『遠い日のぬくもり』
いつもありがとうございます。
今日もスペースのみです。
12月14日のお題『星になる』を更新しました。
お足元が悪いですがご自愛してお過ごしくださいませ。
『揺れるキャンドル』
家に帰ると、嗅ぎ慣れない匂いがほんのりとリビングに広がっていた。
燻した香りに不快感はない。
とはいえ、なにをしているのかは気がかりなので、ローテーブルに突っ伏している彼女に声をかけた。
「なにしてるんです?」
「んー……」
上から覗き込んでみると、小さな陶器でなにかを炙っていた。
アロマポットみたいなものだろうか。
優美で華やかなフレグランスとは違う系統の香りだが、陶器の中にはロウソクが立てられていた。
ぽやぽやとひとりの世界に浸っていた彼女が体を起こし、すぐ横に置かれた空箱を寄越す。
「茶香炉って言うんだって」
「ほお?」
箱の説明書きにザッと目を通すと、茶葉に熱を加えて香りを楽しむ香炉だそうだ。
ちなみにアロマオイルも焚けるようで、俺にはますます違いがわからない。
とりあえず、リビングに漂うほのかな香りは、煎茶の茶葉を燻したものだということは理解した。
「どなたかからの頂き物ですか?」
身だしなみの一環で香水をつけてはいるが、彼女は香りで個性を出すことを好まない。
控えめで穏やかな香りではあるが、彼女らしからぬ行動には違和感を覚えた。
俺の疑問に、彼女は茶香炉の小さな窓からキャンドルの火を静かに覗き込みながら答える。
「ガラガラで当たったの」
「ガラガラ……」
ショッピングモールに寄った際、年末商戦の一環で行われた福引で引き当てたそうだ。
ポケットティッシュ以外のものなんて、当てた試しがない。
彼女の引きの強さに素直に感心した。
「こういうの、れーじくんが好きそう」
「どういうことですか」
「だって、いつもいい匂いがするもん」
彼女がいきなり鼻先を俺に向かって近づけてくるので、慌てて距離を取る。
「ちょ!? さすがに今は勘弁してくださいっ」
まだ風呂にも入っていないのだ。
日中はけっこう動いたから、汗もかいたに違いない。
「ケチ」
「ばっちいからダメです」
頬を膨らます彼女の幼い仕草に、フッと息が溢れた。
「風呂、入ったあとならいいですよ?」
「じゃあ、待ってる」
からかい混じりに言えば、彼女がふにゃふにゃとした笑みを浮かべる。
「待ってるから、早くギュウってしてね?」
はにかみながらも素直に甘えてくる彼女が愛おしすぎて、胸の奥が苦しくなった。
ギュウでもチュウでもいくらでも……っ!
キュンキュンと胸の高鳴りが収まらないまま、俺は立ち上がる。
「速攻ですませてきます」
「いってらっしゃいー」
まろやかな笑みで見送られたあと、俺は爆速でシャワーを浴びた。
風呂を終えて再びリビングに戻れば、彼女は健やかな寝息を立てている。
最後の力を振り絞ったのか、茶香炉の火は消えていた。
……うん。
知ってた。
なんか既に眠そうだったもんな。
ちょっと起きたりしないかな?
なんて期待をしながら、ふわふわなほっぺたを突いてみるが微動だにしなかった。
泣く泣く、俺は彼女を抱えて寝室に向かう。
彼女に弄ばれた分は、翌朝に取り返してやろうと誓うのだった。
『光の回廊』
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いつもありがとうございます。
表現には気をつけていますが、露出が多いです。
普通にいたしておりますので、苦手な方はスクロールして「次の作品」をクリックするなどして自衛をお願いいたします。
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寝室の常夜灯が彼女の背中を優しく照らす。
律動に合わせて肩甲骨や腰が艶かしく揺らめき、影を作った。
背中にできた流動的な光の回廊を指でなぞる。
刺激に我慢しきれず小さな口から溢れる甲高い嬌声に、俺の熱も昂った。
「気持ち、ね?」
「ぁ、うっ……、ンんっ」
彼女は涙ぐんだ声をあげながらも、健気に俺と言葉を交わそうとする。
浅くなった呼吸のまま、彼女は身を捩ろうとした。
乱れた青銀の髪の毛に隠れた頸を掴む。
「ダメ」
彼女の小さな背中に照らされていた光を、全て俺の影で塗り潰した。
彼女と限界まで密着したせいで、ただでさえ狭い彼女の奥がきつく締め上げられる。
「つっ……!」
確実に迫り上がってくる吐精感を、彼女の細い腰を掴むことでごまかした。
