ストック

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Theme:この世界は

この世界は冷たい荒野だ。限られた資源を巡って争わなければ生きていけない。
だから人間は少しでも生存に有利になるためにコミュニティという名の徒党を組む。
しかし、二人の人間がいたらそこには必ず上下関係が存在するように、そんな『コミュニティ』の中ですら人間は自分の利益を最優先する。
裏切り、掌を返すのは当たり前。ときには、適当な理由でスケープゴートを作り出し『正義』の元に徹底的に痛め付けることさえある。保身や娯楽のためにね。
わざわざそんな本を読まなくたって、ちょっと顔を上げれば実例がたくさんあるじゃないか。

『ディストピア論』という本を読んでいたときに、友人をそんなことを言いながら本を取り上げた。
ディストピアをテーマにしたSF小説を書いてみようと思って、参考になりそうな本を読んでいた矢先だった。彼は本の目次を眺めながら冷笑を浮かべている。
おかげで読んでいたページが分からなくなってしまった。私は苦笑いを浮かべる。

彼のペシミズムは、幼少期から続くこれまでの人生経験から来る根の深いものだと私は知っている。彼を論破することはできないだろう。わざわざ論破する必要もないが。
代わりにひとつ質問をしてみることにした。

「じゃあ、あなたのユートピアはどこにあるの?」

彼は少し考えてから答えた。

「少なくともこの世にはないよ。死後の世界にユートピアだのエリュシオンだのがあるとも信じられないけど、この世界よりは幾分マシなんじゃないの」

私にとってもこの世界はユートピアにはほど遠い。
「明日なんて来なければいいのに」と泣きながら眠りにつく日だってある。
でも、それでも。

「私もこの世界がユートピアとは思わないけど、ディストピアとも思わないな。だって、あなたと話ができるから。それだけでも価値のある世界だよ」

単純な奴、と捨て台詞を吐いて(彼が聞いたら怒るだろうが)、彼は本でポンと私の頭を叩くと、本をデスクに置いて去ってしまった。

1/16/2024, 9:19:22 AM