『この世界は』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「入ってきたものが混ざり合う……来訪神と地蔵菩薩が習合したのか」
「だが完全には混ざりきらなかった。来訪神は泣く子を戒め、春を告げる存在であるのに対し、地蔵とは生者を守護し死者を救済する存在だ。性質が違う」
静かに佇む地蔵菩薩から目を離さず、冬玄《かずとら》は語る。
「この山にある碑が刻まれた地蔵を誰も知らない。無意識にこの場を畏れ、奥まで足を踏み入れることはなかったのだろうからな……作り手の祈りが満ちたここは、人間にとって重いのだろう」
何が、と敢えて言葉にせずとも、地蔵菩薩の存在がそれを示している。
死者の供養。子への想いに満ちて、燈里《あかり》は息苦しさを覚え目を伏せた。
「形を失い消えかけていた所を、山から下りる来訪神の概念を取り込むことで存在を繋ぎとめたって訳か」
息を吐く楓《かえで》の言葉に、燈里は咄嗟に首を振った。
「燈里?」
違う。何故かそう思う。
存在を繋ぎとめるよりも大切なことがあったのだと、感じる思いに燈里は自身の手を強く握り締めた。
「面は割れた。このままここに繋ぎ留めておけば、時間と共に来訪神としての概念は消えていくだろう」
冬玄の声に燈里は息を呑み、視線を向ける。地蔵菩薩に手を向け、冬玄は無感情に告げた。
「地蔵は境界に置かれることで結界の役割もある。繋いでおけば、家に戻る頃には領域も分かたれているだろう」
「待って……!」
「燈里。慈悲を向けるな。そいつを連れて帰るための必要な処置だ」
地蔵菩薩の周りの地面が、ゆっくりと氷に覆われていく。ぱきぱきと小さな音を立て、足元から凍り付いていくのを見ていられず、燈里は泣くように顔を歪めて俯いた。
止めたい、けれども止められない。相反する思いに、込みあがる痛みに、きつく閉じた瞼から一筋滴が溢れ落ちた。
「――言葉を」
不意に腕の中で眠る睦月《むつき》が声を上げた。
驚き、燈里は目を開け睦月を見るが、彼女が起きた様子はない。
「睦月ちゃん?」
「言葉を、残します。前にここを訪れた子たちのように。誰にも届かないと分かっているけれど、届いてほしいと願っているから」
目を閉じたまま、睦月は語る。静かな声に、冬玄は手を止め振り向いた。
眉を寄せ、誰もが無言で睦月の言葉を待つ。
「私の半分が死にました。双子の妹。もう一人の私……あの子がいないのに、生きていけるはずがない。何も感じない。楽しいも、悲しいも、何もかも分からない。私の半分は戻らない。削がれて消えて、残ったのは息をするだけの人形。残り滓……お父さん、お母さん、ごめんなさい。私は一人で生きていけるほど強くない」
ぱきん、と音がした。
振り返れば、下半身が凍りついた地蔵菩薩の手が、こちらに向けて差し出されていた。その手のひらの上には半分に割れた小さな石が乗せられており、ゆっくり砂になり風に飛ばされていく。
何もなくなった手を地蔵菩薩は握る。そうして再び開けば、そこには小さな丸い石が乗せられていた。
「父が、亡くなりました。僕ももう、以前のようには動けない。母さんも、姉さんたちも朝から晩まで働いている。弟妹たちの面倒を見て、僕の世話までしてくれる。それが苦しいのに、悲しいのに、どうしてか泣けない。段々何も感じなくなってくる……どうして、僕が生きているんだろう。何の役にも立たないのに、どうして息をしているんだろう……ごめん、母さん。生きててくれて嬉しいって言ってくれたけど、みんなの負担にはなりたくない。ごめん、みんな。どうか僕のことなんか忘れて、幸せに生きて」
ぱきり、と石が割れる。さらさらと砂になり、静かに消えていく。
地蔵菩薩の手に新たな石が現れる度、睦月は言葉を紡いでいく。誰かが残した言葉を語り終え、役目を終えた石が砕け消えていく。
どれもが哀しい思いだった。失い、苦しみ、信じられず、絶望する。
皆、自身が弱いのだと言った。生きていけないのだと、心で叫びを上げていた。
誰も動かず、何も言わず。
ただ睦月の言葉と、石の割れる音だけが辺りに響いていた。
ぱきん、と石が割れる。
風に乗って砂が消えても、地蔵菩薩は動かず、睦月も何も語らない。
