『あなたに届けたい』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「あなたに届けたい」
走る、走る──
呼吸もままならないほど、息を乱しながら。吸い込む空気が鉄錆の香りに変わるほどに長く、深く……
「はぁっ、はっ!」
こんなに必死になって、私は何をやっているんだろう?
“あなたが何処かに消え去る前に、見つけないと”
肺の焼けるような苦しみに耐えながら、いつまで続くともわからない道を走る。
ふと、揺れる視界に追い求めていたあの子の背中が見えた。
「待って……いかないで!!」
そっちに行ったら、あなたはもう戻れなくなる……!
私の声が聞こえていないのか、あの子の背中はどんどん遠くなっていく。
私がどれだけ必死に追いかけても、その差が縮まることはない。
──当たり前だ。追いつけるわけがない。
だってあの子は死者で、私は生者なのだから。
そもそも、私があの子を追いかけられていること自体がおかしな話なのだ。
そこまでして、何故追いかける?
「わたしっ……はっ、あの子に届けなきゃならないものがあるんだっ!」
自らの命を死に近づけてまで、精神をすり減らしてまで……なぜあの子に執着する?
「あの子がいたから……私は人でいられた……バケモノじゃなく、ただの女の子でいられた!だからっ!?」
疲弊した足がもつれて、勢いよく転がる。
痛い……はずなのに、何も感じない。
あぁ、もう追いつけないの……?ここまで来たのに。コレを届けられないまま……
自分の無力感に先程まであった強い意志は簡単に押し潰されそうになる。
「うぅっ……」
「このバカ者が。死に近寄りすぎだ」
「えっ……?」
おもむろに顔をあげようとするが、上から頭をぐぐっと抑えられる
「見るな。見ればお前も完全にこちらに来てしまう。だから大人しく聞け」
あの子の声は相変わらず威圧的で、でもとても安心する。
「お前の言葉も、想いも、最期に渡すはずだったソレもちゃんと持って行くから。だから……」
“おれの分までちゃんと生きろ”
「……っ」
目を覚ます。そこには真っ白な天井が広がっている。
横に視線を移せば、そこにはところどころ焼け焦げた結婚指輪の箱が置かれていた。
重い腕を動かして、その箱を開ける。
「あぁ……」
そこには、ふたつの指輪が入っているはずだった。しかしそのうちのひとつは窪みだけだ。
「とどけ、られたんだ……」
【あなたに届けたい】
溢れる想いを文字に変えて
白い便箋を埋めていくよ
埋まりきっても
それを渡す勇気などなく
ただ胸に抱きしめるよ
世界にたった一人のあなたを想い
自分の気持ちに正直になって
吐き出したその気持ち
知られたら恥ずかしくて仕方ないけれど
本当はあなたに届けたい
あなたに届けたい
臆病で、はっきり言えなくて、そんなあなただけど。
あなたが心の中で、私を気遣って、言葉選びをしていること気づいているの。
そんなあなたが好きなのに、愛しているのに・・・
あなたの言葉で聞きたくて、伝えることができない。
「なんでもないの」とはぐらかしてしまう。
I LOVE...その続きが聞きたくて、たぶんいつもより長いけど、待っているから。
ーきっと、あなたは私の考えなんて分かっていると思うけれど・・・やっぱりあなたの言葉が聞きたいの。
前回のI LOVE...の続編です。(みけねこ)
そっと小包を開く。その中には文字がびっしり書いてある、たくさんの紙が入っていた。
今私が開けているこの箱は生前の母が毎日書いたという、日記が詰まっている。でも何故、ノートではなく紙にしたのか私にはいまいち分からない。
私は何をこんなに毎日びっしり書いていたのか気になって1枚手に取ってみた。
日付は3月17日。私がちょうど高校を卒業した時だ。
内容は、
今日は、娘の愛華が高校を卒業した。そして、もう数日経ったらこの家から出ていく。今までの激動の日々は、長いようで短くて、あっさりしすぎて私がもう少しやっていたいくらいだ。今までの思い出を振り返ってみると、愛華が初めて好きな人が出来たと、私に相談してきて実際に告白してみたけど、でも振られて。失恋して泣いて。そんな女の子らしい人生の体験をした日や、もっと遡ると赤ちゃんの時に初めて私に笑いかけた時など、思い出せばいっぱいある。でも愛華に本音を吐かれた時はびっくりもしたし、怒ったし、でも悲しくて。私が悪かったと分かっている。思春期なのに、ズカズカ心の中に乱暴に入って。こんな風に娘の為を思って失敗する事もたくさんあった。それでも、愛華をここまで育てくれさせた事に感謝している。
最後に愛華へ。この手紙を見るかどうかは分からないけど、ここまで元気に育ってくれてありがとうね。あまり気の利かない母親だったかもしれないけど、それでも私をお母さんと最後まで呼んでくれてありがとう。
人生はまだこれから。だからもっと頑張って!私も暖かく見守ってるから、何があっても自信もって生きて!
