『ココロオドル』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
赤く艶やかな果実を一つもぎ取る。
しゃり、と音を立てて囓れば、広がる甘酸っぱさに目を細めた。
今年も無事に実りを迎える事が出来た。
上等だ。きっと満足してもらえるはず。
そう思えば、緩む口元を押さえる事が出来なかった。
手をかけてきたものが、こうして最良の結果を伴って応えてくれる。この瞬間が、何よりも好きだ。
たわわに実る種々の果実も。
一面に広がる黄金の稲穂の海も。
心を躍らせ、目を楽しませてくれる。
しゃり、とまた一口果実を囓る。
ふふ、と声には出さずに笑んで。
瑞々しさを咀嚼し、甘露を嚥下する。
また一口、と口にしようとして。
「あぁ、今年もよく実っているなぁ。実にうまそうだ」
しかし背後から聞こえた声に、手を取られてかなう事はなかった。
しゃり、と手にした果実を囓られる音がする。
「うん。やはりうまいな」
穏やかな声に、硬直する。
一呼吸置いて、じわじわと全身に巡る熱に、慌てたように身を捩った。
「ちょっと、勝手に食べるな」
「いいじゃあないか。少し前までは、儂の膝の上で喜んで食わせてくれただろうに」
「それは小さい時の話だろうに。いつまでも引きずるな、じじい」
「すっかり口が悪くなってしまって。儂は悲しいぞ」
まったく悲しげなそぶりも見せない、笑いを含んだ声音。
さらに熱が駆け巡り出すような錯覚に、耐えきれずに逃れようと暴れ出す。
だがその反応すらも楽しむように、腰に手を回され体を引き寄せられ、いとも簡単に抵抗を封じられてしまう。
「ちょっ、と。離せ、こら。このっ、変態!」
「酷いなぁ。大きくなったら儂のお嫁さんになると、あれだけ言ってくれていたのになぁ」
「だからっ、それは小さい時の話でっ!」
触れている体に、呼吸がうまく出来なくなってくる。
胸の鼓動が忙しなく、巡る熱が動けない体の代わりに暴れ出す。
後ろにいてくれて良かった。今のこの顔を見られずにすんでいるのだから。
恥ずかしくて、うれしくて、死んでしまいそうだ。
「おまえが育てたものは実にうまいな。あやつに引けを取らん。あやつが常世を渡り心配ではあったが、おまえは実によくやってくれているよ」
しゃりしゃり、と果実を食べる音。
合間に囁かれる言葉に、暴れていた熱が勢いを少しだけ殺し、胸の痛みを生み出した。
「寂しくはないか。一人で泣く事はなくなったと聞いているが、我慢はするなよ。溜め込まずに、儂らに吐き出してしまえ」
「別に、我慢なんてしてないし。一人でも、大丈夫だから」
熱が勢いを殺していく。
胸の痛みが強くなり、きゅっと唇を噛みしめた。
恥ずかしい気持ちも、うれしい気持ちも凪いでしまい、虚ろな残り滓が澱みのように溜まっていく。
「強情者め。一体誰に似てしまったのだろうな」
呟く声は、珍しく少し寂しげだ。
「一人にしているからか。それならば」
芯まですべて平らげて、ようやく手を離される。
けれどそれを寂しいと思うより早く、くるりと体を反転させられ、抱き上げられた。
久しぶりに見る変わらぬ姿に、間近で見る顔に、凪いでいた気持ちや熱が再びこみ上げてくる。
澱みが一瞬で流されていくのを感じた。
「なっ!?」
「前のように、儂が世話を焼いてやろうなぁ。食事も湯浴みも任せておくとよい。夜は眠れるまで話をしてやろう」
あやすように揺らされながら、歩き出す。
家に戻るのだろう。懐かしいと、微笑むその横顔に、文句は言えず。
「あやつは母でありながら、子を育てる事にはとんと向いていなかったからなぁ。儂らがおらんかったら、今頃おまえはここにいなかったかもしれん」
「お母さんの悪口は、やめて」
確かにそうではあるけれど、と思いながらも否定する。
仕方がない事だ。人には向き不向きというものがある。
それに、正確には子育てに向いていないというわけでもない。
ただ張り切れば張り切るほどに空回りをして、惨事を引き起こしていたというだけだ。
「それと、まだやる事がたくさんあるから、下ろして」
「収穫ならば、出来るモノが他にいるだろう。たまには休む事も必要だぞ」
それに、と懐かしむように、期待に心躍らせるように、彼は子供のようなきらきらした表情で笑う。
「久方ぶりにおまえの世話が焼けるのだ。儂の密やかな楽しみに付き合ってはくれないか?」
「…ずるい。収穫、楽しみにしてたのに。いやと言えなくしないで」
「ならば、明日は一緒に収穫しようなぁ」
益々笑顔になる彼から顔を背け、小さく馬鹿、と呟いた。
顔が熱い。体の熱が、ぐるりと巡る。
待ち望んだ、年にこの時期だけの特別な瞬間は。
結局は、彼と一緒に過ごす一時の喜びに負けてしまうらしい。
「さて、夕餉は子らに頼んで沢で魚でも捕ってもらうか。最近は食事が疎かになっていたとも聞く。そこはあやつに似らんでくれよ」
歌うような囁きに、肯定も否定もせずに目を閉じる。
とんとん、と背を優しく叩かれ、寝かしつける心地良さに微睡んで。
踊るような鼓動の高鳴りに、気づかれぬように一人笑った。
20241010 『ココロオドル』
#69 ココロオドル
[ココロオドル音]
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ミュージックON!
