「どうせ合わなくなるんだから!当たって砕けろ!」
そう言って送り出した後、身体の力が抜けていくのを感じた。
アイツがあの子を好きなことも、両思いなことも知ってる。
本当は、引き止めたかった。『当たって砕けろ』、なんて。
「自分は出来ないくせに、偉そうに…」
嘘だよ行かないで、私でいいじゃん、って、言えたら良かったのかな
それができないからこんな事になってるのに、未練がましい。
『やばい付き合えた…マジで奇跡なんだけど!前から好きだったから嬉しい!』
LINEの文面を見て、余計に辛くなる。
私の方がずっと前から好きだったよ。
そう打って、留めておいた。だから、指が送信に触れてしまったのは、間違い。一縷の望みにかけたなんて事じゃない。
画面に既読の文字がついて、数秒。
『え?笑エイプリルフールだからって騙されねーよ笑笑』
ああ、こいつは本当に。
この鈍さが憎くて、愛しくて、どうしようもない。
「も〜そこは騙されろよ!リア充おめでと!笑」
こんなの、本心とは真逆だ。
いや、これが本心なんだ。そう思わないと、辛い。
文字の私は、アイツの恋を応援する良い幼なじみ。本物の私は、好きの一言も言えない意気地無し。画面の中の私になれたら、どんなに良かっただろう。
「嘘だよ、ばーか」
スマホの画面が、ぼやけて見えた。
お題『エイプリルフール』
可愛いね
可愛いね
良い子になんかならなくていいよ
周りに合わせなくていいよ
したいようにしたらいいんだよ
どんな君も大好きだよ
愛してるよ
美味しいご飯食べてね
綺麗な景色見てね
お風呂浸かってね
髪は私が乾かしてあげる
努力が無理ならしなくても良いんだよ
ほかの人がやってるからって関係ないよ
やりたい時にやればいいよ
気付いてないかも知れないけど、いつも頑張ってるんだからね
呼吸できてるのえらいよ
心臓が拍動してるのすごいよ
無意識でやってるんだからすごすぎるよ
褒めてもらいたいなら
認めてもらいたいなら
私が全部してあげるからね
いっぱい遊んでいっぱい寝ていっぱい食べて
幸せに育ってね
お題『幸せに』
はあ、今日もかっこいい。
思わずため息が漏れる。
あれ、寝癖かな。かわいいかわいい大好き!
ちょっぴりシワの寄ってるシャツも好き
もじゃもじゃの髪の毛は柔らかそうで、触ってみたいけど…やっぱり無理!恥ずかしすぎる!
今日も何気ないふりして、あの人を私の視界の端に入れる。
勉強してるのかな?あ、今間違えた。
頭良さそうな見た目してるのにな可愛いな
顔上げてる、どうしたんだろ…
あれ、もしかして目合ってる!?
ウソ!?
こっち見てるのかな…そうだといいのに
時刻表見てただけ?
私はこんなに意識してるのにあの人は何にも考えてないの!
ああもう、片思いで終わらないで!
お題「何気ないふり」
おとぎ話って、ハッピーエンドで締めくくられるでしょう。悪者は痛めつけられて、お姫様と王子様が結婚して、めでたしめでたしハイ終わり。
あれ、納得いかないのよね。
そりゃあ、教訓的には良いんでしょうけど、あんなのただ一部を切り取ってるだけだわ。一瞬は人生じゃないわよ。
お姫様は本当に幸せだったの?
悪者はもう二度と現れないの?
王子様は誰よりもお姫様を愛していたの?
それとも、そういう疑問が子供の成長を促すのかしら?
なら成功ね、お陰で私はこんなにひねくれて育っちゃったわ
もちろん、既存のお話にケチつけるつもりはないわよ?
ハッピーエンドで子供に人気だったからこそ、今まで語り継がれて来たんだろうし。
ただそうね、私なら悪役目線のバッドエンドを作るわ。
幸せな結末だけじゃ、夢見る子供が増えるだけだもの。現実はそんなに甘くないのに。
それに、悪いことをしたらこんな風になるのよって意味も込められて良いアイデアだと思わない?
そんな話なら私もきっと、楽しめるわ
ああやっぱりこのお話も、結局はハッピーエンドになるのよね。ひねりがなくってつまらないけど、物語はこうでなくちゃ。
お題『ハッピーエンド』
私はあのお方を尊敬しております。崇拝しております。
そして、畏怖しております。
そう、あのお方は恐ろしいのです。
蛇のようにまとわりつく、謎めいた妖しさがあるのです。
人では無い何か──とにかく、そういった類いの怖さがありました。
それはあのオーラから発せられているのかもしれません、私はあのお方に会って、生まれて初めて本物のカリスマ性と云うものを見たように思います。
それとも、彼の体躯からでしょうか。
彫刻のような肉体から溢れる野生がそうさせるのでしょうか。
それとも、あの月光を吸収する黄金の毛髪でしょうか。
いいえ、いいえ、違います。
あのお方の恐ろしさの根源は、海辺に落ちている硝子に似た、あの真っ赤な瞳なのです。
嗚呼あの瞳!
此方を糾弾するような、見透かすようなあの瞳!
私はあの目が恐ろしいのです
あの瞳に見つめられると、己が道端に棄てられた塵芥よりも価値のないものに思えて駄目なのです
私にだって、自尊心はあります。存在を否定されるなんて我慢なりません
…思わず、手を上げたくなる
私を誰だと思っているんだと叫びそうになる
何者でもありません、私は何者でもないのです
私が何者であっても、あのお方には関係の無いことです
もう、近頃は、もう駄目です。
あのお方を見ると、むらむらと湧き上がってくる気持ちのまま、太い首に手を回して締め付けたくなる。
できない事です
私には、天地が逆さになろうとできっこない!
ああけれど、あの瞳に射抜かれるのは辛いのです
もういっそ、私が死んでしまいたい。
お題『見つめられると』