人は皆、愛こそは全てだと言う。
全ての原動力が愛であり、愛によって人は生きていると。
しかしそれは違うだろう。人間の本当の存在意義であり最終目標である事は間違いなく子孫繁栄であり、これをそのままの状態でさらけ出せばきっと上品さの欠片もないお下劣なサルと化すだろう。しかし人は知恵を使い、清潔な食料を好み、清潔な場所に住む美しい生命体であるがゆえに、そのような汚らしいものを全面に出すことに抵抗があるのだ。
ところが、それらに 愛という概念 を加えることによって全てが包み隠され、汚れた印象が浄化される。友情や恋人との間にある愛なんて、全てが煩悩に繋がっていると言うのに。そこに存在する感情を一つづつ辿っていけば、それほど多くない手数で 憎たらしい欲望 へと繋がってしまうだろう。人との触れ合いの中で生まれる愛ですら、気付かぬうちに自分の欲望を満たす先へ導く道しるべの材料集めへと変わっていくのだから。全ての目標はもう決まっている。
あぁ、しかしどうしてだろう。僕はまたこうやって卑屈な考えばかりが頭によぎる。ペシミズムか何かを、抱えているのかもしれない。誰かに手を差し伸べられたらどれだけ楽だろうか、しかしこんな惨めな思考や悩みなど、一人で抱える以外の手段はないのだ。
そして笑ってくれよ。ほら、僕も今、誰かの温もりや 愛 を求めている。
淡く白飛びした世界
夢の入口
幻覚の原型
止まらない痙攣
明日には止まるかな
君が柔らかくふわついたニットを着る。頬をわざとらしくチークで染める。声色とまつ毛は、いつもよりもピンと高く立っている。こそばゆい。全てが煩悩と連動しているのを神経からひしひしと感じる。グラスを優しく触る、あからさまに柔らかい指先は、いつもより細く見える。
「ねぇ、顔。あかいよ?」
瞼の上がヒクヒクと動き、頬が少しづつ強っていることに気付く。そして、少し目を逸らした。
「髪色さ、もう少し暗い方が似合うんじゃないか。」
そう?と、大袈裟に落ち込んだ表情を浮かべ、氷をゆらしながら少しづつ飲む。喉をすっと通る。細く白い首筋に、照明のオレンジが混ざって、ほんの少しだけぼやける。
「なんか、お腹すいてきちゃった。」
君の目が赤くにじみ始めた。酒が入るといつも感傷に浸り始めるのだ。やけに血色のいい唇は、少しだけ乾燥している。何かを言いたげな様子だったが、それを僕は、咄嗟にかき消した。
「え?」
「もうこんなに飲んだじゃないか。」
透き通った雫が頬を伝った。嫌な感情が疼く。
僕は涙を拭うフリをして、淡いチークを擦り落とした。
「孤独を、ください。」
人は人と相対して生活をするから、そのせいで僕は苦しいんだ。そもそも自分以外の知的生命体と完璧に全てを分かり合おうなんてのは無理なんだ。
「孤独を、僕は、僕は独りになりたい。」
ふと脳が疼いた。胸をぐっと掴まれたかのように苦しくなった。それを聞いた門番は少し迷った様子を見せたが、既に結論は決定していた。
「さぁ、どうしようか。」
どうしてなんだよ。僕は今まで散々傷付けられて来たんだ。意見だって全て通らないしさ、ていうか、僕は人と意見を交えようとしたことなんてないんだ。しかしこの世の中は、人と関わらないと生きていけないんだ。人に媚びを売らないと気にいって貰えないし、笑顔で話さないと嫌われる。相手にとって正しいことを言わないと、変人扱いされるんだ。世の中の医者はみんな無能だよ。だって僕の気持ちを楽には出来ないからね。洗濯機はただうるさいだけだ。本当は何一つ綺麗になんて出来ない。冷蔵庫は食い物の油をただ無駄に固めるだけ。そして僕は人に迷惑をかけるだけの死に損ないだよ。
「お願いだよ、嫌いなんだよ。人が。社会が。」
人は人の温もりに触れ、愛し合わないと生きていけない。心が人と触れ合う度に傷付くのは、近付きたいという本心からお前が逃げているからだ。人と分かり合えないように作り込まれているこの出来損ないの社会は、誰かの何気ない一言に救ってもらうためのものだ。お前の中には無かった新しい価値観や感情によってね。それに、人はひとりでは何も生み出すことは出来ないし、それと同時に、何一つ失うことも出来ない。お前がひとりになれば、ただひたすら変わることの無い心を老化させるだけだ。そして幸福にもなれない。人は幸せになるために生きている。幸せを手にするために生まれ、幸せを表現するために笑顔がある。その幸せを手にするにはまず、人の愛に触れなければならない。それはただ綺麗に繕った自分を見せればいいという訳では無い。ありのままの自分をさらけ出すのみだ。お前にだってできるはずだろう。
「残念だったな。帰れ」
あぁ、お前を一生恨むよ。俺に希望を持たせようとしたことにね。ただ、今ちょうど流れてるこの涙は、ただのお前への代金だ。
「もう会うこともないよ。ありがとう。」
僕はクズだ。
自分の中で寂しいなんて言い訳して、結局誰かに依存し、すがりついておきたいだけなんだ。
寂しいから、辛いから僕から離れないでいて欲しいなんて、心の中でただ言い訳を繰り返しているんだ。
あの子とはもう連絡も取ってないんだ。つい最近まですごく仲良かったんだ。君と心が通わなくなって僕は寂しい気持ちになったよ。
でもまた最近、別の子なんだけどさ、すごく明るくて、ちょーっと気の強めなあの子とよく会うんだ。すごく楽しくて、素を出せるって言うか、たまに安心して涙も出そうにもなっちゃうんだ。辛いこととか忘れちゃいそうなんだ。
.....もしかしたら誰でもいいのかもしれないな。
君はすごく優しいし面白いし、たまに抱きしめたくなるくらい愛おしく思うんだけど、変わりができた瞬間、別にただの友達になるんだ。
クズだよね。クズかな。
違うんだ。本当に寂しくて、本当に誰かと一緒に居てもらわないと潰されそうで、明るさに触れると急に軽くなるんだ。誰かに笑いかけてもらわないと、人を信じれないまま心を閉じ込めてしまうかもしれないんだ。人が怖いんだ。
でもこれも、愛に縋っておきたいだけの、ただの鬱病気取りの、クズなのかもしれないな。ごめんね、こんな話もういいよね。
じゃあ、この後予定あるから。あ、いや別にそんなんじゃないけど。なんでだよ笑 家帰ってねるだけだよ。
誰とって...うるさいな、君ってほんとにつまらない人だな。物分りの悪い、都合のいい時だけ色目を使うメス。すぐ調子に乗ってきどるし、寂しい時は必要以上に困った顔をする、阿婆擦れだよ。クズだよ。クズだと笑ってくれよ。さよなら。これでキッパリさよならできるよ。
ねぇ、泣かないでくれよ。