雪の灯

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「急に呼び出して、ごめんなさい。」

少女がうつむいたまま呟くのを、少年は黙って聞いていた。
夕闇の中、鮮やかに浮かび上がる夜の街を見下ろす。
いつもと同じ、窮屈で、ちっぽけで、美しい街。
けれど、目の前の少女だけは様子が変で、大丈夫だよ、の一言が言えなかった。

「あのね」

そう言って顔を上げた少女の眼差しに、少年は思わず口を開きかけ、慌てて強く唇を噛む。
なんでもいい、ただ続く言葉を遮りたかった。
その先を聞いたら何かが壊れてしまう、そんな予感がするのに、少女を止める術がない。

「お別れを言いに来たの。もう二度と、会えないと思うから。」

少女はゆっくりと、一語一語を紡ぐように言った。
はっ、と小さく息を漏らしたきり、何も言えない少年を真っ直ぐ見つめるその瞳は、返す言葉を許さなかった。

「ごめんね、本当にごめんなさい。今までありがとう。」

「…っ待てよ!」

ぺこり、と頭を下げて逃げるように立ち去ろうとする少女の細い手首を少年が掴む。

「どういうことだよ、こんな急に言われたって…わけがわからない、なんで」

「ごめん」

震えた声が、小さく、しかしはっきりと少年を阻む。

「ごめんね」

その、涙の一滴すら浮かんでいないのに何故か泣いているように見える、そんな知らない微笑みで、少年は否応なくわかってしまった。
少女の言うすべてが真実である、と。

夜の街が、少女の綺麗な笑顔を照らす。

する、と薄絹がすべるように少年の手をすり抜けて、少女は今度こそ駆け出した。
けれど、手を振り解くその一瞬、少女の表情に微笑みとは別のなにかを見た気がして。

「サヤ!」

少年が縋るように叫んだ少女の名は、届くあてもなく藍と灰の溶ける虚空に散った。


-「ごめんね」-

5/29/2023, 1:46:59 PM