目を閉じて。
リズミカルに刻まれるビートが
音の世界へいざなう。
あれ、今外にいたんだっけ?
音楽を聴く前とは
別の次元にいる感覚になる。
さぁ、今日も頑張ろう!
ココロオドル
眠気に飲まれそうな午後1時
散歩に出かけ眠気を覚ます
ブラブラしてると道端に咲いた花に目がいった
「昨日までは咲いてなかったのに」
毎日代わり映えのない日々だと思ってたけど、
小さな変化が心を躍らせる
「ココロオドル」
小さな頃から、将来は絵を描く人になりたいと強く思っていた。
朝焼けの溶けるような藤色や誰かの思い出、どこかの物語にいた生き物。あるのもないもの、なんでも描きたかった。
絵を描けば、私はなんにでもなれた。どこへだって行けた。
だから、絵を描き続けたかった。
「将来も絵を描きたい!」そう言っては『アナタハコウアリナサイ』と決まって無難な「夢」を押し付けられた。
つまらなかった。
否定されるのがいやになって、ついに私は絵を描くのをやめてしまった。そして無難な夢を叶えた。
「ブナンナユメ」を。
カゾクもキョウシもトモダチも、コイビトさえも、『ヨカッタネ』と無難な褒め言葉を振り掛けてくる。
「ワタシ」は「ウレシカッタ」。
夢だと言い聞かせて自分に振り翳してきたこと。
本当は好きでもないしやりたくもない。
でも「ミンナ」が必要だというから、「ミンナノタメニ」私は頑張った。『シアワセデス』と言っているけれど、全く幸せじゃない。苦しい。痛い。タノシイ。助けて。ツヅケタイナ。
気がつけば私は過労で倒れていた。
『タイヘンダッタネ』と決まって当たり障りのないことを口々に言う。思ってもいない『アリガトウ』『ゴメンナサイ』を返す。
入院していたある日、家族が画材を持って来た。
「昔、よく絵を描いていたでしょう?久しぶりに何か描けば?それから、これからのことも考えよう?」
でも私は「モウ、キョウミナイカラ」そう言って絵を描くことを拒んだ。私は私の本当の夢を、自らの手で壊してしまった。心のどこかで、ガシャンと音が聞こえた気がした。
その音を聞いて、私は居ても立っても居られなくなった。
紙人形みたいなヘナヘナの体で廊下に出て、窓の外を見る。
キラキラした大きな扉が、病院の広い駐車場にへばりついている。目を疑い、窓を開ける。何もない。閉める。扉がある。
意味がわからなくなって、駐車場に飛び出した。
そこには何もなかった。
気のせいだったのだと言い聞かせ、3階の部屋に戻ろうとした。
また扉が見えた。
しかも、さっきよりも開いているような気がする。
あまりにも気になったから、今度は屋上に上がってみる。
屋上の戸を開ける。とても静かで、風の音以外は聞こえない。
手すりから下を覗いた。綺麗な景色が扉の向こうで広がる。
「こっちに来れば、ずっと楽しい時間が続くよ」
そんな風に語りかけられた気がして、手を伸ばす。届かない。
身を乗り出す。少し近づいた。
落ちる。舞うように落ちていく。心も踊る。
あぁ、これが正解だったんだ。
落ちる。おちる。オチル。
カラダモココロモシアワセ。
シアワセ。
カラダオドル。ココロオドル。
オドル。
オドル。
オドッテ、踊って。
砕け散る。
ココロオドル。
カタカナで書いてあるのは、気持ち踊っている感とか、心がワクワクしている感じを感じ取った。
身体だけでなく心も踊ってしまう。そういうものを書けということか……。
すぐに思いつくのは、このアプリの「いいね数」が増えることだが。
そんなことを書いてもなあ。
と思ったので、1日中考えてみたのだが、いまいちの案である。
公園の植木の縁で、ぽけんと座っていると、数メートル隣に何者かが座ってきた。
む、何奴……みたいな感じで、横目に監視して見る。
十数分間、そんな指名手配犯を尾行するみたいなやり取りをしながら待っていると、その人のすぐ隣に誰かが座ってきた。
女性だ。
待ち合わせ? ……にしては、キョリが近めである。
年齢も若者ってわけじゃない。
年の差カップルみたいな感じである。
……あっ、男性がなにかを落とした!
