独占からくる優越は、思考を鈍らせる毒である。
これはただの持論だ。「私だけのもの」であったり「私だけしか知らない」であったり。対象は様々だが、それは皆一様にして"特別"という欲が渦巻いている。
独占欲、支配欲。連なって芽生える特別感、優越感は毒だ。効果はそれぞれであり、酷ければ、その人の行動原理すら簡単に変えてしまう。
けれど、その毒はあまりにも甘美だ。アダムが知恵を欲し禁断の果実に手を伸ばすように、私たちもそれらを求めてしまう。
前置きはこのくらいにしておこう。
恋は人を狂わせる、とはよく聞く話だ。僕はまさに、この毒が作用しているからだろうと考える。
恋心は独占欲であり、優越感だ。そうして周囲が知りえない姿を見る度に、また恋をしていくのだ。
毒の効果はそれぞれだと言ったように、それがいい方向へ繋がる場合も勿論ある。
なら僕にとってそれは、毒という良薬なのか、それともただの毒なのか。
僕だけしか知らないその表情を、声を、仕草を。誰にも見せたくないというこの感情と、脳が揺らぐ程の高揚感は、僕が狂うのには十分なものだ。
未来は誰にだって分からない。この世の原理を全て理解したかの悪魔であっても、未来の証明など不可能だ。
恋に狂った自分が、どちらに転ぶかなど、自分でも予想がつかない。
──僕だけの、大切な君。これ以上僕を狂わせないためにも、ずっと傍にいてくれ。
少年は、数ある楽しみのなかでも、特別睡眠が好きだった。子どもであれば、寝る間を惜しんで他に時間を費やすことも多い中、彼は時間になれば真っ先に眠りについた。
正確に言うのであれば、彼は睡眠が好きなのではなく、夢の中で出会う人物が好きだった。知り合いでもない、全く知らないその誰かに恋焦がれた。
風に揺られ靡く髪、こちらを見つめる瞳、ふわりと浮かべた笑み。まさに、青天の霹靂。少年の初恋を、瞬く間に奪っていった。
眠れば夢を見る。夢を見れば会える。だから少年は毎晩大人しく眠った。
──それは、在りし日の思い出。これと言った趣味もなく、周りへの興味関心も薄かった彼にとって、その存在は偉大だった。彼はまだ、夢で出会った人に恋をしていた。
「はじめまして」
桃色が景色を彩る春の季節。進級し、以前とは違う景色の教室に少し早く着いた彼は、青空に花が舞うのを教室から眺めていた。話しかけられるとは思わず、動揺を隠せない表情で声の方へ顔を向けた。
窓から吹き込む風に揺られ靡く髪。真っ直ぐ彼を見つめた瞳が、ふわりと柔らかく微笑んだ。
それは、夢に見た彼の初恋その人だった。遠い昔の記憶で、薄れず残り続けた残滓が、再び姿を成していく。
「ここの席ってことは、隣同士だよね」
「今日からよろしくね」と、差し出された右手。彼は流れるまま、熱を帯びた右手を差し出し、握手する。
過去が、幻想が、記憶が。ゆっくりと、形作られる。彼に、本当の春がやってきた日だった。