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4/25/2025, 11:02:25 AM

「こっちに恋」「愛にきて」2025.4.26

昨日のカップルの話です。
※作家の名前はフィクションです。

僕と彼女は、今日初上映の話題作『「こっちに恋」「愛にきて」〜あなたと私の距離越えて〜』を見に来ていた。

ベストセラーの映画化ということで、僕たちのように原作に心動かされた人たちなのか、原作についての話も聞こえる。若い女性のグループも多かった。カップルも多く、指を絡めて距離の近いカップルもいれば、手が触れそうになるだけで顔が赤くなったり挙動不審になるカップルもいる。そんな中にいる僕は、隣でとても楽しみにしているように見える彼女の明るい笑顔に、思わず嬉しくなってきた。
来てよかった。

原作は「こっちに恋」と「愛にきて」の2分冊。
新進気鋭の作家、エレノア.Mとパフューム.Yによる合作の恋愛小説だ。
遠距離恋愛のつらさ、寂しさ、それでも耐えうる強さを描き、最後は2人無事に結婚する、という原作である。

僕達は原作を読んでいた(そして彼女はカフェで大泣きしていた)から、映画化にはあまり期待はしてなかった。原作の良さを、打ち消すかもしれないと。
でも、動画でもニュースでも話題になっていたし、何より僕の好きな女優さんと、彼女の好きな俳優さんも出演するという。
2人で初日に見に行こう! と決めてからは、上映される日をカレンダーに書いたり、デートのたびに話題に出しては、とても楽しみにしていた。

そして僕達は長い間並んだあと、映画館の中に入った。
席は埋まっており、いかにたくさんの人が来ているかが分かる。
やがて周りは暗くなり、映画の予告編が流れる。
しばらく眺めていると、ようやく映画視聴時の注意動画が流れた。同時にざわついていた声も消える。
そして、ついに始まった……!

*****

「いや〜! 最高だったね!」
僕は彼女の手をぎゅっと握りながら、映画館を出た。
映画館近くのカフェに入り、彼女と映画の興奮を分かち合う。
「ほんとにね! 彼女が彼氏をパワハラ上司から助け出すために、自ら会社に乗り込んで彼氏をかっさらうなんて……!」
「あのセキュリティをかいくぐり、警備員を倒してからの、あの派手なアクション! やっぱり原作並に派手な演出で最高! それでいて泣けるシーンもあって……!」
僕が大きい身振り手振りで話すと、涙もろい彼女は、そのシーンを思い出したのか涙を拭い始めた。
こうなると長くなるので、僕は再びクライマックスの話に戻す。
「そしてそのまま式場に駆け込んで結婚式とかって胸熱だよね!」
「うん!」
 僕と彼女はそれから暫く映画の話をしていた。

後日その映画はミリオンを叩き出し、海外にも展開していったという。

4/24/2025, 11:04:24 AM

巡り逢い 2025.4.24

「ぐすっ……ずずっ……ひくっ」

日当たりの良いカフェの一席で、彼女はすすり泣き続けている。

「ねえ……もう、泣かないで」

僕は彼女の方に手を伸ばし、彼女の肩を叩く。
それでも彼女は俯いたまま、僕の方を少しも見ない。

騒がしかったカフェも、彼女がすすり泣き続けているから、他のお客さんががこちらに注目している。
まるで、僕が泣かせたかのように。

違うんだ! 僕のせいじゃないんだ!!
……でも、僕のせいと言えば、そうかも知れない。

そもそも、幼なじみの僕と彼女は、僕の強力なアタックでどうにか付き合うところまで持ち込めたんだ。
初めてのデートはどこにするかで悩んで、
このカフェのパフェがおいしいと聞いたからここにした。
わざわざ車で1時間かかるこの海辺のカフェに来たんだけど……。

こんなはずではなかった。
彼女はフルーツたっぷりのパフェが美味しいって笑顔を見せていたし、そんな笑顔を見て、僕も笑っていたんだ。
それなのに………。

彼女の鼻声が、僕の向かいから聞こえてくる。
彼女は僕と一緒にいるのに、僕のことなど一切見ないで。
それから僕は何度も彼女の肩を叩き、声をかけ、手を伸ばしても、彼女に拒まれた。
それから30分。彼女はこのテーブルですすり泣き続けた。

「いい加減にしないと置いて帰るよ!」

僕は思わず大声をあげてしまった。カフェの客の咎めるような視線の数々が僕を貫く。

もういい! 帰る!
僕がガタリと席を立った瞬間、彼女のすすり泣きが止まった。
思わず彼女の方を見ると、彼女は顔を上げて僕を見つめる。まだ、涙は流していたが、それでも輝くばかりの笑顔を浮かべていた。
その顔に僕はとまどった。
僕の方からは何も言ってないし、何もしてないのに。

