今日産まれた赤ちゃんは
1年後には歩いているかもしれない。
大人になると1年は短く感じるし
子供の頃のように大きな変化は感じないけれど
きっと1年後のわたしは
今日より素敵になっている。
子供の頃は
わたしはお姫さまで
ペガサスや動物がお友達で
魔法が使えて
世界の中心にいた。
いつの間に
わたしはお姫さまじゃなくなって
ペガサスや動物たちはいなくなって
魔法の力は消えてしまって
モブキャラクターみたいな気分で
世界を見るようになってしまったのだろう。
鳴り響く目覚まし。
慌ただしい朝ごはん。
着慣れたいつもの服を着て
最低限の身だしなみを整える。
玄関を飛び出して
すれ違う小学生の笑い声を背景に
早足で最寄り駅へ向かう。
ごった返す人の波。
押しつぶされそうな満員電車。
やっとの思いで目的地に着いて
一息つく暇もなくやるべきことが始まる。
そんな忙しない日常だけど。
目覚まし時計の音。
朝ごはんの味や食感。
服の肌触りや髪に櫛を通す感覚。
靴を履いた足の圧迫感。
玄関を出た時の陽の光。
歩く足の動きや呼吸の変化。
ごった返す人を見たり
満員電車で押し潰されたときの不快感。
その不快から解放された安堵感。
やるべきことに向かう気合いと
面倒くささと義務感と…。
その裏に豊かな感覚の世界もある。
畑に実った苺の赤色。
公園の隅で見つけたクローバーの緑色。
見上げた空の青色。
風で舞い散る花びらの桜色。
池に浮かぶ水鳥の白色。
ひらひら飛んでる蝶々の黄色。
足元に咲いているすみれの花の紫色。
地平線に沈む夕日の橙色。
春の色をキャンディにして
ガラスの瓶に詰め込んで
お部屋に飾っておきたいの。
きっとキラキラひかって綺麗だわ。
放課後の教室が好きだ。
いつもはザワザワ騒がしいこの場所が
今はシンと静まり返っている。
遠くから運動部の人たちの声が
微かに聞こえてくるくらい。
傾きかけた陽の光がキラキラ輝いている。
わずかに開けた窓から吹き込む風が
薄いカーテンをヒラヒラと揺らしている。
この窓際の席は夕焼けのグラデーションを
独り占めできる特等席。
誰にも邪魔されないこの時間と空間が好きだ。
図書館で借りた本を読んだり
宿題や自習をしたり
今みたいにただ空を眺めていることも多い。
ふと、足音がこちらに近付いていることに気付く。
こんな時間に校舎の端のこの教室までくるのは珍しい。
足音が止まり教室の扉が開かれる。
現れたのは、たまに話すクラスメイトだった。
特別に仲が良いわけではないが
いつもニコニコしていて話しやすい子だ。
「どうしたの?忘れ物?」
目が合ったので、問いかける。
相手は、下校時刻の過ぎた誰もいない教室に私がいても驚いた様子はなく
ふんわり笑ってこう言った。
「あなたがいたから」