颯爽と立ち去る男性。落とし物を見る女性。
ポケットにしまおうとするも、風のいたずらか、手元からするりと抜けて、僕の方へ流れていく紙切れ。
気づかない女性、立ち去る。
……これはもう、見る流れじゃないか。
この瞬間、僕の心は「ココロオドル」。
ふーん、なるほど。
三十分前にシュークリームを買ったんだなー、っていうレシートだった。
クソッ! と叩きつけ……。
いや、それは心のなかである。
公衆ゴミ捨て場に赴いて、ポイっ。
ココロオドルときはどういう時なのか
私は
自然と触れ合ったり歴史の跡を辿ってみたりする時
例えばあの子
褒めてみて
反応は薄いけど
中身はルンルンだよ
「髪型変えたの?めっちゃカワイイ〜!」
「どーも」
(やばい早速言われた何も言ってこないと思ってたじゃん急に言われたらビックリするじゃん自分いつもクールキャラ気取ってるじゃん崩れるじゃんマジこういうのだけでも照れるじゃん恥ずいじゃん褒めないで照れるから顔に出すな頑張れ自分しかも可愛いって何そんなのいつも言ってこないじゃん何処で覚えたの何その笑顔何処で覚えたのアンタが一番カワイイヨォヤバいなんか吐きそうにヴォゥ)
ココロオドル
ココロオドル。
水。
ココロオドル。
水、水。
ココロオドル。
水、水、水。
ココロコロコロカワル。
ココロオドル
心が踊る時っていつだろう?
新しい服を着た時
綺麗な空模様を見れた時
虹を見た時
色々あるけど、1番 心が踊るのは…
恋をした時
今日も、へんくつじいが、
縁側に座って本を読んでいた
度が合ってないのか、
老眼鏡は鼻眼鏡になっている
庭の花壇には、今年も白いチューリップ
今年も春が来たなぁ
へんくつじいは一人暮らしだけど、
毎日きっちり生活している
だけど、近所のおじちゃんやおばちゃんは
なにかと気にかけて、覗いている
いつしか私もその一人になった
へんくつじいは、
まだ赤ちゃんの頃にお父さんと死に別れ、
母子家庭で苦学したという
初恋を実らせて(みんな驚いたらしい)
幼馴染のお嫁さんと結婚
この家で、3人仲良く暮らして、
もうすぐ4人目が増える、という春
へんくつじいは一人になった
事故で母と妻と子を亡くしたへんくつじい
見る影もなかったという
何度目かの春、
ついにへんくつじいを庭に引っ張り出し
「庭も花壇もめちゃくちゃだ!
