ここ

Open App
4/6/2025, 11:15:16 AM

「そろそろ、同じところから離れない?」

貴方は、長い間居座っているこの環境に、少し飽き飽きしているみたい。

「でも、新しいところは、何が起こるかわからないじゃない」

「私たち、ずっと同じところで経験値を貯め続けて、レベルも沢山あがったと思うの。ほら、もっとレベルを効率よくあげるなら、場所を変えなきゃ」

「言いたいことは、分かるんだけれど……もし、レベルが足りなかったら?」

「私たちのレベルなら、新しい地図を手に入れられると思うの。ずっと同じところにいても、物語は進まないよ?」

いつだって、貴方は冒険好きだった。

確かに、新しい地図を手に入れるための力を、私たちは持っているのかもしれない。

この環境に飽き飽きしていたのは、貴方だけではない。

「じゃあまずは、情報収集だね」

私がそう言ったら、貴方はすぐに目を輝かせて、元気よく返事をした。

新しい地図を手に入れるために、未知の世界へ旅立つために、私たちは準備を始めた。

4/5/2025, 11:05:49 AM

「好きだよ」

1度は言われてみたかった言葉。

だから、みんなが好きそうな私を、演じた。

何だって、演じて見せた。

でも、あの言葉を聞くことなんてなかった。

その時、気づいた。

「私、誰かに好きだよって、言ったことあったっけ」

無いことは無い。でも、私は自分自身に対しては、1度も言ったことがなかった。

本当の自分は見失ってしまったけれど、絶対、心の中のどこかにいる自分に、叫んでみる。

『好きだよ』

4/5/2025, 7:53:01 AM

桜のように、儚くなれたらと思う。

「なんで?」

「そうすれば、みんな、大切にしてくれるから」

貴方の目も見ずに、私は桜を見上げながら言った。

1年の短いうちしか咲かない桜は、咲いている姿も、散っていく姿も美しい、と思う。

でもそれは、この桜の人生は短いものだと、儚いものだと知っているから。

「貴方の言う皆が、貴方を大切にしなくても、私が貴方を大切にする」

私は貴方の顔を、見つめた。

貴方の顔は、声は、言葉は、こんなにも、頼もしくて、凛々しいのに。

桜のように、美しいのに。

「それじゃ、駄目かな?」

なんで私は、こんなに弱いんだろう。

桜のように、儚くなりたかったのに、桜は私の想像以上に強くて、頼もしくて。

「駄目なわけ、ない」

私の顔は、声は、言葉は、頼りなくて、臆病で。

そんな私の目から流れ出る涙を、私の口から溢れ落ちる言葉を、今まで何度も、貴方は優しく拾い上げてくれた。

「貴方みたいな、桜になりたい」

咲いている姿も、散っていく姿も美しい。

そんな桜に、なりたい。

4/2/2025, 1:28:47 PM

空に向かって、呟いてみる。

「空の向こうには、どんな世界が広がってるのかな」

まだ、自分のいる世界すらまともに知らなかったあの頃の私は、たくさんの妄想を描いていた。

空の上には、ユニコーンやドラゴンみたいな珍獣がいて、争い事は一切なく、みんなで楽しく鬼ごっこをしたり、昼寝をしたり、歌を歌ったり……

そんな世界を、想像していた。

今の私は、どうだろうか。

「こんな世界よりも、幸せな場所だったらいいな」

争い事がない、優しい世界。

具体的にどんな世界かなんて分からない。

もう、考えられない。

行ってみれば、分かるでしょう。

3/25/2025, 12:37:00 PM

記憶は時に、栄養となり、毒となる。

「寝る前に嫌なことがフラッシュバックするのは、なんなんだろうね」

「多分、その時傷ついた部分が、後になって痛みとしてやってきてるんじゃない?」

「時差が発生してるのね」

「ただの憶測だけれどね」

「もう、嫌な事なんか忘れて、嬉しかったことだけ覚えていたいな」

「多分、嫌な記憶も、量を間違えなければ栄養になるんだと思うの。致死量を摂取してしまったら、体中に毒が回ってしまうけれど」

「その一つ一つが、猛毒性が高かったら?」

「その人の耐性によるけれど、ほとんどの人は、毒にやられてしまうかもね」

記憶という毒は、表に現れず、ゆっくりと体を蝕んでいく。

Next