『この場所で』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
『この場所で』
この場所で歌を歌いましょう。
他にすることもないのだから。
課題をやったり仕事を探したり、
そんなことはしたくはないのだから。
この場所で歌を歌いましょう。
私は私であると叫ぶために。
私は私であれと叫ぶために。
自己を肯定するための手段、
それこそが歌を歌うことなのだから。
と、このようにして模倣する。
尊敬する彼の人たちの作風を。
決して手の届かない、
私のものにはならない紡ぎ方を。
とはいえ、このような模倣の仕方では、
一体誰の何に影響を受けているのかなんて
皆目見当もつかない。
音もなく静かなこの文章を読んで
彼の人たちを連想することのできる人たちは
一体どれほど居るのだろうか?
(いや、居るわけがない)
この場所で私が行うことは、
ただ私の気の赴くままに何かしらを綴ることで、
それは時として純として私から生まれたものでは
無かったりするわけです。
それでもきっとこのような模倣の仕方は
良くも悪くも私だからできるものであり、
私による模倣であるわけですから、
私はこの場所で私を表していると言えるだろう。
恐らく。
『この場所で』
この場所にしかない大切なものがある。
この場所にしかない大切な瞬間もある。
その大切を逃さないように
私たちはこの場所で、必死にいきている。
ふらりと立ち寄った、とある一件の喫茶店。
窓辺の席に座り、レースカーテンから漏れる暖かく柔らかい光に照らされる彼女は、まるで天使だった。
日中は喫茶店、夜はジャズバーとなるこの店にはマドンナがいる。
日が傾き、店がバーに切り替わると、マドンナの父親が気ままにアコースティックギターを鳴らす。それに合わせてマドンナは軽快に歌い出す。誰もがその姿に夢中なり、心を惹かれ、そして儚く散っていった。
店の近所の男や連れ合いの友人、果てはマドンナの噂を聞きつけて、遠方よりはるばるやってきた男など、様々な男がマドンナへとアタックしたが、彼女は決まってこういうのだ。
「ごめんなさい、好みじゃないの」
ストレートな言葉に肩を落としすごすごと去る男たちを横目に、私は到底勇気が出なくて。
しかしせめてマドンナの歌が聴きたいと思い、ひたすら店に通い続けていた。
「ねえ」
ある時、何曲か歌い終えたマドンナが他の男との会話を適当に切り上げ、私に声をかけてくれた。
「いつも来てくれてありがとう」
「あ、ああ」
「どうしていつも来てくれるの?」
零れ落ちそうな程丸くて大きな瞳が、私を真っ直ぐに見つめる。まるで宝石のようだと思った。
「君に、会いたいから」
「これまで一言も話した事なかったのに?」
「ああいや、君の歌のファンでもあって…。声も、歌う姿も…、その、とても素敵だ」
顔が熱くなり、気恥しさから俯いてしまう。だがそんな私の様子にはお構い無しに、彼女は私の手を取った。
「本当に…?嬉しい!」
目を細めてにっこりと笑う彼女をちら、と見て、やはり私は照れ隠しに俯き今度は視線を泳がせた。
「あなた、ギターは弾ける?ピアノでもいいわ」
「ピアノなら少し」
いよいよ黒い宝石が零れるのでは無いかと思うくらい、彼女は目をまん丸にして、私の手を引いた。
「一緒に演奏しましょ!」
まさかこの一言からこの先何十年と彼女と共に生きていくことになろうとは。
久しぶりの鍵盤に戸惑いを隠しきれないこの時の私は、きっと微塵にも思わなかっただろう。
『この場所で』2024/02/12
唐突なようだが、私は齢55歳にして財産を失った。家も仕事も金も無く、夜逃げする羽目になったけれど、もうあれから3年経過している。
人生どうにかなるものだ。今の自分の置かれた状況には、とくに不満は感じていない。
身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれというが、あれは本当かも知れない。
もしも夜逃げをしなかったら、まだ瀕死の状態で生活を続けていたのだろうか?それはどんなにかツライ日々だったことであろう?
何もかも失くしたが、それはいっそ清々しい。とにかく新生活が始まったのだから。
なんとか社会復帰して、住む部屋を探した。探し方は若い頃と状況がずいぶん変わっていた、スマホがあれば不動産屋に行かずとも幾らでも物件を探せるのだ。
住む環境は重要だと思う。住んでいて落ち着けなければ疲弊するばかりだ、心も身体も。
スマホで幾らでも物件は探せたが、実際に見てみなくては、写真や見取り図だけでは分からない。
私には霊感めいた力は何もないが、やはり土地には「気」のようなものがある。それは街や人々が創り出す偶然によって醸し出されるものなのか?
