『「ごめんね」』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「ごめんね」
海辺を散歩しているときに拾ったボトルメール、
興味本位で読んだ手紙に、
ただその一言だけが書いてあった。
見知らぬあなた、その謝罪の気持ちは
誰に宛てたものだったのだろうか。
いつかその思いを、ちゃんと
相手に伝えられる日が来ることを願った。
実は辛いものが好きなんだ。
甘党の君に隠れてこっそり食べてた
始めてのデートは水族館
2人で考えたプランは最後まで楽しかった
雨の日
嘘をついてまでした相合傘
たくさんたくさん、喧嘩もしたね
意地を張って、最後におれてくれるのは君だっけ?
ねぇ、ほんとはほんとうは…
君の口から紡がれる愛を愛してた
だからね。
「ごめんね。愛してごめんね。ありがとう」
『…そこは貫き、とおせよ…』
#「ごめんね」
お題「ごめんね」
素直に言えるっていいよね
頑なになってゆく心が
ふっと溶けていく優しい言葉
人と人との緩衝材
使わなくっちゃ壊れちゃう
死ネタです。
嫌いな方はスルーお願いします。
『君とは付き合えない。ごめんね』
幼馴染の君から私へ渡された最期の手紙には、たった一言こう書かれていた。
とても歪な字で、鉛筆を握るのがやっとの字で。
私は君の、一番にはなれなかった。
その晩、私は布団の中で泣き続けた。
そして訪れたあの日。
たくさんの黒い服の人に囲まれた私は、白い箱の中、花に包まれた君の顔を見た。とても穏やかな顔をしていた。その後のことは覚えていない。
気がついたら、私はいつの間にか自宅に戻っていた。黒いワンピースに黒いパンプス。
なぜ私はこんな格好をしているのか、分からなかった。
三日後、ようやく私は自分がなぜこの服を着ているのかがわかった。そして、君のいない空っぽの世界があることを認めなくてはいけなかった。
その日から、勤務先の上司や同僚が心配をしてくれていたらしいけど、私はただ、大丈夫。と言っていたらしい。
その時のことは、後で聞いて初めて知った。
あれから無我夢中になって仕事に打ち込んで、数ヶ月後。
君のお母さんから、私の手元に手紙がやってきた。
「あなた宛に息子が書いていた手紙を見つけました。中は開けていませんが、きっとあなたに読んで欲しかったのだと思います」
一筆箋に書かれ、涙の跡もある手紙を読みながら、私は同封されていた白い封筒を、震える手で開いた。何度も書き直したのか、ぼろぼろになった便せんに鉛筆で、まだきれいな字の頃に書かれていただろう手紙だった。
大好きな君へ
最期に手紙を書きたくなりました。
君の手を取ることができなかった僕を許してください。
僕はあと少しで君と、必ずお別れすることを知っているから。
そして、この手紙を読む頃には、僕はもうここにはいないでしょう。
僕を好きと言ってくれてありがとう。
それだけで、辛くて苦しい日々も穏やかな気持ちでを過ごすことができました。
君が訪ねてくれたときは、本当に嬉しかったです。
君の顔を見るだけで、僕は元気になれました。
本当は、君と一緒にいたかった。
出来れば、君と一緒に歳を重ねたかった。
いつも嬉しそうに笑っているあなたが大好きです。
だからどうか、僕がいなくても
わらっていてください。
だいすきです。
最後の方はやっと書き上げたような、君の最後の手紙を読んで、私は涙が止めることができなかった。
お題「ごめんね」
【ごめんね】
その言葉だけで仲直り出来たら良かった。
そんな魔法の言葉なんて無かったと知った。
ごめんね、ごめんね、ごめんね。
幾ら言っても、無理だったよ。
遠くへ行ってしまった貴方。
「もう会えないんだ、ごめんね。」
そう言われたのが最後。
貴方は私を突き放した。
ごめんね、の一言で。
たくさんのごめんねがある
たくさん謝りたいことあるなぁ
会いたいなぁごめんね
なんだろう?
