『日の出』
”日の出って何色なの?”
彼の絵を見たらつい口から出た疑問
だって、日の出をモチーフにしたという彼の絵には
紫、オレンジ、ピンク、群青、緑、黄色……
たくさんの色がグラデーションを生み出していたから
「確かめみる?」
ニヤっとイタズラに笑う彼は
”明日4時に正門集合”とだけ残して帰ってしまった
翌朝、まだ夜とも言えそうな時間帯に家を出ると
正門集合と言っていたはずの彼が家の前にいた
「あれ?なんでいるの?」
「いやー…よく考えたらこんな暗いのに女の子を1人で出歩かせるのは良くないなって思って」
「そっか、ありがと笑」
近すぎず遠すぎずの距離を保ったまま学校に着くと
彼は屋上まで私を連れていってくれた
「わぁ…悪いことしてる気分笑」
「実際悪いことだしな笑笑」
「確かに笑」
横に並んで夜明けを待っていると
ゆっくりと、でもあっという間に太陽が顔を覗かせた
「きれい……」
「ほら、日の出は何色?」
「………オレンジにしか見えない」
「はぁ??そんな単純な色なわけないだろ」
両頬をむぎゅっと鷲掴みにして目を合わせる彼
その瞳には彼が見ているであろう世界が広がっている
「……あ」
「ん?どした」
私1人では見ることの出来なかった綺麗な世界
彼のレンズを通した景色は宝石みたいに輝く朝日が昇っていた
『今年の抱負』
「今年こそは絶っっっ対に彼氏つくる!!!」
「はいはい、新年早々うるさいなぁ笑」
”今年の抱負は?”という質問に対してつい
この神聖な神社で初詣中だというのに欲にまみれた発言をしてしまった
「なんだ凪紗、彼氏いない歴=年齢更新か?」
「お黙りこのばか和也!!」
「俺彼女いるもーん。あなたのお隣にいる美女だもーん」
「みのりちゃんお宅の彼氏うざいー!!」
そう。私たち男女二人ずつのイツメンの中には1組のカップルがいる
彼氏なんていた事のない私には目の前でイチャつくこいつらがとても妬ましい
「湊くんからも何か言ってやってよー!!」
「いやぁ、俺好きな人いるし凪紗よりは上かなって」
「なんでよぉ……」
今まで仲間だと思っていた湊くんにも裏切られてメンタルがズタボロだ
「あっ!!おみくじ大吉だ!」
「待ち人来るだって!彼氏できそうな予感♡♡」
「願い事叶う…少し勇気を出すべし……」
「えい湊〜。これは告白案件じゃないか?笑笑」
「叶うってよ笑」
一通り読んで騒いだ後、和也とみのりちゃんはおみくじを結びに行った
「凪紗」
「ん?どうしたの湊くん」
「………彼氏ほしいの?」
「できたら楽しそうだなぁとは思うよ」
「誰でもいいの?」
「そりゃ誰でもいいわけじゃないけど……」
「……………俺じゃだめ?」
「ずっと好きだったんだけど」
「おみくじの待ち人、俺がなっちゃだめ?」
今年の抱負、もう叶いそうです
『新年』
冬休み、
受験生の私は塾に通い詰めの日々が続いていた
常に机に向かい、外に出るならば家と塾の往復のみ
遂に勉強はスマホにも侵食し始め、
待ち受けには今日やるべき勉強のリストが表示された
「えーっと…今日は古文と英単語の暗記……」
今日も画面いっぱいに陣取るリマインダーに目を通し
ついでに時間を見ようと時計に目を移すと
<12月30日 0:04>
と、華のないスマホの画面に表記されていた
「24時間後には2025年かぁ……早いなぁ」
時計も回り、23:34
年越しそばを食べながらリマインダーに新しいラストを追加していた
「また増やしてるの?」
「うん」
「持ち物全部が受験生に染まってくねぇ」
母とそんな会話をしながらテレビに目をやれば
色鮮やかな装飾の中で踊るアイドルと一緒に年越しのカウントダウンが始まっていた
「5…4…3…2…1…HappyNewYear!!」
「HappyNewYear、いよいよだね。受験」
「そうだね。あと少しだけ勉強して寝ようかな」
「…平気?無理しないようにね」
何を終わらせよう、とリマインダーを見ると
1件メッセージの通知が入っていた
<あけましておめでとう。もしよかったら合格祈願も兼ねた初詣一緒に行かない?>
勉強漬けの毎日とリストだらけで可愛さもオシャレもないスマートフォン
もしかしたら私にも彩りが入るのかもしれない