「どうやら、今のが最後だったみたいだね」
詰めていた息を吐き出し、楓はゆるく頭を振る。
「今のは……?」
「ヒガタと共にいった人間たちが残した言葉だ」
「石の記憶のようなものだよ。言葉を刻まずとも、石は思いを記憶するからね」
「最後の、言葉……」
呟いて、燈里は地蔵菩薩に視線を向けた。まるで役目を終えたように沈黙するその姿に何かを言いかけ、口籠る。
力なく目を伏せ、腕の中で眠る睦月を見る。紡がれた言葉を思い返し、燈里は泣くのを誤魔化すように睦月の髪を撫でた。
「冬玄」
「どうした、燈里」
手を止めぬまま、燈里は顔を上げて冬玄を呼ぶ。目を合わせ、微笑んだ。
「地蔵菩薩……ヒガタを解放してあげて」
「燈里」
「子供たちの残した言葉は、ちゃんと受け取った。だからもう、無理矢理繋がなくても大丈夫だから」
冬玄は無言で燈里の目を見た。不安も恐れもない。冬の夜を思わせる澄んだその目に冬玄は僅かに目を細め、振り返りもせず地蔵菩薩の氷を溶かしていく。
「ありがとう……楓。睦月ちゃんをお願いできる?」
「分かった……行っておいで、燈里」
楓に睦月を託し、燈里は立ち上がると地蔵菩薩の前まで歩み寄る。冬玄は思わず引き止めるように手を伸ばしかけるが、真っ直ぐな燈里の横顔に、何も言わずに手を下ろす。
「ありがとうございました」
地蔵菩薩に向けて、燈里は深く礼をする。差し出されたまま動かない手を両手で包め込み、ひとつ呼吸をする。
地蔵菩薩の伏せられた目が燈里を見つめている。その目を燈里もまた見返し、口を開いた。
「オン カカカビ サンマエイ ソワカ」
紡がれたのは、地蔵菩薩の真言。
包み込む冷たい石の手に、熱を感じた。驚きに目を瞬く燈里の前で、地蔵菩薩の姿が揺らぐ。刹那、その姿は来訪神を模したものではなく。
右手に錫杖を持った、地蔵菩薩本来の姿に戻っていた。
しゃん、と錫杖が鳴る。澄んだその音に、手を離し惚ける燈里の頭を撫でて。
地蔵菩薩の姿は、空気に解けて消えていった。
「消えたのか?」
「きっと、子供たちを見に行ったんだよ。地蔵菩薩は人々を救う存在だから」
眉を顰める冬玄に、燈里は笑みを浮かべながらそっと寄り添った。
「生きているのに、生きてはいけない……よく分からない感覚だ。それを守ろうとする意味も、俺には分からない」
燈里の肩を抱き、冬玄は告げる。眉を顰め、不可解だと言わんばかりの表情をしながら、燈里の額に唇を寄せた。
「この世界は、分からないものに溢れている。だが、そうだからこそ、世界は美しく、愛おしいのだろうな」
「冬玄」
驚きに目を丸くする燈里に、冬玄は微笑みかけ。
「帰ろう。今日は一段と冷える。囲炉裏の火にでも当たって、ゆっくりと過ごそう」
労わるようにそう囁けば、燈里は頬を染めながら、ふわりと笑みを浮かべた。
20260115 『この世界は』
この世界は
美しいなんてきれいごとかもしれないけど
でもわたしは美しいとおもう
この世界はすごく生きづらいなと思う。性格なのか甘えてるだけなのか分かんないけど、なんか漠然とずっとつらい。みんなはちゃんと自分を生きようとしてるのに、私だけが取り残されて止まったままみたいな感じがする。前がぼやけて、霞んで見えないような、ほんとにこれは自分の人生なのか 知らない人の人生を途中から生きてるんじゃないかって思う時がある。多分ほとんどの人はこんなこと考えないんだろうな。もしかしたら私はちょっとおかしいのかもしれない、でも作品に込める気持ちは変わらないし心の内を書いて出せる場所があることにほっとする。今日もありがとう!おかえり
「この世界は」
ああ今日も終わらない
ずっと始まったままだ
この世界は
もう何も聞こえぬ。
舞台の上では。
わたしの役者人生は終わってしまったのだ。
わたしには演じることでしか生きていけぬと言うのに。
それすらも出来ないようになってしまった。
事の発端は1つのあらぬ記事。
それを信じた観客からの投げられたものが頭に当たり倒れた。
傷はそこまで大事に至らなかったが、なぜか舞台に上がると今までかぼちゃやジャガイモに見えていた観客にはっきりと目があり口がある。
