お題 桜散る
バス停までうつむいて歩いていると、地面に散っている桜の花びらが目に入った。
先日の雨で地面が濡れ、その上を人が歩いていったからか、花びらが道路の上に張り付いている。
それを見て初めて、この時期がちょうど桜のシーズンだということに気がついた。
頭の上を見上げると、すでに葉が出始めている。この桜の道で満開の桜を見るのは、おそらく来年の今頃だろう。
でも、ここに来ることがあればだけど。
ここは通勤路だった。
でも、朝は5時出勤、退勤は11時。
週に6.5日出勤という、そんな日々が続いてはや一年半。一度も桜のことを考える暇もなかった。
そんな花見のはの字もない一年を過ごした結果、体がついて行かなくなり、結局退職した。
だからこの通勤路を、もう歩くことはない。
これから私はここから離れ、地方でゆっくり療養することにしたから。
地方に行けば、今度は落ち着いて満開の桜を見ることができるかと楽しみにしながら、新幹線の駅に向かうバスに乗る。
あの葉桜は、もう見えなくなった。
お題:神様へ
ありがとうございます でも
なぜ このような
ただの わたしのような
にんげんは なぜいきていたいと
かんがえて
しまうのでしょうか じんせいを
やめてしまいたいのに いままでいきて
しまいました
ますます このじんせいを うとましくおもいます
すみません おゆるしください
ですが
もしも
こんな わたしが
のうのうと
よのなかで
にんげんとして
うみだされたことに
まったく いみのないことではないと
れっきとした にんげんとして
ただ いきていてもいいと
ことば
という かたちをとって
にんげんとして
はっきり あなたは ひつようだと
つらい じぶんを
かなしい じぶんを
れいぞうこみたいな ばしょにこもる さみしいじぶんを
まわりから かくれている じぶんを
しっかりと うけとめてくれる だれかに
ただ であえたら こんなわたしでも
どうにか
うまれてきたことを うけいれて
かみさまのことを うらまずに
やっていくことが できるでしょうか
すんだ こころで
まっすぐ じぶんを
せめることなく いきていけるように
てんからみまもって
くださいますか
だから どうか
さいごに おわらせるまで
いきていけますように
―――――
書いたとき疲れていたと思います。
休ませてください
俺と兄が住んでいるマンションに、兄宛に荷物が配達された。匿名配送なので差出人はわからない。比較的大きくて軽いので、おそらく服だろう。
兄が、通販かフリマサイトを利用したのかもしれない。
そう思って、夕飯のときに兄に荷物が届いた話をした。
でも、心当たりはないらしい。
「とりあえず、開けてみるか」
兄は差出人不明の荷物の袋を大胆に破って中身を取り出した。
ピンクのレースをあしらった二つ折りのカードがひらりと落ちる。
「誰よりも、ずっとあなたを愛しています」
そう赤い文字で書かれたカードの筆跡は女のものだったが、兄にも俺にも心当たりはなかった。そんなカードも不気味だったが、中に入っていた手編みのセーターが、兄の好きな色、デザイン、サイズ全てにピッタリだったのが、なおのこと不気味だった。
いつも冷静沈着だと思っていた兄は、眉をひそめて顔をしかめると、パソコンに向かいキーボードを叩き出した。
犯人探しに取りかかったようだ。
その後、いろいろあって犯人が分かった。
俺と同じ大学の、学年も学部も全く違うおとなしそうな女の先輩だ。特にそんなことをするようには見えない。
同じ大学の俺はともかく、兄との全く接点がわからない。
後日、警察立ち会いのもと、話し合いがなされた。
「何故、こんな真似をしたんだ。君は何者なんだ」
兄は不思議そうにたずねた。
「私はあのとき、あなたに助けていただいたんです。他の誰よりも、ずっとあなたを愛してるんです」
女の先輩は泣きながら、地面にうずくまった。
話を聞くと、兄は土砂降りの中、傘を忘れていた上に道に迷ったこの女の先輩に傘をあげ、道案内をしてあげたらしい。
女の先輩は、最初は傘を返したい一心で住所を調べていたらしいのだが、そのうち兄の家に行けばもう一度会えるのではないかと思い詰め……ということだった。
お題:誰よりも、ずっと
沈む夕日
夕日が沈み、濃紺へと変わる空にひときわ眩しく輝く一番星を見ながら、駅からバスに乗り換える。
郊外へ向かうバスの中は、私と同じように仕事を終えた人達で、いつもごった返している。
この時間はひときわ混むけど、早く家に帰りたい。
やすみたい。
だから、混んでいるのがわかってこのバスに乗る。
バスの中の人は降りていって、少しずつ減っていく。
座れるようになった帰りのバスに揺られて、私は再び窓から空を見た。
この沈む夕日の空と夜空へと変わる前の空。
この時間が好きだ。
境目は曖昧で、それでいて混ざり合うようで完全には混じり合わないふたつの空。
この時間は、特になんの意味もなく日々を過ごしている曖昧な私を包み込むようで、なんだか安心する。
なにか成功を目指して走らなければならないと思わせるほど輝く昼の太陽は、今の仕事に、生活に疲れた私には眩しい。
そうかと言って、夜になったから必ず身を休めて眠りに落ちなければならないと思わせる月の光が照らす夜空も、寝付けない私には、少し眩しくて落ち着けない。
だから、
どちらでもいい。
曖昧なままでいい。
そんな気になるこの時間は、私にとって癒やしの時間になる。
それでいい
今日も一日お疲れ様でした
あなたは今日も頑張りました
ゆっくり休みましょう
明日が来ないことを夢見てもいいです
それでも明日が来ることに
絶望してもいいのです
それでいいのです
今日も一日お疲れ様でした
あなたは今日も頑張りました
ゆっくり休みましょう
いつまでも続く明日に疲れても
それでも思いきれないあなたを
ここでは誰も
あなたを責めることが出来ません
ですから
それでいいのです
今日も一日お疲れ様でした
あなたは今日も一日頑張りました
ゆっくり休みましょう
さようならを言うには
少しだけ我慢してみてみませんか
ここでは誰かが
あなたをずっと待っています
信じられなくても
それでいいのです
今日も一日お疲れ様でした
あなたは今日も頑張りました。
ゆっくり休みましょう
あなたの流す涙が
あなたが綴ったことばが
今度は誰かをなぐさめるのかもしれません
ですから
理由もなく涙を流しても
それでいいのです
今日も一日お疲れ様でした。
あなたは今日も頑張りました。
ですから
ゆっくり休みましょう