二人が好きだった庭なのに!」
この言葉でへんくつじいは正気に戻って、
今のへんくつじいになったという
今日も、へんくつじいは
きっちり生活して、庭の手入れをしている
夏にはひまわりが咲くだろう
#過ぎた日を思う
好きな漫画の最新巻発売日。
夏休み前日。
大好きなあの子から誘われたお祭りの前日。
貴方から、「またね。」と言われたとき。
ココロオドル
休みに掛けてイベントに行ってきたのだと
同じ色ばかりのお土産を積み上げて言う
カメラロールはピカピカギラギラしていて
結構な頻度で手振れとミスショット
此処に誰がいて何を歌って
どれが美味しくておすすめがあって
話す様子があまりに楽しげで
それがなんだかいつもとても嬉しかったから
一欠片も興味のないアーティストに
いつの間にかとても詳しくなってしまう
‹ココロオドル›
超長距離を、一日掛けて歩くイベントがあった。
きょうだいは、運動系の友達と共に走り、
ペットボトルだけで午前に帰ってきたらしい。
きょうだいは、文化系の友達と共に歩き、
景色とお弁当とお菓子とお喋りを楽しみ、
間に合わなくて車で回収されたらしい。
わたしは、ひとりゆっくりマイペースに歩き
お弁当の代わりに一口のおにぎりを、
お菓子で座り込まずに立ち止まって氷砂糖を含み、
のんびり午後に帰ってきていた。
全員用意が違い、全員楽しみ方が違うから、
不思議で面白いものだなと、思った事を覚えている。
‹束の間の休息›
ココロオドル僕はそれを聞いても明るい気分にはなれなかった、だからなんだって話だけどあかるい気持ちになってもいいことはないそんなまやかしより
『本物が欲しい』
ココロオドル
. (まだ途中です…orz随時更新します…!!!!)
「ようこそ、ダンスパブ『ザ リバティスワン』へ」、丁寧なお辞儀とは裏腹にも、歌うような口振りでスタッフは告げる。
週末の仕事疲れを吹き飛ばしてくれるほどの喧騒の地、社交の場を求めてフラッと立ち寄ったのは名前の知れた有名店というほどではないのだが、以前から電光が照る外看板と目を合わせては、それから足元に視線を戻して帰路を辿っていたのだ。そして今日ようやく都合がついて、自然と足を運んでいた。
「ダンスパブとはいえ、酒の揃えもいいな。ソムリエまでいるのか」、気取らない適当な酒を1杯注文して、パブの音に身を委ねてクルクルと踊る人たちを観察する。(なんだ…?)壁にもたれかかって一人、別段グラスを持っているわけでもなく、ただゆっくりとパブの全体を眺めていた。混雑気味である店内で、彼女を目立たせるものはなにもないはずなのに、どうも、目を奪われた。身を包んでいるワンピースだって、装飾も控えめだし__いやそれは、とても…本当に美人ではあるが、それを別として不思議な吸引力が彼女には、あった。強いていえば…背筋?__ああ、そう……ピンと伸びた背筋か…「失礼。隣にいても?」「ええ、どうぞ」そっと壁にもたれて、彼女と同じようにする。
「常連なの?」「初めてだよ。なんとなく、酒が飲みたかったんだ」「そうなんだ?てっきり、踊りたいのかなって」「ハハ…君とならいいな、ただ、週末って人が多いね。ここじゃ賑わっていて踊りにくいよね」
ココロオドル。
俺の話になっちゃうけど、ココロオドルって
なんかの曲だよね?個人的にはこの曲は聞いたことない。
でも、曲名は知っていたから上から目線になっちゃうけど…
普段俺は曲名じゃなくて歌詞で大体覚えてるのね?
でも、このココロオドルだけは曲名で覚えてる
っていうことは大分の知名度があると思う。
…って話をしたいんじゃなくて、これでなんかのストーリーを
書きたいんだけど…難しくて思い浮かばないから
思いついたら書くね。きっと。
【ココロオドル】
あなたにとって心躍るものとは何か。
欲しいゲームを手に入れた瞬間とか気になっていた本の続きを読み始めた時とか....
今はまだ見つけられないけどこれからできる「それ」を考えるのが今の心躍る瞬間なのかもしれない。
個人的にこの題は難しい。ココロオドル。
なぜって、カタカナだから。
漢字の心躍るやひらがなのこころおどるならその通りに心躍る創作をすればいいのだけれど、カタカナなんだこいつは。
個人的にカタカナは漢字やひらがなとは少し違うニュアンスを持っていると思う。もちろん、価値観は人それぞれだけれどね。
例のアレ、とか。シたいとか。普通の意味とは違うじゃんね。
ココロオドル。
なんだか、サイコパスとかそういう人が呟いた言葉なのかな。普通なら心躍るで済む話をどうして、カタカナなんかにしたんだろう。
難しい…!!
思いついたら書く!
