春、過ぎた日を思う
過ぎ去った春を思い出すと、いつも身に纏う空気が薄い桃色だったような気がする
新緑と、美しい川べり
僕は座っていて、薄く細い髪を靡かせる君を見てる
夏、過ぎた日を思う
過ぎ去った夏を思い出すと、あれほど身を焼いた熱の辛さだけを忘れて、それを冷ますかのように鮮明な空と緑
口に含んだ氷菓と、古めかしい縁側
僕の後ろ、ぎしりと音を立てて歩く君が笑う
秋、過ぎた日を思う
過ぎ去った秋を思い出すと、口の中になにかこっくりとした穀物の甘みを感じられるようだ
音を立てて歩いた紅葉の道と、秋雨の降る日
わずかに濡れた君と、それに見惚れる僕
冬、過ぎた日を思う
過ぎ去った冬を思い出すと、足元から登ってくるような冷気に身が震えそうになる
触った雪と、君の冷たさ
去り行く季節に思いを馳せる僕
星を辿ってみて
さあ何が見えるかな
雄々しい男神の怒れるお姿か?もしくは、聖水の湧き出る柄杓が
天の川を悠々と飛ぶ美しき白鳥が、
白いヴェールで繋がれた2匹の魚が
猛々しく尾をあげる蠍が、君の目には見える?
あぁ、見えないとも
星を繋いで物語を綴ろうにも
僕らの目に届く光はそれには足りないだろうから
昔はもっと沢山あったんだよ
いまは88個に随分と減らされてしまったけれどね
全て人間の都合の、人間の編み出した物語なのだから
今、僕たちで丁寧に星を辿って
名前をつけてみようか
踊りませんか?
ふと落とされた言葉に、はたと顔を挙げ声のした方を見ると
その言葉を落とした人物はこちらを向いていない
場にそぐわぬ言葉だ、と、そのまま彼の顔をじっと見つめた。
夜も深い。終電はとうの昔に過ぎていった。そして始発までちょうど折り返しほどだろうか
ここはそう都会ではない。だが、何時になっても駅前は明るい。始発ほどまでやっているカラオケもBARもある。
まぁ、私達はそこへは行かずにこうして公園にあるブランコに腰掛けて、手には500mlのアルコール飲料を持ちながら駄弁っていたのだが。
酔いも回り、ふと数分、無言の時間が流れる
居心地が悪いわけでもなかったが、まったく気にならないほどではなく、さて次は何を話そうかと思考を巡らせていた所だった。
件の台詞がこぼれ出たのは
彼は依然としてこちらを見ないでいる。前を向いているから、私からは表情が読めない。
意図はわからないが、どうやらシャル・ウィ・ダンス…と彼は言いたいようだ。
私は遊具から立ち上がり、彼の顔が正面から見える位置まで歩いてしゃがみ込んで、首を傾げた。
彼はその行動を目で追っていたが、私の顔にやっと焦点をあわす。
また少々無言の時間が流れたが、彼はやっと重い口を開いた
こんな夜に あなたと踊りたい
私は笑ってしまった
その言葉の意図なんかひとつも分からなかったのに
彼の目や、表情や、身振りひとつで、
この不器用な男の気持ちが分かってしまったからだ。
私は立ち上がって、男の手を取った。
ええ、踊りましょうか、と笑いながら。