「ねぇ、あの話書き終わった?」
小説を書くのが趣味な貴方。貴方はこの前、力作が出来そうと、目を輝かせ声を弾ませていた。
「実は、まだ」
貴方は、ただそれだけ言った。でも、どこか悩んでいるようにも見えた。
「へぇ、 なにか行き詰ってるの?」
「うぅん、話の構成もオチも決まってるし、あとは書くだけなの」
「じゃあ、ほぼ完成してるようなもんじゃない」
私がそう言っても、貴方はまだ浮かない顔をしている。私は貴方の返事をゆっくり待った。
お月様が、夜の海を無機質に泳いでいる。その周りにはキラキラ光る深海魚たちもいる。星座に詳しくないけれど、オリオン座がある事だけわかる。でも、無数に光るそれらは、冬でしか味わえない儚さを感じさせる。
すると、貴方はいきなり口を開いた。
「この物語を、終わらせたくないの」
「終わらせたくない、って?」
「最近の楽しみが、この物語を書くこと、考えることだったのに、こんなあっさり終わらせていいのかなって」
それを聞いた時、あぁ、貴方っぽいなと思った。
物語の終わりは、貴方にとって生きる意味を失うことになるのかもしれない。
「この物語は、私が死ぬまで終わらない物語にしたいの」
誰にも読まれなくたっていい。と、貴方はよく口癖のように言っていた。小説を書くのは、自分を見つけるためであって、他人に見せるためではないと。
もしかしたら、見つかりそうなのかな。なんて、思っても見るけれど、きっとまだまだ時間はかかるだろう。
それを私は、こうやって静かに見守り続けていこうと、静かに決心した。
1/25/2025, 11:23:00 AM