侵食

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君が柔らかくふわついたニットを着る。頬をわざとらしくチークで染める。声色とまつ毛は、いつもよりもピンと高く立っている。こそばゆい。全てが煩悩と連動しているのを神経からひしひしと感じる。グラスを優しく触る、あからさまに柔らかい指先は、いつもより細く見える。
「ねぇ、顔。あかいよ?」
瞼の上がヒクヒクと動き、頬が少しづつ強っていることに気付く。そして、少し目を逸らした。
「髪色さ、もう少し暗い方が似合うんじゃないか。」
そう?と、大袈裟に落ち込んだ表情を浮かべ、氷をゆらしながら少しづつ飲む。喉をすっと通る。細く白い首筋に、照明のオレンジが混ざって、ほんの少しだけぼやける。
「なんか、お腹すいてきちゃった。」
君の目が赤くにじみ始めた。酒が入るといつも感傷に浸り始めるのだ。やけに血色のいい唇は、少しだけ乾燥している。何かを言いたげな様子だったが、それを僕は、咄嗟にかき消した。
「え?」
「もうこんなに飲んだじゃないか。」
透き通った雫が頬を伝った。嫌な感情が疼く。
僕は涙を拭うフリをして、淡いチークを擦り落とした。

3/15/2025, 5:24:54 PM