ゴリュッと品のない水音を立てながら彼女の逃げ道を塞ぐ。
「んぅううっ」
彼女は、枕に顔をキツく埋めて抑えられない声をあげた。
今、汗と涙でぐちゃぐちゃになった彼女の顔を見たら耐えられる気がしない。
もう少しだけでいいから、彼女の一番火照った場所で繋がっていたかった。
「もうちょっと、だけ、堪能させて?」
震える彼女の頸に跡が残らない程度に歯を立てて、皮膚を舐る。
「愛してる」
彼女の背中の清艶な美しさを知り得るのは俺だけだ。
きっと、彼女ですら自覚していない。
光を覆い隠した独占欲を、1枚の薄膜を隔てて吐き出した。
*
下着を履き直して彼女の隣に潜り込む。
横になった瞬間、全身を倦怠感が襲った。
彼女の頭の下に腕を差し込み、抱き抱える。
モゾモゾと収まりのいい位置を探した彼女は俺に体重を預け、大きな瑠璃色の瞳を閉じた。
無防備にキスをねだる彼女の期待に応えて、唇の上で軽やかなリップ音をたてる。
キスを受け止める彼女に、先ほどの色香はなかった。
唇を離したあと、彼女の乱れた髪の毛を横に流す。
「すみません。最後、無理させました」
枕で強く擦ったのか、赤く腫れた彼女の目元に触れた。
微かに震える睫毛の感触が指先をくすぐる。
「謝るくらいなら、後ろからするのやめて」
ここは「気持ちよかったから大丈夫♡」なんて、かわいく恥じらう場面のはずでは?
あれだけ敏感に反応していたのにもかかわらず、彼女のふてくされた物言いに俺は目を見張った。
がっつきすぎて痛かったり怖い思いをさせてしまったのか、一気に心配になる。
「もしかして、よくなかったです?」
「え? あ、ち、違う」
あけすけな俺の言い方に、彼女の頬に熱が集まった。
「ちゃんと、気持ちかったけど、そうじゃなくて……、ね?」
いったいなんの同意を求められているんだ?
チラッと上目遣いで見つめられても困る。
かわいさの破壊力が凄まじく、賢者タイムも合わさって思考がうまく回らなかった。
吐き出したはずの熱がぶり返しそうになる。
「私だけ、れーじくんにギュッてできないのずるいじゃん」
子どもっぽく俺の胸元で額をグリグリと押しつける彼女の頭から腕を引き抜き、押し倒すように覆い被さった。
「なら、もう1回します?」
「えっ」
目を見開いた彼女の首筋から鎖骨のラインをなぞれば、余熱を残した肌が燻り始める。
そのまま下腹部まで指を滑らせて内腿を開かせた。
素直に脚を開く彼女に期待をしながら、俺は狡い聞き方をする。
「俺はつき合えますけど、どうしますか?」
しばらく無言で彼女は俺を見つめていた。
その瞳は徐々に熱を孕み、恍惚とした表情へと変わっていく。
先走る心音がうるさく耳奥で響き始めたとき、躊躇いがちに彼女の両腕が背中に回された。
彼女の下腹部が物欲しげに揺れ、俺は都合よく合意を得たと解釈する。
「好きなだけ、ギュッてしてくださいね?」
小さくうなずいた彼女の唇を塞ぐ。
寝室に舞う艶やかな彼女の声に翻弄されながら、俺は再び、彼女との境界線を曖昧にしていった。
『降り積もる想い』
いつもありがとうございます。
スペースのみです💦
楽しみにしていたチョコファッションドーナツを家族に食べられてしまっていじけてました😇
まとめるのが難しそうな『時を結ぶリボン』を先に更新しています。
お題が既に詩的でこれは放置するといつまでも書かないだろうなってなりまして、勢いで仕上げました。
「リボン」とは少し異なりますが、ご興味がありましたら目を通してくださるとうれしいです。
本日もご自愛してお過ごしくださいませ。
『時を結ぶリボン』
結婚して3年目。
相変わらず、彼女にとって師走という時期は忙しなかった。
毎年改定されるカードゲームのレギュレーションのように、我が家ではイベントごとにサプライズという解釈が明瞭化されていく。
そして今回、ついにサプライズという行為自体が禁止された。
改悪もいいところであるが、推しへのプレゼント贈呈のイベントそのものが消滅する可能性をチラつかせてきたため、不本意ではあるが了承する。
リビングでマットを広げてストレッチをする彼女に、俺は声をかけた。
「『今年のクリスマスプレゼントは自宅で手渡しをする予定です。俺はあなたに、なにを贈ったら喜んでくれますか?』」
挙げ句の果てには、5W1Hを明確化したフレームワークまで導入されてしまった。
全くもって面白くない。
ストレッチの手を止めないまま、彼女は横目で俺を捉えた。
