奇跡をもう一度くれるなら、どうか私を過去へ飛ばしてください。
今の私を知っている人が一人もいない、そんな世界へ。
雨が降ったら普通に傘をさして。
虹が出たらはしゃいで写真を撮って。
家に帰ったら今日の出来事を両親に笑顔で話して。
夜はただ明日が楽しみだという気持ちで寝た。
そんな日々をもう一度。
どうか、お願いですから。
生きていると、どうしてもやるせない気持ちになってしまう。
友達に階段から落とされそうになった時も、怒りの気持ちはあったのに、何も言えなかった。
彼氏が浮気した時も、悲しかったはずなのに私は笑って誤魔化した。
大学受験も、きっと私には無理だからって挑戦もしないで諦めた。
死のうとした時だって、死んでも意味ないって、結局何もできなかった。
つまり、私は自分の気持ちを表現できないんだ。
人間らしいのか、らしくないのか。
それすらも分からない。
もうなにも、分からない。
毎朝5時ぴったりに鳴る、鐘の音。
あと何回聞いたら私は死ねるのだろう。
窓から鐘を見つめる。
その周りには祈りを捧げる信者たち。
不思議と空気は綺麗だった。
ひたすらに幸せを願う姿勢は、欲深い貴族のように汚いのに。
一分、二分…時間だけが過ぎていくのにその場所だけは静止画のよう。
私はその作者になりたい。
夕日が落ちてきた空。
鳴るはずのない鐘が私の中に響いた。
私には友達がいない。
表面上での薄っぺらい友達なら沢山いる。
だけど、心から好きだと思える友達はいない。
理由は分かってる。
私が本気で相手と向き合っていないから。
喧嘩にならないように間違ってることでも肯定して、とにかく相手の欲しい言葉を並べてるだけ。
そんな私が信頼されるわけもない。
結果的に私と友達になりたいと思う人がいないから私には本当の友達は出来ないんだ。
けど友達なんて出来ても傷付くだけだから。
…だから、一人でいたい。
そう思うのはおかしなこと?
どんな風が来ようとも、君は顔を歪ませない。
それを見ていると、あぁ本当に死んだんだなって嫌でも実感してしまう。
こんなに冷静でいられるのは、君が静止画のように儚くて美しいから。
君は本当にどこまでも罪深い人だ。
僕に涙すら流させてはくれない。
そこら辺は生きている時と全く同じだ。
「泣いてる暇があるなら笑いなよ」
そう言っていた君の顔はなぜだか少し笑って見えた。