「ねぇ、あの話書き終わった?」
小説を書くのが趣味な貴方。貴方はこの前、力作が出来そうと、目を輝かせ声を弾ませていた。
「実は、まだ」
貴方は、ただそれだけ言った。でも、どこか悩んでいるようにも見えた。
「へぇ、 なにか行き詰ってるの?」
「うぅん、話の構成もオチも決まってるし、あとは書くだけなの」
「じゃあ、ほぼ完成してるようなもんじゃない」
私がそう言っても、貴方はまだ浮かない顔をしている。私は貴方の返事をゆっくり待った。
お月様が、夜の海を無機質に泳いでいる。その周りにはキラキラ光る深海魚たちもいる。星座に詳しくないけれど、オリオン座がある事だけわかる。でも、無数に光るそれらは、冬でしか味わえない儚さを感じさせる。
すると、貴方はいきなり口を開いた。
「この物語を、終わらせたくないの」
「終わらせたくない、って?」
「最近の楽しみが、この物語を書くこと、考えることだったのに、こんなあっさり終わらせていいのかなって」
それを聞いた時、あぁ、貴方っぽいなと思った。
物語の終わりは、貴方にとって生きる意味を失うことになるのかもしれない。
「この物語は、私が死ぬまで終わらない物語にしたいの」
誰にも読まれなくたっていい。と、貴方はよく口癖のように言っていた。小説を書くのは、自分を見つけるためであって、他人に見せるためではないと。
もしかしたら、見つかりそうなのかな。なんて、思っても見るけれど、きっとまだまだ時間はかかるだろう。
それを私は、こうやって静かに見守り続けていこうと、静かに決心した。
手のひらで目を塞ぐと、沢山の光が暗闇の中を飛んでいるのが見えた。
小学生の頃の私には、それが面白くて、楽しくて、教室の中でキャッキャと騒いでいた。
他の子にどうしたの?と言われたから説明しても、誰もこの不思議な現象を分かってくれなかった。
だから、幼いながらに、あの頃の私は、自分の手のひらにしかない宇宙を見て目を輝かせていた。
手のひらの宇宙には、蛍みたいにのんびりと動いている星や、様々な色に変わる星……沢山の個性的な星たちが輝いていた。
自分にしか分からないものは沢山あったけれど、それでよかったのかもしれない。
それが、私自身だったのだから。
透明な涙ってなんだろう。
涙って、透明なものじゃない?
でもきっと、ここで言いたいのは輪郭もない、目では見えない涙なのだろう。
きっとそれは、心が流す涙なのだろう。
見えないから、その人を傷つけていることに気づかないのだから
初夢。
貴方と笑顔で話した、あの一時。
自分の思いに気づいてから、貴方の前で笑えなくなった。
でも、夢の中なら笑えた。
あの夢のつづきを求めて、私は今日も鏡の前で下手くそに笑うのです。
「一緒に将来の夢を追いかけようよ」
「一緒に同じ高校と大学行こうね」
「一緒に同じところに住みたいね」
一緒にって、結構幼稚な約束事だけれど、それでも私には嬉しかった。
全部叶わなかったけれど。
君と一緒に、今度はお互いの夢を語り合って、笑い合いたいね。