「行かないで」って、可愛い子が言ったらそれだけであなたは立ち止まるんだろうな。
私が言っても聞こえてないふりをするのに。
私が醜いからいけないのかな。
醜いからヒロインを気取ることもできないのかな。
そもそもなんで私、「行かないで」なんて言わないといけないんだろう。
あなたが私を安心させてくれていたら、こんな悩まずに済んだのに。
行かないで行かないで行かないで行かないで行かないで。
あと何回そう言えば、あなたは私を見てくれる?
もう声も出ないのに、私は今日も叫んでるよ。
態度以外も冷たくなってしまったあなたに向かって。
やわらかな光を見ると、そんなに眩しくもないのに目を細めてしまう。
それはきっと、思い出という名のフィルターをかけてしまっているから。
キラキラして眩しくて、もう一生やって来ない、忘れてしまったらすぐに消える儚いもの。
やわらかな光なんて今でも見られるのに、あの時見たものとは全くの別物なの。
それがなんだか悲しくて、やっぱり私は目を閉じた。
奇跡をもう一度くれるなら、どうか私を過去へ飛ばしてください。
今の私を知っている人が一人もいない、そんな世界へ。
雨が降ったら普通に傘をさして。
虹が出たらはしゃいで写真を撮って。
家に帰ったら今日の出来事を両親に笑顔で話して。
夜はただ明日が楽しみだという気持ちで寝た。
そんな日々をもう一度。
どうか、お願いですから。
生きていると、どうしてもやるせない気持ちになってしまう。
友達に階段から落とされそうになった時も、怒りの気持ちはあったのに、何も言えなかった。
彼氏が浮気した時も、悲しかったはずなのに私は笑って誤魔化した。
大学受験も、きっと私には無理だからって挑戦もしないで諦めた。
死のうとした時だって、死んでも意味ないって、結局何もできなかった。
つまり、私は自分の気持ちを表現できないんだ。
人間らしいのか、らしくないのか。
それすらも分からない。
もうなにも、分からない。
毎朝5時ぴったりに鳴る、鐘の音。
あと何回聞いたら私は死ねるのだろう。
窓から鐘を見つめる。
その周りには祈りを捧げる信者たち。
不思議と空気は綺麗だった。
ひたすらに幸せを願う姿勢は、欲深い貴族のように汚いのに。
一分、二分…時間だけが過ぎていくのにその場所だけは静止画のよう。
私はその作者になりたい。
夕日が落ちてきた空。
鳴るはずのない鐘が私の中に響いた。