ー君を探してー
動こうとした暁には既に全て終わっていた。
自分にもできたはずだった。
自分が達成するはずだった。
でもその表彰台にたつのは、
いつもいつも君だった。
私は主役だった。
君は脇役だった。
でも拍手喝采の嵐の相手は、
いつもいつも君だった。
栄光も、名誉も、地位も、活躍も、監督も、舞台も、手にするのはいつも君だった。
成功するはずだった。
君は見ているだけのはずだった。
私は主人公として未来を期待されるはずだ。
君は脇役としてそれをただぼんやりみてるだけだっただろう。
現実は失敗していた。
君は全てを拾い笑っていた。
私は脇役のようにそれをただ眺めることしか出来なかった。
私の全てを、君に奪われた。
それを一生、私は恨み続ける。
あの腹立つにこやかな顔を。
あの見透かしたような、はたまた何も知らないような瞳を。
私から全てを奪ったくせにのうのうと生きているその身体をぐちゃぐちゃに壊すために。
私は今日も
ー君を探してー
いるのだろう。
ー透明ー
どんなに綺麗な白でも、少し違う色が混ざったらそれは白とは言えない。
白なんだけれど、元の白には戻らない。
無色透明に関してはどれだけ明るい色に触れようと、暗い色に触れようと戻ることは無い
心の状態を色で表して、明るいほど白く、暗いほど黒で表され、黒は多くの白で薄くなる
というのはよく聞く話だ。
でもそれは違うと否定できる。
心はガラスと表現されるように透明なのだから、傷ついた色はつき続ける。
いいことの白だって、嫌なことの黒だって。
普段感じる色は黒が多いけれども。
黒は嫌だからどうにか白くしようとして、
治そうとして、治そうとして。
でも痛くて苦しくて嫌で辛くて。
ずっとずっと治らなくて治らなくて。
どんなに白にしても滲んだ黒が浮かんできて
透明な紙に水分過多の絵の具を伸ばす。
「乾いてから塗ればいいのに」
そんなことはわかってるけど、すぐに無くしたくて。少しでも早く痛みを消したくて。
それが逆効果って気づいているのに知らないふりをした。
透明な紙には白も黒も赤も青も黄色も、全てを混ぜたドス黒い色だった。
絵という未来はぐちゃぐちゃだった。
筆という進路は折れ曲がっていた。
下書きという未来予想からダメだった。
だからいきなりベタ塗りしちゃって、そこから全てはみ出したんだろう。
またこうやって論点がズレていく。
下書きも構想もやってこなかった。
上書きも創造も出来なかった。
色んなことを考える中で透明だった昔の紙は色んなものに触れてしまった。
ぐちゃぐちゃによれて、見るに耐えなくなってしまった。
戻りたい、苦しくなかったあのころに。
現実という色を知らなかったあのころに。
無知とはあんなにも嬉しいことだったのだ。
無色で透明で、ガラスのように綺麗で、下書きもできたあの頃に。
ー透明ーだった私に戻りたい。
ー終わり、また始まるー
今日という日が終わり、また「明日」という今日が始まる。
どこかの漫画やアニメみたいに、トラックに跳ねられることも無く登校し、急に異世界に転生することなく学校で過ごす。
いじめられる訳でも無く、いじめを見た訳でも無く、誰かと入れ替わる訳でも無く。
帰り道に捨て猫を見るわけでも、誰かに会う訳でも無く、普通に帰る。
夜になって、朝を迎えて、それを繰り返す。
意味の無い日々を繰り返す。
何も変わらないし、進展もない。
起承転結など起きることは無い。
だってこれはノンフィクションなのだから。
普通、常識、当たり前、現実。
想像するものは全てフィクションなのだから
異常、非常識、奇想天外、妄想。
起きることなど無いはずのフィクションに今日もふける。
もし、ここでトラックに跳ねられて異世界に転生したら、もしここでいじめがあって自分が助けたら、もしここで自分がすごい能力を持っていることが分かったら、もしここで何者かに出会って事件に巻き込まれたら。
そんな事件が起きたら、このつまらないを詰めたような日常から抜けれるのだろうか。
空回りする日々に言い訳できるだろうか。
でもそんなものはただのフィクションである
くだらなく、平坦で、凡庸で、気だるくて、なんの面白みもない今日が
ー終わり、また始まるー
ー願いがひとつ叶うならばー
叶うなんて思ってもいないけど、願うだけ。そんな願望で恨まれることは無いだろう。
願うことはただ1つ、
「私を普通か特別にしてください。」
普通になれるのなら、ある程度いい生活ができて、ある程度いい感じの友達がいて、ある程度いい感じの好きな人が出来て、ある程度普通の生活を送って、そしてある程度いい感じで散っていく。
特別になれるのなら、それが障害だろうが光だろうが構わない。
「仕方ない」と同情されるのは惨めかもしれないけど、私は弱いからそれでもいい。
「あなただけ」と異彩を放てるのは事件を起こすと大変だけれど、注目してもらえて、自分だけのものがあるなら、私は弱いからそれでもいい。
だから、特別な才能を持ったわけでも、同情される病気を持ったわけでもない、平均以下の私を殺して。
中途半端なものなんていらないんだから。
最低か最高、極端であって欲しいから。
平凡のちょっと下なんて意味無いのだから。
ー願いがひとつ叶うならばー
中途半端な私を殺して
ー 一輪の花 ー
昔の頃の話。学校で人気者のあの子が自殺したと聞いた時、生徒の皆は多くの花や、あの子が生前好きだったものを机に置いていった。
別に親しかった訳でもないし、良くさせてもらったこともなかったけれど、場の雰囲気に合わせて1輪だけの花を机に手向けた。
ある時、クラスでいじめが起きて、私はそれに気付かないふりをした。
クラスのリーダーに逆らってはいけない気がして、何も出来なかった。
すごく痛い事だったけれど、他人事として流すしか無かった。
挙句の果てには、机に酷い落書き…というのは元からだったが、一輪の花が置かれ、葬式ごっこのようなものが起きていた。
先生に相談しても見て見ぬふりだった。
誰も、助けに行こうとはしなかった。
私は、もうそれ以上気付かないふりをすることは出来なかった。
自分の部屋で、前々から考えていた策をだす
すごく怖いことだけれど、あれを毎日見るよりはマシなはずだ。
そして私は、自分の首を縄にかけた。
痛かった。心も、体も。
かつてのあの子も、こんな気持ちだったのだろうか。
昔の人気者のあの子みたいに、沢山の人に多くを望む訳では無いけれど、少しでもクラスメイトの気が変わればいいな。
これで、違う人にターゲットを変えないだろうか?
ああ、だけれどせめて一輪だけでいいから花を手向けてくれたら、少し心が安らぐかな。