――ココロオドル
(片仮名でココロオドルはもうテーマというより曲名なのよ)
と結構な層が思ったであろうツッコミはさておいて、同曲にまつわる想い出を書くか、同曲らが起こしたリバイバルについて書くか、片仮名を無視して心踊ることについて書くか悩みます。
________________
ココロオドル
微アルコール
酒に浸かる
実だけつまむ
発酵した 梅の香り
やっと秋の 匂いがした
まだ若いね まだ固いね
まだ楽しみ またがいいね
箸を置いて 蓋をしめる
冬が匂う その時まで
________________
曲に敬意を表して、慣れない韻をほんの少しだけ踏んでみました。ラップできる人ってすごいよなぁ。
梅酒の梅のお湯割が恋しくなるのも、もうすぐ。
「ココロオドル」
今日はクリスマス
1年の中で1番楽しみにしていた日。
やっと大好きな人に会える。
遠距離でなかなか会えないけど今日は会える。
リア充になるまではクリスマスなんて嫌いだった。
でも、君に会える今日は心が踊る。
イルミネーションや、クリスマスツリーよりも君が輝いて見えた。
クリスマスってこんなにも幸せなんだって。
君とすごしてそう感じた。
メリークリスマス、大好きな人。
先日、『CLUB SEVEN another place』というステージを観てきた。
ステージ、と言い表しているが、多分ジャンルはミュージカルである。いかんせん、このステージはやることが多い。
『CLUB SEVEN』シリーズは、昨年で20周年を迎えた。演出、構成、振付等、ステージにまつわるアレやコレやは座長の玉野和紀さんがされている。歌、ダンス、演劇(ミュージカル)、スケッチ(ショートコント)など、エンターテイメントの詰め合わせを豪華キャスト陣でお送りしている。
記念すべき1回目の公演から出演しているキャスト陣は「レジェンド」と評されている。スケジュールの都合上、毎回出演されているわけではない。今回の21回目公演では吉野圭吾さん、東山義久さん、西村直人さんが玉野さんとともにレジェンド組となっていた。
このステージの内容だが、実はAパターンとBパターンの2種類ある。一幕の一部分の演出が変わるそうだ。私は今回Aパターンの公演を観た。ロングラン公演や不朽の名作のリバイバルだとおおよそ同じ内容だが、『CLUB SEVEN』シリーズは全て内容が異なる。そして、毎回が濃い。
一幕のオープニングはテーマソングに合わせて激しいダンスが披露される。この時着ているロングコートがなんとカッコいいことか。
続けて玉野さんの鉄板演出であるタップダンス。キャスト全員揃ってステップを踏む場面はとても華やかだ。玉野さん演出の舞台は全てにおいてそうなのだが、キャストの限界まで踊らせることが多い。
オープニングが終了すると、スケッチという短い作品(私はショートコントと呼んでいた)が続いていく。主にテレビ番組やドラマのパロディが多い。それをコント(観客のウケ具合がどうにもコント)として上手い具合に落とし込んでいる。
いかんせん20年以上続いているステージだ。お馴染みのキャラクターが個性を発揮していく。そして女性キャストがいるにも関わらず、やたら女装が多い。ベテランも新人キャストも等しく女装する。
また、アドリブも多い。日替わりのアドリブコーナーは一幕終盤で用意されているものの、他の場面でも「ここアドリブでは?」と感じる部分がある。なぜなら座長もキャストも舞台上を自由に動き回るからだ。テンション任せに勢いよく隅々まで動き回るものだから、何度も共演しているベテランキャストですらドン引きしていたりする。役になりきる、よりもキャストの個性が色濃く出るステージなのだ。
怒涛のアドリブ合戦の後、おそらく昨年から復活した客降り演出がある。これは定番のキャラクター「タマコ」と「ニャンコ」のイケイケギャル2人が客席に降りてインタビューするコーナーだ。もちろん、ギャル2人は女装した玉野さんと西村さんである。インタビューに答えたお客さんはタマコから飴やラムネなどお菓子がもらえる。私が観た回は鹿児島や長崎から来た方々だったり、7thから観に来ている古参ファンの方だったので、大盤振る舞いにいくつもあげていた。
