『ありがとう、ごめんね』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
日も落ちた、碌に人の手も入っていない山道を転がるように駆け下りる。冷たい空気が呼吸の邪魔をして、満足に息を吸うことすらできない。乾燥した空気故か恐怖故かも分からない涙が、元々悪い視界をさらに悪化させる。
それでも、木の枝に肌を引っ掻かれ、根に何度も足を取られながら必死に走った。本能的な恐怖だけが私を突き動かしていた。
どうしてこんなことになったのか。全ては今話題のパワースポットだというこの村を訪れてから始まった。やはりこんな所に留まるべきではなかったのだ。共にここを訪れた大学の友人達は順番に姿を消し、遂には私と隣を走る友人しか居なくなってしまった。
四方をハチャメチャに飛び回る懐中電灯の光が一瞬私の体を照らして、少し後ろを走っていた友人がバランスを崩したのが分かる。
「亜紀ッ!走って、もっと早く!」
「も、無理……」
「亜紀!」
咄嗟に振り返った私を逃がさないと言わんばかりに懐中電灯が照らす。一瞬の逡巡の後、焦点を合わせられたことに竦み上がる体を叱咤して、遅れる彼女へと手を伸ばした。
「諦めちゃ駄目!もう少しで公道に出るから!」
せめて電波のある所まで行くことが出来れば。最後の希望を胸に、だらりと垂れ下がった彼女の腕を強引に引きつける。
彼女は俯いていた顔を上げ、一筋涙を流した。
「ありがとう……」
こんな時だというのに瞠目してしまった私を追い詰めるように、事態は悪化の一途を辿った。
動揺で軸が揺らいだその瞬間、隣から伸びてきた腕が私を掴みあげ、強引に投げ捨てたのだ。彼女も別方向に引っ張られたようで、支えを失った体は容易く地面に叩きつけられた。山道を数メートル転げ落ちる。意識が遠くなった一瞬、ざわりと人の声の様なものが聞こえた気がした。
次に何とか上半身を起こした時には既に、満身創痍の私の周囲を無数の気配が取り囲んでいた。
眩い光に照らされて咄嗟に目を覆う。逆光で顔は見えないが、一人の人間が私の前に立ち塞がったことだけは分かった。恐怖で地面を這いながらも、その人影から目を逸らすことができない。最早逃げることも出来ない私に、それは棒のようなものを振りかぶって。
振り下ろされる凶器だけが視界にはっきりと浮かび上がり、世界がスローモーションの様に見えた。
その瞬間。
何故だろうか。安心した様な笑顔で涙を流した、彼女の顔を思い出した。
「話題のパワースポット」だと言う割に人気のない村。私達を遠巻きにして決して近づこうとしない村人。村に着くなりパンクしたレンタカー。ひとりひとりと消えていく友人。村人と話を付けて来たと毎日食事を用意してくれた彼女。
────そういえば、この場所を私たちに提案したのは誰だったっけ。
そんな疑問を最後に、私の視界はブラックアウトした。
「ごめんね。」
『ありがとう、ごめんね』
このアプリを開いて、初めて与えられたテーマが『ありがとう ごめんね』
『えぇ…、書きづらいな…』
最近はメンタル落ちないように重いことは考えたくないし、文字にしたくなかった。
どうしようかな…
文章を書く機会を与えてくれて『ありがとう』、
いきなり愚痴って『ごめんね』。
「ありがとう、ごめんね」
全然素直じゃなくて
わがままばかり言って
たくさん困らせて
ごめんね
でも、そんな私を受け止めてくれて
愛してくれて
ありがとう
「ありがとう、ごめんね、大好きだったよ」
そう言って、美しく泣くから、
「僕もすき」だなんて言えないじゃないか、
「ありがとう、ごめんね」
入学したばかりの頃、馴染めずにいた私に声かけてくれたよね。
気さくで、思った事はハッキリ言うタイプかなと思ってた。
少ない同性のクラスメイト同士、よくおしゃべりしたり