そう認識すると何かみんなが野次を入れているように聞こえそれからそれから舞台の音が遠くなり歌えなくなった。
舞台上で舞えない歌えない役者など存在の意味がない。
生きる意味がないのだ。
それからは茫然自失に過ごす日々。
周りからは狂ったと思われたろう。
みんなに見放されても仕方がない。
なのにどんなにひどい振る舞いをしようとも振り払えないひとが居る。
わたしの歌に惚れたと会ったその日から毎日のように一緒に過ごすようになった友。
舞台上で演じるわたしの舞い歌う仮初の女がよいと言う。
毎日のように劇場に通って来ては夜遅くまで他愛もない事で共に過ごす。
そんな彼はおかしくなってしまったわたしの世話を普通なら絶対やらないだろう事まで甲斐甲斐しく世話を焼く。
自分の妻を差し置いて泊まり込みでわたしを見張っている。
「わたしは大丈夫だ。早く奥さんのところに帰ってやったらどうだ」
「あいつは1人でも大丈夫だ。お前はそんな心配もせず早く治ることに専念するんだ」
「わたしはもう演じることが出来ないよ。聞こえないんだ」
「今は会話出来てるだろう」
わたしの足を丁寧にタオルで拭き取ってくれながら優しく話しかけてくる。
「普通に日常なら大丈夫なんだ。でも舞台はダメだ。音が聞こえなくなるんだ」
「薬は飲んでいるのか?」
「そんなもの効きやしない」
「…他の商売でもしてみるか?俺が金は出してやる」
「ダメだよ」
「やってみたら思わぬ才能があるかもしれないぞ」
「わたしは芸をする事しか出来ないんだ」
何も出来ないんだよ旦那。
向けられる優しい目を見続けることがつらくて俯くしかない。
「それなら、気長にやっていくしかないか」
そっと頬に手を当てられたかと思うとそのまま目の前の彼と目線が合わされる。
「俺もおまえの演技好きだしなぁ」
いつもと変わらぬ安心できる笑顔で優しく言われて泣きたくなる。
「いつか俺の前で歌ってくれ。お前1人ぐらい余裕で養える」
頭をくしゃりと撫でられたその手が離れていく。
この世界はこんなに歪んで見えただろうか。
視界が定まらないよ。
🍁(この世界は)
「この世界は」
美しい
なんて、詩的な言葉がすぐに思い浮かぶ。
でも、それは今までの私の記憶の中に
言葉だけで残っているもので実感が伴わないものだ。
本か漫画で読んだのだろう。
それに、さして珍しいセリフでもない。
実感が強く伴う言葉というのは
どこにでもあるような言葉であることが多い。
……と、個人的に思う。
死ぬのは怖い。時間は有限。友達は大切。
誰かがどこかで言うような
教訓めいた言葉や、
言われても「うん、そうだね。」
としか思わない当たり前のこと。
だが、実感を伴ったとき、
強い感動とともに、心からその言葉を理解する。
「そう言われてるから、そう思っている」
という無意識の刷り込みがなんと多いことか。
実感を得るには、
具体的なシチュエーションを考えると良い。
誰がどこで、どんなふうに
実際に想像して、その場にいると感じるほど
その時の気持ちになってみる。
あまりやったことがないと思う。
意味が無いと思うかもしれない。
けど、楽しいのでおすすめ。
天然由来の油でギトギト
ほんのり甘いベール被せて
丸めて見せた綺麗な面
どうぞお好きに
白餡 黒餡 ときには辛味
知らない用語を使わないで、難しい意味を解説しないで、
噛み砕いたら歯が欠けちゃった
極彩色のタールと化した
複雑で単調なマーブル模様
【この世界は】
最初間に合うなんて思ってない
電車を駅の目の前から見送って
さて
約1時間ほどの電車との待ち合わせといこうか
現在時刻18:14
友人Aは四時の電車で帰った
もう一人は逆の方向へ車で帰った
いつも付き纏ってくる同い年の少年はいつの間にかいなかった
日本の中で比較的あったかいと思われがちなこの地方だが、一人で帰るとなると孤独と相まって張り付くように寒い
こうなると今日あった色んな出来事を思い返す
朝から霧がすごかった
寒くて、急いで朝ごはんを食べ腹痛に見舞われた
学校に着いて暫くして今日提出厳守の課題があったのを思い出した
体育の授業の終わりに濡れたタイルで二度滑った