ここにもたくさん書きたいことあったのに
書きにこれなくてゴメンね。
tsutsuにもごめんね。
とても言いたいことたくさんあるんだけど
緊張するとつまりそうだから
ごめんね。
tsutsuに
毎日逢いたいって泣きながらもがいてる
会いに行けばいいのに…
何話したいらいいのか
ごもりそうでゴメンね。
ケド毎日tsutsuって思ってるんだよ。
#「ごめんね」
【「ごめんね」】
「ごめんね」
困ったように笑いそう言った。
そんな顔をされると何も言えなくなった。
ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
ごめんねのいみ
あのことこのこ
ことばにのせた
きもちがちがう
あのことこのこ
わたしはどっち
『ごめんね』
幼い頃あんなに口に出すのに勇気が要った「ごめんね」は今「大変申し訳ございません」に姿を変えて口からどばどば出ていくよ
ごめんはいらないから
好きって言ってよ。
どうしてよ、、、
『ごめん。、、』
海の底に沈んでしまったかのようにこの重い空気が
現実を突きつけてきては
私の心を酷く傷つける。
ごめんなんて聞きたくない。
違う、欲しい言葉は。
、、
好きってそういえば言われたことあったっけ。
ははっ、、。
「ごめんね。ちっとも上手に生きてあげられなくて」と伝えて。
否定形の笑顔でも欲しくて、人間様なりきってる。
高校生でもこんなことを呟くらしい。呟けるらしい。
羨ましいような、後ろ向きなような。
#ごめんね 2023/05/29
「久しぶり。」
ポツリと、誰もいない部屋に向かって言葉を放った。
和室。畳の匂いで充満していて、部屋はとても綺麗に整頓されていた。
簡易的な洋服クローゼット、大事な書類等が入っているであろう大きな箪笥。有名な書道家が書いたのだろうか、行書体で何て書いてあるか読めない掛け軸。
小さな頃から見慣れた、母の部屋だ。
生活感があるようでない、そんな質素な母の部屋が私はどこか苦手だった。
静かで寂しげな空気が、幼い頃の私には怖かったのかもしれない。
物が少ないせいか、母の部屋のものは全て覚えている。
一つ一つとの思い出を蘇らせながら、部屋を見渡していく。私の足がピタリとある場所で止まった。
母の部屋で私がいた頃までは無かったもの。
_______仏壇だ。
そこには、誰かが先に来て生けておいてくれたのであろう母が好きな花と、母の戒名、そして、にこやかに笑う母の写真があった。
厳しい母だった。
行儀作法はもちろん、勉強や交友関係、色んなものに口を出す所謂〝過保護な母親〟でもあった。私が幼い頃に父親とは離婚していたので、女手一つで育てていたが故だろう。
過保護に、そして厳しい躾をされていた私は、当然ながら楽しい学生時代を送ることはできず、勉強と習い事に貴重な青春を費やしていった。
そんな生活を続けて、私が母の事を好意的に見れるはずもなく、昔から母のことが嫌いだった。
小学生の頃は〝怖い〟という感情の方が大きかったが、中学生に上がり多感な時期に入ってくると、嫌悪の感情も同時に湧き上がってくるようになった。
しかし、母娘という関係であるのと、養ってもらっている手前、下手に逆らうことができず、仕方なく母の言う通りにするしかなかった。
大学に上がると同時に、家を出た。
友達と勉強するから、と適当な理由をつけてバイトをしながら、一人暮らしできる物件を探していたのだ。
塾に通いながら、母の見つからない遠くのコンビニでバイト、正直倒れるんじゃないかと言うくらい体を酷使した。
「あの母親から離れる為なら。」
その言葉を支えにしながら日々をこなし、無事家から出ることに成功したのだ。
そうやって大学、社会人、と今に至るまで家には帰らなかった。
家出同然で出ていったのだ、帰れるはずもない。
帰りたい、と思うことも全くなかった。