テスト勉強一緒に頑張ったり、旅行にも行ったね。
ハンドメイドの趣味や共通の好きなバンド追いかけたり
あなたがいたから楽しい時間を過ごせた
ありがとう、本当に感謝してる。
でも、ごめんね。
裏垢作るくらいならとことん隠して欲しかった。
名前こそ伏せてた明らかな私への軽蔑
楽しいと思ってた会話は裏垢では副音声のように嫌味に変換されてたんだね。
大好きな友達だったから
私の中であの子は死んだ
『ありがとう、ごめんね
許してね、大好きだよ』
大切な私にそう話しかけてみる
何度も、何度も。
ありがとう、ごめんね
自分のカラダを労う。
今まで、心身ともに無理をした時期が
何度もあった。
大きな病気も怪我もなく、今のところ
順調に動いている。
あと30年、お付き合いください。
ありがとう、ごめんね。
ごめんね、のところだけ頭の中で呟いた。
きっともっともっと素敵な人が君の人生に現れる。
わたしのことは、なるべく早く忘れてくれていいよ。
さよならの代わりに笑顔の記憶をあげる。
だから、ごめんね。
君はなんにも知らないままでいい。
たとえわたしの最後の君の思い出が、後ろ姿だとしても。
聖人君子に見えているのなら
私と一緒になってはいけない
(ありがとう、ごめんね)
ありがとう、ごめんね
が言い合える関係は理想的
でも難しいね
特に一緒にいる時間が長くなるほど
もっと素直に
自分の心に正直に
プライドなんて関係ない
いつまでいれるか分からないよ
明日後悔しないために
いつもありがとう
今すぐ伝えないと
どうせフラれるって、分かってた。
それでも、やるしかないんだ。今日は卒業式だから。
今日しか、もう想いを伝えることができないから。
なけなしの勇気を振り絞って、卒業式終わりにそっと彼に声を掛けた。
誰もいない廊下。少し肌寒くて、上着の袖をぎゅっと引っ張りながら、口を開いた。
その間、こわくて彼の顔を見ることはできなかった。
けれど、
「―ありがとう、ごめんね」
そう優しい声色で告げた彼の表情が気になり、思わず顔を上げた。
今まで見たことない、儚げで慈しむような優しい微笑みを向けられていた。
途端に、涙が溢れて視界が滲む。うれしいのか、かなしいのか、もうわからない。
ただ、今日のことは何があっても絶対に忘れないと、そう思った。
明日私は、違う名字になる。
新しい家は、母と暮らした家からは県を二つ跨いだところにある。
明日から母はあの家でひとりで暮らすのだ。
新しい家はとても楽しみだけれど、大事なものを置いていくような、心細くて落ち着かない気持ちがいつまでも離れない。
ありがとう。おかげさまで楽しかったわ。
私が変な顔をして黙っていると、母が私の頭をぽんぽん、と撫でて微笑んだ。
わたしのほうこそ、いままでありがとう。
ひとりにしてごめんね。
途中から声が震える。視界がぼやけて見えなくなる。
そんなのいいよ。元気でやんなさいよ。
やわらかな母の声に、また涙があふれる。
お母さんの娘でよかった。
ありがとう。
今日も一日頑張りましたね
心臓も休みなく動いてます
ご飯も美味しく胃腸も元気
大切な人を想う機能も万全
忙しい時無理してませんか
どんなときも支えてくれる
自分自身に伝えてください
『ありがとう、ごめんね』
「ありがとう、ごめんね」
正反対な言葉だね。
正反対の人間って感じ?
正反対でも仲良くできるのかな?
正反対でも、それを分け合えば最高だよね。
だから、全然違う言葉でもどっちも使えるといいねって話しだよ。
ありがとう、ごめんね
小学生の高学年のころだったと思う
家族で参加中の町内会の体育祭
テント内は土足厳禁
靴を脱いだら靴下に染みができていた
靴の中でしんでいるのはカマドウマ?
どうしようどうしようもうこの靴履きたくないこわすぎる
おかあさん靴こうかんしてくれない?
