貴方はいつも、人混みの中で私と手を繋いでくれるよね。
「だって、背が小さいからどこにいるか分からなくなるんだもの」
「なにそれ。背が高いのが悪いんじゃん」
「はいはい。ほら、こっち」
私は方向音痴だから、貴方のそばにいないとすぐに迷子になっちゃう。
「それに、貴方急にどっか行っちゃいそうで怖いんだよね」
「どういうこと?」
「いつもぼーっとしてるし、色々溜め込んじゃうし。そのうち夜逃げしそう」
「それとこれとは話別でしょ」
「ううん、違くないよ。これで貴方はひとりじゃないって、思えるじゃない」
なにそれ、私はまた小さく笑いながら言った。
今度は私から、手を繋ぎたいな。
貴方はいつも謝ってばかり。
謝る必要なんてないのに。
「謝らなくていいんだよ」
そう言ったら、貴方は泣きながら、
「ありがとう、ごめんね」
だってさ。
もう、だから謝らなくていいのに。
部屋の片隅で、こっそり想像する。
私に彼氏が出来て、沢山愛されて、幸せな日々を送る妄想。
あぁそうか、これは妄想なのか。
勝手に1人で寂しくなってる。
どうして、今になってこんな寂しくなるの。
慌ただしい夏が終わって、ようやく秋っぽくなったと思ったら、もう季節は冬になるらしい。
「冬になったら、何やりたい?」
「うーん、何もしたくないなぁ」
「冬眠?」
「あ、いいね。冬眠したい」
今年の夏、貴方は忙しそうにしていたから、燃え尽きてしまったのかもしれない。
涼しくなり始めてから、貴方はなんだか元気がなさそう。
「冬が一番好きなのに、夏で全力出しすぎた」
「部活も勉強も頑張ってたしね」
「頑張れてたのかなぁ。大した結果は出なかったし」
「じゃあ、今年の冬は来年に向けて冬眠だね」
「そうもいかないよ。来年に向けて頑張らないと」
「一睡もしなかったら、いつか倒れちゃうよ」
「だって、みんな、急かすんだもの。私だって、出来たら布団でぬくぬくしてたい」
貴方は冗談っぽく笑ってみせる。
いつも、冬になったら笑顔が耐えなくなる貴方なのに、今年は、なんだかいつか消えてしまいそうな、そんな弱々しい笑顔だった。
「あれ、子猫なんて飼ってたっけ?」
「拾ったの。親猫が、この子の近くで亡くなってたから」
相変わらず、貴方は優しい。
スマホに映し出された、小さな三毛猫の写真を、貴方は愛おしそうな目で見つめていた。
「それに、三毛猫って、よく幸運を呼ぶとか言うじゃない?私はこの子自身が、私自身の幸運なんじゃないかなって思うの」
相変わらず、貴方は難しいことを言う。
とても小さくて、ボロボロな幸運でも、貴方はすぐに気づいて優しく拾い上げる。傲慢な私とは大違い。
そんな貴方の笑顔は、子猫のようにどこか愛おしく思えた。