そんな私が、何故この家へ帰ってきたのか。
それは、自分の中でけじめをつける為だった。
静かに母の仏壇へと近づき、しゃがみ込む。
写真の母と目線を合わした。
「そんな風に笑えたんだね。」
私は母の笑った顔を見たことがなかった。
いつも、眉間に皺を寄せて難しそうな顔をしていて、母娘らしい会話もせず、二人で笑い合ったこともなかった。
この人は笑うことができないんだなと、呆れたほどだ。
正直仏壇の写真を見て、別人の誰かなんじゃないかと思った。
しかし、その顔はまさしく母だった。
「今日は、報告があって来ました。」
正座に座り直して、再び母に語りかけた。
緊張もあるのか、声が上擦る。
「私、結婚したの。5年前に。それでね、今…」
言葉が出てこなくて、自分のお腹をさすった。
今、この中には生命が宿っている。
「私もあなたと同じ、母親になります。でも、絶対あなたのような母親にはならない。」
不思議と落ち着いて話せていた。
子供を授かったとき、これだけは言いたかった。
本当は直接言ってやりたかったのだけど、それも叶わなかったので、今日ここに来たのだ。
我ながら根深いなと思うが、これくらい許してほしい。
線香もあげ、用事も済んだので家に帰ろうと立ち上がると、玄関からガチャリと言う音がした。
母の部屋から玄関を覗くと、40代くらいの男性がゆっくり入ってくるのが見えた。
「お、いたいた。やっぱり来ていたんだねぇ。」
男性は私の顔を見るなり、にっこりと微笑み、話しかけてきた。
「久方ぶりです。」
「いつぶりだっけ?姉さんの葬式には来てなかったから、それよりも前かぁ。」
この人は、母の弟。私の叔父にあたる。
今日、この家に来ることを念の為連絡しておいたのだ。無断で入って通報とかされても困るし。
「姉さんも久しぶりに娘に会えて嬉しかっただろうね。」
能天気に母の仏壇を見ながら、にっこりと笑う。
そんな久しぶりに会えた娘からは啖呵を切られて、母は散々だろうな。
まぁ、後悔はしていないが。
苦笑いをしながらその場を流す。
「あ、そうだ。」
叔父は思い出したかのように、自分の持っているバックを漁り出す。
「これ、姉さんが病院で最後まで手放さなかったやつなんだけどさ。覚えてる?」
叔父が取り出したのは、一枚のボロボロになったタオルだった。
所々破けていて、布切れにしか見えない。
「それ……」
「これね?入院してたとき、ずっと肌身離さなかったの。洗濯するからって言ってもね、絶対嫌だって。」
そのタオルには見覚えがあった。
まだ純粋な小学生だった頃。
家庭科の授業で、親御さんに何かを作って日頃の感謝を伝えよう。そんな授業があった。
厳しい母に何を送ればいいのかわからなかった私は、簡単に作れるタオルを贈ることにした。
あって困るものじゃないだろうと、そう考えたからだ。
何も考えずに作ったからか、つまらない質素なものになった。それでも、学校の課題だと言えば受け取ってくれるだろう。
「お母さん、あの、これ……」
緊張しながらも、母に渡した。
___しかし、そのタオルは静かにゴミ袋へと入れられた。
「布がよれてる、縫い目もズタズタ、あなた、お裁縫も碌に出来ないの?」
冷たい目と、静かな声で母はそう言い放った。
「こんなの使えもしない。」
ゴミ袋に詰めると、母は何事もなかったかのように家事の続きを始めた。
忘れもしない、それが私の心が壊れた瞬間だった。
捨てられたはずのタオルが何故、こんなところにあるのか、不思議でしょうがなかった。
しかも、肌身離さなかったということは、とても大切にしていたということだ。
「なんで、それが……」
「姉さん、このタオルずっと持ってたんだよ。君がくれたその日から。」
訳がわからなかった。
あれだけ罵倒した、この布切れを?
使い物にならないと、目の前でゴミ袋に入れたこの布切れを?
