ー記憶ー
誕生を祝われていた記憶はあまりない。
褒められた記憶があまりない。
実際そこに記録としては多くあるが、記憶としてはあまりない。
そんなことよりも私を狂わせるのは
小さな凡ミスで全て狂ってしまった記憶。
自然に口が開いて、そこから全てが台無しになった記憶。
忘れてしまいたいようなミスをしでかした時の記憶。
生まれてきたことを後悔した記憶。
友達に気を使わせたことを後悔した記憶。
こんな気持ち悪いものに成り下がった私を産んでしまった母に謝罪したくなった記憶。
思い出すだけで腹が立って恥ずかしくなって屈辱な気持ちにさせる記憶。
思い出すだけで嫌で苦しくなって気持ち悪くて気色悪くて見苦しくて痛々しくて辛くなって、それをどこかで達観している私がいるのが嫌で嫌で嫌で嫌で吐きそうになる。
嫌なことだけ覚える頭なんていらなかった。
こんな記憶、早く消えればいいのに。
ーもう二度とー
成功している彼を見た。
自分もできると感じた。
でも、失敗した。
彼ができるなら自分もできるはずだった。
結局、残るのはいつも「できるはずだった」という後悔だけだった。
もう二度と、自分に期待なんてしない。
そう思って既に変形した、腐った色のするような心を握りしめる。
ジリジリと痛みが込み上げてくる。
「何やってるんだ」と自分に喝を入れる。
そしてまた、「これぐらい自分にもできる」
そんな無駄なプライドで転ぶんだ。
転んだ膝は赤青紫と色とりどりに変色した。
それでも自分はできる筈だ、と震える足で立ち上がった。
皆には「馬鹿らしい」と、「お前には無理だ」と
罵声を浴びせ続けられた。
それでもぐちゃぐちゃな心を握り潰して立ち上がった。
でも結局、最後の感想は「できるはずだった」という後悔だけが残った。
何度繰り返すのだろう。
いや、
何度でも繰り返すのだろう。
もう二度と、もう二度と、もう二度と。
その言葉を何度も何度も繰り返す。
もう二度と、こんな気持ちになりたくは無い
ー君と見た景色ー
君と一緒に登校した時の景色。
君と修学旅行で見た景色。
君と見た夜景の景色。
君と放課後ふざけあった日の景色。
君と真面目に話した教室の景色。
1番の親友である君と見た景色は、私の記憶のほとんどを満たしていた。
いい点をとった君と点数を競ったテスト後の教室の景色。
賞を受賞した君と司会である私が見たステージの景色。
褒められた君と怒られた私が見た景色。
1番の親友である君と見た景色は、私の心のほとんどを苦しめていた。
ーどこ?ー
幼い頃、ずっと夢見ていた。
その夢のためにひとつの目印を立てていた。
その目印に向かって、精一杯走った。
走っていたはずだった。
ふと、後ろを振り返った。
着いてきていたはずの仲間はいなかった。
後ろにいた皆は、遅い私に呆れてもう置いて行ってしまったから。
自分の足に枷があることに気づいた。
足枷をどうにか外そうとした。
外そうとした。
外そうとした。
でもできなかった。
外れなかった。
また失敗した。
それを繰り返した。
幾度となく繰り返した。
一人の仲間が私を見かねてやってきた。
「そんなことも出来ないのか」
と言われた気がした。
勝手に卑屈になって自暴自棄になった。
目印は見えなくなった。
夢なんてとうに消えうせた。
仲間はそもそもいなかった。
私は孤独のままだった。
ならば私のいる場所は
私がいられる場所は…
ーどこ?ー
ー叶わぬ夢ー
天才になりたかった。
優秀になりたかった。
人に認めてもらいたかった。
誰かに褒めてもらいたかった。
私を愛して欲しかった。
私を赦して欲しかった。
彼に恋していたかった。
友に純粋な憧れを抱きたかった。
友に嫉妬せずにいたかった。
痛みに気づいて欲しかった。
優しさを分けて欲しかった。
苦しい、と言わせて欲しかった。
発言権が欲しかった。
話を聞いて欲しかった。
私を理解して欲しかった。
罪を吐き出させて欲しかった。
心を楽にしたかった。
馬鹿な頭を壊したかった。
動ける体が欲しかった。
良い人と見て貰いたかった。
駄作を見ないで欲しかった。
こんな馬鹿なことをし続けている私を
私自身が認めてあげたかった。
ああ、それでもこれは
ー叶わぬ夢ー