休憩の後、二幕はいつもクラシカルなショートミュージカルから入るのだが、今回はキャスト紹介からだった。キャストは皆オリジナルTシャツにジャージ姿で一人一人登場した。軽快なトークと気安いやり取り、そして時を止める摩訶不思議なギャグが披露される。観客は時に大笑いし、時にざわつき凍りついた。
トークの後は『CLUB SEVEN』の醍醐味、「五十音順メドレー」に突入。こちらは曲の歌い出し(もしくは曲のタイトル)の最初の文字が五十音順になっている。次々と歌われていく曲は、テレビでよく聴く定番曲からSNSでバズった最近の曲まで幅広い。ただ歌うだけでなく、曲に合わせてスケッチのようなネタが披露される。CMソングは全てパロディで。アイドルソングはモノマネで。女装に着ぐるみ、マツケンサンバⅡ。とにかく目まぐるしい。観客はここ最近グッズで登場したペンライトを推しキャストカラーに変えて振っていた。
ここで目の前の席に座ったご夫婦の、通路側に座っていた男性客にハプニングが。『エースをねらえ』のお蝶夫人になりきった北翔海莉さんがすぐそばまで降りてきたのだ。真後ろに座っていた私が(ほぼ)真横にいる北翔さんに向かって「かわいいー!」と迷惑にならない程度の声量で連呼していたが、多分聞こえていない。そんな北翔さん、振りが終わってステージへ戻る瞬間、いきなり前の男性客の肩をガシッと掴んでこう言った。
「私、可愛い!?!!?!?」
可愛いですよ。可愛いですけども勢いと圧が強い。
圧倒された男性客は大きく頷くも、多分言葉は出ていなかった。男性客が頷くのを確認して北翔さんはニコッと笑い、ステージへ駆けて行った。嵐みたいな人だった。
そんなメドレーも終盤に差し掛かり、バラード曲に乗って最後の客降り。会場だった有楽町よみうりホール最大の特徴である「舞台から2階席がスロープで繋がっていて外に回ることなく登って行ける」その強みを活かしてキャストが駆け上がる。多分鈴木凌平さんと北翔さんだったと思う。今回の『CLUB SEVEN』の元気なツートップだったはず。
今更だが私は下手側の通路横に座っていた。(有楽町よみうりホールは構造上1階席の通路が4本ある)そんな私の前の前、さっき登場した男性客の前に座る女性客。ペンライトのカラーは水色で、吉野さんのファンの方のようだ。楽しげに振っていらしたら、なんと女性客の目の前に吉野さんが通ったのだ。ペンライトの色に気がついた吉野さんは満面の笑みで女性客とハイタッチ。こんなに喜ばしいファンサービスを間近で見られるとは思わず、私も「わぁ!」と見惚れてしまった。
見どころ満載だったメドレーもいよいよ最後の曲へ。最後の曲は毎回決まっていない。SMAPの「世界に一つだけの花」だった時もあれば、嵐の「One Love」だった時もある。今回は、ミュージカル『RENT』の「Season of l Love」だった。日本版の『RENT』といえば若手舞台俳優たちで演じられているイメージだ。だから、『CLUB SEVEN』に出演する舞台俳優界隈のベテラン勢がこの曲を歌うとは思わず、私は目を見開いてしまった。全体として重厚的なハーモニーはなんだか新鮮で、心にジンときた。
とまあ、一丁前にミュージカルのレビューをしてみました。時間オーバーしながらも長々書いてしまってすみません。
『CLUB SEVEN』は舞台やミュージカルのエンターテイメントを詰めに詰め込んだような作品です。キャスティングされた俳優陣は、普段大きな舞台で重要な役(敵役だったり、脇役ながら見せ場がある役だったり)を演じられています。(主役は過去に経験済み)色んな舞台やミュージカルを観に行っているうちに「あれ、この名前あの公演にもなかった?」と頻繁にお見かけする方々ばかりです。
ですが、舞台俳優さんってテレビの露出が非常に少なく、大衆に知られている方はほんの一握り。『CLUB SEVEN』のキャストさんの名前を畏れ多くも出させていただきましたが、皆さんほとんど知らないと思います。そんな知らない俳優さんしか出ていない舞台を「面白いらしい」だけで観に行くのってすごく勇気が入ります。だから「観に行ってください!」とは言いません。
ただ私がミュージカルを観るたびにどれだけ楽しんできたのか、聞いてください!!
今後、もしかしたらまたレビュー書くかもしれませんので、その時はまた読んでくださいませ。
『ココロオドル』