エリィ

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俺と兄が住んでいるマンションに、兄宛に荷物が配達された。匿名配送なので差出人はわからない。比較的大きくて軽いので、おそらく服だろう。
兄が、通販かフリマサイトを利用したのかもしれない。
そう思って、夕飯のときに兄に荷物が届いた話をした。
でも、心当たりはないらしい。

「とりあえず、開けてみるか」
兄は差出人不明の荷物の袋を大胆に破って中身を取り出した。
ピンクのレースをあしらった二つ折りのカードがひらりと落ちる。

「誰よりも、ずっとあなたを愛しています」

そう赤い文字で書かれたカードの筆跡は女のものだったが、兄にも俺にも心当たりはなかった。そんなカードも不気味だったが、中に入っていた手編みのセーターが、兄の好きな色、デザイン、サイズ全てにピッタリだったのが、なおのこと不気味だった。
いつも冷静沈着だと思っていた兄は、眉をひそめて顔をしかめると、パソコンに向かいキーボードを叩き出した。
犯人探しに取りかかったようだ。

その後、いろいろあって犯人が分かった。
俺と同じ大学の、学年も学部も全く違うおとなしそうな女の先輩だ。特にそんなことをするようには見えない。
同じ大学の俺はともかく、兄との全く接点がわからない。

後日、警察立ち会いのもと、話し合いがなされた。

「何故、こんな真似をしたんだ。君は何者なんだ」
兄は不思議そうにたずねた。

「私はあのとき、あなたに助けていただいたんです。他の誰よりも、ずっとあなたを愛してるんです」
女の先輩は泣きながら、地面にうずくまった。

話を聞くと、兄は土砂降りの中、傘を忘れていた上に道に迷ったこの女の先輩に傘をあげ、道案内をしてあげたらしい。
女の先輩は、最初は傘を返したい一心で住所を調べていたらしいのだが、そのうち兄の家に行けばもう一度会えるのではないかと思い詰め……ということだった。

お題:誰よりも、ずっと

4/9/2024, 12:24:09 PM