簡単な話、その部屋に入って気分が上がるのか、下がるのかは大事だろう。
予算は限られていたが、明るく清潔感のある部屋を探し当てた。もちろん借物だが、それでも、今の私にとっては奇跡的な出来事であった。
私の部屋にはベッドと、ニトリで買ったシンプルな机と椅子、あと冷蔵庫が1つ、小さい電子レンジ。他にはとくに何もない。
何もないけど満ち足りている。今月やっと中古のノートパソコンを購入した。
この場所は、私に幸せをもたらしてくれている。
Aちゃんは、家族思いでとても美しい子だった
でも
あることが原因でいじめられて、家族を焼き殺された、そしてある子にお腹を刺されて死んじゃった
Bくんは、人の気持ちが理解できる優しい子だった
でも
好きな子を守ろうとしたのに、愛し方を間違えてその子にお腹と目を刺されて死んじゃった
Cちゃんは、大人しくて絵がとても上手な子だった
でも
いじめられて、おかしくなって、Aちゃんの家族を焼き殺した、指示された通りにAちゃんを殺そうとしたけど、Aちゃんのことが好きだったBくんに滅多刺しにされて死んじゃった。
Dちゃんは、怖そうに見えて実は優しいいい子だった
でも
大好きだったAちゃんをBくんに取られて、Aちゃんのことをいじめるようになってしまった、元々いじめていたCちゃんにAちゃんを殺せと指示したけど、おかしくなったCちゃんに心臓を刺されて死んじゃった。
誰も報われない
この場所でもう一度やり直せたら
こんなことになるはずじゃなかったのにね。
魔王と呼ばれたものが倒されて半世紀が経つ。
祝福のムードが漂うこの国で、私の長い営みもそろそろ終わりを告げようとしていた。
人でごった返す城内から抜け出し、それなりに手入れされているらしい庭のカフェスペースに腰掛ける。
ここに来るまでいくつか近隣の街を見て回ったが、壮絶な戦いの余波で倒壊した家は人の手によってより丈夫に建て直され、抉れむき出しになっていた地面には薄墨色の石畳が敷かれていた。「魔王城」というこの国屈指の観光地のため、周辺の地域は潤っているそうだ。
住人には畏怖も安堵もない。平和な日常を当然のものとして享受している。半世紀という時間は、彼のことを過去のものにしてしまったらしい。
彼が倒されて以来訪れていなかった土地に最早面影はなく、予想していた感慨も湧かなかった。
私がこの庭で育てていた花々も───戦場となった上半世紀も経っているのだから当然ではあるが───見当たらない。
庭師であった私が関われたのは庭しかなかった。己が懐かしがれるものなどもうどこにもないのだと突きつけられたようで、身の程知らずな寂しさを覚えた。
かつて私と彼だけのものだったこの場所は、今は人の幸せな気配で満ちている。こんなに賑やかだったことは記憶の限り一度もないけれど、もしかしたら彼は本当はこんな空間を望んでいたのではないかとさえ思えた。そんな人だった。
皆に見下され笑われていたみすぼらしい私に居場所を与えて下さった。魔族達を鼓舞しながら最前線で力を振るい、決して仲間を見捨てはしなかった。役たたずの私が生きることを望み、最後にはそっと逃がして下さった。
力のない同族への慈悲でしかなかったのだろうが、それでも私にとって特別だった。
親愛なる私の君。あなたに愛のひとつも伝えられなかった臆病者ですが、最期はどうか、あなたの愛したこの場所で迎えることをお許しください。どうか、今度こそ。
『この場所で』
「早いものね」と囁かれた。
確かに思い返してみれば早かった。
「早かったね」でも君との思い出は全部綺麗で暖かいよ。ずっと忘れられない思い出さ。
「私はまた昨日と同じ今日を過ごしてしまいましたよ」と優しく笑いかける。
「そうかそうか、そろそろゆっくりしてみたらどうだい」お茶も出せなくてごめんよ婆さん。
「あなたがいなくなってからしばらく経ちますね。今でも愛していますよ。」
だいぶ呑んだみたい。
西麻布のゴルフバーからなだれるように乗り込んだはずのタクシー。気がつくと黄褐色のランプが点滅する舗装路の隅で身を横たえていた。
どこで車を降りてしまったのか何も分からない。
ただ込み上げてくる吐き気と雨に濡れてぐちゃぐちゃの髪が重くてすぐには起き上がれそうにない--
「大丈夫かい」と中年親父の声が耳に入ったのに危機を覚えてギョッと息を止める。
自分が倒れているのがかつて寝ぐらにしていた通りだと気が付いたのは、それから3度目に声をかけられたあたりでだった。
意識のない私が視覚だけでここまで歩いてきたというの?
