侵食

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「孤独を、ください。」

人は人と相対して生活をするから、そのせいで僕は苦しいんだ。そもそも自分以外の知的生命体と完璧に全てを分かり合おうなんてのは無理なんだ。

「孤独を、僕は、僕は独りになりたい。」

ふと脳が疼いた。胸をぐっと掴まれたかのように苦しくなった。それを聞いた門番は少し迷った様子を見せたが、既に結論は決定していた。

「さぁ、どうしようか。」

どうしてなんだよ。僕は今まで散々傷付けられて来たんだ。意見だって全て通らないしさ、ていうか、僕は人と意見を交えようとしたことなんてないんだ。しかしこの世の中は、人と関わらないと生きていけないんだ。人に媚びを売らないと気にいって貰えないし、笑顔で話さないと嫌われる。相手にとって正しいことを言わないと、変人扱いされるんだ。世の中の医者はみんな無能だよ。だって僕の気持ちを楽には出来ないからね。洗濯機はただうるさいだけだ。本当は何一つ綺麗になんて出来ない。冷蔵庫は食い物の油をただ無駄に固めるだけ。そして僕は人に迷惑をかけるだけの死に損ないだよ。

「お願いだよ、嫌いなんだよ。人が。社会が。」

人は人の温もりに触れ、愛し合わないと生きていけない。心が人と触れ合う度に傷付くのは、近付きたいという本心からお前が逃げているからだ。人と分かり合えないように作り込まれているこの出来損ないの社会は、誰かの何気ない一言に救ってもらうためのものだ。お前の中には無かった新しい価値観や感情によってね。それに、人はひとりでは何も生み出すことは出来ないし、それと同時に、何一つ失うことも出来ない。お前がひとりになれば、ただひたすら変わることの無い心を老化させるだけだ。そして幸福にもなれない。人は幸せになるために生きている。幸せを手にするために生まれ、幸せを表現するために笑顔がある。その幸せを手にするにはまず、人の愛に触れなければならない。それはただ綺麗に繕った自分を見せればいいという訳では無い。ありのままの自分をさらけ出すのみだ。お前にだってできるはずだろう。

「残念だったな。帰れ」

あぁ、お前を一生恨むよ。俺に希望を持たせようとしたことにね。ただ、今ちょうど流れてるこの涙は、ただのお前への代金だ。

「もう会うこともないよ。ありがとう。」

3/10/2025, 4:57:56 PM