26時のお茶会

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ハッピーエンド

「焱はね。幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし、ハッピーエンド…ってのが大の苦手なの。だって、大抵のお話は一難去ったあとの幸せの絶頂で物語を締めているのだけど、どう考えたってそこで終わりなわけが無いわよね?まだまだ沢山困難苦難その他もろもろが押し寄せてくるはずよ。この世はそう優しく出来てはいないもの。困難を乗り越え続けることを人生と呼ぶのよ。だからね、すもも。お前と焱のお話だってこれで終わりってわけじゃないの。ここからが本番、むしろ本編よ。分かってる?ハッピーエンドではなくてハッピーto be continuedってわけ」

浅葱と焱の魔女へ、急に思いついて揃いの指輪を買ってきた李は、指輪を見た途端そう流れるように言う焱の魔女に目を瞬かせた。
「あー…っと?わりぃ指輪やだった?」
「嫌だなんで言ってないでしょう?!今が幸せの絶頂って話をしたのに聞いてなかったのかしらこのすももは。まあ焱に指輪を送るなんてシチュエーション、緊張しない方がおかしいわよね。仕方のないすもも」
ぷりぷりと怒った風を見せながら、李に向かって差し出した左手を早くつけろとばかりにプラプラと揺らす。
「あ、あー…そういう?あんたの言葉は一々遠回しなんだよなぁ」
「ふん。お前はそんな焱が良いんでしょ。物好きな子」
最愛の手で、迷いなく薬指へと嵌められたそれを見ながら。
焱の魔女はくふ、と堪えきれない笑みを零した。

3/30/2023, 9:12:06 AM