分厚いカーテンを引いて、電気代の節約のため、30度だけどまだまだ扇風機に頑張ってもらってる私の部屋。多少はましだけど、じっとりと汗がにじむ。
「暑いな」なんてあのひとが言いながら、私を背後から抱きしめる。
「暑いんじゃなかったの?」
暑いだけじゃない体温が上がってドキドキする。これからのことを期待して、緊張して手が震えたりなんかする。
「それとこれとは、話が別」
あのひとはそう言いながら、半袖から伸びるプニプニの私の腕を優しくつまんでいる。
「やめてよ〜」
そう言いながらも、あのひとの手の感触がいとおしい。
「君の腕、気持ちいい」
なんて、あのひとはしばらくむにむにしてたけど、再び私の背中をぎゅっと抱きしめて顔を首筋に埋めてきた。
そのまましばらく黙ってたけど、あのひとの震える声が首筋にかかる。
「好きになってごめん。でも、離せない」
しかし、私はあのひとの言葉に返事をしなかった。しばらく経って、ようやく声にできた。
「……私も、あなたにそばにいてほしい」そういうのがやっとだった。
言うまでもなく私達は、誰にも理解されていない想いで結ばれていた。どのようにしてこうなったのか。
お互いに意識しあって、触れ合って、そして、さらに。
その関係は、私達だけが知っていれば良いことだと分かっていた。実際、誰にもまだ、明らかになっていない。でもいつか、この関係も皆の知るところになるのだろう。
だから隠しておかなくてはという気持ちと、それでも皆に、私とあのひとは結ばれていると叫びたい気持ちが、私の心でせめぎ合っている。
半袖
私の隣にあなたがいる。
あなたの隣に私がいる。
雲が赤黒く渦巻く闇空の下、煮えたぎる溶岩の中を横切りその身を焼かれても、針の山を歩いて足から赤い血を流しても、そこにあなたと二人歩いていけるならそれは天国かもしれない。
私の隣にあなたはいない。
あなたの隣には私がいない。
穏やかな雲が流れる青空の下、春風に吹かれて揺れる一面のポピーの花畑の中を横切り香りをかいでも、小高い丘の上まで裸足で歩いて柔らかい草を踏みしめても、そこにあなたがいなければそれは地獄なのかもしれない。
天国と地獄
「月が綺麗ですね」
あなたが私にそう言ってくれるならば。
私はひとり空を見上げる。アパートのドアに鍵をかけ、ふうと手に息を吹きかけて、近所の小さな公園に向かう。古びたベンチに腰掛けて、天を見上げる。
雲のかけらのない空に、しんと輝く満月を受けながら、着ているコートのポケットにあるカイロを握りしめる。かじかんだ指先がほんのりと温まった。
カイロではなく、あなたの手が私の指先に絡んでくれたならと。もう一度、となりにあなたがいて、ともに月を見上げてくれたなら。
そんなことを月に願ったこともあったけど、それが叶うなんてことは一生ないとわかってはいても。それでも、私は十五夜になると、その場所で空を見上げることをやめられないでいる。
月に願いを