課題は無事終わったが、大事な書類に押印してもらおうと職員室に行ったが目の前で教頭が校長室へ入っていった(こうなると長いのだ、あの二人は)
30分ほど経って教頭の印は貰えたものの、今度は校長が消えた(その数分前まで2階で話していたのに)
やっと校長の印が貰えたと思ったら担当の教師が部活に行っていた(自慢のバットで物凄い弾道を描いていた、あれは部活動生でも取れまい)
しかし、良いこともあった
愛しのあの子に話しかける事が出来た
いつもの呼び方では無かったが、話しかけても貰った
書類の件であまり話さなかった男の子と仲良くなれた
今学期分笑った
後輩とカラオケに行く事が決まった
ついさっきだ
やはりこの世界は循環
良い事とイマイチな事が決まって交互に来る
それが長い波長だろうが短い波長だろうが関係ない
さぁ
こんだけ書き上げて20分しか経たなかったよ
まだあと10分あるのかい
遠くから消防の広報が聞こえてきた
あぁ寒い
またお腹が痛くなってきたよ
この世界は時には残酷
明日は、就労移行支援イベントがあるけど
私は行かない
参加しない
今では和解している人が
かつて和解する前に
『奈々ちゃん障害者だから結婚できないよ』
と、酷い言葉をかけられて
口喧嘩になってしまい
相手側からは
[身体障害者が結婚報告を聞いたことがないから]
と発言していたから
私にとって心に大きな包丁でグサッと
刺された感覚で私は結婚してはいけない人?
身体障害者だから結婚できないの?
いろいろ頭の中が真っ白になって
健常者に見える内部障害者の人たちが
羨ましく思った
就労移行支援者のスタッフから止められては
私が1番悪い人みたいに酷い言葉をかけられたから
それ故に、就労移行場所で出会った人から
就労移行支援イベントに参加しようよ
と誘われて
私は有給休暇を取って参加したのに対して
また酷い言葉を掛けられて
私と同い年の内部障害者の子が結婚出産を
終えており、子育てママになっていたから
スタッフたちも私の言葉を置いて
子育てママのところへと行っていた
すごくショックになったし
私はまだ運命の人と出逢っていない
いつ?
私も結婚出産して子育てしたいのに
安産、子供に対するご利益がある神社で泣いてしまい
スタッフからも私を睨むような表情ばかりだったから
恨まないでよ
結婚できないなんて言わないで
助けてよ
誘ってきた友達も私を助けてくれなかったから
それに就労移行支援者は障害者を支援する人
それを助けにきてくれなかったし
トップの人からも
[奈々ってグチグチ言うから結婚できないでしょ?]
と言う表情だった
会う度に冷たい態度
その冷たい[冷笑]態度だから
すごく嫌になる
私の亡き父も
[トップの人嫌だよね苦手なタイプ]
と、愚痴っていたから
その日に
映画[国宝]を見よう
吉沢亮と横浜流星に会える
私は横浜流星ファンクラブに入っている
吉沢亮の演技に圧巻される
子役も凄い演技
歌舞伎界の世界
血筋について
いろいろ考えさせられる映画
今日から[国宝]入場特典プレゼントが貰える
映画[国宝]に行った方が私にとって得だ
この世界は
今回もお休みさせていただきます。すみません。
眠い……眠すぎる……。
いつものように自席に座って買ったばかりのおにぎりのフィルムを剥いだところで力尽きた。食欲より睡眠欲が買ってるなんて信じられない。よく会社まで辿り着けたものだ、私。
半ば押し付けられるようにして借りたDVDを、結局最後まで一気見してしまったのだ。すれ違い方があるあるだなーと思いながら、そろそろ1時かと思ったあたりまでは覚えてるんだけど、次に時計を見たのは外が明るくなったせいで。
「先輩さては、最後まで見たでしょ?」
隣に座った水谷さんが「おはようございます」をすっ飛ばして本題に切り込む。
「いやもう、とにかく余韻がヤバくて……!」
私の頭に走馬灯のように今朝見た風景がなだれ込んだ。
「こんなに綺麗だったのかって思ったね、この世界は」
我ながら馬鹿みたいだなと思いながらも上手く頭が回らず、握り締めたおにぎりを変形させる勢いでそれだけ言うと、
「なんですかそれ」
ノートパソコンを開いた水谷さんは「なんですかそれ」と冷たく言い放った。あれ? もしかして温度感違う感じ?