と、書かれていた。実際に母はこの手紙を書いた1週間後、3月24日に死んだ。母は癌だった。それも末期の。母はそれまでずっーと隠してきて、耐えてきて、しかし、私の卒業式が終わった次の日に病状は悪化した。
今、この手紙を見ているのはそれから2年経って、ちょうど成人式を終えた後に父が渡してくれて、丁度見つけたので見ていたが、涙が止まらなかった。
私は今まで母の事をウザイ人と認識していた。でも実際は全部私のためにやっていてくれたこと。当たり前のように気付けるはずの事が私には気づけなかった。
私は最後にあなたに届けたい。
「我儘な娘でごめんね。でも私にとっては自慢の母親だったよ。確かにウザイけど、ウザければウザイほどそれは私を愛してくれてたんだって。今気づいたよ。私も自信もって生きるから、見守ってて」
と、ただこれだけでもあなたに今すぐ届けたい。
好きな俳優声優だったり漫画家だったり小説家、ゲーム実況者にファンレターを書こう書こうと思うだけでなかなか実行できないでいる。送れる機会があるうちに送りたい。小学生くらいの頃、好きな漫画家にファンレターを送ったことがあった。ある先生はファンレターの返信はがきだけでなく年賀状を、
またある先生もはがきを。可愛げのない小学生が書いた文章を読んで、お忙しい中返事をしてくれた。嬉しかった。やっぱり届くまでには時間がかかって、それでも返事があることが嬉しかった。読んでくれたのだと。
特に記憶に残ってるのは二通。ひとつはすごく丁寧な手書きのお手紙だった。シーリングスタンプ付きの手紙なんて初めてで内容もすべてが嬉しくて私は内心浮かれに浮かれた。最近この先生をXで見つけ、私が手紙を書いた漫画ではなかったけれどまだ描いてくれているのが嬉しかった。
もうひとつは私が初めて自分で集めた漫画の先生からのはがきだった。小学生のときに出会い、その間は少しずつ発行されている巻を買った。新刊が出る度に買い足し、2、3km先にある本屋までチャリを走らせた。小学生だった頃に送った手紙の返事は中学生になってからきた。4年くらいは経っていたかもしれない。部活帰りの私はそのはがきの存在を知りすべての疲れがふっとんだ。新刊を集めるルーティンは高校生まで続き、最終回を迎えた。リアルタイムで好きな漫画の終わりを見届けるのは悲しくて幸せだった。私が大好きになった漫画でとっくに連載が終了しているものもあったから。
それらの手紙はどれも私の宝物だ。
当然だが、ファンレターの返事はこないことが多い。読んでもらっているだけで送り先の人の時間を割いてもらっているのである。それでもう充分だ。返ってくるのが当たり前など絶対思ってはいけない。
そこを前提として、やっぱり思いがけない返事はこの上なく嬉しく、ありがたいものだ。
私は普段誰かのかいた文や漫画、もしくは演技、それ以外の発信された内容に心動かされている。元気をもらっている。最近は書けていないけどその人への気持ちを届けるようにしたい。
ありがとう
ごめんね。の代わりにありがとう。
私に大切な事を教えてくれて
ありがとう
後悔の念は一生消えないけれど
かけがえのないひとときを
私に与えてくれた唯一無二の存在
心からの『ありがとう』
19日目【あなたに届けたい】
ねぇ、好きだったこと、気づいてた?