(ちょうどサイズも同じくらいで)
理由は言えない言えないまんま
けれども交換してくれた母に
心から
ありがとう、ごめんね
(大人になってからもう一度きちんと謝りました)
あなたの期待に応えられない
【ありがとう、ごめんね】
世界一素直に言うのが難しい言葉。
でも、世界一美しい言葉。
━━━━━━━━━━━━━━━ありがとう、ごめんね
愛した君に恋がしたい
信じてなかったの最初は。好きだよって言われて、嘘でしょって返すくらいには冗談だって思ってた。君の傷付いた顔を見て違うって分かったけれど。私もって咄嗟に口走ってから後悔した。あんまりにも嬉しそうだったから。親愛の情はあっても恋なんかじゃなかったのに。
私は私に嘘をついたの。君を少しでも失いたくなかったから。そこからはまぁ知っての通り順調だったよね。もともと相性は良かったし。私は君を好ましく思ってたんだから。ただ一つ困ったことがあるとすれば、君の瞳に映る熱を私は分かち合えないってこと。浮かされたような視線も、止まらない鼓動も触りたいという欲さえ私は持ち合わせていなかったから。ごめんね。愛してたよ。
恋はできなくても愛してた。最初を間違えたからかな。
平行線のままだったね。ずっとずっと願ってたのに。
これだけは叶わなかったよ。
お題【ありがとう、ごめんね】
ひときわの山嶺のみの光る夕・敬慕を敬慕とする「起立・礼」
その日は朝から雨が降っていた。
バケツをひっくり返したような酷い雨が窓に打ち付けられ、バチバチと音を鳴らす。もう午前9時を過ぎているというのに窓越しに見える景色は薄暗く、そしてひどく濁った空だった。
傑は無表情で窓際に佇み、静かにそれを見つめていた。
いつもならこんな休みの日は部屋に篭り、何をするでもなく鬱々と一日を過ごしていただろう。悟も休みが合えば当たり前のように部屋を訪れ、桃鉄をやるのがお決まりだった。
悟は今日は任務だっけ。
ふと、時計を見ると10時30分を回っていた。
傑は徐に上着を取り部屋から出ると、外出届も出さぬまま、高専の外に歩き始めた。
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「あら、珍しい。来るなら連絡をくれたら良かったのに。雨で濡れてるじゃない。ほら、早く入って。」
実家の玄関先で母が笑顔で、おかえり、と出迎えてくれた。
最近は立て続けに任務が入り、実家に立ち寄る事も電話をかける事も滅多になかった。そんな息子が訪れたのだ。母はとても嬉しそうだった。
「今日はお父さんもいるのよ。タイミングが良かったわね。」
「そうなんだ。それは嬉しいな。会いたかったんだ。」
そう言うと母はふふっと笑って傑の肩をポンと叩く。
玄関をくぐると懐かしい匂いがした。
リビングのソファに座り新聞を読んでいた父も息子の帰宅に気付き思わず顔が綻ぶ。
「何食べたい?急に来るから大したものは作れないけど。」
母は冷蔵庫の中を覗き込み、ガサガサと食材を見繕っている。
オムライスなんてどう?と言うと傑はいいね、と答えた。
どこにでもあるような幸せな家族の姿がそこにはあった。他愛もない話をして、どこからでもなく引っ張り出してきた中学の卒業アルバムや小さい頃の写真を見て会話に花が咲いた。
本当にこの2人から貰った愛情は計り知れない。傑が変なものが見えると打ち明けた時も、疑うこともせずただ信じてくれた。本当に心から大好きで大切な存在だった。
…これからもずっと。
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「ご馳走様。すごい美味しかったよ。やっぱり母さんの料理、好きだな。」
「あら、そんな褒めても何も出ないわよ。」
母はにこにこと笑う。
「母さんがこんな笑ってるの久々に見たよ。傑が帰ってきて嬉しいんだろう。これからはもっと帰ってきなさい。」
傑は父の優しい物言いが好きだった。低いトーンの落ち着いた声もとても心地よかった。
傑はさっと立ち上がり母と父の前に立ち深くお辞儀をする。
「父さん、母さん、ここまで育ててくれて本当にありがとう。」
傑がそう言うと不思議そうな顔でこちらを見つめてくる2人に、聞こえぬ程の小さな声で
「ごめんね。」と呟いた。
「あらやだ。急に何?そんなに改まっ…………」
母が言い終わらぬうちに呪霊を顕現させ母の首を噛みちぎらせた。
「傑!!」
「お前…なんてこと…ぐはっ………」
父の言葉も遮った。
傑はあたり一面の惨状を無表情でただ見つめていた。
もう元には戻れないのだ。非術師は皆殺しにしなければならない。それが愛している両親であっても。
返り血を浴びて着ていた白いシャツが紅く染まる。
顔に付いた血を手で拭えば、拭いきれなかった血が口の中に流れ込み、酸っぱくて苦い鉄の味がした。
両親を手にかけても不思議と何も感じなかった。後悔も悔恨も何もなかった。最後にこの2人を殺すのが自分であった事に安堵すらした。
「さて…。」
そう言うと汚れたシャツを脱ぎ捨て、新しいシャツに着替えると、なんの戸惑いもなくその場を立ち去った。
術師だけの新しい世界を作るんだ。
そう思いながら軽い足取りで玄関をくぐると、あんなにひどかった雨はすっかり止んでおり、空には綺麗な七色の虹が出ていた。