頭が混乱して、言葉が出ない私に叔父は一つの手紙を出した。
「え?」
「これ、姉さんから。君宛てだよ。」
差し出された手紙を恐る恐る受け取る。
母から手紙なんて貰わなかったし、送りもしなかった。
今までなら、どんな罵詈雑言が書いてあることかと手紙を開けずに捨てていたところだが、今昔からの母のイメージが崩れつつあり、どんなことが書いてあるのか、気になってしまったのだ。
茶封筒の封を切り、手紙に目を通す。
母の字なんて、きちんと見たのは初めてだった。
きっちりと綺麗な母らしい字だった。
書いてからしばらく経っているだろうに、母の匂いがほのかにした様な気がした。
手紙を一通り読み終えた私は、頭が真っ白になっていた。こんなものを残していたなんて。
沸々と湧き上がる感情を抑え込むことができることはなく、叔父の手からタオルを奪い、母のいる和室へと足早に入った。
「あのさぁ、ふざけないでよ!こんな布切れ、大事にしてさぁ……!」
気づいたら、勢い任せに仏壇に向かって怒鳴っていた。
今まで言えなかった言葉がつらつらと出てきたのだ。
「使い物にならないんでしょ?一度捨てたものをわざわざとっておかないでよ……こんな手紙まで書いてさ、何?これで許してって?馬鹿じゃないの!?」
だんだん声が大きくなっていく。
後ろの叔父も、静かに見ていた。
「今更なんだよ!どれだけ苦しかったと思ってんの?どれだけ傷ついたと思ってんの?欲しかったのは、そんな言葉欲しかったのは今じゃないのよ!!こんな……こんな……」
だんだん声も小さくなっていき、気づいたらボロボロと涙が出ていた。
「何も言えなくなってから、言わないでよぉ……」
座り込んで、わんわんと泣いていた。
堰き止めていたものがなくなり、私は子供のように泣き出した。母を亡くしてから、初めて泣けた。
叔父は、優しく背中をさすってくれていた。
手紙とタオルは私の涙でぐしゃぐしゃになった。
娘へ。
こんな風に手紙を出すのは初めてですね。
あなたが家を出ていってから、10年以上経ちました。元気に過ごしていますか?
正直何を書いたらいいのか分からないの。
でも、ずっとあなたのことが心配でならなかった。
あなたをきちんと愛せなかったことを、ずっと後悔してた。
言い訳をするのであれば、お父さんと別れてから、あなたを立派に育てなくては、って必死だったの。
女手一つだからって、あなたに不自由な将来を送ってほしくなくて、厳しく接してしまったわ。
その中でも、あなたが一生懸命タオルを作ってくれた時、冷たく貶してしまったのは本当に申し訳なかったと思ってる。とても嬉しかったのに、甘やかしてはいけないって冷たく突き放してしまった。
本当は、ありがとうって言いたかったのに。
いらない意地を張っていたの。母親として最低な事をした。
勝手かもしれないけれど、そのタオルはずっと私の宝物です。あなたがくれた唯一のプレゼントだから。
他にも沢山あなたにキツく当たってしまった。
きっとあなたにとっては、最悪の母親でしょう。
この手紙を読む頃、きっと私はもういないかもしれないけど、どうかこの言葉だけは伝えたい。
私の元に生まれて来てくれてありがとう。
そして、ごめんね。
母
#ごめんね
「ごめんね」
あの時、とれば良かった
今でも後悔してる
また次の機会があるかなって
動くと邪魔しちゃうかなって
静かに見守ってたけど…
お願い、もう一度やって欲しい
もう一度、「ごめん寝」して!
アンモニャイトでもいいよ~
~~乗り遅れ~~
半袖
貴方の半袖は
私の七分袖
貴方の半ズボンは
私の七分丈
私の精一杯は
貴方の頭1つ分下
だから、屈んでくれないと
私からは届かないよ
~~乗り遅れ~~
天国と地獄
かつて、ここは天国だった
人々が行き交う姿を見下ろし
夜景を眺めては悦に浸っていた
しかし、今は地獄だ
遥か上から見下ろされ
誰かが悦に浸って見ている
夜景の一部になってしまった
そう…、
入居当時は高層を謳っていたうちのマンション近くに
最近、超高層マンションが建った
やだよ、おまえが言ったんだよ、ごめんねって言うのはこれからもぼくと仲良くしたいってことだって。
ちがうじゃん。
いいよって言ってもいなくなっちゃうなら、なんでごめんねなんて言うの。