「良かった………すごく良かったぁ………!」

感極まった彼女の声が聞こえた。
ようやく、本を閉じた向かいの彼女は、あふれる涙をハンカチでぬぐう。

 君の好みだからって、この本を彼女に勧めた。
読んでみるねと、本を開いた彼女が、ここまで本の世界に入られてしまうとは……。

「本当に素敵な本に巡り逢えて良かった……ありがとう」
彼女は僕に微笑みかけると、僕の手を握った。

彼女に本を渡したらこうなるのは分かってたのに。
こんなところで本を渡したのは僕のミスだったよ。
それでも嫌いになれない僕は、やっぱり彼女の笑顔も泣き顔も素敵だと思ってしまった。

4/23/2025, 10:42:22 AM

どこへ行こう 2025.4.23

羽を折られ
檻の中に閉じ込められ
足枷と手枷を嵌められ
言葉も出せぬよう口を塞がれ

北の塔からどこへも行けなくなった私は
どこへ行こう

上を見上げれば
高いところに天窓一つ

差し込む日差しが
ただ一つの希望を示す

ああそうだ
あそこへ行こう

羽を折られても
檻の中に閉じ込められても
足枷と手枷をはめられても
言葉を発せないよう口を塞がれても

私の心は外へと行ける
この場所から心だけはどこかへ行こう

見えない外の世界を描き
天窓に目を向けてまぶたを閉じる

すると不思議なことに
羽は力を取り戻し
檻は壊れ
足枷と手枷は解かれ
塞がれた口からは言葉が紡がれた

全てから解かれた私は
北の塔からどこでも行ける

私は羽根を動かすと天窓から飛び立ち
二度とそこを振り返るはことなかった

4/20/2025, 1:49:06 PM

星明かり 2025.4.20


「うん……?」

俺がドアを開けると、暗いリビングの中で、弟がドアに背を向けて立っていた。
月のない夜だった。
リビングの開かれたカーテンからは、星の明かりがだけが差し込んでいる。

闇の中でも、立ちつくす弟の白いTシャツが浮いて、胸がどきりと音を立てた。

「兄さん……」

その背中が寂しそうで、俺は思わず声をかけた。
弟はその声に振り向くと、俺の目をひたと見つめた。
その目はいつになく憂いを帯びており、まるで何かを言いたそうに見えた。
しばらく時が過ぎ、ようやく弟は口を開いた。

「ごめん……俺……兄さんの期待に応えられない」

弟は目を伏せる。その手に持つスマホに指を滑らせたのか、光が弟の顔を照らす。その表情に俺はなぜか胸が騒ぐ。

「……」 

俺は弟の悲しみに満ちた瞳の先に吸い寄せられる。
弟の手は力なく垂れ、持っていたスマホが、今は床を照らしていた。
俺は、そっと手を伸ばした。

「電気のリモコンの電池、見つけられなかったのならそう言えよ」

俺は弟が床に落としてしまったリモコンを拾った。
無事に部屋は明るくなった部屋の中で、俺は弟に、模様替えの際に変えた、電池をしまってあるところを教えた。

4/14/2025, 9:58:09 AM

ひとひら 2025.4.13

擬人化です。




『それ』はただ、そこにいました。
『それ』はただ、誰一人訪れない山の奥で
朽ちていくばかりでした。

人の手の入らない山に、
主ではない何者かの手で置いていかれた『それ』は、

春の桜を、初夏の若葉を、
夏の涼やかな木陰を、
秋深くなる頃の紅葉に銀杏を、
冬に積もる雪に覆われながら空に舞う雪花の下で
時を過ごし、

何度も春を、夏を、秋を、冬を越えても
主の訪れはありません。

さらに何度も季節は巡りました。

そんなある春のことです。
ついに、主がこの場所に来たのです。

主は『それ』を見て、眉を寄せ、目を伏せました。

『それ』の目はもう、何も照らすことはなく、
『それ』の足はもう、二度と主を乗せて走ることはなく、
『それ』の体はもう、傷みすぎて主を迎え入れることは出来ません。
『それ』の胸はもう、血が巡らせる力もありませんでした。

『それ』はもう、主のために動くことは出来ないのです。
『それ』はもう、主のもとへ帰ることも出来ないのです。

主は、しばらく『それ』を見ていましたが、一つため息をつき背を向けると、懐から四角い板を取り出して指を滑らせました。

*****

「もしもし……ああ、俺だよ。何年も前に盗まれた車が、こんなところに乗り捨てられてた……」

この車の主は、数年前に新車で買った4WDを乗り逃げされた挙句、山に乗り捨てられていたのを発見してしまったのです。
彼はため息をつくと、この車の扱いに困り果て、物言わぬ『それ』に背を向けたのでした。

『それ』の屋根に、桜の花びらがひとひら落ちてきましたが、車の主はそれを見ることはありませんでした。

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