ちょっとしたつもりで始めてからだんだんハマっていって、でも一度立ち直って昼の仕事もして。
ようやくこの場所から這い出したのに、どうしてこうも中途半端になるのだろう。
うなだれながらまた顔を背けたその時、ハッとした。肩に下げていたロエベのバッグを引き上げようとする力が加わっている。
上体を起こしてバッグを引き戻す。見ると化粧の仕方もままならない幼稚な乞食がバッグを掴んで手繰り寄せようとしている。
私のバッグ! こんな雑巾乞食に!
体重をかけて更に引き返すと骨みたいなそいつは尻餅をついてマンぐりがえる。ノーブランドと思しき安物のスカートがめくれて血の滲んだ下着が見えた。
離してよ! アンタみたいな生きてるのも目障りな乞食なんかに! 苦労して手に入れたんだよ!
詰め物にしかなれねえ能無しのくせに!
乞食が舌を打ってずらかってゆく。
バッグの金具が当たって手首から血が噴き出して痛い。
一連のやり取りを見ていた「普通」の男連れの女がポケットティッシュを渡してくれた。
ねえあなたはその男の子どもを産めるの?
産めないのなら同じだよ。同じなんだよ。
男に費やしたことは同じじゃないか。
何が違うっていうんだよ。
濡れて重たい身体を起こして歩き出す。
私はもうここにはいないのに、こんなに悲しいのはなぜだろう。
お題:この場所で
この場所で
初めはキツかった。
新しいクラス、新しいメンバー
1軍かぶれの2軍は私をいじめた。
陰で悪口。
挙句の果て嘘の噂を流され、
物は隠され、
靴は消える。
私が体調不良で2日休むと、来たのかよと、来んなよと
暴言を吐かれる始末。
証拠も残らず、悪口も被害者妄想で片付けられる。
たちの悪い虐めだった。
苦しかった。
悲しかった。
ただ楽しみたかった学校生活は地獄になった。
ストレスで不安障害を抱え、
鬱病を抱え、拒食症になった。
20キロの体重が落ち、外見は見苦しくなる毎日。
たった、14才の少女がこれだけ変わっても、誰も同情はしてくれない
この世界に絶望を感じいつものように泣いていたらなにかが、こと切れた。
あんなゴミみたいな奴らに人生狂わされるために生きてるんじゃないと。
生き抜いてやると。
あいつらを見返してやるって。
この場所で。
その日から
クラスは私の戦場になった。
この場所で生きてく
その言葉の意味を私は最近まで土地すなわちどの地域で
生きていくかという意味だと捉えていた。
しかし外を歩き友人やお世話になった方に偶然会った
時ふと場所とは人のことだと気がついた。
居心地の良い土地、風習、気候もちろん重要なものだ。
居心地の良い人が近くに暮らしている、それこそが
私がこの場所で生きていく理由だろう
私の愛する人たちが
どうか健やかでありますように
必ず成功してみせる。
彼はそう言って、あの空き地の片隅で私に約束してくれた。
必ず成功して、君に改めてプロポーズするから、10年後の今日、この場所でまた会おう。
そして彼はいなくなった。
でも、私は知っている。
実力が伴わず夢ばかり見ている人だった。
今回も口先だけで、うまくいくはずがない。
ましてや10年後なんて…本当に信じて待っていてくれると思っているのか。
私は新しい彼氏を作り、3年後に結婚した。
仕事の出来る人だと思っていたが、ギャンブルにのめり込んで家計は火の車だ。
それでも、あの日の約束を信じ続けて10年待つことの愚かさに比べれば、と思い日々を過ごした。
突然夫が、仕事をやめたいと言い出した。
新しい事業を立ち上げて、必ず成功させると。
デジャヴな気がしたが、彼は話を勝手に進め、そして失敗した。
そこからは…話したくもない日々が続いた。
気付けば、10年の月日が経っていた。
約束の日の朝、私はふらりとあの場所へ向かう。
どうするつもりだったのかも分からない。
とにかく、現状から逃げ出したいという気持ちが強かったのだと思う。
あの空き地だった場所には、ビルが建っていた。
10年も経てばこうも変わるのか。
新しく、見上げるような立派なビルだった。
約束の通りにやって来た自分が不意に恥ずかしくなって、足早に立ち去ろうとする。
その時、入り口に掲げられたビルの名前が目に入った。
アルファベットで書かれていたが、それは、10年前に約束した彼の名前だった。
