は生きる。可哀想な彼。可哀想で愛おしくて、大切な彼。
傲慢な僕でごめんね。
呆れ返る程長い時の流れの一瞬を、僕といてくれてありがとう。
#ハッピーエンド
スポットライトに大歓声
私は今、舞台に立っている
そう
私の舞台だ
客席からは拍手喝采
あぁ
もっと もっと
まだまだ終わらない
私の終劇(フィナーレ)は
こんなものではない
さぁ 演(み)せてあげよう
私だけの完璧な終劇(ハッピーエンド)を!
『ハッピーエンド』より
物語は必ずしもハッピーエンドで終わっていた
だから私は子供の時は必ずしもハッピーエンドで過ごせる
と思っていたでも人生は辛いことがほとんで嬉しいことなんて辛いことに比べたら嬉しいことの方が多いのかもしれない。
ハッピーエンドなんてひと握りなんだろうなと成長するにつれて大人に近づくに連れて思い知らされる。
お題[ハッピーエンド]
No.13
胸に刃が突き立てられた。
わたしを必ず仕留めんとする、討伐隊員の必死の形相——これが最期の景色となるのだ。
これで、これで良かったのだ。
世に厄災をばら撒くことで、
その原因たるわたしへ目が向けられた。
そして、分かりやすい悪性存在を前に、人々は団結した。
手を差し伸べ合い、今を乗り切り、奴を討てば必ず救われると。
未だ啀み合う人はあれど、それでも以前よりは良くなった。
だから、これで良かったのだ。
これで世は、良い方向へ向かうだろう。
心残りなのは、その世界の行末を、この眼で見ることが叶わないことだけだ。
————————
ハッピーエンド
どこかでみんな、自分を主人公だと思っている
人生とは自分を中心に回っているのであって
だから君の目に映るのは
私だけ
当たり前のハッピーエンドだと思ってた
でも君は
あの人のことが好きなんだってきいてはじめて
僕が中心じゃなかったと知った
ハッピーエンドは
君のために
あったんだね
《ハッピーエンド》
#8
本当にハッピーエンドなのか
判断するため、八百万の神々に集まってもらい
判断してもらう委員会を設立しました。
「ずっと前から好きでした」
「私も」
神々「うーん…ハッピー!!!」
ハッピーエンド
この世界では私がヒロイン。
可愛い顔に綺麗な髪周りから好かれる性格。
そしてイケメンな幼馴染。
こんな設定ヒロイン以外にありえない。
私の幸せな未来は保証された。
はずなのに、
あの子が転校してきてから変わった。
彼の隣の席になって彼と仲良くなって、
いつの間にか彼の隣にはあの子がいた。
それが羨ましくて妬ましくて少しからかった。
私の場所を奪ったんだから少しくらい良いでしょ。
ちょっとものを隠しただけ、
ちょっと無視しただけ、
なのになんで彼はあいつの味方をするの。
私と一緒にいたはずなのに私の彼なのに。
私がこの世界のヒロインなはずでしょ。
ねえ、私のハッピーエンドは何処に行ったの。
きっと、誰かと結ばれるだけがハッピーエンドじゃない。