うそつき。大嫌い。一生ぜったい許さないから。
ごめんねってずっと言ってよ。
テーマ:「ごめんね」 #197
ごめんね。
なんて、言ってやるか。
今回ばかりは絶対に折れない。
だって僕は悪くないもん。
兄ちゃんだからっていつもいつも、
僕が謝れって言われるけど。
悪いのは僕じゃない。
いっつも都合が悪くなると母さんに引っ付くの、
なんなんだよ。
母さんに引っ付けば許されるんだったら
僕だって……。
妹は僕を上目遣いで見ている。
何なんだ。
言いたいことがあるならはっきり言え。
そう言わんばかりに睨みつける。
すると目を真っ赤にした妹が小さく呟いた。
「ごめんね」
あなたに言えなかった「ありがとう」
あなたに言いたかった「ありがとう」
あなたに言えなかった「愛してる」
あなたに言いたかった「愛してる」
あなたに言いたかった「ごめんね」
傷つけたことに対する「ごめんね」
どれを後悔しても
あなたは戻ってこないから
今日も私は
あなたが気に入っていた椅子の向かいに座り
あなたが気に入っていた紅茶を嗜む
あなたは紅茶に角砂糖を必ず二つ入れていた
あなたと同じようにすることで
あなたがいた時間を再び取り戻せると思った
「ありがとう」も「愛してる」も「ごめんね」も
もう二度とあなたに言えなくなった日から
いつもその紅茶は、少しだけしょっぱい味がした
「ごめんね。」
そんな声が、聞こえた気がした
___ 7 「ごめんね」
「ごめんね」謝ること多かったが、それ本当に謝ること?最近我が身を振り返る。
開き直って謝るべきこと、を謝らないのは良くないけど
謝りすぎるのも問題かも…。卑屈なのも悲しくなってくる。
一方、心がこもらなさすぎるのも、言う方も聞く方も虚しくなってくるし。
謝るのはともかくその後どのように行動を変えるか?そっちが重要だよね〜。
関係ないけど、この一つ前のお題「半袖」。送るか迷ってるうちに過ぎちゃったな。
蒸し暑いし、ぼちぼち半袖に変えていこう。
おしゃれなプリントTシャツとか、いろいろ試したい!
もっと、あなたのいいところを見てあげればよかった。
もっと、好きって言えばよかった。
もっと、ずっと一緒にいたかった。
【2023/05/29 ごめんね】
こんなに生きたのに
他人の気持ちって分からない
知らない物語はたくさんあるんだね
思い出してイライラするあの恋も
本当は私の間違いだったのかも
嫌だな、空しくなるな
久しぶりにあなたのインスタを覗いてしまった
でもね、悔しくないよ
優しい気持ちで見られたよ
#「ごめんね」
「急に呼び出して、ごめんなさい。」
少女がうつむいたまま呟くのを、少年は黙って聞いていた。
夕闇の中、鮮やかに浮かび上がる夜の街を見下ろす。
いつもと同じ、窮屈で、ちっぽけで、美しい街。
けれど、目の前の少女だけは様子が変で、大丈夫だよ、の一言が言えなかった。
「あのね」
そう言って顔を上げた少女の眼差しに、少年は思わず口を開きかけ、慌てて強く唇を噛む。
なんでもいい、ただ続く言葉を遮りたかった。
その先を聞いたら何かが壊れてしまう、そんな予感がするのに、少女を止める術がない。
「お別れを言いに来たの。もう二度と、会えないと思うから。」
少女はゆっくりと、一語一語を紡ぐように言った。
はっ、と小さく息を漏らしたきり、何も言えない少年を真っ直ぐ見つめるその瞳は、返す言葉を許さなかった。
「ごめんね、本当にごめんなさい。今までありがとう。」
「…っ待てよ!」
ぺこり、と頭を下げて逃げるように立ち去ろうとする少女の細い手首を少年が掴む。
「どういうことだよ、こんな急に言われたって…わけがわからない、なんで」
「ごめん」
震えた声が、小さく、しかしはっきりと少年を阻む。
「ごめんね」
その、涙の一滴すら浮かんでいないのに何故か泣いているように見える、そんな知らない微笑みで、少年は否応なくわかってしまった。
少女の言うすべてが真実である、と。
夜の街が、少女の綺麗な笑顔を照らす。
する、と薄絹がすべるように少年の手をすり抜けて、少女は今度こそ駆け出した。
けれど、手を振り解くその一瞬、少女の表情に微笑みとは別のなにかを見た気がして。
「サヤ!」
少年が縋るように叫んだ少女の名は、届くあてもなく藍と灰の溶ける虚空に散った。
-「ごめんね」-