「すっごいイヤそう」
「ええ。とても不本意です」
「黙ってると調子に乗るからじゃん。だからきちんと口を出すようにしてるの」
「それは大変ありがたい限りなんですけど」
年々俺に対してワガママになっていく彼女は最高だ。
しかし、最近はそのワガママの方向性がおかしい。
どこかでお育ての舵取りを間違えてしまったのか、特に彼女の誕生日、クリスマス、バレンタインデーのイベントでは、警戒心が高くなっていた。
「勝手に黙って家を建てようとしたこと、忘れてないから」
「違います。計画しようとしただけです。予備罪にもいたってないと思います」
「予備罪とか言葉が出る時点でダメだからな?」
「ワハハ」
ぐうの音も出ない彼女の正論には、雑に笑ってごまかした。
「……ったく。結婚して『俺の金』も『私の金』になったんでしょ? 変な理屈こねて変なもの用意するのやめてよね」
マイホームのどこが「変なもの」なのか。
小一時間かけて問い詰めたいくらいだ。
ドリームしか詰まってないはずだろう。
計画を練ろうとした段階でバレたのは想定外だったが、彼女のための家なのに俺基準で推しのための最強の家を建てるのも違ったから、そこはおとなしく引き下がった。
断じて「俺の金は彼女の金」という素晴らしいキャッチコピーに感銘を受けたわけではない。
「髪の毛、結んで」
「は?」
彼女の言葉を噛みしめていると、耳を疑いたくなる要望をされた。
ついに金すらも使わせてもらえなくなってしまった……?
いや、それよりも、だ。
「俺、不器用です」
「知ってる」
「だから、明日から早起きして練習して」
「!?」
一度、彼女がリビングを出たと思えばすぐにヘアセットアイテムを抱えて戻ってくる。
ブラシや鏡をはじめ、ヘアゴム、ヘアピン、……今年、彼女の誕生日に贈ったハンカチをローテーブルの上に、彼女は静かに並べていった。
「ちゃんとハンカチも結べるようにしてね?」
「正気ですか?」
結婚してから、彼女の小さなポニーテールに俺が贈ったハンカチが加わる。
今ではすっかり彼女のトレードマークになっていた。
「やり方なら教えるよ?」
「それは大前提でしょう」
合法的に彼女の髪の毛に触れることを許されることはありがたいが、要求がデカすぎる。
彼女が着飾るための舞台裏を見てきているとはいえ、実際に同じようにやれるかと言ったら否だ。
サラサラで細い彼女の髪の毛を結うことなど、できる気がしない。
「なんなら今から自主練につき合うけど?」
自主っ!?
え!?
これ、ガチのヤツかっ!?
イラズラっぽく口元を緩める彼女に、俺はただただ狼狽えたのだった。
*
冗談ではすまされなかったポニーテール講習を終え、早朝から叩き起こされた俺は震えた指先で実技試験に臨んでいた。
彼女が手を下せば5分もかからないシンプルな髪型である。
だが、柔らかな髪の毛はトゥルントゥルン手から滑り落ちるから、仕上がりにずいぶんと時間がかかってしまった。
「できましたよ」
「ありがと」
リビングで、彼女は出来上がったポニーテールを何度も鏡で確認する。
「んー……」
今日から数日間、彼女はホテルに宿泊する。
大切な試合があるにもかかわらず、彼女は宣言どおり、俺に髪を結ばせた。
1週間程度では俺の努力は実らず、頼りないポニーテールと歪なリボンができあがる。
「崩れそう」
「……返す言葉もありません……」
リップサービスのカケラもない彼女の素直すぎる感想に、俺は項垂れることしかできなかった。
「んふふっ」
それなのに、彼女は歪んだポニーテールを満足そうな表情で見つめている。
「せめてハンカチは、あなたがやったほうがよかったんじゃないです?」
「いいの。大丈夫」
愛おしそうに、彼女はリボンになったハンカチの先端に触れる。
交際期間含めて、彼女とのつき合いも長くなった。
だからこそわかる。
来年も同じことを頼まれるだろうと、確信した。
「来年はもう少しきれいに結べるように尽力します」
鏡を片づけたあと、すぐに玄関に向かう彼女を見送るついでに宣言すれば、まろやかな声で笑った。
「そんな大げさに捉えなくても」
「気持ちの問題ですから」
気合の入ったメイクを崩さないように、耳の後ろにキスをする。
「体調には気をつけて」
「ん。ありがと」
スニーカーを履くだけで、いつもより不安定にポニーテールが揺れる。
「いってきますっ」
ハンカチが髪の毛から滑り落ちないか気が気でない俺の心情を、彼女はいつものきらめいた笑顔で吹き飛ばした。