ロックコードを打ち込んだ指先が止まる。
「感想として、最っ高すぎます」
前を向いたまま呟くと、彼女は茶色がかった髪をふわりと揺らし、結んだ口許を手でぐっと覆った。
#300『この世界は』
I miss the world today
この世界は 今日も君無しで周っている
I'm still hating you
指きりげんまん嘘憑いた 君に針飲まそう
#この世界は
この世界は
私以外の人がみんなプログラムに思える
この世界は私が死ねば、無くなる。
あなたも当然無になる。
この世界は
この世界の秘密
それは全てが1つの宇宙から始っている
古来より 王は常に2人(?)存在していた
それは 禁断の秘密
太陽と月
空と海
地上と地底
表が人間の統治なら裏は超越した『ナニカ』
それは合わせ鏡のようだった
まるで 陰と陽の表裏一体
宇宙の円卓には其々の王が鎮座する
これからの計画を
青い星の行く末を
世界に溢れる生命の行く末を
表が裏になる世界
裏が表になる世界
この世界の王達はどちらを選別するのか
世界のことわり
「うんうん、そうだね。いずれ『この世界は』すべて、あなたの物になるんだろうね……でもさー」
いままさに、俺の剣で首をかき切られようとしている、聖女が言った。
「侵略を繰り返して、すべての地を征服し尽くして、じゃあ、その後は? あなたの趣味の侵略はもう、出来なくなっちゃうんだよ? そんなの、つまんなくない?」
俺が滅ぼしたどこかの国が、外世界から召喚した聖女。俺の闇魔法を圧倒する、聖なる力を持っているはずだったこの女には、そもそも魔力自体がこれっぽっちもなかった。
後々目障りになるだろうからと直々に消しに来てやったのに、とんだ無駄足だった、さっさと片付けて──と、そう考えていたのだが。
……それにしても。
俺が趣味で侵略をしている、だと?
「侵略は趣味などではない」
「へぇー。そう言うんなら、本当の趣味を教えてよ」
「っ、………………」
「ほらぁ。やっぱり他にないんでしょ、趣味」
首筋に線のように血を滲ませながら、聖女がニヤリとした笑みを浮かべる。ムカつくことに、聖女を黙らせるようなことばが、俺の口から出てくることはなく──いや。
いまにして思えばあれは、聖女による魅了魔法の一種だったんじゃないのか?
それから聖女は、そのペラペラとよく回る口で「この世界には、エンタメってもんがなさすぎるんだよ」
と、かつて所属していた世界の文化を、それこそ際限なく説明しはじめた。呆れた俺は剣を引き、聖女の話を聞いてやり、そして──。
「ねぇ、陛下。あなたのご趣味は、なんですか?」
侵略は趣味ではないと否定しながらも、大陸を征服し尽くしてから、数年後のある日。
聖女が俺に、そんな質問を投げかけた。
「知っているくせに、何故わざわざ問う」
「陛下の口から言わせたかったんですけど、まぁいいです。陛下の趣味……剣や格闘、弓からはじまって、チェスも教えたらすぐに極めちゃうし。でも来年のそれぞれの闘技大会は、陛下に負けた者が強くなって帰ってくるかもしれませんからね、楽しみですねー」
「その点には同意する。殺さないほうが楽しめるとはな」
「フフッ。あとそれと、旅行! ワタクシの趣味を陛下とご一緒出来るなんて、本当に贅沢──あ、次の旅行先はですね、ここ、すっごく美味しい名産の果物があるんですって! でも最近、窃盗被害が増えてるらしくって……そんなアホウは、旅行のついでに、とっ捕まえちゃいましょう。で、ついでのついでに、治安維持隊の見直しも……」
俺が征服したこの世界は、どうやら──おまえの趣味によって、成り立っているようだ。
満たされないことが救いなのかもね
些細なことだった。別にすべての人が肯定するとは思ってなかったし、否定してくる人やバカにしてくる人がいるのも知っていた。ただ僕にはそれが致命傷になって、一番大事な部分が壊れて二度と戻らなくなった。