気づいて…ないよね。
だって私は人妻だから。
道ならぬ恋に突き進む危険は冒せない。
だから、あえて嫌われるようにしちゃった。
あなたに届けたいのは、ごめんなさい。
本当は、仲良く仕事したかった。
お互いに感謝して笑顔でお疲れ様って別れたかった。
お手紙。
今どき古いだろうけど。
私はお手紙が好き。
彼に伝えたい想いが沢山書けてよく伝わる。
そういう気がするから。
あなたに届けたい。
そう思いながらまたお手紙を書く。
#『あなたに届けたい』
No.30
今どこで何をしていますか?
元気に過ごしていますか?
ある日を境に連絡が途絶えてしまい、話すことが
できずとても悲しいし話したい気持ちが募る一方
連絡手段が、ひとつしかないためそこでの連絡を
待つ日々
前のように、話せる日々が来ることを願いながら
君からの連絡を待ち続けている
君に届いて欲しい
大切を亡くした
心臓に穴が空いたように。
世界が終わってしまうんじゃないかというぐらい
私の見ている世界が気持ち悪いぐらい歪んでいる。
でも地球は回っている
みんな生きている
私の心臓の穴も誰にも見えないまま
私も生きている
寂しくて、
君に会いたい
私は貴方に惚れました
視線がぶつかった時
その瞳に見透かされそうで
耳が紅潮してしまいそうで
思わずにやけてしまいそうで
周りに勘づかれてしまいそうで
すぐに逸らしてしまった
いま思うと後悔しかないんだ
もしあの時
あなたと2人きりだったら
たぶんきっと声をかけられた
他人が多いあの場所で
貴方と知人になりたかった
だけど勇気がなかった
怖くてさ、
次は 頑張るから
当たって 砕けるから
どうか届けさせて
この気持ちはぶつけさせて
おねがい。
_ ₁₄₇
おばあちゃんにお礼の言葉を届けたい。
6歳の時に別れたから。
いつもあなたの後ろに隠れていた。
お漏らし、おねしょしてた。
幼稚園で泣かされてた。
そんな僕も
あなたと別れて42年、
なんとか生きてきた。
ママに捨てられ、
たらい回しにされて、
苗字、4回も変わったよ
養護施設に入れられて
そこを出て
16から働き始めたんだ。
自分で働いたお金で
高校は27歳、
35歳で、大学を出た。
彼女もできて、
英語をめい一杯やって、
憧れの通訳にもなれた。
結婚して子供3人もうけた。
あなたのひ孫だよおばあちゃん。
もう僕パパって呼ばれてるんだよ。
嘘みたいだよね。
ここまで頑張れたのも
おばあちゃんが
マーちゃんはかしこい、特別だって
言ってくれたからなんだよ
いろんなこと、おばあちゃんに報告して、
ほめてもらいたかったよ。
子供達を連れて
またお墓参りにもいくね。
ありがとう。
大好き。
『あなたに届けたい』
数日前に、小粒のシークァーサーを沢山いただいた。
ドリンクに絞るだけの使い道ではもったいないと思いつつ、どうしようか考えあぐねて冷蔵庫に眠らせていたのだけど、昨日、砂糖漬けにしてみた。どんな状態になっているかの確認がこれからだから、少しドキドキしている。
もしも良い感じに漬かっていたら、彼とのおやつに持っていこうか。
「美味しかった」だとしても、「あんまり合わなかったね」だとしても、貴方と共有したいから。
『あなたに届けたい』
あなたに伝えたいことが、届けたい想いが沢山あるの。
いつも、優しくしてくれてありがとう。
いつも、笑わせてくれてありがとう。
いつも、励ましてくれてありがとう。
いつも、愛をくれてありがとう。
あの日、素直になれなくてごめんなさい。
あの日、嘘ばかりついてごめんなさい。
あの日、あなたを傷つけてごめんなさい。
