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踊りませんか?

ふと落とされた言葉に、はたと顔を挙げ声のした方を見ると
その言葉を落とした人物はこちらを向いていない
場にそぐわぬ言葉だ、と、そのまま彼の顔をじっと見つめた。

夜も深い。終電はとうの昔に過ぎていった。そして始発までちょうど折り返しほどだろうか
ここはそう都会ではない。だが、何時になっても駅前は明るい。始発ほどまでやっているカラオケもBARもある。
まぁ、私達はそこへは行かずにこうして公園にあるブランコに腰掛けて、手には500mlのアルコール飲料を持ちながら駄弁っていたのだが。

酔いも回り、ふと数分、無言の時間が流れる
居心地が悪いわけでもなかったが、まったく気にならないほどではなく、さて次は何を話そうかと思考を巡らせていた所だった。
件の台詞がこぼれ出たのは

彼は依然としてこちらを見ないでいる。前を向いているから、私からは表情が読めない。
意図はわからないが、どうやらシャル・ウィ・ダンス…と彼は言いたいようだ。
私は遊具から立ち上がり、彼の顔が正面から見える位置まで歩いてしゃがみ込んで、首を傾げた。

彼はその行動を目で追っていたが、私の顔にやっと焦点をあわす。
また少々無言の時間が流れたが、彼はやっと重い口を開いた

こんな夜に あなたと踊りたい

私は笑ってしまった
その言葉の意図なんかひとつも分からなかったのに
彼の目や、表情や、身振りひとつで、
この不器用な男の気持ちが分かってしまったからだ。

私は立ち上がって、男の手を取った。

ええ、踊りましょうか、と笑いながら。

10/4/2024, 4:12:21 PM