怒りや悲しみ、それ自体はいつどんなことで感じようと問題はない。理不尽なことに腹が立つのも、誰かとの決別に涙するのも、それはただ感情があるから起こることだ。
悪いことではない、悪いのはその感情の処理の仕方だ。
怒りに任せて殴りつけるのは怒りをコントロールできていない証拠で、悲しいからと相手を縛り付けて離さないのは悲しみに飲み込まれている証拠だ。
そういう経験を大なり小なり経験しながら感情の処理方法を学んでいく。そうした過程で生まれる罪悪感も時間薬と脳の忘却機能で薄らいでいく。
それらが機能しなかったら、どうなるのだろう。
怒りも悲しみも常に飲み込んで、笑顔を張り付けて誤魔化し続け、言葉を噛砕して、感情も感情表現もすべて悪として無視し続けたらならば。
初めは、『優しい人』でいられた。
その次は、『つまらない人』になった。
そのうちに、『気持ち悪い人』に変わった。
段々と、『病んだ人』になって、
ついには、『いらない人』と成り果てる。
望まれたはずなのに、与えられた役割に忠実だったはずなのに、どうして、どうして。そればかりになってしまう。生きることを否定されるのに、死ぬことは許されない。本当にずっと、どうして、としか言えなくなる。
感情をコントロールすることと、感情を殺すことは全くの別物だと気づかないお前が悪い
だってそう望まれたから言われた通りにした
人のせいにしてどこまでも汚い悪人め、恥をしれ
恥も罪も被って、罰まで肩代わりしたのにこれ以上どうしろというのだ
また人のせいにして救いようがないな、少しは自分で考えろ迷惑をかけるな
正論が苦しいのはこういうことなのかな、なんて考えてしまう。誰よりも人に尽したはずが、誰よりも周りも現実も見えておらず、利用しつくされた挙句積み上げた努力はすべて虚像でしたって結末。
優しさや病気だなんて言葉に当てはめても納得できないこの気持ちは、悪いものですか。これは感情と呼んでもいいのでしょうか。もし感情だというのならどう処理したらいいのでしょう。分からないのです、助けてくださらなくて構いませんから教えてください。それも駄目ならばあなたの話を聞かせてください。
この世界でどう生きてきたのか、聞かせてください
【題:この世界は】
【この世界は】
私の時間は常に「好き」に溢れている。
好きなもの、好きな景色、好きな人。
見るもの聞くもの全てがエモーショナルに富んでいて、まるで飽きない世界。
私の人間関係は特別に溢れている。
特別な人。大切にしたい人。よく絡む相手。
軽率に、それでも真剣に「愛してる」と言える。
自分を愛するより先に誰かを、何かを愛している。
そんな自分が憎い。
どれほどこの世界が煌めいていても、魅力的な人たちを囲んでいてもその全てが私を見ることがない。
勝手に好きになっているくせに、考えてしまう。
あーズルいな。無条件に愛されて羨ましいなって。
輝く瞳に何も映らない。私の世界に色がない。
愛に見返りを求めてしまえばそんなものだ。
「なんだ…こんなものか。」
なんて不均等で、不条理で
つまらないんだろう、この世界は。
この世界は
ハリボテの希望に満ちている
それをうまく利用して
生きていくんだ
この世界は この地球は この世界には この地球には 僕達には 私達には 優しさがある ある…ある…はず
街を歩いていると、今日は妙にぼんやりしている。普通にしていると分かりにくいけれど、踏切を渡る時、横を向いて線路の先を見てみると、よく分かった。
奥のほうがもやっとしている。夕方の日差しをバックに、もやもやとクリーム色のベールがかかっているように見える。
たくさんの人が歩いている。自転車が通りすぎる。話しながら歩く人もいる。街はいつも通り活動的なのに、静かだ。音がないわけではない。
音の層が平坦な気がする。ぼんやり一定のトーンの中に閉じ込められたようだ。やわらかいゼリーのようなものに包まれたところを歩く人たち。
この人たちは、私が見えているのだろうか? はっとする。この世界はなんなのだろう。
「この世界は」