あの日、あなたを置いて逝ってごめんなさい。
嗚呼、どうかまだ消えないで。あと少し、あと少しだけ。この想いがあなたに届くまで。
あなたに届けたい
あなたに届けたい 愛情いっぱいのマフラー
でも 重たい女と 思われたくない
今年のマフラーは自分色
だけど 一回は 使ってみよう
「あなたに届けたい」
毎日がモノクロで
世界が冷たくて
苦しい事ばっかりだった昔の私…
そんなあなたに届けたい
庭に毎年咲く桜のキレイな薄いピンク
辛い時に傍にいてくれる人の温もり
些細な事で笑い合える幸せ
その真っ暗なトンネルを抜けた先は
少しだけ明るい世界…
あなたに言いたい。会いたいよって。
隣のおうちの優しかったお兄ちゃん。突然いなくなって、帰らない人になって、、
家に帰ってきてからそのことを知らされた時は混乱でなんって言えばいいのか分かんなかったよ。
今でも一緒にバーベキューした日のこととか花火をした日のこととか思い出して、涙が止まらなくなる。笑ってた姿を思い出して胸が苦しくなる。でもなんだかいつもそばに居てくれる気がする。心が教えてくれる。
今週末またご飯一緒に食べようね。
どうしようもなくこの世界は生き辛い。
常に息が苦しくて仕様がないのだ。
もがき苦しんで
必死に今を生きている私を
未来のあなたに届けたい。
あなたは今この世界を上手く生きられていますか。
ーあなたに届けたいー
町外れの草原で、私は小さな男の子に出会った。
その男の子の瞳は、お日様に照らされる海の表面みたいに輝いていて、深海みたいに深く、岩にあたって砕ける波のように透き通っていた。そんな瞳に見守られていたのは、少し枯れてきた草の生える草原に咲く、小さな白い花だった。もう、頬を撫でる風が冷たくなった頃だったが、そんなことはかまわず、その花は活き活きと一生懸命咲いていた。
「花、可愛いね」、思わず男の子に話しかけてしまった。初めて会った女の人に、急に話しかけられたら怖いだろう。ごめんと言おうと口を開こうとした時、「うん、この花可愛い」と、私の琥珀みたいな目をみて、話してくれた。じっと見てきたから、深くてキラキラと星の散るような瞳に目を逸らしてしまいそうになった。
その男の子は、穏やかに流れている川の近くに住んでいた。その家から、お母さんとお姉さんが出てきた。そして、「そろそろ戻っておいでよ!」と、男の子を呼んでいた。花を眺めていて、家に戻るのに時間がかかりそうだったから、「お母さんたちが呼んでたよ?」と言うと、「分かった」と言って、家に戻って行った。
3ヶ月ほど経って、またあの草原に向かった。
またあの男の子はいるだろうか、またあの眩しすぎる瞳で見つめ返してくれるだろうか。
草原を見渡した。居なかった。そこにあったのは、1輪だけで、寂しそうに咲いている花だけだった。
体が勝手にあの子の家へと向かっていた。ドアをノックして、あの子が出てくるのを期待していた。
出てきたのは、あの時のお姉さんだった。
「どちら様ですか?」と聞かれた。「この前、あの花の咲いている草原で、綺麗な瞳の男の子と話したんです。久しぶりにここに来て、あの子、いるかなって思ったんですけど、居なかったので、どうしたのかなと思って。」「あぁ、ノアのことですね。今寝込んでるんです。誰かに移る病気ではないんですけど、2ヶ月くらい前から、体が動かせなくて」と、青い目を涙で潤ませた。「会えませんか?」ダメ元で聞いた。1度しかあったことの無い大人を家に入れるはずがない。知っていたが、期待3割で聞いた。少し驚いた顔をして、「いいですよ。あなたのことは、ノアからも聞いていたんですよ。会えて良かった」と、嬉しそうに言ってくれた。
