ななせ

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私はあのお方を尊敬しております。崇拝しております。
そして、畏怖しております。
そう、あのお方は恐ろしいのです。
蛇のようにまとわりつく、謎めいた妖しさがあるのです。
人では無い何か──とにかく、そういった類いの怖さがありました。
それはあのオーラから発せられているのかもしれません、私はあのお方に会って、生まれて初めて本物のカリスマ性と云うものを見たように思います。
それとも、彼の体躯からでしょうか。
彫刻のような肉体から溢れる野生がそうさせるのでしょうか。
それとも、あの月光を吸収する黄金の毛髪でしょうか。
いいえ、いいえ、違います。
あのお方の恐ろしさの根源は、海辺に落ちている硝子に似た、あの真っ赤な瞳なのです。

嗚呼あの瞳!
此方を糾弾するような、見透かすようなあの瞳!
私はあの目が恐ろしいのです
あの瞳に見つめられると、己が道端に棄てられた塵芥よりも価値のないものに思えて駄目なのです
私にだって、自尊心はあります。存在を否定されるなんて我慢なりません
…思わず、手を上げたくなる
私を誰だと思っているんだと叫びそうになる
何者でもありません、私は何者でもないのです
私が何者であっても、あのお方には関係の無いことです
もう、近頃は、もう駄目です。
あのお方を見ると、むらむらと湧き上がってくる気持ちのまま、太い首に手を回して締め付けたくなる。
できない事です
私には、天地が逆さになろうとできっこない!
ああけれど、あの瞳に射抜かれるのは辛いのです
もういっそ、私が死んでしまいたい。


お題『見つめられると』

3/28/2024, 12:31:45 PM