「やあ」
…背後から懐かしい声がした。
その先のことは、修羅場があったりロマンスがあったりだが、それはまた、別のお話。
アナタをここで待つべきだったのか、何度も訪れるこの場所で私は花束を抱えて悩んでいる。
この場所で
木々に囲まれ、小さな川が流れ、雨の街の都心から少し外れた所にポツンと建っている小さな一軒家。
首都とは思えない程穏やかな時間が流れるこの場所で、魔法使いのネロと人間のヒロが共に暮らしている。
北の国に生まれ盗賊して長い時間を過ごしてきたネロにとって、この暮らしはどこか夢のような感覚だった。地に足が着いていないような、ふわふわした心地。まるでこれまでの自分と今の自分が別人であるのかと思う程に、過去の自分からは想像出来ない日々を送っている。
目の前ではちみつ入りのミルクを飲んでいるヒロを、ネロはコーヒーを片手に頬杖をついて見ていた。
数ヶ月この生活をしていて気付いたことがある。ヒロは掌の皮膚が薄く、触れると猫の肉球のように柔らかい。その所為で感覚が鋭いのか、熱いものや冷たいものを持つことが出来ないようだ。赤ちゃんみてえ、という感想は胸の中にしまっている。そして重度の猫舌である。熱い飲み物が飲めるくらいになるまで程々に冷めるのを待っているうちに、作業に熱中して飲み物の存在を忘れ、熱かった飲み物が完全に冷め切るという流れをこの数ヶ月で何度目にしたかわからない。
そんな彼が今飲んでいるはちみつミルクは、ネロが用意した掌に熱が伝わりにくい分厚いマグカップに、ネロが調節した熱すぎず飲みやすい温度のものになっている。軽く吹き冷まし、小さな一口で飲んでいる様子を見守っていると、それに気付いたヒロに「見すぎ」と釘を刺された。まだあのはちみつミルクはヒロには熱いみたいだ。次からはもう少し冷ましてみようなんて考えながら、ネロはコーヒーを啜った。
繊細で気の回るネロは、誰かと共に過ごすのは気疲れしてしまう為あまり得意ではない。しかし、既にヒロと共に過ごすこの時間が嫌いではなく、むしろ心地いいと感じている事にネロは自分でも気付いていた。
この場所でこれからも、彼の短い人生を見守っていけたらいい。そう思ってしまうくらいには。
"また「この場所」で会おう"
高校の卒業式、彼が私に言った言葉だ。
毎日学校に通うために座ったバス停。
ここが、二人の特別な場所だった。
普通に見れば、ただのバス停だ。
でも二人はそう思わなかった。
いつもの集合場所。ここに来れば、会える。
そんな場所だったんだ。だから大人になっても
変わらず、ここを集合場所にした。
そして約束した。またここで会うと。
だけどそれは叶わなかった。
待ち合わせ場所は変更となってしまった。
"待ち合わせ場所、空に変わっちゃったね"
『この場所で』
会える保証なんてないのに、道行きすらも楽しかった。いるかもしれない貴方に会えることを期待して、不自然にならない程度に精一杯おしゃれして。髪も肌も爪の手入れもいつだって、頑張る理由は貴方で。
恋をした。恋をした。恋をしている。
この場所で私は生まれ
この場所で私は育ち
この場所で恋をして
この場所で終わっていく
遠い未来、そこは誰かの別の思い出になる
【この場所で】
電車に乗るには遠い駅まで行かなきゃならない
バスに乗るには遠いバス停まで歩かなきゃならない
そんな不便なところに住んでいる
だけど引っ越すのも難しいから
この場所で生きていかなきゃいけない
馴染みのある場所ではある
けれど苦しいのは何故だろう
この場所が悪いわけじゃない
それでもどこか遠くに行きたくなるんだ
昨日も今日もこの場所で
おんなじものをみてたのに
昨日と今日ではこんなにも
気持ちがちがうのなんでだろ
みたくないものみえちゃった
SNSのタイムライン
とびきりちいさなことなのに
チクッと針がささるよう
この場所で、あなたとご飯を食べたい。
この場所で、あなたと話をしたい。
そう思えるひとが、思ってくれるひとが、そばにいてくれることが、どれだけありがたいことか。
いつもいなくなったあとに、気が付くのです。
ズボンを捲って濡れないように。
サンダルを脱いで感じるように。
半ば惹かれるようにして海水に足をつける。
星が無数に見える。