男の子の部屋まで案内してくれた。
「あの花、まだ咲いてるの?」と、私の顔を見た途端に聞いてきた。覚えてくれていたことに驚いた。「うん、あの時と変わらずに、元気だよ」と言った。「良かったあの花見たかったんだけど、見れないから嫌なんだ」と真っ直ぐ私の目を見て話した。「つんできてあげようか?」と聞くと、「いい、あの花は、あそこに咲いていなきゃダメなの。」と、涙目で言った。分かったよと、頷いた。「また会いに来るからね」と、今までで1番明るい笑顔を見せて帰った。
あの日からしばらくして、家に一通の手紙が届いた。知らない住所からだった。
『ノアが 死にました 。来てくれてありがとう。 』
信じられなかった。すぐには涙が出なかった。
まだあんなに小さくて、まだ瞳はすんでいたのに。
何時間か経って、大粒の涙が目からこぼれた。
私はあの草原へ行った「また会いに来るからね」
花に向かって呟いた。
あなたに思いを届けたい
第四話 その妃、ほくそ笑めば
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
人間は、浅ましく愚かだ。己の私利私欲を律する人間など、神に誓いを立てた僧侶や巫女くらいだろう。
正しく律せられるのも数える程度。実際にこの目で見たことなど、生きてきた人生で一度もない。
そんな人間ばかりならば、争い事など起こるはずもない。それは、俗世から切り離された小国も例外ではない。
「意にそぐわぬまま、迷い込んだ小鳥たちは何も、一羽二羽の話では御座いません。……我が麗しの小鳥も、恐らくはその類で有りましょう」
だからこそ、この妃にははっきりと、この心を届けておきたいと思うのだ。
膝を折り、面を上げぬまま、束の間の沈黙が訪れる。静かにそれを破ったのは、妃の方が早かった。
「それで、あんたは私に何を望むのかしら」
「小鳥に自由を」
「私を、ここから出したいと?」
言わずとも、この人ならば知っているだろう。
迷い込んだ小鳥たちが、一体どうなったのか。
それでもこの場所から、安全に飛び立って行ける術があることを。
「お望みとあらば」
ハッと、鼻で笑われる。
できないと思っているからではない。愚かだと、そう思ったのだ。
この、『小鳥を助ける』という、自己満足の繰り返しを。繰り返すだけで根本を正そうとしない、目の前の非力な男を。
「つまりは私をここから脱出させて、尚且つこの国から亡命させようとしてるってわけよね」
「はい。僕の全てを以て、あなた様の安全を保証すると誓いましょう」
「でもそれだけじゃ、全然面白くないわよね」
「……はい? 面白い?」
「あんたもそろそろ飽きてきた頃でしょう? その誓いも、何度も言い過ぎて薄っぺらいったらありゃしない」
そうして、目の前の妃はほくそ笑んだ。
「あんたは、今まで何を見てきたのかしら」
頬杖を突いて。
笑みを浮かべて。
「私、やると決めたらとことんやらないと気が済まなくって」
そして跪く男を指差して、言い放つ。
「吠え面かかせてやろうじゃないの」
「えー……」
美しさは変わらない。
けれど、どこか年相応に見えるその愉しそうな笑みに、捨てたはずの心が踊り出す。
あるわけない。
何事も、上辺で付き合うのが一番楽で後腐れないのに。
「何よ。何か文句でもあるわけ。あるって言っても、あんたはもれなく道連れだから」
「何でもないですよ。喜んで着いていきますとも」
月が沈む。
きっと寝惚けているせいだろうと、今はまだ、そう思うことにしておく。
これ以上、面倒事に関わるのは御免だから。
#あなたに届けたい/和風ファンタジー/気まぐれ更新